かまくら作りに挑戦だ
ラピスは見上げるほどの高い雪山を見て、さぞ立派なかまくらができるだろうと鼻息を荒くさせた。
何より、ちゃっかりリーシェと同居しているいけ好かないアズリカをこき使える絶好のチャンスに、胸がウキウキと踊っていた。
「よし。まずは手頃な場所に直径3mほどの円を描け。俺はあっちに2つ同じものを描いてくる」
「分かった」
「それが終わったら、各3つの円に高さが……そうだな。1.5mの円柱になるように雪を積み上げてくれ」
「随分細かい数字を出してくるんだな」
「人が中に入るものだからな。積み上げる時は均等に水を散布して固めながらやるといい。スコップで叩きながらやれば頑丈になる」
不思議に思いつつもこの時ばかりは素直に従うアズリカが動き始めたのを見てから、少し離れた場所に移動して直径3mの円を2つ作る。
綺麗なかまくらを作るには、水で固めたり木の枝を差し込んで強度を高める必要があるため、円を描いたあとは森に向かった。
シンプルな外見ゆえに簡単に思われがちだが、かまくら作りというのは中々手のかかる作業だ。
今日中に3つとも大まかな形を作ることを目標に、長さが20mほどの木を呼び寄せた梟に運ばせる。1回に3本ずつ運んでもらい、リーシェの家と森を10往復ほどさせた。
疲れた梟は役目を終えるとどこかへ飛び去っていく。
アズリカの元へ戻ると、青年はようやく3つ目の円柱を作り終えたところだった。
「戻ってきたか。何回か梟が木を運んできたが、お前の指示か?」
暑くなったのか、アズリカは黄色のマフラーを脱いでいた。
首元が涼し気な格好になった姿を横目で見ながらラピスは頷いた。
置いていたスコップを手に取ると、次の手順の説明に入った。
「次は形をドーム型に整えていく。全体をよく見ながら綺麗にスコップで削っていくぞ」
「わかった」
「……やけに素直だな」
もっと歯向かってくるかと思って期待していたが、アズリカは素直に従うだけで一向に反抗してこない。「偉そうに言うな」とか「リーシェが言ったから仕方なく従ってるんだ」くらいは言ってくると思っていた。
小さく呟いた内容にアズリカは「はぁ?」という顔をした。
「俺はそこまで子供じゃない。かまくらは人が入って楽しむものなんだろ?テキトーに作ってもし崩れた時、リーシェが中にいたら危ないだろ」
真剣な表情でスコップを扱いながら彼は続けた。
「雪は初めてだが、集まればかなり重いからな。人が埋まればひとたまりもないだろ。人命がかかってるなら下らないいがみ合いなんて邪魔なだけだ」
「へぇ。思ったより大人じゃないか。14歳の俺と対等に言い合うくらいだから、もっと馬鹿なのかと思っていた」
「14歳の俺、ね。妙な言い方をする。だがお前、その言い分だと14歳のお前は馬鹿だということになるな。事実をようやく認めたようで何よりだ」
「俺がわざわざお前のレベルに合わせていることに気づいていないのか?俺が馬鹿なわけないだろう」
このかまくら作りだって打算づくしだ。
リーシェに二人羽織の話をした時点で、ラピスの目的はたった1つだった。
それはリーシェと二人羽織をして楽しくおでんを食べることだ。
アズリカはその目的のために利用されていることに気づいていないのだろうか。
健気に汗をかき、素直に返事をし、年下に使われる先の結果が、ラピスとリーシェのおでんタイムを見せつけられるものだったら青年はどれだ悔しがるだろう。
そんな計算し尽くされた計画に気づかない方が馬鹿なのだ。
ラピスが自慢気にしていると、突然アズリカがニヤリと笑った。
「お前今、俺がそっちの魂胆に気づいてないと思って勝った気でいるだろ」
「なっ!なんで知ってる!?」
「顔に出すぎだ馬鹿め。自分の計画をお前に悟らせなかった俺の方が1枚上手ということで決まりだ」
「お前の……計画だと?」
「そうだ。俺の目的は、かまくらという密室でリーシェとおでんを食べることだ!!」
「な……に……?」
まさかの計画被り。相手も同じことを考えているとは思わなかった。
アズリカは生きる目的を「リーシェを守ること」とし、魔人国家から西の大陸へ来たのに、まさか守護対象にそんな邪な願望を抱いているとは知らなかった。
「お前、逆だろう!?守るためにこっちに来たのなら、逆に攻めて行ってどうするんだ!?」
「知らないようだから教えてやる。俺とリーシェは婚約状態にある!!」
「はぁ!?」
「イグラスでイグレット王……いいや、お義父さんが決定した婚約はまだ破棄されていない!つまり、ラピス·ラズリ!お前はただの出歯亀ということだ!」
「ふざけるな!人間の国では女子は18歳以上にならないと婚約及び結婚はできない!つまりこの大陸に来た時点でそれは強制的に破棄されている!」
「そんなルールがあったのか……!」
頭の中から引っ張り出してきた西の大陸の常識を叫ぶと、アズリカが愕然とする。
ひとまず婚約は破棄にできたようだ。
それでもまだ諦めていないのか、青年はキッと眦を吊り上げた。
「なら!どっちがより頑丈で綺麗で立派なかまくらを作れるか勝負だ!勝った方がリーシェと二人羽織!どうだっ!?」
「ああいいだろう!受けてやる!お前が誰に喧嘩を売ったのか後悔させるからな!」
前世で「雪国のガリ勉ギャラクシーかまくらプリンス」と呼ばれたセト ダイキの記憶を持つラピスが遥かに有利だ。
少年と青年はそれぞれの勝利を確信しながら、雄々しい雄叫びを上げてかまくら作りを再開させるのだった。
序盤は良かったのに結局けんかするんですね……





