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軍人、新たなる仕事①

 ――のどかな田舎町、ギャレフの朝に小鳥の囀りが響く。

 町の人口は少なく、中央部ですら人はまばら。

 交通手段も少なく、列車のある大きな街へは馬車で半日はかかる。

 いかにも片田舎といった辺境の町である。


 そんな町から更に森の方へと進んだ町外れに、小さな家がある。

 見るからに古い木造りの家だが、庭の草は綺麗に刈り取られ、ごみなどもなく綺麗に調えられている。

 家の中からはトントンと金属を叩く音が聞こえていた。


「よし、出来たぞ」


 金槌を持っていた男が満足げに額の汗を拭う。

 短く揃えた黒髪にゴツゴツした手、全身には大小の古傷がある。

 年齢は20代後半くらいだろうか、精悍な顔つきの逞しい男だった。

 木造りの屋内にはそこかしこにゴム紐のようなものが走り、所々を金具で固定されている。


「何それ、レギオス」


 それを見ていた少女が呟く。

 銀髪碧眼、細くしなやかな手、シミひとつない細い身体。

 年齢は14、5だろうか。表情は薄いが、目を引くような美しさの少女だった。

 レギオスと呼ばれた男は少女の方を向き直る。


「こいつは中に銅線が走っていてな。蓄電機と繋がっていて、中を電流が流れている。先端に穴が開いているだろう? こいつをコンセントと言うんだが、そこから電気を使えるんだ」

「へぇ、でも電気なら私たちも出せるよね」


 少女が人差し指を立てると、その箇所にパチンと火花が散る。

 魔術により生み出した電撃。

 少女は魔術の心得があった。

 ぱちぱちと爆ぜる光を見て、レギオスは頷く。


「そうだなシエラ。俺たち雷の魔術師ならば電気を生み出すのは容易い。だが魔術で生み出した電気にはどうしてもムラがでる。一定の出力で発動させるのは意外と難しいんだ」

「むむ、そうかも」


 シエラと呼ばれた少女の指先で、電光がうねり太くなったり、細くなったりする。

 しばらくその状態を維持しようとしたシエラだったが、結局すぐに電光は消えてしまった。


「確かに、難しい」

「だろう? だが機械ならそれを一定間隔で出力し続けることが可能だ。……こんな風に」


 レギオスは家の片隅に置かれた蓄電機のスイッチを入れる。

 すると天井に取り付けられていた酒瓶に光が灯る。


「わ、お酒の電灯だ」

「ふふ、実はついでに作っておいたのさ」


 電灯の作り方は簡単だ。

 密封状態のガラス管の中に導線を通し、そこをフィラメントで繋いで電流を流すと、光が生まれる。

 レギオスはそれを酒瓶で代用したのだ。

 酒瓶はゴムで蓋をされ、その中を銅線が通っている。


「ゴム銅線に繋いであるコンセントに銅線を挿せば、電灯が起動するというわけだ」

「おー、ほんとだ。すごいねレギオス」

「帝都でも使われている仕組みだな。ま、こいつは俺の手作りだが」


 二人の住んでいた帝都では、電気によって動く電灯や冷風機などの機械製品が数多く存在していた。

 だがそれを支えるのは一部の貴族階級のみ。

 先の依頼を達成し富を得たレギオスは、自宅にその配線を敷いたのだ。


 理由はシエラが主に行なっている、家事の負担軽減である。

 衣類の洗濯は溜めた水で行い、掃除もホウキとチリトリ、料理のたびに火を起こさねばならない。

 レギオスも手伝っているとはいえ、とても手間がかかる。

 レギオスは、自宅に電気を取り入れる事でシエラに楽をさせてやろうと考えたのである。


「……まぁその、なんだ。最近はドタバタしてたけど、これからはのんびり出来そうだしな。色々便利にしていこうと思う」

「嬉しい、レギオス」


 照れくさそうなレギオスに、シエラは無表情のまま、言った。

 それでも声色にはほんの少し艶を帯びていた。



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