冬の野菜作りは断念です
アズリカとラピスが同時に差し出してきた小瓶は、どちらも似通った作品だった。
オイルは赤色で、中は緑色に染色されたバラがあり、そこに寄り添うようにして真っ赤なビーズと真っ青なビーズが入れられている。
唯一違う点と言えば、ラピスのものは上部に黄色の小粒ビーズが浮いているのに比べ、アズリカのものは下部に様々な造花が添えられている部分だ。
リーシェが海をイメージして作ったものと、アズリカとラピスのものを並べるが、やはり後者のふたつはとても似ていた。
イメージしたものが同じだったような印象を受けて、リーシェは悟った。
やはり2人は仲良しなのだと。
意図せず同じものをイメージするということは、息がピッタリあっているということだろう。
そう納得して1人で微笑んでいるリーシェの横では、男2人の激しい睨み合いが勃発していた。
「真似するな。一国の王子なら民を憂う内容の物でも詰めておけ」
「何言ってる。一国の王子だからこそ、こういう所で人間らしさを見せておくべきなんだ」
「というか、その上のキラキラはなんだ?」
「言うわけないだろう。俺とリーシェだけの秘密だ」
道具を片付け始めたリーシェを競うように手伝うと、3人で畑に向かった。
そこには立派に育ったチンゲン菜などが青々と茂っていた。
リーシェが日頃から注意深く観察し、何かわからないことがあればすぐに町におりて聞きに行っていた成果だろう。
「リーシェ。冬はなにか育てるのか?」
アズリカが聞くと、少女はう〜んとしばらく悩む素振りを見せた。
悩ましい気配を目元に残しながら、小さくため息を吐く。
「春になったら魔境谷へ行かなければいけません。行く前にある程度準備しなければなりませんから、残念ですが今年の冬の作付けは諦めましょう」
結局、季節中畑の世話をできたのは秋だけだった。
来年こそは1年を通して畑につきっきりになりたいが、なんだかそう上手くは行かないような予感がした。
「ラピス様?お尻のズボンのポケットが光ってますけど……」
おもむろに視界に入れたラピスの臀部が淡く光っていて、リーシェは首を傾げた。
激しく明滅しているものがポケットに入っているようで、少年は慌ててそれを取りだした。
光っていたのは手のひらサイズの水晶だ。
ラピスが短く嘆息すると、水晶から聞き覚えのある声が聞こえた。
『王子殿下!3ヶ月もセルタに滞在するとはどういうつもりですか!?』
「ルブリスか。どうした?」
『どうしたじゃありません!まだ仕事が残っているでしょう!王子殿下が部下に仕事を押し付けて遊んでていいんですか?』
リーシェの隣でアズリカが「いいぞもっとやれ」と呟く。
キージスが使用していた水晶の連絡玉は既に普及しているようで、2人離れた様子で言い合っていた。
『このままだと部下の髪が薄くなってしまいますよ!』
王都で仕事をすると髪が薄くなるというキャッチコピーでも流行っているのだろうか。
「大丈夫だ。お前たちには簡単な部分の仕事しか押し付け……任せていないし、あのいけ好かない大臣たちがなにも出来ないように手は打ってある。それくらいじゃ禿げないから安心しろ」
『ここ数日ろくに寝てなくて、妻にそんな酷い顔を生まれたての子供に見せるなと言われて家にも帰れてないんです!仕事仕事で愛想つかされたらどうするんですか!?』
確かにそれは少し可哀想かもしれない。
続く2人の会話を青年と半目で見続ける。
「ルブリス」
『な、なんです?』
あ、これ覚えのある展開だと思った。
「働くってな、大変なんだよ」
『現在進行形で噛み締めている事実ですから!』
「俺はもう充分頑張ったと思わないか?俺はまだ14歳だ!」
『それも知っております!しかし自分だってまだ21ですよ!』
「14歳のハゲと21のハゲで印象はだいぶ変わるだろう!?」
2人の不毛な口喧嘩はしばらく続いて、結局ラピス強引に勝ち、ルブリスの悲痛な叫び声が水晶から響いた。





