私の気持ち
こちらも前話と同様、卒業式関連のお話です。
放課後の学校。
私はある桜の木の下で、ある先輩を待っている。
「先輩早くこないかな……。渡したいものがあるのに……」
そう呟きながら、私は手に持っているソレを眺めた。
ソレは先輩が卒業する前に渡しておきたい物が入った、可愛らしい封筒と小包だ。
「ゴメン! 前野ちゃん、遅れた!」
先輩が来たのと同時に、私は持っているソレを後ろに隠した。
「で……、話したいことって何かな?」
先輩は単刀直入に聞いてきた。
「えっと、実はですね。先輩に渡したい物があるんです」
口ごもりながら、私は後ろに隠したソレを先輩の前に出した。
「うん? これは?」
先輩は首を横に傾ける。
「これはですね……。ええっと……。とりあえず、受け取ってください!」
私は先輩に無理やりソレを突き出した後、私は走り出す。
「え……」
それを見た先輩はキョトンとした。
数日後
今日は先輩の卒業式。
あれから先輩に会っていない。
ちゃんと見てくれたのかな?
小包を開けてくれたのかな?
私の気持ちは伝わっているのかな?
渡した日からそういう想いなどが日に日に強くなっていった。
先輩の卒業式を見るために私は体育館に向かう。
体育館に行くと、多くの人がもう設備されている椅子に座っていた。
一番前は、何百という椅子が空いているが、それは先輩たちの座る椅子だ。
私は空いている席を見つけて座る。
入場テーマ曲が流れ先輩たちが入場してきた。
男女一人ずつ順番に並んで行進しながら、一番前の誰も座っていない椅子に座り始める。
何人かの先輩たちのなかに、あの先輩もいる。
一瞬目があってすぐに背かれた。
すこし、ショックを受けた。
それから、先輩たち全員が座り始めると、卒業式が始まった。
開会式、校歌斉唱、卒業証授与等が催された。
卒業証授与のとき、先輩の名前が呼ばれたときは、私の心が跳ね上がる。
私は祈るように、手を組み、ギュッと目をつぶる。
特に何も起こることなく、順調に進んでいく。
卒業式が無事終わり、先輩たちは入場したときと同じように、退場していく。
退場していく中で、また先輩と目があった。
前回は背かれたが、今度はにっこり笑ってくれた。
先輩たち全員が退場した後、保護者や私たち生徒は体育館を出て、花道を作ってまた、先輩たちを送り出す。
拍手しながら、先輩たちを送っていくと、先輩が私のところに来て、こう告げた。
「この間の返事、今日返すから。これが終わったら、俺のところに来てくれないか?」
「はい、わかりました」
私は先輩の目を見据え、頷いた。
花道が終わると同時に私は、先輩を探し始める。
見つけた。
「先輩!」
私は、大声を出して呼ぶが、一斉に他の先輩たちに振り向かれた。
「如月先輩!」
今度は、名前を呼ぶと、一斉に振り向いた先輩たちは、自分のことじゃないと知ると、顔を元に戻す(一人の先輩以外)。
「ん。前野ちゃん、さっきぶり」
如月先輩は片手を上げながら私の名前を呼ぶ。
名前を呼ばれると胸が高まる。
何を言われるのか、わからない。
もしかしたら、ふられるかもしれない、予期せぬ返事が帰ってくるかもしれない。
少し、いや、凄く不安だ。
「この前の返事なんだけど……」
「はい」
「あれから、家に帰って、よく考えてみたんだけど俺、前野ちゃんのこと……」
来た! 私は強く目をつぶる。
「好き……みたい」
「え」
先輩の消えるかのようなその声に、私は耳を疑う。
「もう一回、言って、貰えませんか?」
私は、如月先輩に確認するために聞き返す。
「……」
如月先輩は恥ずかしさを我慢するように黙り始める。
「あ……あの……!」
グイッと引き寄せられ、私は如月先輩の胸に顔がうずくまる格好になった。
「前野ちゃんのこと、好きだ」
抱かれた状態で如月先輩の声が耳元近くで聞こえる。
その時、周りが私たちをはやし立てる。
「うるせえよ!」
如月先輩は周りの先輩たちを一喝して怒る。
私は嬉しくて仕方が無かった。
憧れの先輩だけど、ちゃんと私の気持ちが伝わっていた。
あのとき渡したものは告白の手紙と私が作ったミサンガ、先輩が好きなネックレスを入れてみた。
別に如月先輩の高感度をあげようとしたわけじゃないけど、喜んでくれたみたいで嬉しい。
「行くぞ!」
先輩は私の手を引きながら、歩きだす。
「如月先輩どこ行くんですか?」
周りの人たちが私たちをはやし立てる。
「家に帰るんだ」
「え……」
「勘違いするなよ……。学校に前野ちゃんがいたら質問されて、色々と聞かれるだろうからな」
私はドキッとした。
いきなり、如月先輩の家に行くことになるのかと思ってしまったから。
少し、残念だったたけど嬉しかった。
如月先輩は、私のことを気にかけてくれたから、そういうところの如月先輩は凄くかっこいいと思う。
私と如月先輩は学校から離れたところにたどり着いた。
「此処まで来ればいいかな…」
「そうですね」
先輩の意見に私はうなずく。
「もう、俺は先輩じゃないから、前野ちゃんが好きなように言っていいから」
「え……?どういう……」
如月先輩はいきなりそんなことを言い出した。
私は何の意味かわからなかった。
「俺はもう卒業したし、“先輩 ”はいらないの、だから俺のことを先輩じゃなくて異性として……ああ、違う。こんなんじゃなくて……」
言葉を濁すように呟き、如月先輩は頭を掻き始める。
「うぅ~ん……。まあ、その、なんだ……。如月って呼び捨てでもいいし、拓哉でもいいからさ、好きなように呼んでいいよ」
先輩はそんなことを言う。
「分かりました。それじゃあ、まだ最初なので如月さんでいきます。私のことはいつもどおりで……」
「ストップ! ダメだ、前野ちゃん。敬語は無しね。普通に接して」
「わか……はい」
敬語を使いそうになったけど言い方に気をつけた。
「それだったら“如月さん ”はいけない……?」
敬語がダメなら、“さん ”付けはダメな類に入るんじゃないかと私は思った。
「あ……。それは、いいや。好きなように呼んでいいって言ったのは俺だから」
「は、はい」
おわり
前のとは違うところは、もともと知り合いであり、ヒロインの片思いから日にちが開き、先輩の気持ちが知れたという感じになっています。