軍人、帰り支度をする②
「ふぃー、食った食った。腹いっぱいじゃ」
十分食べて腹がいっぱいになったのか、コリンズは満足そうに腹を撫でている。
レギオスもシエラも満腹だ。
三人は食後の茶を楽しんでいた。
「さて、それじゃあ一旦帰るとするかの。後日改めて村の連中を連れて来れば、作業効率もいいぞい」
「各々に持って帰って貰えるしな」
「おうとも、一石二鳥じゃ。層と決まれば早速帰るとするかの」
「うん……レギオス?」
コリンズとシエラが帰ろうとするが、レギオスは動かない。
「どうしたんじゃ? 腹でも壊したか?」
「……しっ、何か来る」
その言葉に二人は立ち止まり、辺りを注意深く見渡した。
しばらくしてようやく気づく。
地面が揺れている。そしてそれは次第に大きくなっていった。
「な、なんじゃあ一体!?」
地鳴りは大きくなり、足元が頼りなく揺れ始めた。
前方には真っ赤な蜥蜴の群れが見えてきた。
「火蜥蜴の群れ!? しかもこんなにたくさんじゃとぉ!? メシの匂いに釣られたか!?」
「二人とも、俺の後ろへ」
「う、うんっ!」
レギオスは二人の前に立つと、右手を前に突き出し魔力を練り始める。
三人の周囲に雷光が走り、ドーム状の結界を展開した。
――雷魔術、電磁結界。
先頭を走っていた火蜥蜴が、それに触れる。
「ギャアッ!?」
短い悲鳴を上げたかと思うと、跳び退き進行方向を逸らした。
続く火蜥蜴も同様に、である。
電磁結界の中は強力な電磁波が流れており、侵入者に激痛を与えるのだ。
バチン、バチンと音がして、火蜥蜴たちは弾かれるようにレギオスを避けていく。
「……ふぅ、危なかったな」
ようやく落ち着いたレギオスは、結界を解いた。
「それにしても、毎度毎度驚かせてくれるのう。ワシも魔術師の知り合いはおるが、ここまでの技量を持つ者は初めて見たわい」
「当然、レギオスは世界一の魔術師だから」
驚くコリンズと胸を張るシエラ。
だがレギオスは未だ戦闘態勢を維持している。
「二人とも、まだ終わってないぞ」
レギオスは警戒を緩めぬまま、火山を見上げた。
雲のかかる頂上には、薄っすらと赤い影が見えている。
「なんだあれは。魔獣のようだが……」
「ありゃあまさか火山竜かよ!? 地揺れや火蜥蜴どもが逃げた理由はあれか!」
「……こっちを見ているな」
赤い影はレギオスの方をちらりと見た後、一瞬にして天高く上った。
――かと思うと、鋭い風切り音と共にレギオスらの前に舞い降りてくる。
蛇のように長い身体に、アンバランスな短い手足。
全身は赤い鱗でびっしりと覆われており、たてがみが風になびいていた。
翼はなく、魔力で浮遊しているようである。
「人よ、我が領域に何の用だ」
地の底から響くような声に、シエラは目を丸くして驚く。
「わ、わ、レギオス! 喋ったよ!」
「霊獣だ。高い知性を持ち、中には喋るものもいる」
――霊獣とは、魔獣と同じく魔力を持った獣の総称である。
一般的には霊獣の方が格上で、特に知性は比較にならない。
人語を解するものも珍しくはなく、そういった類のものは例外なく気位が高く――何より強い。
「もう一度聞く。――何の用だ」
火山竜は大きく口を開き、問う。
鋭い牙の見える口からは今にも炎を噴きそうだった。




