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第三十一話 戦争が起きます

 リーシェがセルタに帰ろうと準備をしていた時、その報告はされた。

 

 魔人の国イグラスがラズリに宣戦布告をしたと。


 ラピスの父親である国王はもちろん驚愕し、宣戦布告と共に送り付けられた文書の内容をラピスに詰問した。


 文書は以下のように書かれてあったという。


『貴国は魔人の機密情報を知った。よって、実力行使によって情報が拡散することを防がせていただく。1月後の夜明け。まずは魔境谷を業火にて焼き払いに行く。精々、罪の「重さ」に潰されて滅びるがいい』


 あまりにも攻撃的な文書が送られるきっかけは間違いなく、エグゼ様がリーシェに教えてくれた内容だろう。

 序列1位と2位の魔法の内容を知ってしまったから、それによって弱点を発見されるのを防ぐために強引に潰しに来たのだろう。

 

 さらに、西の大陸の中心とも言えるラズリを隷属させれば人間が住まう大陸自体を隷属させたも同義だ。

 

 宣戦布告が急になされたのは、誰もが目を剥く発明を繰り返すラピスが弱点を見つける前に動こうとした結果だろうと、黒髪の少年は言っていた。


そしてさらなる問題はここからだった。


王都を魔人の侵攻から守るためにリーシェの力を利用したい王さまや重鎮と、一刻も早く帰って生まれ故郷の魔境谷やセルタを守りたいリーシェが真っ向から意見が対立した。


一秒でも早く戻りたいのに、広々とした会議室に連れていかれたリーシェは慌てるだけで全く進まない会議の内容にイラついて、とうとうキレてしまった。


具体的には指先に焔を浮かべて、瞳に浮かぶ輝きを零度にして王と重鎮を睨んだ。

 そして地の底から響くようなドスの効いた声で……。


「私の平穏を邪魔するものは決して許さないと言ったはずですが?そもそも谷から遠く離れた王都の防衛をするより、着火点である、かの遠き魔鏡の防衛をした方が被害は最小限です。私は私の好きなように動きます」


 と言った後、大股で部屋を出ていく間際に振り向いて不敵に笑った。


「精々、雑草の根のようにみっともなく生に縋っていなさい。ただ……あなた方のプライドは雑草の生き方を許容できるでしょうか?」


挑発してから、発着場へ行き梟に乗って僅か数時間でセルタに戻った。


久々の帰宅に緊張を解きながら無理をさせてしまった梟を撫でていると、畑の方向から1人の青年が走ってきた。

留守の間、家や畑の管理を任せていたレガリアだ。

 笑顔で迎えると、レガリアは跪き騎士の礼をとる。


「リーシェ様!おかえりなさいませ。ラピス様は一緒ではないのですか?」


 その質問にリーシェは真剣な表情になる。

 そして、凛と張った声でお願いした。


「レガリアさん。今すぐ、調査隊の方々を集めてください」


 レガリアは驚いたように目を見張った。

 それもそうだ。リーシェの雰囲気がガラリと変わり、緊張感に満ちたものだったのだから。

魔境谷で対峙したときですら放っていたなかったプレッシャーは、騎士たちの主君である王がよく纏っているものだった。


つまりは王族のプレッシャー。王族の者が、人の上に立つ上で放つカリスマとも言える特有の気配。

 それが今のリーシェからは発せられていた。


 もちろん、リーシェにそんなつもりはなかった。ただ、母に恥じぬ生き方をしようと心を新たにしただけだ。

 だが「重力魔法」の相乗効果によって、その決意は威厳へと気配を変えていた。


よって青年は全く疑問を持つことも無く素早くメンバーを集結させた。

町にいたメンバーも緊急招集されたことで、不思議に思った住人たちも集まった。


すでに、ラピスの遠見の力によって魔人が動き出したことは確認済み。

文書はデマでも冗談でもないことは明白だった。


戦争は起こる。

今から1ヶ月後に魔境谷を始まりにして。

魔境谷はリーシェの生まれ故郷。そして、全てを捨てて駆け落ちした両親が安寧を求めた場所でもある。


 結果は悲惨だったが、それは生まれてきたリーシェが特殊な力を持っていたせいで、本当なら平穏な夫婦生活を送ったはずだった。


ならリーシェにはあの谷を守り抜く義務がある。


不幸も幸福も。自分の誕生で比率は大きく変わってしまった。

ならばこそ、あの谷の現在と未来を守りたいのだ。


 たとえ、一人で魔人軍を相手取ることになろうとリーシェはあの地を捨てない。

 

「みんなに、伝えることがあります」


静まり返ったのを確認してリーシェは深呼吸をする。

目を開けると、久しぶりにアンの姿が見えてそれだけで勇気が出た。

 セルタの住人たちを不安にさせないように、少女は爽やかな笑顔で告げた。


「これより一ヶ月後。魔人の国イグラスとの戦争が始まります」


笑顔で言う内容ではない。だが、不幸ぶって話すようなことでもなかった。

だから笑うのだ。生きる希望しか見えていないと豪語するように。勝てる未来しか見えていないと胸を張るように。


 その効果があってか、人々は僅かに混乱しながらも怯えること無かった。


「開戦の場所は北へ数十キロ離れた魔境谷。あの谷を突破されれば、あっという間にビーグリッドまで侵略され、戦火はセルタをも飲み込むでしょう。すでに守護の陣は張ってありますが、魔人の総攻撃に耐えれるか確信は持てません」


次の瞬間、リーシェは一際笑みを深くさせた。

満面の笑み。少女が畑の野菜に対して浮かべているのと全く同じ、慈愛に満ちた強い笑顔だ。

 セルタに流れ着いてから幾度となく町の人々を励ましてきた笑顔に、彼らも微笑みを刻んだ。


「よって、私はこれより魔境谷へ向かい魔人軍を迎撃·撤退させます。だから安心してください。みんなはいつも通り賑やかに過ごして、帰ってきた私を笑顔で迎えてください」


帰ってくる。リーシェは断言した。

万の敵と対峙しようが、千の策略を練られろうが、必ず生きて戻ると不遜に言った。

人々が強く頷く。

 アンが代表して全員の想いを告白した。


「あたしたちは戦いに参加することは出来ない。しても足でまといにしかならないだろう。だけど、あんたが帰ってくる場所は全力で守っている。リーシェ。安心して行っておいで。そして、絶対に生きて帰ってきな。そしたら……」


リーシェの少しだけ震えている体をアンは抱きしめる。

少女が少しだけ強がっていたことくらい、彼女は黙っていてくれるだろう。


「また一緒に、野菜を植えよう」


 彼女はこんなにも優しいから。

 彼女はリーシェ欲しい言葉をいつだってくれるから。

 

 リーシェは力強く頷く。

 もう怖くない。その言葉があれば十分だ。


 少女の体はもう震えていなかった。


 

王都編、ひとまず終了です。

次回から、人魔争乱編へ突入します。

リーシェはたった1人で敵を迎え撃つことになるのでしょうか?イグアスは母親の生まれ故郷です。本当に潰し合うしか道はないのでしょうか?


これからもよろしくお願いします!

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