尾居探偵の事件簿~探偵モノローグ~
某有名裁判ゲームのネーミングセンスと世界観(?)をオマージュさせていただいています。
大好きです!gyく転○判!!
今日も今日とて仕事で大忙しな僕は、部屋と部屋を行き来している。
別に僕は忘れ物をしたり、ヘマしたりと依頼人に迷惑を掛けたお詫びに、何故か彩乃ちゃんに指示されて走り回っているわけではない。
「本当の事なんだからさ、責任持ちなよね。尾居君。そもそも、あんなことがなければ、こんなことしなくてもよかったのに」
「あー! もう、うるさいなぁ! 責任はちゃんと持つから!」
指示を出している彩乃ちゃんは事務所の来賓用ソファに寝ころびながら、僕の心を小さく抉っていく。
……しかし何でこう、彩乃ちゃんは僕の考えていることがわかるんだ? 理不尽すぎて涙が出るよ……。
「だって、尾居君……」
「分かってるよ! “顔に出やすい”んだろ!?」
「正解!」
「 “正解!“じゃないだろ……」
クイズ番組で使っているようなピンポーンという音が聞こえてきそうな、その言葉に突っ込むと、僕はげんなりしつつ肩を落とす。
彩乃ちゃんの言う“顔に出やすい”は、耳にタコが出来そうなほどに毎度毎度言われることである。
……そんなに、顔に出やすいのかなぁ……。
僕の名前は尾居翔、職業は探偵。探偵といっても本格的に始めたのは4か月前になったばかりの新米探偵だ。
僕は探偵事務所の所長を務めているので、毎日といって良いほど依頼が飛び込んでくるから、とても大忙し。
「と、言っても、浮気調査とかペット探しが多いけどね。本当に何か事件でも起こらないかなぁ……」
そして、さっき愚痴を零したのは助手の真坂彩乃中学2年生。
彼女は僕の知り合いのおじさんのお孫さんで、社会科見学と称したアルバイトを(何故か)している。法律上、十六歳以下の子供が働くことは禁止されているはずだ。別に僕がアルバイトを提案したわけじゃない。
冗談半分で友人の提案に乗ったのが行けなかったんだ。
「じゃあ結局、尾居君も悪いってことで……」
「馬鹿言わないでくれよ……、バレたら小さい頃からの夢が潰れてしまうじゃないか……」
僕は小さい頃、アニメやマンガ、物語などで出てくる探偵に憧れ、小中高と卒業し、大学には行かなかったけれど、小さい探偵事務所の助手を経験したこともある。
その事務所にいた僕の先生、葉屋郁夫先生は元刑事で幾つもの難事件を解いてきた凄腕刑事であった。のだが、5年前、何故かはわからないが、刑事を辞めるよう上司から辞令がきたのである。しかも巨額な大金を押しつけられるようにして、だ……。
そのお金を行く宛のない貧しい子供たちのため、児童施設を設立することに使い、そして小さな事務所ではあるが葉屋探偵事務所を設立したのだ。
そんな彼に僕は憧れ、葉屋探偵事務所の扉をノックしたのだ。
「そう言えば、もともとはこの探偵事務所を建設したのは、その葉屋さん……なんだよね? ならどうしてこの探偵事務所は尾居君の物になったの?」
「さ……さあね……昔の話は、忘れちゃったよ……」
「でもさ、尾居君がちゃんとした探偵になったのは4ヶ月前じゃない? これは昔とは言わないと思うんだけどな……」
「うぐっ……!」
彩乃ちゃんは痛いところを攻めてくる。
僕は脇腹を押さえながら冷や汗をかいた。
僕が探偵になった当初、ちゃんと先生は居た。
そして……ある事をきっかけに先生は居なくなっていた……。
それは、僕が新米探偵になる前の出来事で丁度一年前に、先生宛で招待状が送られてきたのがきっかけだった。
* * *
「先生! ポストに手紙が入っていたんですが……宛先が、黄堂椙流……と書かれています」
「黄堂椙流……? 翔君その手紙貸してくれないか?」
「あ、はい。どうぞ」
僕は先生に手紙を手渡す。手紙を受け取った先生は器用に指で封を開ける。そして中に入っていた紙を取り出し、目を通した。
「……なっ!」
先生は目を見開いて何回も何回もその手紙に目を落とした。
「先生……何て書いてあるんですか? そんなに何回も目を通して……」
「い……いや……、何でもない……」
僕は首を傾げて訪ねたが先生は首を横に振るだけで内容は教えてくれなかった。
――それからだった。先生が毎日何処かに出かけるようになったのは……。
「先生、今度はどこに行くんですか?」
「今度はって……、また同じように散歩に行くだけだよ。ついでに昼を食べてくるから君はまたお留守番、お願いしてもいいかな?」
「……分かりましたよ。行ってらっしゃい」
先生はコートを着て外に出かけていった。
あの手紙を読んでから先生は毎回、同じ時間に出ていくことが多くなった。
僕は不審に思い一回先生の後をついて行ったのだが、すぐにバレてしまった。
「何をしているのかな? 尾居君?」
「ぁ……、す、すみませんでした!」
角を曲がった先生を見逃さないようについて行ったのだが、その角の先では腕組みをしながら、先生は僕を見つめていたので、僕は頭を下げるとすぐに踵を返して走った。
「あっ! 尾居君!? ……」
先生が僕を呼び止めようとする声が聞こえたが、足を止めることなく走り続けた。
尾行に失敗して渋々と事務所に戻った僕は自分の机に頬杖をついて溜め息を吐き出した。
「は――あ……、どうしようかな……」
一人ごちていると、事務所の扉が開き、先生が帰ってきた。
「ただいま――。尾居君、居るかい?」
「お帰りなさい。はい、いますが何か……」
物思いにふけようとしたら先生が帰ってきた。僕は返事をして先生のところに向かった。
「なんでしょう?」
「いや……ね、今日君が僕のこと、尾行していたからさ……僕のこの何週間の動き、不振に思ったんでしょ?そしてその理由に気がついている……」
「……はい、先生。僕は黄堂椙流という人からの手紙を先生が読んでからその後の一週間の先生の行動におかしいなとは思いました。そう、いつものように情報を人から貰うかのような振る舞いを見て、僕はこう考えました。もしかしたら送られた手紙には調べ物をして欲しいという依頼なのでしょう。そして、先生はその依頼を受けている」
「合格」
一通り僕の推測が終わると先生はにっこり微笑んだ。
「え……?」
「探偵として合格。……もう、僕から離れてもおかしくないね」
先生は僕の肩に手を置き通り過ぎた。その時、先生がポツリと呟いたのを僕は聞き逃さなかった。
「先生? さっきのは……何ですか……」
「あはは……聞こえちゃったか……」
笑いながら言う先生に“当たり前ですよ。”と僕は呟いた。
「いやね……。この前の手紙は前、僕と一緒に事件を担当した人から届いたものなんだ。それでね、今回彼は僕に秘密裏の依頼をくれたんだけど、これは僕にも関わることだったから君には迷惑は掛けられなくてね……。だから、君に黙って一人で調査していたんだ。でも、もう何気無い散歩を装って調査をすることはもう無意味だろうね。その行動自体、君に疑われたんだから。ね、君さえ良ければ僕の手伝いをしてくれないかな? でもまぁ、直接的な事はさせないけどね」
先生は一通り言うと、柔らかな苦笑いをしながら手を差し伸べてきた。
僕は躊躇することなくその手を取ると先生にお願いした。
「当たり前ですよ。なんてたって、僕は先生の弟子なんですから! 僕の方こそよろしくお願いします!」
「ははっ……君は頼もしいね。あ、そうそう僕から離れる云々は、もう、僕が居なくたって、君はもう一人前の探偵だよって事だから。もしかしたら、いつか君に僕から依頼を頼む日が来るかもしれないね……」
「何言っているんですか! いつでもどこでも、先生について行きますから!」
先生は苦笑しながら握っている反対の手で僕の頭を軽く叩く。だけど、どこか悲しそうな顔をしていたのを僕は見逃さなかったが、それよりも僕は先生に褒められた事が少し嬉しかった。
そして僕は、先生と共に証拠を集めたり、聞き込みをしたりしていた。
ついに、黄堂椙流氏に会う日が来たが、その日、僕はお留守番を頼まれていた。
僕は、最後まで先生に付き合うつもりでいたのに、その日だけ、手伝わせてくれないことがショックだった。
その後、先生は一旦帰ってきたけど、一緒に黄堂さんを連れてきて事務所に帰ってきたが、久しぶりに飲むためだと言って出ていった。
それからだ。
先生はいっこうに帰ってこず、何週間か後に暗号らしき手紙が、黄堂さんから先生宛てではなく、何故か僕宛てに届いた。
その手紙を解読すると、先生の机の中に先生から僕宛のが、入っているとのことだった。
その手紙から分かったことは、この探偵事務所を僕にくれること、そして先生は、旅に出たということだけだった。
「先生……っ、なんで……」
僕は怒りを覚えつつ声を上げて泣いた。
行き成り居なくなったことに腹を立てたわけじゃない……僕に何も言わずに居なくなったことについて、少し悲しくなっただけだ。
「ふーん。そんなことがあったんだね。知らなかったよ」
「だろうね。だって、まだ彩乃ちゃんが此処には居なかった時期だし、僕も少しは先生に近づけたかな?」
「いや、それはどうなの?」
彩乃ちゃんは腕組みをして、僕の考えを否定しやがった……。
「と……とにかく、先生は僕の前から消えた、そしてどこに旅に行ったのかわからない……消息不明な先生から探偵事務所を受け取ったんだよ」
「なるほどね……。でも、あれだよね」
「あれ? まあでも、そのときからもあまり依頼なんてあったためしがないってことが伺えたね(笑)」
「……綾乃ちゃん? 言っていいことと悪いことがあるよね?」
「何熱くなってんの?(笑)」
「誰がだよ! 元はといえば彩乃ちゃんが……」
「きゃぁ!!」
コ、コン、コン……。
うぷぷと、笑った彩乃ちゃんの腕を掴むと、わざと悲鳴をあげられていた時、事務所のドアを遠慮がちにノックする音が聞こえた。
「お客さん、かな……」
「だろうね。じゃないと、ここまで来ないよ」
一言ずつ僕たちは言葉を交わすと、僕は掴んでいた彩乃ちゃんの腕を放して、ニヤけていた顔を真顔にして
「はーい! どうぞ!」
と彩乃ちゃんの元気な声が事務所内に響きわたる。
「し……失礼……します」
それから、依頼主であろう人物が、いかにも何かに怯えているような小声で、そんな声が開いたドアの音と共に事務所に木霊した。
そして、僕はお客さんが来たら確実に呟いている言葉を呟いた。
「さぁ、今日も依頼が来たようだね。忙しない日常を始めようか……」
終わり
個人的気に入っているお話です。
今見返してみると、その。とか、そして。とか併用しすぎで吃驚してます。
当時、オリジナル二次創作?としても考えていました。