交換日記~卒業式~
部活内の卒業生へ渡す冊子に向けて書いた小説でした。
当時女子高だったので、共学系のお話を書きました。
今思うとなかなかの駄作のような…
「あれ……? 私の机の中に手帳がある……」
机の中に教科書類を入れようとした時、何かしらの違和感を感じて、違和感の現状となった手帳を机の上に出した。
「え……? 見ようよ! どんなことが書いてあるのかなぁ?」
「ちょっ!? ダメじゃないかな! 人様の手帳を見るなんて」
「ちょっとだけだから、心配無いって!」
面白半分でそう言う友達に呆れながらも受け答えして、疑問に思ったことを口に出した。
「でも、如何して私の机の中に他人の手帳があるんだろう?」
「夜間授業の子のかもしれないよ?」
そう、私達が通っている学校は昼と夜の時間帯で授業があり、だからか教室は昼と夜とは同じ教室でやるから机もそのままだ。
「あ……ねぇ! 此処にさ、誰かボクと交換日記しませんか? って、書いてあるよ! 美香、やってみなよ!」
「で……でも、私知らない人とは……」
手帳の1ページ目を開けて、その内容を私の目の前に提示する。
「まぁまぁ、物はためし、やってみなよ! 私が言葉を言うからさ、それを書けばいいし、ね? やってみれば?」
「う……う~~ん。でも……」
「やるの? やらないの? どっちなの?」
「じゃ、じゃあ、や……やる……」
やるかやらないか渋っていた私に、友達に気迫にやられて、私は誰だかわからない人と交換日記を始めました。
……その交換日記が私と彼を、繋げる1つの糧になっていたのは言うまでも無かった。
翌日
「んで? どうだった?」
「え……何が?」
「だからさ、交換日記、気になる返事は!? でしょ?」
興奮気味に聞いてくる友達に私は学校に着いた時に確認したが、返事又は手帳すら見当たらなかった事を言うと。
「え~~……。何で交換日記無いの~? 萎えたぁ」
友達はそれだけ言うと、私のとこから離れて、自分の席に向かった。
「ごめんね……」
小さくつぶやく私は、自分のカバンを膝に置き、中から例の手帳をいと惜しげに撫でる。
「(私は、嘘をついてしまった……。でも。これで良いんだよね……)」
本当はちゃんと机の中に手帳が入っていた。内容といえば――。
【有難う御座います! こんなぼ――、俺と交換日記してくれて、俺は夜間コースの宮田龍治といいます。以後お見知り置きを……最初に書いておきます。他の人に内容全て晒さないこと、それと持つ期限は2日、熱がでて休んでいたのならばその旨を書く事。これがこの交換日記のルールなので、そこは守ってください。】
交換する相手は男の子の様で、友達にそれがばれたら絶対にからかうはずで……あの子はそんな子だ。
2日目が期限だとすると、残りは今日含め、明日までだから家に帰って返事を書く。そのため、私は何を書こうかと悩んだ。
* * *
昨日は友人にされるがまま、交換日記をすることになって、何を書けばいのか分からなかった。だけど、友人が行った言葉をそのまま書けば良いと言われ、言われたことを書いて、目当ての子の机(どうやってその情報を手に入れたのかは教えてくれなかった)にシンプルな手帳を入れて、一昨日は俺と交換日記してくれるのかわからないけれど、してくれることを祈っていた。
そして次の日の夜、俺は心が落ち着かなった。だって、昨日机の中に入れたその手帳を目当ての子が読んで、返事をしてくれているのか気になったから……。
案の定、手帳は机の中に置いてある、ということは、まだ見ていないのか、とそう思ってダメモトで手帳を開いてみたら俺とは違う字、まるい字が書かれてあった。
その内容は――。
【私で良ければ、交換しましょう。私は昼間の授業に出ている者で、この机を使っています。朝見てみたら机の中にこれが入っていたので、驚きました。えっと……私の名前は朝南美香です。これから、宜しくお願いします!】
そんなことが書いてあって、日記を交換する子を間違えてなくて良かったなと、思った。それに友達様々だなと思う。
* * *
交換日記を初めて早3週間、1月を残すところになって、龍治君と仲良くなれた気がする。だって、ごく最近だけれど、敬語が抜けてきている。私も龍治君も。
龍治君との交換日記は楽しい、私は昼間授業と夜間の授業の違いに少し興味を持った。多分の年齢は同じじゃないかと思っているけれど、本当はわかってない。だけどいつかわかるかな?と思っていた。
「そうだ。今日は何年生か聞いてみようかな? 誕生日とかも……」
そう思いながら今日あったことを赤裸々に書いている。恥ずかしいことは書いてないけれどね……。
例えば、友達関係、登校途中、授業中などなど。その話にはちゃんと龍治君は返してくれる。勿論私もだけど。
そのため、交換日記に使っている手帳のページはあと残すことになった。そろそろ、手帳を変えないと交流する糧が無くなってしまう、だから、彼に相談して新しく手帳を換えないといけないと心の中で思ったから、そのことも日記に記入しようと思い私は手を動かした。
「出来た! 長かったかな……?」
1ページとその半分も書いてしまった。そんなことだから手帳の尺がなくなるのだろうと自重しつつ苦笑する。
今の外は暗く時間もいい具合に進んでいた。後、数時間かに学校が始まる。
そのため何故か、早く学校に行きたい。彼と交流したいと思うようになってきていた。勿論彼に逢えるわけでもないのに、だ。
この気持ちはなんだろうかと思っていたけれどごく最近、何かに気が付いた。
* * *
美香と交換日記を初めて早4週間、この週を抜ければ2月になる。
俺の卒業まで後1~2ヶ月ちょっと当たりだと、思うと少ししか交換日記が出来ないから残念である。
前週、彼女から【手帳の尺がもう少ししか無いから龍治が良かったら、私が手帳買うけどいい?そう言えば私、龍治の名前しか知らないけれど、年齢、誕生日とか教えてくれないかな?】と書かれていた。
そういえばそうだ、俺は交換日記を始める前に名前を名乗ったというか書いた。と言っても、友人の言葉通りに文字を記入していたけれど、ごく最近だけれど俺自身で書く事が多くなった。
だが、今はなんて書こうか一瞬思ってしまった……、これではいけないはずなのに……。また友人に文書作成してもらったほうがいいのかと……。
それだったら、美香には悪い、新しい手帳を買うことは賛成だ、だが俺のことを知りたいと思ってくれた事が嬉しかったけれど、それでも今、年齢を書く気にはなれないし何年生というのも書く気がない。
何故なら、俺は後1~2月が卒業を迎える、その時は昼夜間授業と関係なく3年全員で卒業を迎える。
そのため、此処の学校もそうだろうが、2年生は全員参加しないといけない、なぜこんなことを言うのかというと、俺が日記に自分が3年生だと主張する、そして彼女は今までタメ口なのが敬語になってしまうのは目に見えていたから、俺は嘘をつくことにした。
心が締まりそうになりながらも、俺は返事と今日あった出来事を手帳に書き収めた。
* * *
返事が帰ってきた、龍治の簡単なプロフィール付きで。
私は、それを見たとき、心臓が跳ねた感じがした。そして動悸が激しくなる。こんなに嬉しいことは無い、とでも言いたいようなそんな感情が渦巻いた。
そしてその次の日、ベタだけど私は熱を出してしまったようで、昨日は彼のプロフィールを噛み締めるように見つめながら、一生懸命出来事などを書いたのにも関わらず……だ。
インフルエンザではなかったから、そこには安堵するべきなのだろうけれど、明日もちゃんと安静にと医者に言われてしまって、仕方なく休むしかない。
普段の私だったら、学校を休める! と思っていたのに、休みたくないと思ったのは珍しいと思った。それもこれも交換日記で交流する彼のせい……否、おかげとでも言えるかもしれない。そして私は友達の携帯にメールを入れた。
* * *
夜、学校についた。夜の学校は明るい。何故ならこの学校の夜間生徒が各クラス教室に集まっているからだ。
そして俺は、明かりが付いた教室へとは反対に電気の付いていない教室に入り、一部分の電気だけを付ける。窓際ではなく通路側の電気。暗かった教室に部分だけ明かりが点いた。その列の1つ、2日に1回しか交換日記用手帳を入っているであろう机に足を向ける。
そして、椅子を後ろに引き、中を覗くとそこには手帳も何も入っていなかった。
その代わりといては何なのか分からないが、セロハンテープで机の裏側(机の中の)に紙が貼ってあった。それを外して紙を見ると彼女じゃない筆跡でこうしっかりと書かれてあった。
【今日、美香はお休みです。そして明日も来れそうにないので、明日来ても手帳はないので悪しからず】
と……この文面を見るだけで敵視が見られ少し傷付……くことは無かったが「休み」という言葉を口に挟みながら、明後日手帳を取りに来ようと心に決め、教室の電気を切って後にした。
* * *
熱が下がって2日ぶりの学校に向かった。休む時間がこんなにも長いだなんて思ってなかった。休んだ後の教室に入るのは少し緊張してしまうけれど、私は教室のドアを開けて中に入った。
「おはよー。風邪、大丈夫だった? 2日も休むなんて、大事なかった?」
「あ、おはよ。うん。医者がもう1日安静にして、風邪をぶり返さないように、って言っていたから……」
教室に入ると友達が私の姿を見つけて寄ってきながら一緒に私の席に向かう。
「羨ましいなぁ……2日も休むとか……。ちゃんと寝たんだよね?」
「羨ましく無いよー、授業分かんなくなるしさぁ……。というか、私が休みの間遊んでいたとか?」
「いや……、そうは言ってないんだけど、あ、そうだ、ノート写す?貸すよ?」
思いついたように、手に持っていたノート数冊をヒラヒラと振りかざす。
「ありがとー。んじゃ、チャッチャと書くねー」
私はノート数冊を受け取り、自分がもっているノートにそれを模写する。
「そう言えばさ、交換日記ってどうなってるの~? 昨日のメールからしたら美香が持っていると見たけれど……」
ノートに写す作業をしている途中、友達から交換日記のことを聞かれ、
「うん? あー……交換日記ねぇ……うん」
「ちょ! 黙らないでよ! もぅ……。あ……チャイム鳴った。また後で聞くからね! 交換日記のこと!」
生返事で返したら友達はわざとらしくこう言うが、タイミングよくチャイムが鳴り、友達は自分の席に帰っていった。
* * *
一昨日のように電気の付いていない目当ての教室に向かったあと机を覗く。
そこには新品のシンプルな手帳と使い尽くした古い手帳が並んであって置いてあった。
まず、古い手帳を手にして中身を見てみる。そこにはいつもの字が書かれてあり、その後に【プロフィールありがとう。誕生日そろそろだね。差し出がましいかもだけど何か欲しいモノとかあるかな? 出来れば安く済むものでお願いします……】と誕生日プレゼントのリクエストをもらった。気持ちだけでも十分だよ。と書こうかと思ったりしたが、止めた。こういう時こそリクエストを受けよう、そんな思いが浮かび、どんなプレゼントが自分は嬉しいだろうと考えることにする。
考えながら、一旦教室を出る。勿論ちゃんと電気を消して、自分のクラスの教室に戻った。
「オハー」
教室に入ると友人の軽い挨拶が1番に耳に入った。
「おー……、つか、なんで『オハー』なんだよ。今、夜の7時前だぞ? しかも今日に限って……」
「だってよぅー。今さっきまで、というか学校始まる前まで寝てたからな」
「だからか……」
俺達夜間学校の生徒は夜の7時から授業が始まり、そして夜の10時まで授業をしている。昼間の生徒より授業時間は短いが、それ以上に進む速度が速い。多分だが俺達の学校がそうなのかもしれないが、3年間も通っていれば、なれるものだなと実感する。
「てか、お前だってそうだろ? さっきまで寝てたんじゃねえのかよ……。いつもなら、お前早いのにさぁ」
「いや、多分。お前が来る前に学校についたからな?」
「あぁ……分かったぞ……。確かお前、昼間の年下の女の子に惚れて、交換日記をしていたんだったな……」
隠すつもりはない、だって交換日記の相手のことを調べてくれたのはコイツ……条網武だから。感謝しても感謝しきれないヤツだ。
「俺様の情報網に感謝しろよ~? そして、卒業できたら今度何か奢ってくれよ? 約束だからな?」
「わかってるよ……俺が約束を破る奴に見えるのかよ? それに、武、お前のおかげで彼女と仲良くなれそうだ」
「嫌、見えねぇが……まあそうだな、約束放棄はしないだろうなぁ。それと、良かったな。お前の思い人と交流ができてよ。そうだ、俺彼女できたわ。しかもかわい―子」
武は、首を振って否定し、そして自慢げに彼女報告をしてきた。少しイラついたのは武には内緒にしておく。
「ふぅーん……良かったな。んで?」
「冷てぇーなぁ……お前……。でもま、お前にとっていい情報つかんだぜ?」
だからか、そんな反応をしてしまったが、武はそんなことお構いなしに、笑いつつ何らかの情報を掴んだと言ってきた。だから、少し乗ってやることにした。
「へぇ……どんないい情報だよ?」
「お、喰いついたか。それはなぁー……」
* * *
「そうだ! 私、彼氏出来たんだぁー。それに情報に詳しくて、なんでも知っているのよ」
次の日、学校に来ていつものように過ごしていたら思いついたかのように友達が私の所に寄ってきてそう言った。
「へぇ、そうなんだぁ……、オメデトー」
「ありがとぅ! 早く美香、あんたも彼氏を作りなよー? 高校生活後1年も無いんだし」
「う……うん。そうだね……」
お祝いの言葉を口にしたとたん友達は目を輝かせた後、抱き着いてきて私の背中をポンポンと叩きながらそんなこと言ってきて、生返事しか返せなかった。
しかも、高校生活が後1年しかないと言う言葉に絶句しながらも、交換日記も後1年しか出来ないと思ってしまったら悲しくなっていて、心が寂しくなった気がした。
それに私は、彼のことが気になって前回の交換日記に【何年生か教えて欲しい】と書いたのにも関わらず、龍治はその答えを書いてくれなかった。彼に何らかの理由があるから、書いてないのだと思ったりしたのだが、やはり気になって仕方がなかった。
「あ……そういえば、私の彼氏、此処の学校の夜間コースの生徒で、3年生なんだってさ。私、とあるサイトで知り合って、メールだけしていたのに、こんな偶然ってあるのかなぁ?」
「さぁ……どうなんだろ? それに、私には関係の無いことじゃないのかな? 何か思い出した割には、惚気話を聞かされた気分がするんだけれど……」
「ひっどぉい! 惚気話とか……酷すぎるでしょ」
私は呆れながらも、素直な感想を言っただけなのに、友達はわざとらしく悲観を表す。これは、大体いつものことなのであまり気にしてはいないけれど、少し友達の話の中に気になる言葉が聞こえた気がして聞き返してしまった。
「そういえば、さ。彼氏ってここの学校の生徒で夜間コースの3年生で情報屋って本当?」
「うん。さっきそれを狙って言ったのに……、でも、ま、気づいてくれて良かった」
「? どういうこと?」
友達はにっこり笑って、私の耳に耳打ちするかのように話し始めた。
* * *
友人の武が言ってきた情報は、全くどうでも良いというか、知っている情報を言ってきた。そして、武いわく『お前らは何処まで進んでいるわけ?俺もーよぅわからんわ……』と呆れながらも何気に褒めていた。
そして、今俺の住まい(砦)に居て、交換日記の返事ないしは出来事を書いている。
ネタと言えば友人の武に彼女ができたと、どうでもいい内容だったが、一先ず、俺の身の周りに起きた出来事だ。一様、一字一句間違えないように記載した。まあ、名前は伏せたが……。
「そう言えば……誕生日プレゼントね……どうしようか」
誕生日プレゼントのことを思いついたのは、手帳に全て書き終えて登校用カバンに手帳を入れようとした時からだった。彼女が安くと言ってきたので、余りお金を使わない物を考え、少し時間がった頃に手帳に書き記す。
* * *
昨日、交換日記用の手帳を受け取って、プレゼントリクエストのことが最後の方に書かれてあって、身の回りのことについては、龍治の友達に彼女ができたと書かれてあって、私の方も彼氏ができたとか言ってうざかった、ということが書かれてあって、私の所も、と笑い事で書いた記憶がある。
今日は土曜日なので、手帳は教室には置けれない。前にも言ったように私は休みという日が苦痛になってきている。そして、今日のことを書く事が余りないけれど、予定はあった。
その予定とは友達の彼氏が情報通ということで、協力を頼んだ。そして、このことは日記内には書かない、彼のことを探ったということは内緒にするために、何故、そんなことをするのかというと、嫌われたくはないから、だ。
それから、今は私と友達、そして友達の彼氏――確か武と、言っただろうか――と一緒にファミレスにいた。
「それで? 何が聞きたいのかな?美香さん」
武さんはフリードリンクで取ってきた、コーラーを一口飲んだあとテーブルに両腕を付けて身を乗り出すように聞いてきた。
「ちょっと、武! なに私の美香に口説くように言うのよ! それに私の彼氏でしょ?」
ドゴフッ!!
「ゴフッ、ゲホゲホ……す、スマン。つい癖でさ……そんなに怒るなよ愛里咲。俺が好きなのは愛里咲だけさ」
武さんは私の友達、宮阪愛里咲に脇腹を強くつつかれ、テーブルにつけていた片腕を浮かせ、その浮いた片手の方の手を口にあてがい横に擦った。
「あ……あ、ははは……」
何故かうすら笑いが出てきて、何かリア充を見るかのように見てしまった。
「ん……んん。良し。んじゃぁ、気を取り直して、ある人を調べたいんだよね? その人物、わかる?」
「あ……はい。名前は龍治。宮田龍治です」
~♪~♪~♪~
「……。ちょっと待ってね。メール来た」
「まさか、女の人じゃ無いでしょうね!?」
「や……違ぇーから」
愛里咲からの疑いを受けたが、武さんは否定して言うと、携帯のボタンを押し始めた。
「OK。んじゃ、調べてみるよ。あ、愛里咲そう言えば――……」
武さんはニコッと笑うと携帯を仕舞う時に、友達に話し掛け邪魔してはいけないかなと思い、私は席を立って言った。
「じゃあ、私、そろそろ行くね? これから予定があるからさ」
「あ、うん。じゃあまた月曜日に」
「そうだ、今回の情報料は愛里咲に免じてナシだから。や、本当は貰うんだけれど、俺の彼女の友人ならタダにしておくってことで。んで、情報の結果は愛里咲から聞いてね」
「分かりました。それでは、失礼します。愛里咲、じゃ、バイバイ」
席から離れる前にぺこりと武さんに会釈し、そして愛里咲には手を振った。
「きゃっ……!」
「おっ……と……」
ファミレスを出る前に、男性に当たってよろけてしまった時に腕を掴まれ、急だったため咄嗟に見つめた男性の顔を何故か憶えてしまった。
そしてその男性は、さっきまで私がいたテーブルに近づきそこに座ったのを見て、多分先程の男性は情報屋の武さんの知り合い、もしくは同業者だろうと私は思った。
2月に入って1週間が経った、そろそろバレンタインだなと思いつつも、彼の誕生日プレゼントを買いに行った。
* * *
学校が休みのため俺は1人、家のベッドの上でごろごろと本を読んでいたところ、急に友人からメールが来た。
メールの主は武で【タイトル:今…… 本文:お前の想い人と、俺の彼女と一緒にファミレスにいるのだが多分、彼女はお前のことを聴いてくると思うのだが龍治お前どう思うよ?】だった。
「マジかよ……」
俺はこのメールを見たとたん、ベッドから飛び降りメール分をまじまじと見つめる。そして、絶句しながら、俺はそのメールを返信するために文書作成のところを開いて打った。
【マジか……。もし、お前の見解が正しければ、今日は話さないでくれ。また今度教える。という感じでよろしく頼む。んで、今からそっちに向かうから、今どこのファミレスにいるか教えてくれ】
メール文を打ち終えると俺はすぐさま身支度を済ませる。と早速メールが来た。
【俺の思った通りだ。場所はお前の近くのマンションの向こう側だ。すぐ来れるだろ? 彼女には帰ってもらうようにするから、心配せずにこっちに来い】
「元からそのつもりだ。まぁ……近いな。うし、行くか」
メールを読み終わると返信はせずにドアを開けて家を出た。
* * *
ファミレスに入って数秒後、一人の女の子とぶつかった。その時反射的に腕をつかみ体勢を戻す。
その時、チラッとこちらを伺うように見てきた顔が見覚えがある。当たり前だ、その人物こそ俺の想い人、また交換日記をしている相手であったからだ。彼女は俺のことを知るはずも無く、気付かれない。そして、一瞬の出来事だから、多分彼女は一回あっていた。だなんて、わかる訳がないのだ。少し寂し気持ちになるが、これは仕方がないという言葉がよく似合っている。
そして、彼女は何もなかったかのように、ファミレスから出て、その代わりに女性ウエイトレスが俺の前に出てきて、機械のような口ぶりで、無理に笑顔を作って一生懸命に接客をする姿に笑いがこみ上げたが、する人にとって迷惑だろうと考え堪える。俺は断って武のところに向かった。
* * *
今日はバレンタインデー、女の子たちが想い人にチョコレートを贈る日。愛里咲は武さんに渡すという。そういえば前、彼――龍治のことを調べてもらえるように頼んだのに、その情報提供が愛里咲自身に返事がないということは連絡がないということになる、だけど、それは忘れることにした。
そして私は、友チョコとしてクラス全員分にあげるつもりで、一生懸命クラス分+α×2を作ったのに関わらず、家に置きっぱなしで学校に来てしまった。
「まぁ、そんなこともあるよ! ドンマイ!」
肩を落としながら落ち込んでいると、私の背中に軽くポンポンと叩いてくれた。
「うむぅ……。交換日記はちゃんと持ってきたのに、なんで肝心なチョコを忘れたんだろう?」
机に額を当てながら一人でブツブツと呟いていると、誰かに呼ばれた気がした。その誰かはすぐに判明したけれど。
「美香! ある男の子が美香に話があるんだってさ!」
「ある……男……の子?」
「そうよ! さぁ行った、行った!」
愛里咲に腕を掴まれ無理矢理立たされ、そして背中を押されながらも私は渋々足を動かす。
「えっ……と、貴女が朝南美香さんですよね? 話したいことがあって貴女に合いに来ましたが、此処では言いづらいので、宜しければ僕についてきてくれませんか?」
私より年下ったぽい男の子が、爽やかな笑顔で下手に話してきて、口を噤んだ。
「えぇ……。分かりました。何をお話されるのか分からないですけれど……」
「! 有難う御座います! それでは行きましょうか!」
男の子は私の言葉を聞くと顔を輝かせ、そして踵を返すと歩きだしたので私はその男の子の後をついて行った。
ついていくこと数分、私は学校の屋上に辿り着いた。
そして、男の子が私の方を向くと一言言ってきた。
「僕、新入生歓迎会のときあなたを一目見て好きになりました! もしあなたさえよければ僕と付き合ってくれませんか!?」
「え~と、ごめんなさい! 私好きな人がいるの……。だからあなたとは付き合えません」
「即答!? あ……すみません! さっきのは、忘れてください!(さようなら僕の初恋……)」
私は考えることのなく、男の子を振った。振った直後男の子は、ショックを受けた手前、頭を下げて誤ったかと思うと凄いスピードでその場から立ち去ってしまって、私一人取り残された。見も知らない、しかも接点がなかった男の子人とは付き合いたくはないと思いがあったけれど、私は名しか知らぬ相手を好きになったのだ、たとえ年齢が不明だとしても……。
そして私は、一人でいるのが虚しくなり、教室に戻った。愛里咲に何か言われるけれど、軽く流そうと思いながら。
* * *
「見ろよ、龍治! 俺、彼女からチョコレートをもらったぜ! 羨ましいだろ~? んで、お前は想い人からチョコは貰ったのか?」
武は昼に渡されたというラッピングされた箱を、自慢気に見せびらかしてきた。それにイラッとした。
「お前、うぜぇ。だが、残念ながら無い。持ってくるのを忘れたらしい」
「そこまで言うことはないだろが……」
俺は少しイライラしていた。何故なら母親と喧嘩し、親としての縁を切ると言われたから。だから少し武に当たってしまった。
「スマン、イラッとしてて」
「まぁ、いいさ。そう言えば、俺の彼女がこう言っていたぞ?『手作りをしたチョコを忘れて落ち込んでいた』てさ」
「ふっ……。何か目に浮かぶようだな……」
「俺もだぜー」
彼女が落ち込む、姿が簡単に見えた気がして、愛おしいと思いながらも笑ってしまい、武も頷いた。
「しかし、誰もこねぇーよな。そろそろ7時なのによ」
武はキョロキョロしながら不思議げに言うので俺はまさかと思いながら武に聞いてみる。
「お前、もしかして、忘れたのかよ? 俺達3年生は卒業試験が終わったら卒業式まで学校に来なくてもいいんだよ」
「あ……」
「やっぱりな……」
忘れていたとでも言うように間抜けな声をだし、俺は呆れてそれしか言えなかった。
そう、今は俺と武しか教室には居なかった。理由は先程に述べた通りだ。
「てか、それだったら、なんでお前は学校に来ているわけ? 俺の場合は忘れていたから来たけどさ……」
「……交換日記」
「あ……? あぁ、それか、そっちか」
一言つぶやくように言うと武は思い出したかのように頷きそれ以外何も言わなかった。
だが、俺はもう1つ理由があった。それは……。
「そういえば俺、親に縁を切られそうでさ……家に帰りたくないんだよな。それでさ、お前さえよかったらだけど、お前家に何時までか分からないが泊めてもらえないか……?」
「ん? 親に縁を切られそうなのか? ……まぁ、いいぜ。泊まっとけよ」
「おー……サンキュー」
俺が泊まる事に賛成してくれた武には全然頭が上がらないと思うと笑ってしまったのは心に止め、そして俺と武は教室を後にした。
* * *
バレンタインに渡すチョコをクラス全員分と武さん、そして交換日記と交換するようになったけれど、全員にちゃんとあげる事ができたので安心していたが、彼の誕生日が一つあった。
彼に上げるプレゼンは前に買った。買ったはずなのに――……。
「何でないのぉー!? どこに置いてあるか知らない?」
「知るか!」
今は日曜日で前の休みの時に買ったプレゼントが行方不明(というか、どこに置いたのか忘れただけ)で、私は愛里咲を誘ってプレゼント探しをしている。
「本当に覚えていないの?」
「覚えてないから、探すのを手伝ってもらってるじゃん!」
「そうだけどー……。ちゃんと確保しておかないからこうなるんだよ!」
お互いイライラしながら同じ場所を何回も探す。
「ねぇ! こんなに探し当ても見つからなかったら、どうするのよ」
「そりゃあ……どうしよう……」
「考えてないんかい! それで、また買うの?」
「分かんない……それにそんなにお金ないし」
「親に頼むとかしないの?」
「無理! 親には頼みたくはな……」
「? どうしたの?」
「あったぁぁぁぁぁぁぁ!」
「え、マジで! やったじゃん!」
私は何故か棚と棚との間に隙間に挟まっていたプレゼントの袋を長い棒を使って取り出すと、天井に向けて突き上げた。
私たちは先程のイライラ感は消えていた。
「んじゃ、捜し物も見つかった訳だし、ケーキおごってよね」
「はいはい、約束だしね。……それじゃあ、行こぅ!」
自室をでるように腕を引っ張られ、探す前に約束していたケーキを食べに、ファミレスに向かった。
* * *
手作りチョコレートを生まれて初めて食したように思えた。武もなぜか(理由は知っているが……)美香から貰っていた。そして、形がまったく違うチョコレートで、本命と義理チョコの違いの意味が今まさに知った気がした。
そして、今日は俺の誕生日で親に本当に離縁されてしまって、今は武の家に居候中である。そして、なぜか親とも離縁したはずなのに、元両親は俺のために何かを武の家に送ってくれている。親馬鹿とはこのことだなと自嘲気味に笑うしかない。
武の家の人たちは俺を優しく迎えてくれて、今もなお、息子ではない自分のために誕生日会的なことをしてもらっていて、武だけでなく条網家には頭が上がらない。
「そういえば、今日も学校に行くのか? 行くなら仕方ねーからついて行ってやってもいいぜ?」
「おー、んじゃ、頼もうかな?」
今は夜の7時前、1・2年の時は早く行かないと遅刻だが、俺達は3年生で、だから行かなくてもいいのだが、俺には交換日記と言う物があるため、それを取りに行かなければならなかった。そして、そろそろ卒業式が近づくため、交換日記はそろそろ止めなければならない。
「それじゃあ、行ってきます」
俺と武は家を出て学校に向かった。
* * *
武には、教室の外で待ってもらっている。そして、俺は椅子に座って誕生日プレゼントが入っているという袋と、今交換日記に使っている手帳を机の上に並べて唸っていた。
先ほど言ったようにあと2週間ちょっとで卒業である。それに従って交換日記は少なくなる。だから俺は――……。
「おーい、龍治さん? 外すんげぇー寒いんだけど、中に入っていいか?」
「ん? あー……すまん、すまん。入れよ」
「んじゃ、お邪魔しまぁーす」
両腕を摩りながら、丁寧良く(俺しかいないのに)教室に入ってくる。その前に、俺は袋を咄嗟にポケットの中に入れた。
「初めてこの教室に入るぜ……。そういえばさ、俺の彼女とお前の想い人ってさ、同じクラスでしかも、ここがそのクラス?」
「あぁ……。そうだったと思うけど……それが?」
情報屋のくせにそんなことを聞いてくる、武は何故か妙なテンションに俺は少し引きながら質問には答えた。
「そうか……。それじゃ、俺の彼女の席はどこかな?」
「見つけてどうするんだよ?」
「どうするって……、それはもちろん。俺がここに来た印を残すのさ!」
武はそう言って、嬉しそうに彼女の机を探し始め、アホらしいと思いつつ、俺は交換日記に記入し始めた。
* * *
明日は卒業式で私たち2年生は、3年生のための会場づくりを2年生全員で作っていた。
私たちの学校に全校生徒が座れる席がある場所何てない。朝礼をする際、全てが体育館で行われている。そのため体育館は面積が広く快適に授業などが出来る。
そして私たちは、その体育館で快適空間のまま作業をしている。
「そろそろ、レッドカーペットを出すぞー! 今、手が空いている生徒5名来い!」
1人の先生が椅子を人数分出した所で大声を出して、指示をしてきた。
「レッドカーペットだってさ。武、その上を歩くんだろうなぁ……」
愛里咲は武さんがカーペット上を練り歩く姿を想像したのか、うっとりした音声になった。
「武さ……先輩は3年生だし、歩くでしょうよ……」
「そういえばさ、もしかしたら交換日記の相手が居るかもよ?」
「そうだといいんだけど……」
交換日記相手……龍治は今の所、年齢不詳であって、私自信が推測すると同い年じゃないかと思っているから、顔が見たことがないのにも関わらず、探してしまった。
「レッドカーペットが来たよ。うっわぁ……、5人係でもおもたそう……」
体育館が広い分、カーペットの長さが異常なので、大きなカーペットロールが出来ていた。そして、ロールケーキの生地に従って剥ぐようにカーペットがひかれた。
「よし! これで卒業式の会場づくりは終わりだ! 各自クラスに戻り、寄り道をせずに帰るように! 以上! 解散!」
先生の号令が体育館内に響き渡り、ぞろぞろと自分たちのクラスに戻っていく、その中の人混みに私たちも混ざって体育館を後にした。
卒業式当日、私は信じられないものを見かけた。それは昼間の先輩と夜間の先輩達が歩いている途中、武さんの隣に一緒に歩いていた先輩の顔に見覚えがあって、そして、その人の首には決して高額ではないネックレスがかかってあった。あのネックレスは、交換日記の相手に贈ったそのネックレスで……。私は、不意に胸に手を当ててしまって、そうしたら心臓がバクバクと跳ねていて――……。
卒業式が終わったと同時に、その人の元へ走っていたのは言うまでもなかった。
* * *
卒業式の数日前に交換日記で彼女にこう聞いたことが合った【美香は、3年生の卒業式には出るのか? 俺はまだ未定】それに彼女は【うん、行くよ。お世話になった先輩とかいるし】【ふ~ん……そうなんだ……。それじゃあ、俺も出ようかな、卒業式】と、彼女の文章を見たとたんこう返していた。
卒業式の2日前、俺は今日で交換日記を止めよう書いて、彼女の机の中に入れた。それきり彼女の教室には訪れていない。
そして、卒業式当日、武の家から学校へ行く前に、誕生日プレゼントで貰ったネックレスを首にかける。このネックレスで俺の存在を知ってもらうために。気付くかどうかは問題ではあるが……。
小学校中学校と聞いてきたカノンが体育館内に流れている。その中で俺たち3年生はレッドカーペット上を歩いたり、待ったりしている。俺はネックレスの存在を確認するべく一旦首元を見る。
「ちゃんとあるな……。美香……、ちゃんと俺を見つけてくれ……」
「ん? 何? 何か言ったか?」
「いや、なんでもねぇ……」
1人ごとを呟いたのに、武は聞き返してきたが、首を降って否定した。
そして、俺達は出番が来てレッドカーペット上を歩く。俺は前を見据えて歩いているが武自身はキョロキョロと周囲を見渡して、ひじをつついてきた。
「んだよ……?」
「俺の彼女知らねぇ……?」
「知るか」
「だよなぁ……」
武の彼女の顔は覚えているがどこにいるのかは知らない、情報屋のくせにこういう時だけは駄目になる。
そして、俺達3年生の卒業式が始まって、終わった――……。
* * *
「はぁ、はぁ……。何処にいるの……? 龍治……」
朝南美香はとある人物を探していた。とある人物の名前は宮田龍治。この学校の夜間コースの生徒で今日卒業した生徒である。
美香は卒業生が居る所に着いて、龍治を探しているのだがなかなか見当たらない。
「美香―! 何しているの?」
「多分、龍治を探しているんじゃねぇ?」
美香の友人――……宮阪愛里咲と愛里咲の彼氏――……条網武が美香に声をかけてきた。
「そうなの。龍治知らない?」
「確か、龍治なら、屋上じゃねぇ? 1人になりたいと言っていたからな」
「ありがと!」
そう言われて美香は武にお礼を言って、屋上へと走り出した。
「龍治!」
屋上に着くと、そこには案の定、龍治がいた。
「美香……。うわっ!」
自分の名前を言ってくれた龍治に美香は抱き着いた。
「会いたかった! そして、卒業おめでとう……」
「ありがとう」
美香は龍治の胸の中で顔をあげて龍治に笑いかけ、それに龍治は笑顔で返した。
~終わり~