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動き出す状況

 惨めなる国民共。

 搾取されるしか能のない弱者。

 驕るしか能のない強者。


 なんてつまらない世界だろう。

 なんて退屈で窮屈な世界だろう。


 大陸のトップに立つ者でありながら、この心はあまりに大陸に無関心だ。


 別に荒れていたって構わない。そのまま滅びてしまえばいい。

 別に理不尽で形成されたって構わない。そのまま人の心を忘れてしまえばいい。


 愚かなる国民よ。

 強くあれ。弱くあれ。

 怒号も慟哭も好きなだけ叫べばいい。

 この耳には届かないし、この目には何も映らないのだから。


 その苦しみが。その悲しみが。この傷を癒す薬である。


 故にもっと泣き叫べ。もっと怒れ。

 邪王の復活は近い。


「王よ……」


 唯一の友が自分を呼んだ。

 気だるく目だけを友に向ける。


「伝説の存在がこの大陸に来たと報告が」


 その言葉に何十年ぶりに心が震えるのを感じた。


「おぉ、ついにか。申し子はここへ来たか」


「下町で何やらきな臭い動きをしているようです」


「……革命、か。200年ほど前にも斯様なことがあったのう」


「どうしますか?」


「前回は申し子がいなかったから上手くいかなかった革命も、今回は面白いことになりそうじゃな」


 薄暗闇の中で赤い髪を指で弄ぶ。長らく鏡を見ていないせいで、はっきり覚えていない瞳の色を僅かに煌めかせた。


「捕らえよ。ここへ連れてくるのじゃ」


「御意」


 友の気配が消える。

 待ちわびた子がもうすぐやってくる。それだけで、凪っていた心にさざ波が立った。


「前回の降臨からすでに1000年も経っていたのか。時間が経つのは誠に早いの」


 友が置いていった水を杯に注ぎ、水面鏡で自分の顔を見る。

 そこには翡翠の双眸が静謐に浮かんでいた。


 ☆*☆*☆*


「どうかしましたか?リーシェ様」


 不意に立ち止まって後方を振り向いたリーシェに、キリヤが首を傾げた。

 美しい鈴が奏でた涼やかな音に、我に返って笑う。


「いえ、なんでもありません」


 本当は朝に起きた頃から嫌な予感が首の裏でチラついているのだが、杞憂かもしれないと内心首を振った。


 タタラを味方に引き入れてから2日。

 彼一人を手中に加えただけで、革命の味方は次々と集まった。


 聞けば、タタラは裏で下町を纏める役割を持ったいたらしく、大親分のような存在だったらしい。


 その人柄や強さが多くの憧れを集めていたようだ。


 キリヤやゼキアの予想を超えて大きかった影響力は、リーシェたちがゆっくり出来る時間ができたという形で目に見えた。


 今はシルビアへ初めてやってきたリーシェに、キリヤがあれこれと教えてくれているのだ。


 戦人族の装飾品や文化など様々なことをレクチャーしてくれていた。


「これは簪と言って、髪留めに使われます。飾りが凝ったものや逆にシンプルなものまであります」


 店頭に並んだ物を指さしてキリヤが言った。

 それはとても美しい蝶が彫られた簪だった。


 戦いで全てを決める戦人族だが、装飾品や着物、食料は手の込んでているものが多いように感じる。


 はっきり勝敗をつける、という性質は物作りの完成度の高さにも反映されているようだ。


「あれは大福と言って、中に餡子が入っているお菓子です。お茶ととても合うんですよ」


「イチカちゃんに持ち帰ったら喜びそうですね」


「甘いお菓子の類ならゼキアも喜びますよ。ああ見えて甘党なので」


 なんの違和感もなく、大福を頬張る姿がイメージされて2人で笑う。


「そういえば、ゼキア様の目の下の傷ってなんですか?」


 左右の目の下についた横三本の傷跡。

 猫のヒゲのようだと思っていたが、やはり傷ついたきっかけが気になった。


「あの傷はイチカを怖がらせないように、ゼキアが自分でつけたものです」


「自分で?」


「あの傷を作る前までは、目付きが悪く無愛想なせいでイチカによく泣かれていたんですよ」


 ゼキアは口も悪いのでもしかしたらそれも原因かもしれない。


「頭の横に着いている狐の面もイチカを怖がらせないようにつけているものです」


 聞けばキリヤの鈴も、なかなか泣き止まないイチカを安心させるためにつけたものらしい。


 2人の装備品がほとんどイチカのためのものだと知って、リーシェは思わず笑ってしまった。


 彼女がもっと小さかった頃はそれは慌ただしくお世話をしたのだろう。

 良い兄たちだと思った。


 昔の3人を見てみたいとしみじみ思っていた時、路地裏の奥から悲鳴が聞こえた。


 表情と気持ちを引き締めて声のした方へ走ると、男女が流麗な刀を抜いて待ち構えていた。


「バーカ!まんまと釣られたね」


 緑色の髪を無造作に結んだ少女が舌を出した。声質からさっきの悲鳴は少女が意図的に出したものだと悟る。


「関係ない方も着いてきたけど、無視していいんだよねぇ?」


 ゆったりとした口調の男が、一瞬キリヤに視線を投げる。


「あたしたちの今回の任務は、赤い髪の女の捕獲。金色の方はしばらく動けなくするだけでいいっしょ」


 その宣告にキリヤと揃って息を詰める。

 中央にリーシェの報告が上がっているなら、何かしらしてくると思っていた。


 その時が来たのだと、リーシェも刀を抜く。タタラが家にあったものを譲ってくれたものだ。


 不思議と手に馴染む柄を握りしめて、深く息を吸った。


 そして次の瞬間、狭い路地裏に激しい剣戟の音が響き渡った。





黒幕がうっすら出てきました。

赤い髪に緑の目。リーシェと同じ特徴である容姿に秘密はあるのか?黒幕は何者なのか?


やっときな臭くなってきました

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