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第二十一話 いよいよ収穫祭です!

ちょっとだけ説明が入ります

 この日、セルタはいつも以上に活気づいていた。

 住人のほとんどが自前の畑を保有しているセルタは、無事収穫祭を迎えた。


 大きな広場に集まった人々は、みんな箱いっぱいに収穫した野菜を抱えていて、料理を作る女性陣たちが包丁の腕前を存分に発揮しているテントの前には野菜の列ができていた。もちろん、正確には野菜を持った人が列を作っているわけだが、そんなのは些細な違いだ。


 住人は弾けるような笑顔を浮かべて、料理が出来上がるのを待っていた。


 リーシェはすでに野菜を料理隊隊長のアンに渡したばかりなので、少し離れた木陰でみんなの様子を見守っていた。

 運が悪いことに今日は起きたときから少しだけズキズキと胸が痛んで、賑やかな空気に率先して繰り出すのは難しかった。


 リーシェの歓迎会も兼ねている収穫祭の中盤に、リーシェから人々に感謝を伝える場面があるのでその時のために体力を温存しておく。


 見ているだけで笑顔になる平穏な光景に、少女はニコニコと笑っていた。


「楽しそうだな」


 そこへ声をかけてきたのは、早朝にセルタへ到着したラピスだ。

 本来なら気軽な外出など許される立場ではないそうだが、父王に「伝説の少女の様子を確認してくる」と言ってやって来た。

 その移動にすでに梟が応用されていたことは、さすが「知の力」の持ち主と言わざるを得ないだろう。


 まだ大々的に普及はできないものの、移動に大きな革命を与えたラピスを王さまは止められなかったらしい。


 リーシェを真似るように木陰のなかに腰を下ろしたラピスは、最初にあったときとは別人のような人間味のある表情で笑った。


「とても楽しいです。野菜が無事に育って、みなさんが揃って笑っている。不幸なことは何もありません。私はそれが何よりも喜ばしいのです」


「俺の野菜は?」


「残念ながら、まだ育ってないので畑でお留守番です。ちゃんとお世話しているので順調に育っていますよ」


 彼の野菜に関しては本当に惜しかったのだ。あと二……いや一週間あれば十分に食べられるまで育っていただろう。

 育て始めたのが少し遅かったので仕方のないことだった。


「町に来て五ヶ月。時間は本当にあっという間に過ぎていきますね。ビーグリッドでの日々がずっとずっと昔のことのようです」


「そうだ、ビーグリッドのことだが。三ヶ月前に降り続けた雨の影響で農作物がやられてしまったらしいな」


「住人の方々は大丈夫なのですか?」


「幸い貯蔵していた作物は被害を免れたらしい。食事の量は減るだろうが、飢え死にするほどでもないそうだ。それに、ルブリスたちに保存食を届けに行かせている。心配いらないだろう。

 というか、俺が今心配しているのは……」


 「お前の方なんだがな」とラピスは言った。

 涼しい顔で、三ヶ月の間に調査し判明したことを簡潔にまとめてすらすらと教えてくれる。


「まず神秘の力が伝説の力と併用される際に及ぼされる影響について。リーシェが今悩んでいる胸の痛みがまさにそれだ」


 胸の痛みについてはラピスを町に迎え入れた際に教えておいた。彼は早朝からこのお昼時の間に原因を解明してくれたのだろう。

 圧巻の頭脳だ。


「神秘の力とは、一般的に魔人そのものが持っている種族特有の力だ。伝説の力との違いは……『血から発動している能力か、存在そのものから発動している能力か』というところだな」


 今いちよく分からないと頭を捻ると、王子はその辺に落ちていた木の棒で分かりやすく図説してくれた。

 

 『種族』という言葉が『血』と同じ意味であると示され、『伝説』は『存在』と同義だと説明される。


 つまり『血から発動している能力』とは、その種族が持つ特有の力が血として刻まれているおかげで使える能力であり、逆を言えばその種族でなければ扱えない力ということだ。

 しかし『存在から発動している能力』とは、リーシェとラピスのように何らかの外的要因によって個人に刻まれた能力であり、存在そのものに与えられた特別な力のことである。


 伝説の存在であろうと種族特有の能力は使えない、と言えば簡単だろうか。


 そもそも、伝説の存在というのはたった一人であることを無意識の大前提としていたため、それ二人、しかも片方は非常に珍しいハーフということでラピスでも曖昧な仮説になってしまうらしい。


「リーシェは人間だ。だが同時に魔人でもある。さらに伝説の存在で『技の力』を持っている。要はお前のなかでは今、三つの力がせめぎあっている状態なんだ」


 水を入れすぎたじょうろのように、大きすぎる力が器である体に負荷を与えているのだと彼は教えてくれた。


 人間の種族特有能力は『発展』。

 東西南北それぞれに住んでいるといわれる全四種族の中でも、もっともなにかを繋げる能力に長けていて、技術を発展させる力を持っているらしい。


 魔人の種族特有能力は『魔法』。

 四種族の中で唯一伝説の力とよく似た力が扱え、また血に刻まれた魔力によって人間よりずっと長生きらしい。


 他にも戦人と獣人がいるそうだが、それは後でいいだろうとラピスは説明を省いた。


「はっきりとした解決策はないが、リーシェが自分のなかでそれぞれの力をはっきり区別できたら、能力同士がせめぎあって負荷をかけることもなくなるだろうな」


「難しそうですね」


「俺は純ヒューマンだから詳しいアドバイスはできない。すまないな」


「いえ!原因がはっきりと分かっただけでも感謝しています!」


 リーシェが頭を下げたところで広場の方で一際大きな歓声が上がった。

 

 見ると、刻み終わった野菜たちが見上げるほど大きな鍋に次々と投入されているところだった。

 誰が作ったのか、巨大な脚立を使ってどんどん野菜を入れて、煮込んでいくアンの姿があった。


 セルタ名物、夏野菜スープを作ろうとしているのだろう。

 あの量なら、完成までまだ大分時間がかかるはずだ。事前にアンにはなにもしなくていいと念を押されているので、リーシェはうずうずとしながらもおとなしく座っていた。


「話の続きだが……魔人の代表が今度、王都ラズリを訪問する」


「異種族の方がわざわざ来るなんて珍しいですね」


「コンタクトをとってきたこと自体、稀だからな。そのくらい、種族同士の壁は高い」


「ラピス様も魔人とお会いになるのですか?」


「ああ。王子として父と一緒に挨拶をする予定だ。それでだな……」


 珍しく歯切れの悪い様子だ。

 リーシェは話の続きを促すように微笑んで首をかしげた。

 やがて、王子がこんな提案をしてきた。


「リーシェも王都に来ないか?もちろん、ずっとじゃないぞ?お前に『魔法』を制御できる方法を魔人の代表が教えてくれたら、少しはコツが掴めるかもしれないだろ?」


 収穫祭が終わったら、ラピスと一緒に都へ行き代表に固有能力の話を聞いたら痛みも解決できるかもしれないと彼は言った。

 確かにそうだとリーシェも頷く。

 分からないことは専門家に聞くのが一番だろう。


 問題は畑や家の管理だが……。


「それについては安心しろ。休暇も兼ねて調査隊をセルタに滞在させる予定だ。留守の間、管理はそれが得意な隊員に任せよう」


「得意な方がいるのですか!?」


「レガリアという隊員が農家出身で、昔は建築家を目指していた。知識はお前と同じくらいかそれ以上だろうな」


 彼がそこまで評価するということは相当な知識量なのだろう。

 リーシェは能力の制御を知るために、収穫祭が終わったあと、ラピスと共にラズリを向かうことを決意した。


 広場でまた歓声が上がったのを見ながら、まだ見ぬ魔人に想像を巡らせるのだった。


 

 


 

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