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自分が分からないけれど2

「リナ!リナ!」


 強く名を呼ばれて、私は重い目蓋を持ち上げた。

 目の前には蘇芳がいて、その後ろにはアマナ様やヤトさんが心配そうに私を見ていた。


「あ………っ!」


 鋭い痛みが走り、その部位に手を寄せて思い出した。喉元に巻かれた包帯の手触りに、ふるりと身体を震わせる。私の様子を見た蘇芳が、ギリッと歯を噛み締める。


「リナ、痛い?」

「わたし……………」


 冷たい刃が、肌に潜り込んだのは覚えている。

 横になったまま、自分の手のひらを見つめる。アマナ様が、そんな私の手を両手で包んだ。


「怖かったでしょう……………傷は浅いので、じきに良くなります。刺客は捕らえて、王都の警備兵へ引き渡しました。それに皇太子殿下が近衛兵を神殿に派遣して下さり、警備の強化にあたっています」


 ゆるゆると頷いたら、ヤトさんが、いきなり頭を下げた。


「申し訳ありませんでした。近くにいたのに、直ぐに気付くことができず、あなたを危険な目に遭わせてしまった」

「い、いいえ、ヤトさんのせいではないです。そんなに謝らないで」


 確かに患者としてなら、神殿には割りと簡単に入れる。私が治療する時には護衛の人が離れるのを、あの男は調べていたのだろう。


「もう治療はしないでいいのですよ?」


 アマナ様に優しく言われて、私は泣きそうになって彼女を見つめた。


「でも、それでは私がここにいる意味が…………」

「何を言っているんです。また何かあるかもしれないんです。それにこれ以上は、あなたに負荷がかかりすぎる。こんな力、あなたを蝕むだけだ!」


 ヤトさんが、そう吐き捨てるように本音を明かし私を見て、しまったという顔をした。


「ヤト殿」

「申し訳ありません。リナ様の力を否定するわけでは………ただ、心配で」


 アマナ様が一度目を伏せて、涙ぐむ私の頭を撫でた。


「神殿の皆は、あなたを心配しているのです。あなたの力は素晴らしい。ですが、私達はあなたが大切なのです。力があっても無くても、あなたはここにいて良いのですよ」


 説き伏せるような強い声音で告げ、彼女はヤトさんを促して「今は休みなさい」と部屋を出ていった。


 だが蘇芳は、そこから動かなかった。扉が閉まり私と彼だけになっても、唇を引き結んで喋らない。

 固い表情で私を見るばかりの彼に、何だか居心地が悪い。


「帰って来てたんだね。その…………家は大丈夫だった?辛いことはなかった?」

「…………………どうして死ねなかったのかって不思議なんでしょ?」

「え」


 サッと顔が強張ったのは、自分でも分かった。蘇芳は私の動揺を予想していたように見つめる。


「リナは死にたかったんだろ?」

「どうして、そう思うの?」

「分かるさ、僕もそう思ったことあるから」


 避けていた蘇芳の瞳を、私はそこでようやく見返すことができた。


「私………………もういいやって思ったの。私にとって生きていることは、とても疲れること。あの時殺されそうになって、このまま死んだら楽になるかもって……………だけど」

「生きたくなった?」

「わ、分からない」


 あと少し力を加えて横に引けば死ねる、そう感じた時、私の手は男の胸に押し当てられた。聖女の力で男の心を暴き、治療を施し、結果的に殺意を抑え込むことができた。


 男が短剣を落とし、床に蹲る姿が気を失う前の最後の記憶。


「死ぬのが、怖かったの。ここで死にたくないって、咄嗟に思って必死だった。おかしいよね、矛盾してる」

「おかしくない。怖いのは、生きたいからだ」

「生きたいって、何で思ったんだろ?生きる価値なんて、私にあるの?」

「リナ」


 蘇芳の指が、私の顎を掴み軽く上向かせた。


「君に君の生きる価値が分からなくても、どうでもいい」


 そこでようやく気付いた。彼の低く落ち着いた声音には、怒りや苛立ちが含まれている。


「僕が君の価値を知っていればいい。君は僕の知らない所で勝手に死んではダメだ」

「蘇芳っ」


 頬に流れる涙を彼の唇が、ぎこちなく吸う。


「君が生きるのを辞めたら、絶対に許さないから。そんなことになったら、もう一度僕が君を殺す」

























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