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籠の中へと閉じ込められたけど2

 

 朝早い時間、目覚めた私は窓の外をぼんやりと見ていた。

 格子の嵌められた窓は10センチほどしか開かない構造になっていて、蘇芳が私を逃がさないようにする為だと実感させられてしまう。


 明るくなって私の置かれた状況が分かってきたが、今いる部屋は屋敷の三階の一画らしく、窓からは中庭を隔てて離れらしき建物が確認でき、離れの屋根の後ろには、古びた塔の先端が微かに見えた。その奥には林が広がっているらしく、遠目に緑があるようだった。


 敷地はとても広そうだ。でもどことなく殺風景で淋しい場所に思えた。

 あんな塔の中で、彼はどんなに淋しい思いをしただろう。


「リナ、起きてる?」


 ノックと共に蘇芳が入ってきて、サッと緊張が走る。


「…………良く眠れた?君にお客さんだよ」


 強張る私に気づいていながら、何喰わぬ顔をした彼は、後ろにいた人物を部屋へと促した。


「あ、アマナ様!」

「リナ様」


 腕に触れて、彼女が注意深く私の全身に視線を巡らせてから、彼を振り返る。


「少しの間、リナ様と二人だけで話をさせて下さい」

「それはできません。話がしたいなら、僕の前でしたらいい」


 警戒しているのだろう。腕を組んで動こうとしない蘇芳に、アマナ様は諦めたのか、再び心配そうに私を見た。


「何か酷いことはされていませんか?無理強いはないですか?」

「だ、大丈夫です。心配かけて、すみません」

「こちらの方こそ、聖女たる貴女を守るのが神殿の務めだというのに」


「神官長」


 アマナ様の強い眼差しにも無表情で蘇芳が割り入った。


「リナには、ここにいてもらいますが、それ以外に彼女を傷付けるようなことはしません」

「………………あなたが、このようなことをするとは思いもよりませんでした。帰りたいというリナ様の意思を、あなたは尊重するべきでしょうに」

「僕が?なぜ?」

「あなたがリナ様を愛していればこそ」


 蘇芳が、フッと可笑しそうに笑った。


「そんな安っぽくてお綺麗な感情に当て嵌められるとでも?僕の気持ちを、あなたが理解できるとでも思っているなら、それは傲慢だ」

「蘇芳、やめて」


 小馬鹿にした口調に、驚いた私が止めようと声を上げるが、アマナ様は悲しげに顔を曇らすだけだった。


「あなたの行いこそ傲慢だと、なぜ分からないのです?リナ様を閉じ込めたところで、真に彼女があなたを見ることはないでしょうに」

「話はそれだけですか?昨晩から、神殿の者達が我が屋敷の前に居座り煩かったから、恩人であるあなただけならとリナに会わせたというのに、そんなことを言いに来たなら帰っていただきます」


 部屋の前に控えていた護衛騎士が、蘇芳の合図でアマナ様の両脇を固めて退出を促す。


「アマナ様、ヤトさん達にもごめんなさいと伝えて下さい」

「リナ様、我々神殿は、神から遣わされた聖女を決して見捨てたりしません。だから貴女も自らの意思を大事に」


 扉が閉まると、静寂が訪れた。

 私と蘇芳だけの残された部屋は、息苦しかった。


「………………リナ。あとで朝食を運んでくるから、一緒に食べよう」


 神殿にいた彼は別人だったかと思うほど、今の蘇芳は自分の意思を良くも悪くも迷わない。


 アマナ様の言葉が引っ掛かる。

 私の意思を尊重するのが愛情なら、彼の私へ向ける感情は何なのか。彼の心を覗いた時は熱ばかりを感じたが………


 自分の手のひらに視線を落とす。


 知りたい、知らなければ私自身も身動きが取れない。


「リナ?」

「……………蘇芳、アマナ様に会わせてくれてありがとう」


 私がそう言えば、意外だったのか蘇芳が目を瞬かせた。それから探るように見つめてきた。


「何を考えているの?」

「ううん、何でもないの」


 笑って誤魔化そうとしたらできず、泣きそうになって慌てて目を伏せた。







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