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4魔 神と天使

今年もよろしくお願いします。


次で子供登場予定?

4魔 神と天使




 セリカに教えてもらった通りに街を歩いていると、白い十字架を掲げた立派な建物が見えてきた。


「あれが教会かな?」


 目的地っぽい建物を見つけた俺は、アイテムボックスから金貨を1枚取り出してポケット入れてから近付く。

 教会の周りに人の姿は見えない。

 静かなものだね。


「あんまり人が来ないのかな? でも、建物は大きいし中には結構居そうだねー」


 じゃあ、早速中に入ろうか。

 俺は教会の正面の入り口から中に入る。


「おじゃましまーす」


 そう言って中に入っていくと、いくつかの視線が俺に集まる。

 やっぱり中には人が居たね。

 誰か話しかけるのに良さげな人は居るかなー。


「お嬢さん、何か教会に御用でしょうか?」


 キョロキョロと周りを見ていると、近くに居た如何にも聖職者っぽい服を着た白髪のお爺さんが話しかけてきた。


「んー」


 この人でいっか。


「どうしました?」


「聞きたいことがあって来たんだー」


「それは一体なんでしょうか?」


「宗教のこととか歴史が知りたいんだよね。俺はあまり知らないから」


「ほう……。勉強熱心なお嬢さんですね」


 お爺さんは驚いた表情を浮かべた後に、ニコニコ笑顔でそう言った。


「そうかもー」


「ほっほっほ。面白いお嬢さんですね」


 第一印象は悪くないかな。


「もちろん、ただじゃないよ。はいこれ寄付金」


 俺はポケットから先ほど入れた金貨を取り出して差し出す。

 お爺さんは金貨を見て、再び驚いた表情を浮かべた。


「寄付金はありがたいですが、金貨は貰いすぎです」


「いやー。結構色々聞きたことあるし、時間がかかりそうだから受け取ってよ」


 お爺さんは少し悩んでから頷いた。


「分かりました。受け取りましょう」


「良かったー」


「ありがとうございます」


 俺が差し出した金貨をお爺さんは受け取って仕舞った。


「寄付金をいただいたので、しっかりとお嬢さんに教えさせていただきます。もちろん寄付金がなくとも教えさせていただくつもりでしたがね」


「よろしくー」


「はい」


 お爺さんはニコニコと嬉しそうに頷いた。

 教えるのが好きなのかな?

 まぁ悪い人には見えない。

 金貨も一度断ったしね。


「では、ここではあれですし、応接室に行きましょうか。こちらへどうぞ」


「了解ー」


 お爺さんに付いていって応接室に入る。

 中には高そうなテーブルとイスが置いてあった。


「私は資料を持ってきますので、座ってお待ちください」


「あいー」


 俺は高そうなイスに座る。

 座り心地は悪くない。


 少し待っていると、いくつかの本を持ってお爺さんが戻ってきた。


「お待たせしました」


 お嬢さんは対面に座った。


「さて、まずはお話をする前に自己紹介をしておきましょう」


「あ、そうだね。俺はルシドナ。好きに呼んでいいよー」


「ルシドナさんですね。分かりました。私はこの教会を任されているグーゼフといいます。よろしくお願いします」


「じゃあ、この教会の宗教を教えてよ。名前は何て言うの?」


「分かりました。私たちは【タファル教】という名です」


 タファル教ね。

 聞いたこともないし、知らないなー。


「何を信仰しているの?」


「タファル教はその名の通り【タファル】という神を信仰しています」


「ふーん」


 タファルっていう神様か。

 これも知らないね。


「どんな神様なの?」


「さぁ」


「知らないの?」


「ええ。ただ、人々を救う至高の存在とだけ」


「変なの」


「ほっほっほ。確かにそうですね。でも、外でそんなことを軽々しく言ってはいけませんよ? 私は気にしませんが、タファル教の熱心な聖職者は激怒するでしょうから」


「分かったー」


「はい、良い子です」


 そこでグーゼフが持ってきた本を開く。


「ここを見てください」


 グーゼフは開いたページの一箇所を指差す。

 そこには人のようなシルエットが描かれている。


「これは?」


「これが神、タファルの姿と言われています」


「これがタファル」


 なんか普通の人の姿だ。


「タファルって人の前に現れたことはあるのー?」


「いえ、歴史ではタファルは一度も人間の前に姿を現したことがないそうです」


「んー? じゃあどうやって姿を描いたの?」


「それは次の話を聞けば分かるでしょう。ここを見てください」


 グーゼフは次にタファルの下を指差す。

 そこには3人の白い翼の生えた人の姿が描かれている。


「これは……天使?」


 しかも、3対6枚の翼が生えているから最高位天使だね。


「ほう。ルシドナさんは天使は知っていましたか」


「うん。少しだけねー」


「そうですか。では、この3人の天使のことを教えましょう。一番上に居る天使は【セミラミス】という天使です」


「セミラミス……」


 セミラミスがここで出てきたか。


「セミラミスは熾天使(セラフィム)という最高位の天使で、すべての天使をまとめていた天使のトップだったらしいです」


「へー」


「下の2人の天使も最高位の天使だったらしいですが、セミラミスには及ばなかったとか」


 それは多分、智天使(ケルビム)座天使(スローンズ)だろうね。


「この本のページは、セミラミスたち天使が神であるタファルを信仰して従っていたことを表しています」


「セミラミスたちがタファルを?」


 どういうことだろう?

 タファルなんて神は天魔オンラインには存在していなかったと思うけど。

 年表にも攻略wikiにも載ってなかったよね。


「タファルの姿は最高位の天使から人に伝わったものです。タファルは最高位天使の前にしか姿を現さなかったらしいですからね」


「なるほどー」


 これは、もしかしたらもしかするかもしれないね。


「ねー?」


「何ですか?」


「この世界の初めから教えてくれるかな?」


「分かりました。記録されている最初からお話ししましょう」


 グーゼフは本を捲って最初のページを開いた。

 そこには人間同士が争っている姿が描かれている。


「今から9100年以上昔。聖天暦になる前のことです」


 旧暦だね。


「その頃、理由は分かりませんが人間は常にお互いに争っていたらしいです」


「人間同士が?」


 旧暦は悪魔と人間&天使の戦いだと思うんだけど。


「ええ。歴史家の間では、この頃の人間には心に余裕がなかったから争っていた……という説が有力のようです」


「ふーん」


「ですが、中には変な説を推す者が少数居るようです」


「変な説?」


「なんでも人間同士が争っていたのではなく、人間と別の生物が争っていたのではないか、と」


「へー。それは面白いね」


「まぁ私はあり得ないと考えていますが」


「どうしてー?」


「天使がそれを否定していたという記録が残っていますから」


「……なるほどね」


 そういうことね。


「次のページにいきましょう」


 グーゼフは本のページを捲る。

 そこには天からセミラミスらしき天使が降りてくる姿が描かれている。

 その下には人間の姿。


「これは天からセミラミスなどの天使が降臨した姿は描かれています。セミラミスたち天使は人間を導いて争いをなくしたとされています」


「……」


「隣のページです」


 人間がセミラミスに跪いている。


「多くの人間たちが自分たちを導いてくれる天使を信仰し始めたらしいです。そして、ここが9100年前の聖天暦の始まりだとか」


「ふーむ」


「それから次です」


 グーゼフがページを捲ると、天に剣を向ける人間の姿が描かれているページに。


「天使に管理されて、しばらく平和だった世界で、それを不満に思った天使を信仰していない人間が天使に剣を向けたらしいです」


「反抗かー」


「そして隣のページ」


 そのページは最初に見たタファルと最高位天使のページだった。


「セミラミスたち最高位天使は神であるタファルの存在を人間たちに伝え、タファルを信仰させることによってすべての人間をまとめたとされています」


「……ちょっと考えをまとめるので待ってもらっていい?」


「どうぞ」


 まず最初のページ。

 人間同士が争っていて天使が降臨して人間の争いをなくした話だ。

 これは天使と人間が協力して悪魔を滅亡させたというのが真実だと思う。

 この世界で天魔オンラインの年表が正しければ、だけど。


 でも、歴史に悪魔という名前は一切出てきていない。

 これは意図的に誰かが後から悪魔という存在を歴史から消したのではないかな。

 天使が別の生物の存在を否定しているから、間違いなく悪魔という名前を消したのは天使だ。

 だって、天使なら悪魔を知らない筈がない。

 何故そうしたのか、理由は分からないけどね。


 それから人間が天使に反抗した話。

 これは天魔オンラインが終了した聖天暦100年以降のことじゃないかな。

 それまではゲームだから上手くいっていたんだろうね。

 でも、ゲームが現実となったことでNPCが本物の人間となり、セミラミスは上手くいかなくなったんだ。


 そこでタファルの存在。

 俺はタファルなんて神は存在していないと考えているんだ。

 タファルというのは、おそらくセミラミスが人間を従わせる為に作った架空の存在。

 偶像。

 人間を天使の都合の良いような存在にする為にタファルを信仰させて、人間をまとめたのではないかな。


 やっぱり、この世界に来たのは俺だけじゃないんだと思う。

 きっと数多くの天使が。

 もしかしたら、サービス終了日まで天魔オンラインをプレイしていたすべてのプレイヤーがこの異世界に来た可能性がある。


 まぁ全部俺の考えすぎな可能性を大きいけどね。

 とりあえず、グーゼフに確認した方がいいことが1つある。


「ねーグーゼフ」


「何ですか?」


「悪魔って知ってる?」


「いいえ、知りませんね。聞いたこともないです」


 やっぱり知らないかー。

 これはある意味ラッキーだよ。

 だって悪魔だとバレる可能性なんてほとんどなくなった訳だし、最悪悪魔の姿を見られてもなんとかなるしね。


「悪魔というのは?」


「ごめん。間違ってたみたいー。忘れていいよー」


「そうですか」


「続きをお願いー」


「分かりました。といってもこの本は次が最後のページですがね」


 そう言ってグーゼフはページを捲った。

 最後のページには天に昇っていく沢山の天使が描かれている。


「これは?」


「これは天使消失事件のことです」


「天使消失事件?」


「聖天暦1000年くらいのことです。すべての天使が天に昇っていき、この世界から姿を消したそうです」


「世界から姿を消した……」


「これ以降、天使の姿は確認されていません。一説では天使は別の世界の人間を救いに行ったと言われています」


 世界から姿を消した天使。

 別の世界に行った?

 いや――


「元の世界に帰った?」


「ああ。そういう説もありますね。天使が自分たちの世界に帰ったっていう」


 もしかして天使たちプレイヤーは元の世界に帰る方法を見つけて、実際に帰ったのか?


「なにか、天使消失事件で他に記録が残ってない?」


「いいえ、天使消失事件はこれだけです」


「そっかー」


 まぁ残ってる訳ないかー。


「これで【神と天使の歴史】は終わりです」


 予想以上にタファルの情報がなかったなー。

 まぁ人間を救う神だとだけ知っていればいっか。


「ルシドナさん、お疲れ様でした」


「グーゼフありがとー」


 結構有用な情報は得られたし、金貨1枚分の価値はあったねー。

 それにこのグーゼフって人、相当良い人なんじゃないかなー。

 だって、言葉使いはおかしいし、年上のグーゼフに対して生意気だし、神も天使も崇めないし、普通は少しは知っていることを全然知らない俺に何も言わずに歴史を教えてくれるんだもの。


 本当に当たりだったね。


「いえいえ。続けて他も勉強しますか?」


「今はいいやー」


「そうですか」


「あっ」


 天使が居なくなって人間がどうなったのか気になるね。


「どうしました?」


「人間をまとめていた天使が居なくなっちゃったんだよね?」


「ええ」


「その後、人間はどうなったの?」


「そこに気が付くとは、やはりルシドナさんは頭が良いですね」


「そうでもないよー」


 当たり前の疑問でしょ。


「簡単にお話すると、天使と神のお陰で1つになっていた人間でしたが、天使が居なくなってからしばらくは、混乱していました。でも平和だったそうです」


「そうなんだー」


「ですが、混乱が落ち着いていくにつれて、人間の間で争いが起こるようになり、やがていくつかの国が出来て今になるんです」


「へー」


 そこでニコニコ笑顔だったグーゼフが真剣な表情になる。


「1つだけ。ルシドナさんに聞きたいことがあるんですが、いいですか?」


 悪魔のことかな?


「いいよー」


「ルシドナさんはタファルと天使について、どう思いますか? 純粋に今、歴史を知ったあなたに聞きたい」


 へー。

 タファルと天使ねー。


「んー。嘘は聞きたくないよね?」


「出来れば」


「分かったー。俺はね、タファルなんて神は信じないし、天使なんて崇めない。神を信じたところで俺は救われると思わない。天使なんて中身は意外と人間と同じなんじゃないかな」


「……」


「でもさ。信じるのは自由だよね」


「そう……ですか」


 グーゼフは先ほどまで読んでいた本を右手で触る。


「私は聖職者でありながら、神と天使をずっと疑問に思っていました。神を信仰しても世界から争いはなくならない。天使は人間を残して消える。神とは、天使とは、信仰とは一体……」


「別にいいんじゃない?」


「え?」


「そういうのはさ。個人の自由だよ。自分の信じたいものを自由に信じればいいさー」


「自分の信じたいものを信じる……」


「それに1人ぐらい、神も天使も信仰しない聖職者が居てもいいじゃん」


「……」


 グーゼフは目を数分閉じてから、ゆっくりと開いた。

 その表情は柔らかくなっている。


「ありがとう、ルシドナさん」


「いいってことよー」


「ほっほっほ。本当に面白く……そして不思議なお嬢さんですね」


 どうやらグーゼフの中で納得出来る答えが出たっぽい。

 こんなところかな。

 俺はイスから降りる。


「お帰りですか?」


「うん。あ、行きたいところがあるんだー」


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