軍人、機械製作に着手する②
ギャレフに戻ったレギオスはその日、コリンズを家に泊めることになった。
倉庫を借り置き場として貸し、好きに使えばいい、とも。
「明日はギルドに行こう。鍛冶屋だと言えばいい仕事場を貸してくれるはずだ」
「すまんのうレギオスよ。何から何まで」
「気にしないでくれ。俺の為でもあるしな。……シエラはちょっと不自由かもしれないが」
「ううん、気にしないで。それよりゴハン、何でもいい?」
「あぁ、いつもありがとうな」
レギオスがシエラの頭をくしゃりと撫でると、その顔がほんのりと朱に染まる。
「お! こいつが例のブツか!? ちょっと見せてくれ」
そんな空気を全く読まず、コリンズがレギオスの作った巨大電熱器に飛びついた。
「ほう! ほうほうほう! こいつが機械っちゅーもんか! 色んな金属を使っとるのう! 妙な形をしとるのう! 面白いのう!」
興奮した様子で機械に食らいつくコリンズ。
シエラはジト目でそれを睨むが、キラキラした目でそれを見るコリンズは全くそれに気づかない。
「こいつはどんな仕組みだ!? どうやって動いとる!? どんな金属を使っとる!?」
「あぁ、この銅線で各部に電気を伝え、様々な役割を果たす。渦を巻いているのがコイルだ。そこはあえて電気抵抗を与えており、その部分が発熱する仕組みになっている」
すかさず解説に入るレギオス。
その顔はどこか楽しげだ。
「むむ……おいレギオス、電気っちゅーのは何だ? いや、聞いた事はあるが、細かい仕組みはわからんのでな。この機会に勉強しておきたい」
「もちろん一から教えるさ。まずはな……」
興味津々なコリンズに色々と教えるレギオス。
そんな二人を見て、シエラはため息を吐き、料理を作り始めるのだった。
■■■
――翌日、レギオスは通信機を引っ張り出してきた。
かける先はかつての同僚がいる帝国研究所である。
ジリリリリ、ジリリリリ、と呼び出し音が何度か鳴り、受話器を取る音と共に繋がった。
「はい、こちらテレーズ。どちら様? どうぞ」
「おっす、こちらはレギオスだ。どーぞ」
「……はぁ、やっぱりアンタか」
通話機の向こうから聞こえてきたのは、呆れたような女性の声だ。
名はテレーズ、彼女はレギオスの元同僚で、時折こうして電話している。
いつかギャレフに遊びに行く……という約束をしたまま、はや数ヶ月が経っていた。
「一体何の用? こちらも暇ではないのだけれど」
テレーズの声を聞いたコリンズが驚きに目を見開いた。
「おい! なんじゃそりゃ! 人の声が聞こえたぞ! 中に人が入っとるのか!?」
「遠くの人間と会話できる機械なんだ。悪いが静かにしててくれ」
「むぅ、この箱がのう……機械というのはとんでもないものなんじゃな」
コリンズはすぐ通話機に夢中になり始める。
レギオスはテレーズとの会話を続ける。
「すまんすまん。あぁ要件だが、実はテイスティパウダーを一箱送ってもらおうと思ってな」
「ん、確かそれアンタが作ってた調味料よね? 別にいいけど……そんなのひと箱も何に使うわけ?」
「実はかくかくしかじかでな……」
レギオスは先日の事を説明した。
テレーズはそれを聞き終えると、呆れたようにため息を吐いた。
「はぁ、アンタも色々やってるのねぇ」
「まぁな。楽しくやってるよ」
「……そうね、声がこっちにいた時より元気だし。何よりよ」
「あぁ、なかなか良いところだぞ。お前もそのうち遊びに来いよ。待ってるからさ」
「行きたいんだけどね。まぁ、うん。そのうちきっと行くから」
最初は硬かったテレーズの口調も、今は和らいでいた。
通話機を切ると、コリンズはヒュウと口笛を吹いた。
「なんじゃなんじゃ! 今のはお前のコレか!? おいおいレギオスよ、お前も隅に置けないのう!」
コリンズが薬指を立てて口笛を鳴らす。
「ただの同僚さ」
「そうかぁ? どこか色っぽい感じを受けたぞ! 向こうはそうは思っとらんのじゃあないか? にひひひひ」
「バカ、からかうなって」
楽しげに笑うコリンズを、レギオスは窘めるのだった。




