軍人、ドワーフ村を目指す①
森の奥へ向かうレギオスとシエラ。
向かう先はグレン火山の麓にあるというドワーフの村。
険しい森と山を抜けねばならない為、二人ともしっかりした登山用の格好である。
「……しかし本当についてくるとはな」
「当たり前。これからはずっと一緒にいるって言った」
シエラは何食わぬ顔で答える。
確かにそうは言ったが……と苦笑しながらも、レギオスはシエラの体力に感嘆していた。
レギオスらの進む山道は平坦ながらもそれなりに厳しい。
勾配は急だし、大きな石は転がって足場は悪いし、草は腰まで生えており、時折獣も出る。
とても普通の女子が易々と歩けるような道ではないのだが、シエラは難なくついてきていた。
無理そうだったら置いて来ようと思ったレギオスだったがこれには舌を巻いた。
「シエラ、そろそろ昼飯にしよう」
「まだいけるけど?」
「ある程度休憩を取らないと、逆に効率悪くなるからな。一時間おきに十分の小休憩、三時間ごとに三十分の大休憩を取ると言ったろう? 腹も減ったし昼飯にするとしよう」
「レギオスがそう言うなら……」
レギオスの言葉にシエラは立ち止まる。
口では強がっていたが、その表情からは疲弊の色が見て取れた。
「おつかれ。飯の準備は俺がしよう。丁度水場もあるしな。シエラはゆっくり休んでいろ」
「ありがと。レギオス」
シエラは大木を背に、くてんともたれかかる。
「ちょっと待ってろ」
「……うん」
シエラが横たわる横で、レギオスは大きなリュックを下ろす。
そこから飯盒と薬缶を取り出し、枯れ木を集めて枯草をその上にかける。
そして指をぱちんと鳴らすと、そこに電撃が生まれた。
――電撃、魔術により生み出した光と熱の塊が爆ぜ、枯れ木を焼く。
チリチリと音を立てていたかと思うと、そこに火が付いた。
最初は小さかった火は徐々に燃え盛り、大きな炎となる。
「集めていた水と米を入れ、飯盒を火にかける。薬缶に水と茶葉を入れ、こっちも同様にだ」
飯盒と薬缶を火にかけて、時折火の様子を見守る。
火が大きすぎても小さすぎてもいけない。
しばらくするといい匂いがし始めた。
レギオスが飯盒を開けると、辺りに芳醇な匂いが香る。
「……出来たぞ。シエラ」
「うんっ!」
レギオスが読んだときには、シエラはすでに真横に待機していた。
スプーンとフォークを手にしており、腹をくるると鳴らしている。
レギオスは飯盒の蓋に米を半分盛り付け、シエラに渡した。
「美味しそうっ!いただきます!」
言うが早いか、シエラはばくばくと食べ始める。
余程腹が減っていたのか、一心不乱に。
それを見てレギオスはやれやれとため息を吐いた。
「……ん、美味しい!」
「そりゃあよかった」
形の良い唇に米粒を付けながら、感嘆の声を上げるシエラ。
直火で焼いた米はとても美味く、おかずすら必要ない程である。
レギオスは行軍時、仲間と食べていた飯盒飯を思い出していた。
あれは美味かったな、と。
一息ついたシエラは茶をぐいと飲み干す。
「お茶も美味しいね。でもレギオス、いつの間に持ってきてたの?」
「道中摘んできたんだ。あちこちに生えていたものでな」
森に生えている野草を幾つかブレンドし、茶の風味を出したもの。
疲労回復や毒消しの効果があり、体を温める成分も含まれている。
「……ふぅ、温まった。片付けは私がやるね」
「頼んだぞ」
シエラはそう言うと立ち上がり、川で洗い物を始めるのだった。
それからまた二人は歩き始める。
森の奥へ進めば進むほど、道が険しくなっていた。
降り積もった落ち葉の上、急勾配の坂を踏みしめながら登っていく。
「――っ!?」
不意に、シエラの足元が崩れ転びそうになる。
濡れた落ち葉で足が滑ったのだ。
咄嗟に手を差し出すレギオスだが、シエラはそれを取らなかった。
踏みとどまり、レギオスを見上げて、力強く呟く。
「守られなくても大丈夫なように鍛えたから」
「……そうか」
諦めたようにため息を吐くと、レギオスはシエラに背を向けた。
家にいる間、シエラに筋トレや魔術の使い方を教えていたが、精神的にも随分タフになったようである。
レギオスはもう振り返る事はなく、真っ直ぐに進む。
目的のグレン火山は遠くに臨んでいた。