軍人、火山に着く①
山の麓に辿り着いたレギオスたち。
先頭に立つコリンズは、岩壁に沿って歩き始めた。
辺りには木々もなく、溶岩の塊の上に灰が降り積もっている。
死の大地とでもいうべきだろうか。
その異様な光景にシエラは息を呑む。
「これが、火山の噴火……」
「おう、あんときゃ本当にやばかったわい。逃げ遅れた連中もまだこの下に埋まっているかもな。ほれ、嬢ちゃんの足元に白骨が見えるじゃろ」
「ひっ……!?」
シエラは怯えた様子で小さく跳び上がった。
白い骨が灰の中から突き出ていた。
「冗談じゃ。村人全員、ちゃあんと逃げおおせたわい。そいつは家畜の骨じゃろ」
「……びっくりさせないでください」
「がっはっは! おおっとそんなことしてる場合じゃないのう。確かこの辺りだったか」
そう言ってコリンズが立ち止まったのは、巨大な岩が何重にも積み重なった場所である。
「……ここだ。我らの故郷」
「わかった。あとは任せろ」
それ以上、説明は必要なかった。
凄惨な現場、コリンズの表情、その痛々しさに胸が締め付けられる。
レギオスは馬を木に縛り付けると、シエラを呼んだ。
「シエラ、魔術による索敵を教えたろう。それで中の空洞を探ってくれ」
「わかった」
シエラは真剣な面持ちでで壁に手を当てる。
目を瞑り、岩壁に手を当て、魔力を練り上げていく。
レギオスはシエラと共にいた間、しっかりと魔術の修行を行っていた。
元々才能のあったシエラは今ではそれなりの使い手となっており、高い練度を必要とする術式も使用できるようになっていた。
――雷属性魔術、索敵。
魔術により生み出した電磁波を飛ばし、その反射角度から空洞の有無を知る事が可能。
それにより、シエラの瞼の裏側に岩壁奥の光景が薄っすらと映る。
「……左に15メートルほどの所に空洞」
「オーライ」
レギオスはそう言って、その地点に立つ。
溶岩が溶けて固まった上から灰が分厚く降り積もっており、まるで砂山のようだった。
他と比べても、より分厚い壁。
「おいおいレギオスよう、いくら何でもそりゃ無茶だ。もっと薄い場所を狙った方が……」
コリンズの言葉を手で制し、レギオスは右腕に魔力を込める。
上腕部から掌にかけて雷光が走り、パリパリと爆ぜるような音が聞こえた。
「ふ――ッ」
一呼吸と共に繰り出す、打撃。
降り積もった灰を拳が貫いた。
瞬間、静電気により巻き上げられてちた灰が衝撃で遥か後方に吹っ飛ぶ。
「うおっ!?」
その衝撃波にコリンズは思わず目を瞑る。
数秒後、恐る恐る目を開けたコリンズの前に広がっていたのは、ぽっかりと空いた穴の前に立つレギオスだった。
――雷魔術+我流体術、震撃。
魔力による身体強化によって拳を叩き込み物質を構成する原子を揺らし、それを電撃でさらに細かく粉砕する技である。
岩石程度であれば、見ての通り楽に粉砕することが可能だ。
その光景に驚愕するコリンズ。
「では、行きましょう」
事も無げに言い放つレギオスに、コリンズはただ「お、おう」としか返すことが出来なかった。