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無題

途中で終わってます。(”未”完結)

ファンタジー要素と現代要素が入れ替わったりしています。

 時は王暦、王が支配する都、王都。

 今の王は強欲傲慢で一度決めたことは最後までやり通す人だ。

 その昔、前代の王が死して、一般市民だった男が王に選ばれた。

 市民のために積み立てられた寄付金を現代の王、自分の為に使い果たし一般市民から不穏の反響を買っていた。

 一般市民だった男は王になる前、優しい人だと王政歴史の本に記されたが、それは改善された話だと噂だてる人がいたとの話だが、その話は二十年前に霧となって消えたという。

 そして、王政は五十年の時を得て今、幕が下りるところであった。


  ピンポーンッ!

「マイカワ・ヤストさん! お手紙です!」

「うあーい! 今行きます!」

 少し声変わりをした感じの少年の声が聞こえ、ガチャッ、とノブを回す音が聞こえると中から若い十代の半ばほどの少年が出てきた。

「あなたのお父様からヤストさんに渡すようにと、お預かりしていたので、お手紙を持ってきました」

「親父から?」

 少年は郵便屋から薄っぺらな便箋の手紙を受け取り前には“マイカワ・ヤスト様へ“と書いてあり後ろの方は“マイカワ・ケンジより”と書いてあった。

「ええ、そうです。判子は要りませんので・・・・・それでは!」

 郵便屋はそう言いながら帽子をクイッと上げると外に止めていた赤色に白色のポストマークが描いてある自動車に乗り込むと次の配達に行ってしまった。

 手紙を受け取ったヤストは封を切ると紙が一枚入っていた。

「えっと、何々?


“ヤストへ

 突然で悪いが次の王はヤストに決まってしまった。私は、嬉しく思う。これからは、家族で過ごせることが出来るからな、そこでお母さんに「また、一緒になれるから。楽しみにしといて」と、このことを伝えてくれたら嬉しい。また詳しいことは手紙で連絡する。だから楽しみに待っていてくれ。

                           マイカワ・ケンジより”


 だとぉ! ふざけんなよ、親父! 楽しみぃ? 俺は王なんかになりたくねえっての! 親父は知らないけど、お袋はこの家から出ていったつぅの! あんたに飽きて!」

 ヤストは一人でもなく玄関で叫んでいた。

「あらあら、まあまあ。ヤストちゃん、何を叫んでいるの?」

「あ、エンリおばさん。こんにちは」

 ヤストに話しかけてきた人は、いつもヤストを世話しているエンリおばさんだ。

「エンリおばさん。聞いてくれよ。親父から手紙が来たんだけどさ、見てくれよ!この駄文を!」

 ヤストはエンリおばさんに手紙を見せつけた。

「んん~?ヤストちゃん。ちょっとそれを貸しておくれ」

 エンリおばさんはヤストから手紙を受け取るとまじまじと見ていった。

「おやおや、だから騒いでいたのね?ヤストちゃんは……」

 エンリおばさんはうんうんとうなって納得していた。

「これってさ、王になれってことだろ? その手紙の内容はさ」

「まあそうなるだろうねぇ。でもよかったじゃない?お父さんと過ごせるじゃない」

「まあ……ね。でもさ……」

「ん?」

 エンリおばさんは首を傾げて聞いてきた。

「家は如何するんだよ。エンリおばさんは、この家の隣に住んでいるし、家の掃除をしてもらってるじゃんか、死ぬまで王邸に居らなきゃいけないのなら家を留守にしなきゃいけなくなるわけだろ?」

 エンリおばさんは頷きながらそうねぇ~や、そうゆう事になるわね~など相槌を打っていた。

「それで、家はどうなる?」

 ヤストは少し目を見開いて言った。

「どうなる? ったって……判らないわ……ヤストちゃんのお父様が、この家を売り払う……かもしれないし」

 エンリおばさんはそう言うとまた同じ事を言った。

「どうなる?ったって……判らないわ……ヤストちゃんのお父様が、この家を売り払う……かもしれないし」

「…………」

 ヤストはエンリおばさんの同じ言葉を聞くのを拒むように家の中に入っていった。

「あ……ヤ……ちゃ……」

 その後ろ姿をエンリおばさんは悲しそうな顔をして何かを呟いていた。

 

 ふざけるな、俺は王になんかなりたくない。友達と遊んでいろいろな事を体験したい、王になったってろくな事が無いに決まっている、現代の王みたいにはなりたくは無い。親父に言ったら王になることをあきらめさせてくれるだろう。

  

 俺は淡い期待を胸に思い自室のベッドに倒れ伏せた。

 いつでも本が読めるように枕元には歴史書や漫画を置いている。

 その中で一番気に入っている本を手に取ると毎回のごとく同じページを開くと毎回思ってしまうことがある。


“王様になるのは普通、難しいのに何故、この国では意図も簡単になれるのか”と、

 俺は読みかけの(と言っても開いたページと同じだが)本を閉じると寝返りを打ち、窓から見える雲が掛かった透き通った青色の空を眺めた。

「王様になったらこの空とも、お別れに……なるのかな?」

 ふと俺はそんな事を思い小さく口に出した。そして、俺は……



 一番のお気に入りの歌を口ずさんだ。

 この歌はテンポが早く時には遅く、聴いた人を異世界に連れて行きそうな、そんな面白みや、楽しみを生み出す歌だ。



「王になるなんて糞喰らえだ! 王政なんかなくなればいい! 俺は普通に生きて普通に死ぬんだ!!」

 歌詞の中に王と言う言葉が出てきて歌を中断すると同時にガバッとベッドから身体を起こして力いっぱい叫んだ。

「それじゃあ、私に付いて来る?」

 そのとき、耳の奥で声が聞こえたと思うと、目の前に紺色のスカートに黒のシャツをいれて。茶色のロングコートを着た女の子が土足で立っていた。

「お、お前は誰だ!」

「私? 私はね、阿修羅だよ。ヤスト君」

「な、なんで……俺の名前を……」

 俺はぽかんと口を開けて阿修羅と言う女の子がニッコリと笑いながら、俺の方に手を差し出してきた。

「ヤスト君。そんなの如何でもいいじゃない、この世界から出たいんでしょ? だったら――」

「だったら……なんだ?」

 いったん区切って言う阿修羅に恐る恐る聞いてみた。

「だったら――。私と一緒においでよ」

「ぅわっ!な、なんだぁ?(ち、近い! 近い!!」

 急に腕を掴まれ、引っ張られたかと思うと、阿修羅の顔が近くに合った。

 その距離と言えば、二人の吐息が絡み合うような距離だった。

「もう一度言うけど……私と来る? ニコッ」

「な、何の為に、だ? それを、教えてくれないか?何が何だか分からないと賛同できないぞ」

「それもそうだね……じゃあ、説明するね?」

 阿修羅の言い方で言うと、彼女に国には困っている人を助けようプロジェクトが出来ていて、そのプロジェクトは、丁度約千年間続いている、と言うことだ。

 詳しく言うと、このプロジェクトは、困っている人の役に立たそうイコール今いる世界と違う世界に行こう!(旅行みたいなもの)らしい。

「で、どうするの? ヤスト君?」

 阿修羅は首をかしげて俺に聞いてきた。

「……。分かった、行こう。どんな物が俺を待つのか分からないが行ってみるさ」

「いいの? もう後戻りは出来なくなるよ? お父さんやお母さん、エンリにだって会えなくなるのよ?」

 阿修羅はそう言いながら俺に手を差し出してきた。

 そのときに阿修羅がエンリおばさんの事を口に出したときあまり気にしなかった。

 俺はその手を持つと阿修羅に言った。

「いいんだよ……。おばさんはただの隣に住む家政婦なんだから、それに……」

「それに?」

 阿修羅がそう言うと俺たちは淡い光に包まれた。

「それに、あのくそ親父の事は如何でもいいんだよ!!」

 力強く叫ぶと、阿修羅は少しだが笑いそして、淡い光に完全に囲まれたと思ったら急激な眠たさが襲い、ブツンと意識が飛んだ。




「……くん…や…く……靖人くん!」

「んあっ!」

 声が聞こえ激しく揺す振られたと思うと目が覚めた。

「幾ら呼んでも、起きないんだから心配したんだよ?」

「ん、わりぃ、わりぃ。気づかなかったぜ」

 ここは、櫻木高校の二年B組の教室、昼休憩中。

 舞川靖人の目の前にいるのは赤木阿修羅で、今年初めて会ったのにもかかわらず、阿修羅は靖人の事を覚えていたようで、最初は訳がわからなくてパニックに陥っていたが、阿修羅と一緒に居るにつれて本当はそうなんじゃないかと靖人は思ってきていた。

「で、今日は何のようだ?」

 靖人は阿修羅をみて聞いた。

「何のようだ? じゃないでしょ!! 今日は、あなたのお母さんの命日でしょ? お墓に行かなくてもいいの!!?」

 阿修羅は少し苛立ちながら、靖人に言った。

「あ~……そうだっけ?」

「そうだよ!! 何で忘れてんの!?」

「何で、て……その記憶が無いからじゃないか」

 靖人は頭を掻き毟りながら言った。

 それもそのはず、何故なら靖人は母親の記憶や父親の記憶が無いからだ。

 もちろん、何もかもが、しかしこれだけは分かっていた事がある。

 それは……自分の名前だけ……。

「親の顔も覚えてないのに墓参りなんか出来るわけは無いだろ?」

「で、でも! 舞川家の墓標があるじゃない!!」

 阿修羅は焦りながら靖人にそう言った。

「何で焦ってんだ? 阿修羅」

 俺は尋問するかのように、問いかける。それから、阿修羅の返事を聞き逃さないように耳に手を添えた。

 そして、阿修羅が口を開きかけたときに、計ったかのようにチャイムが鳴る。

「あっ、予鈴!」

 阿修羅は、このチャイムを最後まで聞くとすぐさま話題を変えた。

「くそが。ホンマ、今という時に休み終わるなよ~。まあ、いいか。阿修羅この話は、また後だ」

 靖人は不機嫌そうに言うと立ち上がり、教科書を机の下から出し移動教室に行こうとして教室のドアを開けて、阿修羅のほうに向きこう言った。

「さきに行っとくからな。ほんと、後で聞かせろよ……」

「う、うん。分かった。……はぁ~疲れた……」

 カタンと靖人が座っていた、イスに座るとため息と言えるものを吐き出した。

 阿修羅は放心状態に陥る時にみんなの声が聞こえた。

「靖人君ってさ、恋人いるのかなー?」

「さあね。あっでもさ、阿修羅とさ、靖人君って付き合っているって噂があるのよ」

「えっ! うっそ~。私、靖人君はもろ好みなんだけど~」

 女子は靖人を目で追いながらそんな事をいっていた。

「靖人って何かシリアスでさ、何考えているのか、わから無いよな……」

「そうだけどさ、そこがなんとも! 俺はそんな靖人が好きだ!」

「お……お前、もしかして……ホモ、なのか?」

「まさか~! ありえないよ! 友達としてだよ!!」

「だよなぁ~!」

 男子は男子でゲラゲラと笑いながら言っていた。

 みんな、靖人の噂ばかりしている。なんだか、少し複雑な気分……。

「あ、もうこんな時間か……。えっと、次は……音楽か」

 ふと時間を見ると、授業五分前だった。教科書と筆箱を持つと教室を出た。

 他のみんなも教科書やらを持って教室から出て行った。


 音楽室のドアが開くと靖人は振り返る。

「おう! 遅かったな!! 阿修羅」

 阿修羅が入ってくると靖人は右手を上げて呼んだ。

「靖人! 今日さ、遊ばないか? 俺の家に来いよ! 歓迎するぜ!」

 右手をひらひらとしていた靖人の近くにいた男子が遊びに誘った。

「あー……、スマン!今日は、俺の親の命日なんだよ……。明日でいいか? どうせ、土曜日なんだからよ」

「そうか……じゃあ、靖人はさ、携帯持ってる?」

「けいたい? なにそれ?」

「えっ? 靖人……携帯持ってないの?」

「靖人はね。流行に鈍感なのよ、だから、携帯も知らないのよ」

 携帯がどんなのか知らない靖人に、阿修羅はフォローを出した。

「ふーん。それじゃあさ、電話番号教えろよ」

「ああ、いいぜ」

 遊びに誘ってきた男子に電話番号を教え終わった丁度その時、本鈴が鳴り響き、賑やかだった教室が静まり返った。

「はーい! それでは、皆さん授業を始めますね!」

 先生が教室に入ってきた早々そう言った。



  放課後―校門前



「遅いわよ。靖人!」

 校門のところで寄りかかっていた阿修羅は靖人を見つけると怒鳴るように言った。

「すまん、すまん。ちょっと女子たちにからまわれて……」

「……。よかったわね、もててさ……」

 阿修羅は胸のところがチクチクしていた。

「(何だろ……この痛みは……)」

 そう思いながら、制服を掴む。

「如何したんだ? 阿修羅。胸を押さえてさ……って! 何処か痛いのか?」

 駆け寄る靖人に阿修羅は少し嬉しさがこみ上げた。

「ううん、大丈夫だよ。何でもないよ! 心配しないで!! ね」

 阿修羅は何事も無かったようにニッコリと微笑んだ。

「……。ならいいんだ、でも、何かあったら俺を呼べよ。何処にいても駆けつけてやるからな!」

 靖人はにひひと笑いながら阿修羅に言った。

「……ふふっ」

「むっ……、何笑ってんだよ……」

「くすくす。なーにも、んじゃっ、行きますか!」

 阿修羅はそう言いながら靖人に手を差し出した。

「ああ!!」

 靖人はその手を持つと阿修羅に言った。


 墓参りが終わり二人並び人気の無い通り道を他愛の無い事をしていた時、ぐうぅぅぅううッと、誰かがお腹の虫を鳴らした。

「あ~……。腹減った……」

 靖人は俯くとお腹を軽く抱えて唸った。その時、靖人の頬は真っ赤だった。

「帰ったらお母さんが夜ご飯作ってくれているって」

 阿修羅は靖人にガッツポーズを見せていった。



   ぐぎゅるるるるるるぅぅぅぅぅううう



 今度は長い音が聞こえた。

「もしかしてさ……」

「……もしかしなくても、私ですよ」 

「ぶはっ! まじでかっ、早く帰らなくちゃな!! づでっ! 何するんだよ!!」

 靖人は、ゲラゲラ笑いながらからかっていたが阿修羅に頬をつねられた。

「笑わないでよ! この、バカッ!!!」

「ははは。ごめんな?」

 そんな他愛の無い会話をしていると、家に着く。

『ただいまー』

 二人は声を合わせて言った。正確にはたまたま合っていただけだが。

「おかえり。さあ、入って。お腹空いたでしょ? ご飯、出来ているわよ?」

 阿修羅のお母さんはニッコリと笑うと二人を中に入るように促す。

「あ、じゃあ私、手を洗うね? ほら、靖人も手を洗わなきゃ」

「あ? お、おう?」

 靖人は阿修羅に言われて手を洗うために洗面所に行くが、少し何かに引っかかった。

「(んー。なんか、夢で見たエンリさんって言う人にホントくりそつだな)」

「ほらっ! 私はもう洗ったから、あとは靖人だけだよ? じゃあ、私先に行っとくからね? 後で来ないと、私が全部食べちゃうから」

 阿修羅は靖人の間近に来ると冗談めかしてそう言った。

「……!お、おう! じゃあ早く洗わないとな! 食いしんぼの阿修羅に取られちゃう」

 靖人は阿修羅の存在に気が付き、靖人も冗談を言った。

「む~。私、食いしん坊じゃないもん! それを言うなら靖人だってそうじゃない!」

 阿修羅は可愛く頬を膨らませるとそう言いながら、プイッと顔を逸らした。

「わかったよ。俺が食いしんぼでいいよ。さぁてと、手洗い手洗い」

「む~」

 阿修羅を無視する靖人は洗面台に行くと手を洗う。あれ以上、阿修羅をからかうと後々怖いから相手にしないようにするが、阿修羅はそれが嫌なのか、不機嫌になりだした。

 洗い終わり、席に着くと靖人は、箸を手に取り食事に有り付こうと箸を動かす。

 皿の上には焼きたてのハンバーグにデミグラスソースがかけてあり、キャベツの千切りと赤く実ったプチトマトが添えてあった。勿論ご飯は、茶碗に入っている。

 ハンバーグの方に先に目が行ったので箸をつけると細かく切り、それを口にする。

「ん~。さすがは、縁理さん。おいしいです」

「そう? 靖人ちゃんにそう言われると嬉しいわ」

「むぅ……」

 靖人は阿修羅のお母さん。縁理にそう言うと、縁理は嬉しそうに言うが、阿修羅は少しムカッとイラ付いていた。

『ご馳走さまー』

 二人は食べ終わり、合唱をすると、イスから立って靖人はリビングに、阿修羅は自分の部屋に足を向けた。


「ふっんぅ……ふはぁ~」

 阿修羅は自分の部屋に入ると、背伸びをしてため息を吐いた。

「ふう……。お母さんに嫉妬するのは……如何なのかなぁ? やっぱり……あのとき、靖人を連れてきたのは間違いだったのかなぁ?」

 阿修羅は、そんな考えに耽っているとコンコンとノックの後がした。

「はーい。どうぞ……、て、靖人? どうしたの?」

 阿修羅は返事をすると、ガチャリとドアが開き、靖人が部屋に入ってきた。

「いや……ちょっと、阿修羅に相談を……さ」

 靖人は顔を赤らめると恥ずかしそうに、口を開いた。

「なんか……目を閉じると同じような夢を見てしまうんだ……。その……なんてゆうか……、親父から手紙が来るんだ……その手紙の内容はさ……なんかさ……知らないけど、俺が次の王様だ……とか訳の分からないことを書いているんだ……、いつも見るのは、郵便屋さんから手紙を預かって手紙を読んで、家の中で歌を歌って……そしたらさ……阿修羅が……出てきて……、一緒に行こうとか言ってさ……手を差し出してきてから、俺はその手を掴むと何かを言うんだ……、そうしたら如何だと思う? 急に眠気が襲って来て……、と思ったら、目を覚ますんだよ。それを、毎日毎晩夢を見るんだよ。おかしいだろ? こんな夢を見るなんてさ、しかも、メルヘンチックだし……」

 ひと通り靖人は語ると、阿修羅を見据えて、返事を待った。

「靖人……。ちょっと、目を瞑って……」

 阿修羅は靖人を優しく見つめそういった。

「ん……」

 靖人は阿修羅が言うように目を瞑った。

「…………」

 阿修羅は優しくニッコリと笑うと靖人を抱きかかえるように優しく包むと。

「ちょっ……。あ……しゅら?」

 靖人は急に阿修羅の体が近くに来て、膨らみがあるか無いか微妙な胸に包まれ、かぁ~~~と体が赤くなり恥ずかしくなった。

「……。あんまり気にしないで……。夢は幾らでも見られるし、そして―――」

 阿修羅の声が靖人の頭の中に響いたと思えば、靖人の意識は段々と薄れていった。




「はっ! ここは……? えっと……なんで俺はこんなところに?」

 目が覚めたときにヤストは白い空間の世界に一人で倒れていた。

「あっ……。そういえば……。あの、阿修羅は何処に? ……ところで、さっきの夢は……、いい夢? なのか?」

「や~っと、起きたんだぁ~」

「っ……! 誰だ!!」

 気が抜けるような喋り方に、ヤストはビックリして周りを見ながら声の人物を探した。

「あれぇ~。見えないのかな~? 君の~真正面にぃ~立っているのになぁ~」

 バッと、前を見るヤストは目を見開く。

「なっ……。お……おかあ……さん……?」

 ヤストの目に映る人物は、家を出た母親と同じ顔、だが年齢があっていない人が目の前に、近くにいた。

「? どういうことだ? 麻衣子は貴様の母親では無いだろうに?」

「!!!!!?」

 ヤストは自分の耳を疑う。

「あ~。耶麻姉さん~。この子が~、阿修羅が連れてきた、少年~」

 名前も違う母親似、麻衣子と言う人物。

「名はなんと申す! 返答したいでは……」

 そういって、何処から出ているのか日本刀らしい長剣が出てきて、刀の先端をヤストに向けた。

「ひっ……!」

 ヤストはその先端に驚き短く悲鳴を上げる。



「駄目よ。耶麻……」

「阿修羅!!」



 すると、ヤストには聞き覚えのある声が聞こえ、後ろを向く。

「阿修羅……。私は小奴が誰なのか知りたいだけだ……。まあ、名前はわかるが……」

 耶麻は刀を収めながらヤストに向けて指さす。

「じゃあ、言ってごらんなさい? この子の事……」

「あ……? ヤスト……だろう……?」

「違う……」

 耶麻がそう言うが阿修羅は首を横に振る。

「はあっ? 違うって……阿修羅お主……」

 耶麻は首を傾げるように怪訝そうな顔をした。

「この子は……いえ……このお方は、次代王…晋山(シンザン)様だ……」

 阿修羅は座っているヤストの前にひざまずき、頭を垂れる。



「しん……ざん……?」



 ヤストは耳を疑う。自分の名前ではない、他の名前……晋山(シンザン)

 晋山って……誰だ……? そう思いつつも、周囲を首だけで見渡すが、阿修羅の前に居るのはヤストしかいない。

それに、“王”という言葉も聞こえた。

「嘘……だろ……? なあ……阿修羅……。俺が……次代王……?」

 ヤストは困惑が隠せないのか、途切れ途切れに阿修羅に尋ねる。

「嘘ではありませんよ……。全て私が言う事は本当です……」

 阿修羅は淡々としていた。最初に会った阿修羅とは少しだけ違う。

 やはり、次代王の前からだろうか、夢で見た……――夢だったのかわからないが、その阿修羅はヤストに対して普通に接していたように見える。

 それが何故……。ヤストはそんな阿修羅を困惑気味に見つめている。

「ごめんなさい」

 ヤストの心情を察したのか阿修羅が謝ってきた。

 そんな阿修羅の行動にヤストは何かが切れた。

「ふ……ざけんじゃ……ねぇよ!! ごめんなさい……だと!?」

 ヤストは怒りに任せて立ち上がり、阿修羅の胸倉を掴む。

「……!!」

 阿修羅は驚いた様子でヤストを見やり、哀しそうな顔をした。

「……っ」

 ヤストはそんな阿修羅を見て、罪悪感を持ったのか、胸倉を掴んでいた手を緩み急に走り出す。

「ヤスト……っ!!」

 阿修羅はヤストを掴もうとするが空を切るだけだった。

「大丈夫だ。あいつは戻って来る」

「大丈夫、大丈夫~。私が戻って来れるように調整させるよ!?」

 耶麻は腕組をしながら言い、麻衣子はそういうと利き手を挙げる。

「我が権力を持って和す。今しがた道を開かん、我らの思いのままに!!」

 呪文に近い決まり文句を麻衣子は口ずさむ。

 すると、先ほど走り出していたヤストが反対方向から戻って……否、走って来ていた。

「あ……あれ?」

 ヤストは確実にこの3人から一直線に逃げ出したはずなのに目の前に現れたのに等しく、3人の前に辿り着くと不思議そうに首をかしげた。


「おかえり~」

 麻衣子は上げたほうの手をひらひらと軽く振る。

「驚いたでしょ~?」

 えへへぇ……と嬉しそうに話す麻衣子は自慢気に胸を反らす。

「え……あ……うん……」

 ヤストは息を切らしながら、曖昧に返事をする。

「そうそう、私がしなければヤスト君は迷って、変なところに墜ちちゃうから危なかったね~?」

「へ? 落ちる……。何をしたの……?」

 何かを忘れている気がしたが、麻衣子の言葉に首を傾げる。

「おちるっていう漢字が全く違うけどねぇ~。まあいいや~、耶麻姉さん説明よろしく~」

「ああ」

 麻衣子は突っ込みをいれ、耶麻にバトンタッチをする。

「此処は虚無の魔ともよばれている所だ。一度迷うと何処に行くのかわからない、それにまだ私たちは此処の事をよく知らない。だが……」

 淡々と肩をすくめながらもヤストを見据えながら話し、耶麻は言葉を止め、

「麻衣子はそんな空間を調整が出来るんだ。まあそれは私より麻衣子のほうが経歴からして長いからだが……」

 呆れながらもそんな事を言っていた。

 言葉のなかに尊敬と憎たらしさが含まれていたが……。



 あれから、麻衣子が4人同時に瞬間移動をすると、何処かにあるガーデニングカフェ……らしきところでくつろいでいた。

 テーブルクロスが掛けられた机の上には紅茶の入ったカップと、様々なケーキが皿の上に乗っており、それらが人数分置いてあった。

「所で阿修羅」

 麻衣子は唐突に口を開いた。

「何……?」

 阿修羅はぶっきら棒に答える。

「次代王……何でしょ? ヤスト君。しかも、あの晋山の生まれ変わり……でしょ?」

「!!」

 麻衣子の言葉に、やっと思い出したのか、ヤストは体を強ばらせる。

「まあね……。ヤスト」

 阿修羅は椅子の背もたれに寄り掛かりながら素っ気無く答え、真っ直ぐヤストを見据える。

「お前が望むなら元の世界……それか、学校生活が遅れる世界に行くか?ここに残る、というのでもいいけど?」

 阿修羅は挑発するかのように、ニヤリと笑う。

 やはり先ほどの阿修羅とはなにか違う様子だった。人間が変わったかのように……。

「好きに考えればいい……。制限時間は明日だ……、考えろ」

「……阿修羅……」

 吐き捨てるように言い立ち去る阿修羅にヤストは唖然とする。

「出たよ……本当の阿修羅……」

「……」

 耶麻はポツリと小さな声で呟くのをヤストは聞き逃さなかった。



―次の日―


「決めた……?」

 阿修羅の声が後ろから耳に届いた。

「……阿修羅。ああ、決めた……」

 ヤストは振り向き、阿修羅と向かい合う。

「それじゃあ、どうするの?」

「……」

 阿修羅は優しく問いかけると、ヤストは唾を呑み、口を開く。

「俺は、元の世界には残らない。だけど、この世界での次代王になっても良いと思っている」

「え……何で?」

 ヤストの答えに阿修羅は信じられない。とでも言うように見据える。

「私とヤストが会った時は、王になるのは嫌がっていたのに……」

「あの時は、元の世界に退屈していたし、外に出られなくなるのは嫌だった。だけど、阿修羅……俺は君に会えて良かったと思ってる。退屈しなくなったし、他の奴らに会えて楽しかった。だから俺は阿修羅に会えて本当に良かった。次は俺が阿修羅を……」

 ヤストはそこで言葉を止め、じっと阿修羅を見つめるように覗き込み口を開く。



「阿修羅を幸せにしたい……楽しませたい……そう、思ったんだ」



 ヤストは優しくささやくように呟く。

すると阿修羅は、


「ありがとう」


と、この世界で一番、素敵な笑顔だと言える表情を彼女はして言った。



設定を練っておらず、思いつくままに書いたものでした。

ので、この話の続きは書きません。今回ので終了です。

また、部誌にも掲載しておらず、お蔵入りした内容となっているので、ここが初披露となります。

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