第四十四話 イチゴを植えます
栽培や畑に関してはまだまだ素人なのでお許しください!
幸いにも北の大陸の平均気温は十五度から二十度程で、湿気が多いわけでも乾燥しすぎているわけでもなかった。
気候的に見ればかなり理想的な環境が出来上がっている。
寒暖差がありすぎると土が合っていても育てることが出来ない植物もあるので、ハードルはそこまで高くなかった。
これで、土も気候も絶望的だったらリーシェも舌打ちの一つくらい零してしまいそうだが、思ったよりも簡単そうだ。
もちろん土はもっと詳しく調べなければならない。中性や酸性の違いによって植えるものは当然変わってくる。
「グルメ魔法」の保有者は王の急な呼び出しにもすぐに応じた。
序列十位に含まれている者や、国の最重要の役割を担っている一族は、いつでも召集に応じられるようにテレポート装置を持っているらしい。
「グルメ魔法」を扱う一族の族長がリーシェたちの前で深々と腰を折った。
「ギルベル·ウースベルグ·イース。呼び出しに応じここに参上しました。ご機嫌麗しゅう。偉大なるイグレット王とリーシェ姫殿下」
慇懃に告げられてこちらも腰を折ろうとしたが、見計らったようにアズリカが服の裾をつまんで止めた。
王族は頭を下げるなということらしい。
王族の自覚などないリーシェは、その手を叩き落とすと本題に入った。
「ギルベル様。今回は食べ物の種を作っていただくためにお呼びしました。お忙しい中、こんなにも早く駆けつけて下さりありがとうございます」
「もったいないお言葉にございます。我が一族の力が姫殿下のお役に立てるのなら、存分にお使いくださいませ」
「そう言っていただけると嬉しいです。早速ですが、今から私が言う野菜の種を作っていただけるでしょうか?」
リーシェが伝えたのは、「ほうれん草」「サトイモ」「イチゴ」の三種類
葉物野菜には日照時間が少なくても育ってくれるものが沢山ある。北の大陸の気候や土壌そのものに特に問題は見られないので、上手く育ってくれるだろう。
もちろん、細かいところで病気だったり栄養不良だったりが出てくるだろうから、セルタにあるリーシェの畑と同じようにまずは試験的に植えてみることにした。
ここ最近で発見されたといっても、三種類とも少なくとも百年前の文献には登場している。
それら三種類の存在自体知らないとなれば、異種族間の壁は非常に高いものだろう。
しかし、幸運にもギルベルは認識していたようだ。
栽培の方法は分からないが、実物と種は何十年も前に見たことがあるという。すぐに適量の種が生成された。
触って確認しても何の変哲もない種を見て、「グルメ魔法」を心底羨ましく思った。この魔法さえあれば、リーシェは好きなだけ好きなものを植えることが出来るからだ。
正直「技の力」より欲しかったと考えながら、まずは「イチゴ」の種を植えていく。
気を利かせてくれたギルベルは数あるイチゴの品種の中でも、丈夫で育てやすいものを選んでくれたようだ。
小さな種を指で軽く掘った土の中に種を入れていき、ふんわりと埋めていく。 月に雨が数回降ると言うので、水やりは天気任せでも大丈夫なはずだ。
これまで色々と自慢気にしているリーシェだが、なぜ自分がこんなに知っているのか実はよくわかっていない。
ビーグリッドにいた時に、スティおばさんに言いつけで植物の本を片っ端から読み漁っていたが、百年前の文献がどうとかは流石に分からない。
それなのに、まるでずっと昔からそれを知っていたようにスラスラと知識が出てくる。きっと、どこかでそれが載った本を見たことがあって、偶然覚えていたのだろう。
そう自分を納得させながら黙々と埋めていると、やはり拘束している鎖がとても邪魔だった。
背後で見守っているアズリカをジトリと見上げる。
「なんだ?」
「鎖の拘束力を弱めていただけますか?」
「無理だな」
「必要なことなのです」
「なんでだ?」
「地下水が高いので、植えられるバリエーションが少なすぎるのです。それだと栽培できる野菜が偏り、結果的に栄養も偏ります」
「……イグレット王。どう致しますか?」
アズリカに話を振られた王は、難しい顔をしたあと以外にも頷いてくれた。
「必要最低限の力だけ解放を許そう」
許可された瞬間、二の腕と手首に着いていた鎖が砕け散る。
心なしか気が楽になったことを確認すると、地面に手のひらを着いて地下水を僅かに蒸発させた。
空を見ると今日は雨が降らなさそうなので、当分の水分は蒸発したことで地面を湿らせた分で足りるだろう。
「技の力」に頼ってしまったことは悔しかったし不本意だったが、意地を張って栄養が偏るような真似はしたくなかった。
リーシェにもプライドがある。助けたいと思ったことは何を優先させてでも助けたいのだ。
もう二度と誰も不幸にしたくない。
その一心でイチゴの種を植え続けた。





