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あなたを癒したけれど2

「蘇芳、手術頑張ったね」

「ううん、リナありがとう。リナのおかげ」


 私は椅子に腰掛けて、ベッドに座っている彼に膝を向けている。


「リナ、まだつらい?苦しい?」

「少しだけ、だいぶ良くなったよ」

「そう、良かった」


 状況からして、あの時副作用に苦しむ私を抱えてくれたのは蘇芳だろう。きっと驚いたに違いない。


「リナ、ごめん。あんなに泣いてたのに、僕、何も助けられなくて。でも手術頑張ったら、リナが喜んでくれるから」

「うん」

「リナ、僕の『怖い』を取ってくれたんでしょ?だから痛かったんでしょ?だから僕は、リナを助けたい。いっぱいリナ助けてくれたから、僕リナを守る。あんなふうに泣くの見るの嫌だ」

「蘇芳…………」


 そんなことを考えてくれていたなんて、驚いた。周りを思いやれるほどに、彼の心に余裕ができたことが嬉しかったし、人形のように無気力だった彼が、自分でたくさんのことを考えて行動しようとする姿勢が胸を打った。


 私は笑顔を作ろうとしたができずに、涙を浮かべて包帯から覗く赤い髪をなでなでした。ピクッと小さく動いただけで、彼はされるがままになっている。


「もう大丈夫なんだね」

「え?」

「私が治療しなくても、もう蘇芳は大丈夫よ」


 そう言えば、撫でていた手を、蘇芳が無言で取った。

 そして自分の膝の上で、私の手を両手で閉じ込めて俯いた。


「どうしたの?」


 さっきからずっと彼と目線が合わない。包帯のせいで見えにくいのかと思ったけれど、違う気がしてきた。


「……………………リナの力、使えなくなったりするの?」

「やっぱりさっきの話、聞いてたのね?そうよ」


 チラッ、と戸口に目を向ける。護衛であるヤトさんは、部屋の外にいるはずだ。あの時同じ話題を振ってきたヤトさんは、マジな顔をしていた。

 まさかヤトさんが結婚まで考えて、聖女の力から私を守ろうとしてくれていたなんて、ありがたいやら申し訳ない気持ちやらでいっぱいだ。


「結婚したら力無くなるって本当?誰かと結婚するって本当?」


 声を大きくした蘇芳が、私をようやく見た。乗り出すようにして、じっと私を見つめるのに気圧されて少し身を引く。


「え…………っと、正確には力が無くなるのは、結婚ではなくて……………」


 説明するのは恥ずかし過ぎる。口ごもって、握られた手を引こうとしたら、いきなり両肩を掴まれた。


「すきなの?」

「え、何?」


 目をスッと細めた彼は、また苦しそうな表情を作った。

 どうしたのだろう?こんなに辛そうなら、まだ治療しないといけないかもしれない。


「『コウタイシ』と結婚するって聞いた。その人が、すきなの?」

「うん、好きだよ?結婚は、まだ分からないけどね」

「は…………」


 なんでそんなこと聞くのだろう?蘇芳と何か関係があっただろうか?


 包帯から見える口が半開きのまま、石になったように蘇芳が動かない。


 半分開けた窓からは、小鳥の鳴き声がしている。穏やかな風が流れて、弱くそよぐ彼の髪を見ていた。そうしたら、心も穏やかさを取り戻すようで落ち着いてきた。


「アマナ様も大好きだし、ヤトさんも好き、マーサさんもだし、あ、勿論蘇芳も好きだよ」

「………………え?なに?すき?……………わからな、すき?すきって…………」


 頭を抱えてボソボソ呟く彼に首を捻る。


「手術のところが痛むの?なんだか苦しそう」

「すきって何だっけ?リナのすきってスキ?僕のすきって?」

「大丈夫?」


 顔を覗こうとしたら、どこか悲しげな蘇芳が私に視線を向けた。


「すきって何?」

「え、好きは……………」


 改めて問われると困ってしまった。私が思う『好き』は間違いだろうか?分からない、そもそも私が一方的に皆を好きなだけで、皆は私を好きじゃないかもしれない。

 考えると、ズキッと胸が痛む。


 そうだ、私は昔好きになってもらったことなんて無かったじゃないか。そんな私が誰かに好きになってもらうことなんてあるわけない。ヤトさんやアマナ様だって、私を憐れんだり同情してくれているだけだ。

 勘違いしたらいけない。

 期待して、その度に何度も傷付いたじゃないの。


「……………好きって、何だっけ?」


 ポツリと洩らした言葉が、やけに震えていて私は慌てて口元を押さえて顔を横向けた。


「リナ?」

「………………………………」


 怪訝に思ったのか、蘇芳が今度は私を覗き込もうとしている。


 そこへポン、と私の頭に大きな手が乗ってきて我に返った。


「あ、ヤトさん」

「さっきから聞いていたら……………」


 苦い顔をした彼は、蘇芳に向き直った。


「ホントお前も俺も可哀想だよな。あ、リナ様、席を外していただけますか?」

「え?」

「少々、男同士の話ってものがありますので」

「はあ…………ひゃ!」


 さっきのように私を抱き上げたヤトさんに、蘇芳が「僕が!僕が!」とまとわりつく。思っていたよりも彼に打ち解けたみたいだ。

 ヤトさんは、無情にもそれを無視して食堂に連れて行ってくれた。その後で蘇芳と部屋で長いこと話をしていたが何を話題にしていたのだろう。


 次の日の朝、蘇芳がヤトさんに剣の稽古をつけてもらっているのを見た。

 何度も跳ね返され、倒されている彼に、術後の傷を心配して駆け寄ったら二人に制止された。


「こないで、リナ!」

「邪魔しないでください。こいつを強く鍛え上げたいだけです!

「で、でも、急にどうしたんですか?」


 ヤトさんは容赦なく蘇芳を木の棒で突飛ばし、振り返ることなく答えた。


「同じ気持ちだから、ただ分かり合えた。それだけです」

「わ、私は分からないです」

「ええ、そうでしょうとも!」


 何となく責められてる気分で、私は仕方なく口を閉ざすと、近くのベンチに座り二人を眺めていた。









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