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3魔 ダム決壊

今年最後です。

3魔 ダム決壊




 とりあえず、街を歩きながら邪魔な銀貨の入った袋を銀貨10枚だけ残してアイテムボックスに仕舞う。

 銀貨10枚はスカートのポケットに突っ込む。


「聖天暦9100年……ね」


 どうやらここは天魔オンラインが舞台の異世界っぽいね。

 サービス終了が聖天暦100年だから、9000年も時間が経っている訳だ。


「やっぱりバレる訳にはいかないね」


 まぁ悪魔が消えてから9100年も経っている訳だから、悪魔の扱いがどうなっているのか分からない。

 もしかしたら忘れ去られているかも。


「いや、それは楽観的すぎるかなー」


 忘れてはいけないのは天使の存在だ。

 俺のようにプレイヤーとしてこの世界に居る可能性がある。

 友好的ではないだろうし。


「情報を集めなくちゃ……めんどくさいけど」


 どこか良い場所探さないとねー。


「それにしても……凄いなー」


 ここから見える街並みは本当に中世風異世界ファンタジーって感じ。


 でも、街を歩いている人間はみんな同じ人種だ。

 天使どころかファンタジーでは定番の獣人やエルフ、ドワーフらしき姿は見えない。

 人間だけ。


「天魔オンラインには悪魔と天使と人間しか存在しなかったから他に居ないのかもね」


 あと気になるのは歩いている人の服かな。

 着ている服のデザインはファンタジーな感じだけど、素材は悪いようには見えない。

 この世界、意外と技術が進んでいるのかもね。


「とりあえず、まずは泊まる場所を確保しないとねー」


 どこか良い宿あるかなー。

 ベッドがふかふかで、ご飯が美味しくて、水洗トイレがあって……。


「なーんて宿は流石にないかなー……うん?」


 あれ?

 なんか股がムズムズしてきた。


「んー?」


 これってもしかして……おしっこ?

 そう自覚した瞬間、今にも股間ダムが決壊しそうになってきた。


「うわぁやばいよー」


 とりあえず、どこかお店に入ってトイレを借りよう。

 周囲をキョロキョロと見回すと、近くに何かの看板が出ている2階建ての建物を発見。


「あそこだ」


 股間ダムが決壊しないように、急ぎつつ歩いてお店に向かう。

 ドアは開いていた。

 ありがたい。


「いらっしゃいませー……」


 お店に入ると、すぐにルシドナと同じくらいの年齢の少女が声をかけてきて固まった。

 またかー。


「綺麗……お姫様みたい」


 いや、悪い気はしないけど今は……あっ。


「出そう」


「……出そう?」


「いや、ちょっと出たかも」


「何がですか?」


「おしっこ」


「おしっこって……ええええええええええ!!」


「うおー。響くからやめてー」


「あっごめんなさい! ウチのトイレを使ってください。こっちです!」


 お店の少女は俺の手を引いて、お店の奥に連れていってくれる。

 少女がお店の奥のドアを開けると、そこにはトイレが。


「おおー。俺が求めしトイレよー」


「どうぞ、使ってください」


 俺はトイレを見てから、自分の身体を見下ろして止まる。


「どうしたんですか?」


「……スカートの脱ぎ方分からない」


「えええええええええ!! じゃあ、どうやって履いたんですか!?」


 だって、最初から履いてたし。

 それに男だった俺がスカートの脱ぎ方なんて知ってる訳ないでしょ。


「もう出そう」


「ああもう!」


 少女は俺のスカートに手をかけると素早く脱がしてくれた。

 そして現れるパンチー。


「おお、パンチーだ」


「なんですかパンチーって。いいから早くトイレに!」


 そうだった。

 股間ダムが決壊しそうなんだ。


 俺はパンチーを下ろして便器に座った。


「ドアを閉めて!」


 少女は顔を真っ赤にして、トイレのドアをバンッと閉めた。

 そんなことよりも今はトイレだ。

 俺は全身を脱力させて、すべてを解き放つ。


「ふぅ……」


 スッキリー。

 股間ダムは決壊したが、受け皿が間に合ったのだ。

 良かった。

 いきなりおしっこを漏らしたりなんかしたくなかったからね。


「お?」


 リラックスしていると、周りが見えてくる。

 なんと、このトイレは水洗トイレだ!


「おお!」


 しかも、横の壁にトイレットペーパーまで完備されている。


「おおー!」


 更に小さな洗面器まで設置されている。

 蛇口をひねってみると水が出た!


「上下水道完備だと……」


 素晴らしい!

 もしやこの世界ではこれが当たり前なんだろうか?

 そうだったら暮らしやすいぞ。


 すべてを解放し終えたので、トイレットペーパーを巻き取り、股間に押し当てた。

 やっぱりバベルの塔がないと変な感じ。

 まぁそのうち慣れるでしょ。


 そう楽観的に考えながら、便器から立ち上がってパンチーを上げる。

 そしてトイレの取っ手を下ろして水を流す。


「ちゃんと流れてるねー」


 それを確認した俺は洗面器で手を洗ってからドアを開けた。


「終わりましたか? ってスカートを履いてからドアを開けてください!」


「だって分かんないだよー。教えてくれー」


「もう!」


 少女はプンスカ怒りながらも丁寧に教えてくれた。


「分かりましたか?」


「完璧。今日から俺はスカートマスター」


「ふふっなんですか、それ」


 今気が付いたけど、この子結構可愛いね。

 まぁルシドナには及ばないけど。


「助かったよー。ありがとー」


「いいですよ。お店で漏らされても困りますから」


「確かに」


 俺は少女とお店の奥から中に戻る。

 さっきは気にしている余裕がなかったから気が付かなかったけど、このお店は食堂かな?

 テーブルとイスがいくつか置いてある。

 人は居ないけど。


「このお店は食堂なの?」


「何のお店かも分かってなかったんですね……」


「急いでたからねー」


「ウチは【小鳥の羽】っていう食堂兼宿屋ですよ。見て分かるように繁盛していない小さなお店です」


「おおー」


 ここが宿屋とは……運が良い。

 水洗トイレがあるなら泊まった方が良いよね。


「じゃあ部屋は空いてる?」


「え? 泊まるんですか?」


「ダメなの?」


「ダメではないですけど、ウチは小さな安宿ですよ?」


「いいよー。トイレがあってベッドがあるなら」


「ふふっ変な人ですね」


「一泊いくら?」


「銀貨3枚で食事は一食銅貨5枚です」


「じゃあ3泊分でー」


 俺はポケットから銀貨を9枚取り出して、少女に手渡した。

 あとでポケットに銀貨を補充しておこう。


「はい、確かに。それでお客さまのお名前は?」


「俺はルシドナ・サタゴールだよ」


「も、もしかしてお貴族さまですか?」


「違うよー。何で?」


「そうですか。この国では家名持ちは貴族しかいないんですよ」


「そうなんだ。俺は他国の出だからね」


「そうなんですか」


 家名持ちは貴族なんだね。

 じゃあ普段は名前だけ名乗っていこう。

 面倒が起きそうだしね。


「それで、君はなんていう名前なの?」


「あ、わたしはここの一人娘のセリカっていいます」


「セリカね。よろしくー」


「はい。よろしくお願いします」


「一人娘ってことは家族でやってるの?」


「そうですよ。父と2人でやってます」


「2人なんだ。大変そうだねー」


「ウチは小さいんで、そうでもないんですよ」


「へー」


「あ、お部屋にご案内します」


「うん」


 セリカは階段を上っていく。

 俺もセリカに付いていき、階段を上った。


「ここです」


 階段を上ってすぐのドアの前でセリカが止まる。

 どうやらここが俺の部屋らしい。

 セリカは鍵を取り出して、ドアの鍵を開けて中に入った。

 俺も続いて部屋の中に入る。


「おー」


 部屋の中は窓が1つにベッドとテーブルとイスが置いてあるだけのシンプルな部屋だった。

 いや、壁にかかっている時計もある。


「んー?」


 驚くことに時計は12個の数字と長針と短針がある。

 つまり元の世界と同じだ。


「どうしました?」


「いや、なんでもないよ」


 よく考えれば、天魔オンラインの世界が舞台の異世界なら時計が同じでもおかしくないのかも。

 ちなみに今は10時12分。


「これがこの部屋の鍵です。失くさないようにしてください。トイレは2階にもあります。部屋を出て左です」


「分かったー」


 セリカは部屋の鍵を俺に手渡してくる。


「あと照明は自由に使っていいですから」


「照明?」


「あれですよ」


 そう言ってセリカは天井を指差した。


「おおう」


 普通に地球にありそうな照明器具が天井に設置されていた。

 ここって異世界ですよね?

 これじゃ外国に来たみたいだ。


「使い方は分かりますよね?」


「えー多分?」


「はぁ……壁のスイッチを押せばいいんですよ」


 確かに壁にはスイッチがあった。


「じゃあ、わたしは戻りますね。ごゆっくりどうぞ」


 そう言ってセリカは部屋から出ていった。


 とりあえず、これからを考えようか。

 部屋の鍵をテーブルに置いてから、俺はベッドに腰掛ける。


「おお」


 安宿なんて言ってたけど、ベッドの座り心地は悪くない。

 横になってみる。

 良いね。

 ここは当たりかなー。


「しばらくはこの宿を拠点として情報収集だね。あとは……ふぁーあ」


 なんか眠くなってきちゃった。

 寝ちゃおうか。


「他は起きてから考えよう。それが……良い」


 睡魔に身を委ねるとすぐに意識が遠のいていく。


「おやすみ……」


♢♢♢


「んあ?」


 目が覚めた。

 部屋の中は真っ暗だ。

 いや、ちょっとだけ窓の外から光が入ってきている。


「よいしょ」


 ベッドから立ち上がって壁のスイッチを押すと部屋が明るくなる。

 時計は……8時30分。


「10時間も寝ちゃったのかー。そんなに寝るつもりはなかったんだけど……まぁいいや」


 情報収集はまた明日だねー。

 そういえば、朝も昼も夜もご飯を食べていないけど、お腹は空いていない。

 もしかして悪魔ってご飯を食べなくてもいいのかも。

 でも、おしっこは出たし食べることも出来るんだと思う。


「これって自由にぐうたらして、ご飯を食べたい時だけ食べれば……楽ちんだね」


 身分証も1ヶ月の猶予があるし、お金はまだまだあるから宿に籠っていれば悪魔だとバレる心配もないし。


「しばらくはぐうたらしてようかなー」


 急ぐことはないよね。


「という訳でおやすみー」


 俺は再びベッドに横になって眠りにつく。


♢♢♢


「ルシドナさーん!」


「んあー?」


「起きてますかー?」


 誰か部屋の外で俺を呼んでる。


「あいあいー。開いてるよー」


 部屋に入ってきたのはセリカだった。


「なんで鍵を閉めてないんですか! 不用心ですよ!」


「はいはい。それでなにー?」


「あ、そうでした。ルシドナさん大丈夫ですか?」


「え? なにが?」


 なんか心配されることあったかな?


「なにがって……ルシドナさん昨日の朝からずっと部屋に籠って出てきてないじゃないですか。もうお昼ですよ?」


「あー。そんなに寝てたんだ」


「もう! 食べ物も持ってなかったみたいだし、心配だったんですからね!」


「おー」


 良い子だ。

 この子、良い子だねー。

 ただのお客を心配するなんて。


「おーってなんですか?」


「いやー。セリカって良い子だなーって」


「もう!」


 プンスカ怒りながらもセリカは嬉しそうだ。


「……あの」


「んー」


 そこで何故かセリカがモジモジし始める。


「その……ルシドナちゃんって呼んでもいいですか?」


「いいよー」


「いいんですか!」


「うん。タメ口でもいいよー」


 別に俺はそういうの気にしないしね。


「いや、口調は癖なんです」


「そっかー」


 敬語が癖なんだ。

 たまにそういう人居るよね。


「ルシドナちゃん、下に降りてきてご飯を食べてください」


「んー。でもなー」


「お金がないんですか?」


「いや、お金はあるよー。ただ……」


「ただ?」


「食べるのがめんどくさい」


「もう! そんなこと言ってないで食べてくださいね」


 そう言ってセリカは部屋から出ていった。


「しょうがないなー」


 まぁどんなご飯が出るのか興味があるからいいけどね。

 俺は部屋から出て階段を下りる。


「ルシドナちゃん。席に座って待っててください」


「分かったよー」


 俺は空いている席に座った。

 といっても全席空いているんだけどね。

 昼時にこれって大丈夫なのかな?


「はい、どうぞ」


 セリカは俺の前に食事の乗ったトレーを置いた。

 トレーの上には、なんと白いご飯と焼き魚。

 しかも、お箸付き。


「うわー」


「ルシドナちゃん、嫌いなものでもありました?」


「いや、ちょっと驚いただけ」


 まさか異世界に来て白米と焼き魚が出てくるとはね。

 なんか、本当に異世界に来たのか疑問に思いそうになるけど、実際に俺はルシドナになっているし、他にも色々あるからなー。

 まぁご飯が美味しければ良いや。


「?」


 セリカは不思議そうな顔で俺を見ているが、気にせずお箸を手に取り白米を一口。


「美味しい」


 焼き魚もモグモグ。


「これも美味しい」


 いい塩加減だ

 何の魚か分からないし、別に食にうるさかったり詳しい訳じゃないけど、美味しければオッケー。


「良かったです。ご飯は父が作っているんですよ!」


「腕の良いお父さんだね」


「はい!」


 セリカはニコニコ笑顔。

 お父さんが褒められるのが嬉しいんだね。


「おかわりもありますから、どんどん食べてくださいね!」


「いやー。これだけでお腹いっぱいになるからいいよ」


「そうですか」


 何故か俺の隣でこっちを見ているセリカを気にせずにモグモグとご飯を食べる。


「ごちそうさま。美味しかったよ」


「それは良かったです!」


 食べ終えてお箸を置く。


「銅貨5枚だっけ?」


「お金はいいですよ」


「いや、俺お金はあるから」


「そうなんですか?」


 俺はポケットから銀貨を1枚取り出してセリカに手渡す。


「分かりました。では、お釣りの銅貨5枚です」


 どうやら銅貨10枚で銀貨1枚らしい。

 俺は銅貨5枚を受け取ってポケットに仕舞った。


「じゃあ、俺はこれで……」


「どこに行こうとしているんですか?」


 ガシッとセリカに肩を掴まれた。

 意外と力が強い。


「いやー。食後のお昼寝をしようかなーって」


「もう! 十分寝ましたよね?」


 セリカにプンスカ怒られる。


「別に俺が何時どれだけ寝ようが自由でしょー」


「ずっと部屋に籠って寝ているのは健康に悪いです! 少し散歩でもしてきてください!」


「えー」


 まぁ情報収集もしないといけないし、身分証も手に入れないとだし、お金を稼ぐ手段もあった方がいい。

 しょうがないなー。


「分かったよ。散歩してくるね」


「はい。いってらっしゃい」


「いってきまーす」


 俺は宿の出口まで歩いてから振り返る。


「あ、そうだ。セリカー」


「なんですか?」


「教会ってさ、どこ?」

良いお年を。

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