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事故に見せかけた事件

 二階部分が崩れ落ちた光景に青ざめながらアズリカは積み重なった瓦礫に手を伸ばした。


「嘘だろ……なぁ?リーシェ……!」


 自分の喉からこんなに切羽詰った声がでることを初めて知った。


「どこだ!返事しろ!」


 大切な者が失う恐怖がこんなにも大きいことを初めて知った。


「頼むから、生きていてくれ!」


 冷静を欠くことがこんなにも心にパニックを起こすことを初めて知った。


 片っ端から落ちてきた木材を素手で掴んで退けていく。

 ささくれが手を傷つけたが何も気にならなかった。


 赤い髪の少女の無事だけを願う。

 あの緑の目が生気を湛えて空いていることを祈る。


 セルタの住人たちが駆けつける時にようやくリーシェの手を見つけた。無傷ではないが、予想よりはるかに傷が浅い。

 手を目印にどんどん瓦礫を避け、重いものは鎖で粉々に砕き、ようやく彼女の胴体が出た。


 目を閉じていたが幸い息はあった。

 頭か流血していること以外は軽傷で、押し潰されないように「重力魔法」を使ったのだと悟る。

 途中まで瓦礫を「無重力」で食い止めていたが、一瞬で増えていく木材の雨に耐えきれなかったのだろう。


 生きていることを確認すると、すぐに抱き上げて学校の外へ出る。

 途中で慎重に入ってきていた男たちとすれ違ったが、急いでいるので何も言わず診療所へ向かった。


 診療所は治療を受けて包帯を巻いている子供や、その両親で溢れていたが、みんな気を失ったリーシェの姿を見ると大急ぎで医者を呼んでくれた。


 白い寝台に横たえられ傷口を消毒される少女の寝顔は、どこか苦しそうで見ているこっちが苦しくなる。


 女性の看護師に治療室の外に追い出されても、リーシェの顔が頭を離れなかった。


 しばらく少女を守れなかった後悔に頭を抱えていると、先程のリーシェの言葉を思い出した。


『被害が出たからこそ、それを教訓に再発防止を徹底できますから』という言葉だ。


 アズリカは深呼吸をすると突然天井が崩れた原因を探ることにした。


 アズリカが不自然だと思うのが天井の崩れ方だ。

 木造の建物は木材同士を組みあわせて作っているので、一箇所が崩れれば連鎖的にすべて崩壊するはずだ。


 しかし天井はリーシェがいる場所の部分だけ落ちた。

 この時点であの事故は故意に起こされたものだと分かる。


 学校のほとんどはリーシェの力によって凍っていたので崩れること自体がおかしい。

 伝説の力はそこまで易しいものではない。効果を発揮するなら徹底的に発揮するのが「技の力」だ。


 つまりこれは何者かの犯行ということになる。

 では一体誰の?と考えたところで背中に寒気が走った。


 脳裏を過ったのはビーグリッドから帰ろうとした時に女性が言っていた言葉だ。


 リーシェを十年間育てたスティはまるで事故に見せかけてリーシェを殺そうとしているようだったと、女性は言っていた。


 もちろんただの推測だ。

 だが同時に確信もしていた。


 学校の火災。天井の不自然な崩壊。

 全て、少女の正義感を利用した者の犯行ではないかと。


 町全体で経営している学校をセルタの人々の誰かが悪事に利用するとは思えず、同時に少女の性格をよく知っている者。

 火災という間接的な方法に頼っているところを見ると、犯人にそれほどの力はないのだろう。


 つまり魔人ではない。そして住人でもない。ラピスはもっとありえない。今頃、王都で禁足地に足を踏み入れた後始末に追われているはずだ。


 となると該当者は自然と一人に絞られた。


 次の事件が起きる前に、確認·捕縛する必要がありそうだ。

 まだ治療中の少女に扉越しに「行ってくる」と伝えると、アズリカはビーグリッドに足を向けた。

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