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神殺しの予行練習です

 どちらかを殺すことなく、手を取り合って生きていこうと思っていた。


 どちらかを犠牲にすることなく、平穏を享受していこうと願っていた。


 この同盟は誰にも邪魔されず何にも侵されないと、そう信じていた。


 だけど、それは叶わない虚言なのだと。歓迎されない虚妄なのだと、非常な現実が突きつけられる。


 リーシェは考えた。

 何か手はないか。リーシェとラピスがどちらも生存して得られる未来はないのか必死に頭を回らせた。


 そして、たった一つの手段を思いつく。

 それはあまりに乱暴で、あまりに粗野で、あまりに脳筋な方法だった。

 だが同時に、両者生存の道が最も太く続く手段だった。


 息を吸い込んでゆっくりと吐く。

 その深呼吸はまるで迷いを全て吐き出すかのようだった。


「伝説の存在が繰り返し生まれ、反転現象が起きてしまうのなら、その元凶である神を殺します」


 伝説の存在が繰り返し誕生することがタブーなら、その親たる絶対神を殺す。

 一見、無謀で不可能で、信憑性のない方法だ。


 しかしリーシェにはある確信があった。

 神はいる。このダンジョンに唯一絶対神は存在していると。


 なぜ分かるのかリーシェには知り得ないことだった。

 なぜ感知できるのかといえば、一時とはいえ「技の力」に体の主導権を奪われていたことが理由だ。


 あの時からリーシェは伝説の力をこれまでより精密に扱うことができるようになった。

 単に伝説の力の自我が与えた影響はそれだけではなかったというだけ。


 まるで、孵った場所に戻ってくる亀のように、「技の力」が生まれた場所が分かった。


『神を殺せるとでも思っているのかい?馬鹿な子だね』


 鼻で笑うスティの姿をした死神。

 ラピスたちも今回ばかりは、あまり真に受けてないような顔をしていた。


 だがリーシェは考えを変えることは無かった。

 だって、これを実行できなければリーシェラピスはどちらかが死んでしまうのだ。


 そんなのは嫌だと、心の底から強く思った。

 なら何がなんでも実現させなければならないのだ。


 生きたいのなら覚悟を決めろ。

 共存を望むのなら不可能を望め。

 平穏に縋りたいなら過酷へ手を伸ばせ。


 力が、心が、魂が、リーシェの選択は間違っていないと背中を押してくれる。

 なら戦える。怯えることも無い。恐れることも、嘆くことも無い。

 膝を折ることも無く、戦慄きに体を震わせることも無い。


 ただ手を伸ばせばいい。希望の輝きへ。

 ただ吠えればいい。未来への道を拓く為に。

 ただ望めばいい。みっともなくたって、無様であろうとも、生きることに縋りつけばいい。


 強く決意したリーシェに応えるように、全身を氷焔が包む。

 足元から吹いた風が真紅の髪を揺らした。蒼紅の煌めきが翡翠の瞳に反射した。


 場違いに浮かんだ笑みを隠すこともせず、リーシェは死神を睨む。


「ちょうどここに、死神がいるじゃないですか」


 予行練習にはもってこいです、と少女は口の端を吊り上げた。

 その姿はスイッチを切り替えた少女のようでもあった。だがそれ以上に、生を強く望む人間の顔だった。


「ラピス様。援護をよろしくお願いします。アズリカ、隙を見て拘束してください。キリヤ様。異国の技、頼りにしていますよ」


 返事も聞かぬまま、リーシェは疾駆する。

 15階層に入る直前で「知の力」の付与効果をかけ直してもらっている。


 強化された身体能力は、リーシェを一瞬で死神に肉薄させた。


『!?』


 辛うじて反応したスティが、殺気の込もった緑眼を見て防御を取る。

 氷の長剣が霞む勢いで振り下ろされ、重い衝撃が死神の剥き出しの関節を軋ませた。


 僅かに体勢が揺らいだ敵を見逃すことなく、左手から豪炎を放出した。


 灼熱の焔は黒ローブを容赦なく燃やし、骨の体を焦がしていく。


『相変わらず生意気な小娘だね!』


 捨て台詞を吐いたスティが鎌を一閃させて焔を切り払う。


『何も対策してないとでも思ったのかい!?』


 そう笑うとその姿を複数に分裂させた。

 影分身といったところか。

 あっという間に本物と偽物の見分けがつかなくなり、リーシェは一旦地面へ着地した。


 一体ずつ潰していくかと考え出した頃、幾本もの鎖が全ての死神を貫いていく。

 分身がモヤになって消えていく中で、一体だけがダメージを受けたように地面に墜落した。


「『武闘』第13番、奥義。『死霊裁斬』!」


 いくつもの赤い剣筋が走り、死神の骨を文字通り断っていく。

 凄まじい絶叫が鼓膜をふるわせた。


 いつの間に死神の向こう側へ移動したのか、状態を前方へ低くさせたキリヤは刀を鞘に収めた。


 物理的に動けなくなったスティが、呻き声を発しながらリーシェを睨みつける。


『いつか、きっと……後悔する』


 息絶えだえにそう忠告した。


『あの時、死んでおけば、良かったと……。意地汚く生きるんじゃ……なかったと、絶望する時が必ず来る』


「馬鹿ですね」


 ギリギリ繋がっていた首を切り落としながら、リーシェは目を伏せた。


「意地汚く生きないでどうするのですか。後悔せず生きて何が残るのですか」


 10年間、リーシェを痛めつけ、最後まで何が本当の目的だったのか分からなかった死神。最後の表情はどんな顔だったのだろう。最後にその胸に去来したのはどんな感情だったのだろう。


 骨の顔。灰と消えた体。もう聞こえない声。

 スティの心などもう知る術はないけれど、リーシェは思う。


 きっと彼女はリーシェに強く生きて欲しかったのではないか、と。


 方法は残虐。考え方は姑息。顔つきは意地悪。

 だけどそれ以上にとても不器用な人だった。


 せめて死んだ後の世界では、意地悪をすることなく生きてくれとそっと願う。



次回から新章です。応援よろしくお願いします!

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