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畑でスクスク育っていた野菜たちの収穫が間近なころ、リーシェは部屋で1人ワクワクと体を揺らしていた。
テーブルの上には乾燥させた小さな花や、手のひらサイズの造花が置いてあり、その近くには色とりどりのビーズなどが置いてあった。
花より一回り大きい縦長の瓶を手の中で遊ばせていると、部屋の扉がノックされた。
「リーシェ。入るぞ」
「どうしたんですか?」
「客が来た」
瓶を机の上に静かに置いて玄関に向かうと、久しぶりに見るラピスがいた。
「ラピス様!戦争と禁足地への侵入の後始末はできたんですか?」
再会に声を弾ませて気になったことを聞くと少年は苦々しい顔をした。
「会って早々嫌なことを確認してくるな。一段落させてきたから来れたんだ」
さすが「知の力」と前世の記憶を持つ少年だ。
普通ならもっとかかると言われている戦争の後始末と、禁忌とされていた魔境谷への侵入に対する後始末を3ヶ月で終わらせるとは。
改めてラピスの聡明さに感嘆していると、リーシェの後ろからやけに不機嫌なアズリカの声が聞こえた。
「お前、一応王子だろ?そんなにほっつき歩いて大丈夫なのか?」
「なに、心配はいらない。俺がいつでもセルタに来れるように、俺の代わりをしてくれるダミーを置いてきたからな」
何故だろう。
ラピスを模した特製スーツを来て涙目で執務をするルブリスの姿がフラッシュバックしたのは。
まさか、器用貧乏だと噂のルブリスを王子の身代わりに置いてくるようなことはしないだろう。そう信じたい。
「身代わりにルブリスを置いてきたからしばらくは安心だろう」
(信じたかった〜!!)
心の底から絶叫する。
アズリカも若干引いた顔だ。
「そうか。お前のそばで仕事っていうのも大変そうだな」
「言っておくが、今日は別に遊びに来たわけじゃないぞ。近況を聞きに来たんだ」
ビーグリッドのこともあるので、正直グッドタイミングだ。
客間にラピスを招いて、ついでにアズリカも客間で待機してもらうと手早くお茶を用意する。
今日は昨日町で買った紅茶を淹れてみた。
最近は冷え込みが厳しくなってきたので、温かい紅茶が体に染み込むだろう。
良い香りを上らせるティーセットを持っていくと、何故か剣呑な雰囲気の客間のテーブルに置いた。
「何かありましたか?」
「「別に?」」
綺麗に声がハモっている。実は仲がいいのかもしれない。
2人のカップに紅茶を注ぎながら、リーシェはビーグリッドについて伝えた。
「少し前にビーグリッドに行ってスティおばさんに会いました」
少女の過去を知るラピスは静かに話を聞いてくれた。
「スティおばさんは10年前、突然村に現れたそうで、不可解な点が多くあったそうです」
「不可解な点?」
リーシェが言おうとした言葉の続きを青年が引き継ぐ。
「まるで事故に見せかけてリーシェを殺そうとしているようだった、と村の人は言っていた。そしてその数日後、この町の学校で大規模な爆発が起きて火災が発生した」
「それは本当か?」
「こんな所で嘘をつくと思うか?全て本当だ」
「幸いにも死者は出ませんでしたが学校は半分崩壊しました」
「その頭の傷は崩壊に巻き込まれた傷だったのか。まったく、お前は傷ばかり増やしていく」
呆れたように、困ったように、どこか腹立たしそうにラピスは言った。
既にあとになった額の傷を何となく隠すと、少年は真剣な顔で顎に手を当てた。
「だが、木造の学校が半分だけ崩落したのは不可解だな」
「それについてはアズリカが調べてくれました」
「まず言わせてもらうと、火災と崩壊については事故ではなく事件だ。ビーグリッドに行ってスティが自白した」
そこからは淡々とアズリカが全て説明してくれた。
最後に渡されたリーシェ宛ての紙切れを見て、少年は苦虫を潰したような顔をした。
「リーシェはどうする気なんだ?」
「ラピス様はどうするのが良いと思いますか?」
問い返すとさらに難しそうな顔をする。
「十中八九、罠だ。お前を殺すための手段が用意されているだろう。おすすめは出来ないが、リーシェは行くんだろう?」
「分かっているなら聞かないでください。このことでアズリカにも散々言われているんですから」
「俺は止めた。だがコイツは頑固だからな。行くとなったら俺もついて行く」
短くため息を吐いたのはアズリカだ。
重苦しい沈黙が客間を満たして、リーシェは冷めた紅茶を淹れ直すためにキッチンへ戻った。





