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軍人、宴に招待される③

「おう、二人とも、楽しんどるかのう!」


 そこへやってきたのは小柄なドワーフの男。

 門番をしていたコリンズだった。


「コリンズさん、えぇ楽しませてもらってます」

「うん、楽しい」

「がはは、そりゃあよかったわい!」


 レギオスの隣にどっかと座ると、その手の盃を見て目を丸くする。


「おいおい、なんじゃあそりゃあ。もっと飲め飲め。ほれ、男ならこいつで一気にいかんかい!」


 そういって差し出してきたのは、酒瓶一本である。

 ドワーフの酒は非常に度数が高いので、レギオスはちびちびと楽しんでいたのだ。


「コリンズさん。無理やりはよくない」


 唇を尖らせるシエラを見て、コリンズはにやりと笑う。


「お嬢ちゃん。お父さんが格好良く飲むところ、みたくないかの?」

「レギオスはそんなことしなくても格好いいもん」

「かっかっ! そうかそうか。いやぁ悪かった。まぁ無理にとは言わんさ。無理にとは、な」


 そう言ってコリンズはレギオスにウインクを送る。

 不敵、かつ挑発的なものだった。

 レギオスはふむと考え込む。

 これだけの歓迎を受けているにも関わらず、誘いを断っていいものだろうか。

 ドワーフ族は酒に対して強いこだわりを持っている。

 同盟や協力を受ける時の宴で出された酒は必ず飲め、と軍でも強く言われていた。


「どうした? 臆したかの?」

「レギオス、挑発に乗らなくていいよ」


 シエラの制止を宥め、レギオスは前に出て酒瓶を受け取る。


「――いただきます」


 一瞬驚いたコリンズだったが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。


「ほう、男じゃのう! いい面構えだわい」

「では」


 レギオスは受け取った酒瓶に口を付け、一気に飲み干した。

 受けた酒は一息に飲み干すのがドワーフ族の流儀である。

 それに乗っとり、ごくごくと喉を鳴らしていく。

 シエラは心配そうに、コリンズや他のドワーフらは目を丸くしてそれを見ていた。


「……ふぅ、ご馳走さまでした」


 レギオスは飲み干した酒瓶を、くるりと下に向ける。

 酒瓶からは一滴たりとも雫は落ちない。

 その飲みっぷりにドワーフたちは総立ちとなった。

 うおおおおおおおお! と大歓声が上がる。


 ――先刻、レギオスは酒瓶のアルコールを電気分解し、無毒としたのだ。

 そうなればただの水、ドワーフ秘蔵の超度数の酒とて一気飲みをしても何ら問題はない。

 レギオスが帝国で連日接待をしていた頃に身につけた術の一つである。

 まさかこんな所で役に立つとは、と苦笑を浮かべた。


「……こいつは驚いた。いい飲みっぷりじゃのう! よぉし滾って来たぞ! レギオスよ、ワシと飲み比べじゃ!」


 うおおおおおおお! と更に盛り上がりを見せるドワーフたち。

 イッキ、イッキとコールが鳴り響く。

 ドワーフたちに囲まれ、レギオスは困惑していた。

 まさかこんな事になるとは……参ったな、と。

 周囲の盛り上がりは凄まじく、とても「いえ、やめておきます」と誤魔化せる雰囲気ではなかった。

 レギオスはため息を吐くと頷いた。


「……わかりました。受けましょう」


 その言葉にドワーフらはまた大きな歓声を上げるのだった。


 ――そして、二人の飲み比べが始まった。

 コリンズが一杯飲むと、レギオスが同じように飲み干す。

 一杯、また一杯、それをひたすら、ひたすらである。

 そしてついに、三十九杯目に突入していた。


「……ふぅ!」


 一気に飲み干し、息を吐くレギオス。


「おおっ! 三十九本目も飲み干したぞ!」

「人間とは思えん。うわばみの生まれ変わりではないか!?」


 レギオスの飲みっぷりに、その場の者たちは皆、感嘆の声を上げていた。


「しかし流石にもう限界であろう、顔は赤いし冷や汗をかいている。顔色も悪いぞ」

「あぁ、だがそれはコリンズもだ。この勝負、どうなるかわからんぞ!」


 盛り上がる外野の声を聞きながら、レギオスは肝を冷やしていた。

 顔色の悪さと冷や汗は、いつバレるかという不安感からと、先刻まで飲んでいた酒の残りのせいである。

 飲もうと思えばまだいくらでも飲める……のだが。


「ぷふぅー……ま、まだまだぁ……!」


 コリンズは未だ、やる気十分だった。

 酒を飲み干し、熱い息を吐く。

 足元はふらつき、目の焦点も定まっていない。

 だが周りの声援にも押されているのだろう、止まる気配は全くなかった。

 その迫力にレギオスはやや引き気味だ。


「いやぁ参りました。降参ですコリンズさん。この辺りでギブアップです。もうやめておきましょう」

「なにぃ!? 白黒ハッキリついとらんじゃろうが! まだやるぞい!」


 停戦の提案をするも、これである。

 ちなみに提案は五回目だ。

 ドワーフ自体負けん気の強い気性をしているが、コリンズは特にそれが強いようだ。

 手を抜いて負けても過言を残すだろう。

 仕方ない、と呟くと、レギオスは手にした盃を一気に飲んだ。

 魔術による電気分解なしで、である。


「……っ!?」


 口に含んだだけで気絶しそうな程の凄まじい酒気が、レギオスの口内を満たす。

 それでも無理やり飲み干した。

 途端、レギオスの頭が真っ白になっていく。


「おおおっ! コリンズの勝ちだ!」

「二人ともよくやった! すごい勝負だったぞ!」


 薄れゆく意識の中、万雷の拍手に混じりシエラの心配する声が聞こえていた。

 レギオスは言葉を返そうとするが、どうにも出来ずそのまま意識を失った。

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