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2魔 ハローつるぺた

2魔 ハローつるぺた




「……んあ?」


 気が付くと、俺は目を閉じてどこかに立っていた。

 身体の感覚も何時もと違うような気がする。

 なんだろ?

 ゆっくりと閉じていた目を開ける。


「あれ?」


 何故か俺は外に立っていた。

 さっきまで家の中でPCの前に座っていたのに。


「んー? 確か天魔オンラインにログインした筈なんだけどなー」


 周囲を見回すと、どうやら俺は見渡しの良い大地に立っているのが分かった。

 俺の立っている地面は色が変わっていて踏み固められた道っぽい。

 道のずっと先には石の壁のような物が見える。


「なんだろーここ」


 というか、やっぱりさっきから身体の感覚が何時もと違っていて、しかも視線がなんか低い。

 自分の両手を見る。

 透き通るような白い肌に細い腕。


「もしかして……」


 ある可能性が頭をよぎった。

 俺はゆっくりと両手で胸を触る。


「ない」


 次に股間に手を伸ばして――


「……ない」


 やっぱり俺の股間にある筈のバベルの塔がなくなっていた。

 胸もないが男の胸ではない……よね?

 多分、つるぺただ。


「グッバイ俺のバベルの塔。ハローつるぺた」


 いや、そんなことを言っている場合ではない。

 見知らぬ大地に女性の身体。

 俺はこういう状況で何をすれば良いか知っている。


「ステータスー」


 そう口にすると目の前に何かが出る。


=================================


 名前:ルシドナ・サタゴール

 種族:下級悪魔(レッサーデーモン)


 レベル:1

 ソウルポイント:1


 スキル:【ステータス】【アイテムボックス】【人間擬態】【ソウルポイント増幅炉】【金色の魔眼】


=================================


「うわぁ……本当に出ちゃったよ」


 半分くらい冗談だったんだけどなー。

 ラノベっぽい展開だから試してみたんだけど、やっぱりこれって――


「TS異世界転生だよねー」


 しかも、名前がルシドナ・サタゴールで種族が下級悪魔(レッサーデーモン)って完全に俺が天魔オンラインで作成したキャラクターだ。


「つまり、俺は自分の作ったキャラクターになっちゃったってことだよね?」


 まじかー。

 悪魔の女の子になっちゃったのかー。


「……まぁ別に異世界転生して女の子になっても、俺としてはぐうたらして好きなことが出来ればなんでも良いんだけど」


 正直、ショックとかはない。

 別に男だということに誇りがあった訳ではない。

 流石に女になったからといって男が好きになったり、心まで女になった訳じゃないからね。


 それに元の世界に未練があったりもしない。

 元の世界に家族は残ってないし、仕事もしてないし、残した物なんてお金くらいだし。


「あ、ぐうたら出来ないなら戻りたいかも」


 まぁただ、本当にラノベみたいな展開があるんだなーって感じ。

 こんなだから、よくマイペースだって言われるんだよ。


「慌てることってあんまりないんだよね」


 問題はこれがどっちのパターンかだね。


「ゲームキャラクターで完全に未知の異世界に来たのか、それとも天魔オンラインが舞台の異世界に来たのか」


 前者だったらまだ良いけど、後者だとまずいよね。

 だって俺は悪魔になってしまった訳で。

 天魔オンラインでは悪魔は積極的に狩られる側だったから……。


「この世界の様子が分かるまで悪魔だってバレる訳にはいかないねー」


 とりあえず、さっきのステータスに使えそうなスキルがあった。

 【人間擬態】ってやつ。

 多分、姿が人間に変わるんじゃないかな?


「使い方は……おお?」


 スキルの人間擬態を意識したら使い方などの知識が自然に頭に思い浮かぶ。


「これは便利だね」


 やっぱり人間擬態は自分の姿を人間に変えるスキルだった。

 早速、使用してみる。


「……変わったのかな?」


 自分の姿が見れないから分からないけど、人間擬態は発動している。

 多分、変わっているでしょ。


「これで、しばらくは大丈夫だねー」


 じゃあ、もう一回ステータスを確認してみよう。


=================================


 名前:ルシドナ・サタゴール

 種族:下級悪魔(レッサーデーモン)


 レベル:1

 ソウルポイント:1


 スキル:【ステータス】【アイテムボックス】【人間擬態】【ソウルポイント増幅炉】【金色の魔眼】


=================================


「さっきも思ったけど、随分スッキリとしたステータスだよね」


 天魔オンラインとかのゲームや、普通の異世界転生ものってHPとかMPとかが表示されるのが当たり前なのに。

 まぁいいけどね。

 順番に確認していこうか。


「名前はルシドナ・サタゴール。種族は下級悪魔(レッサーデーモン)


 これは俺が天魔オンラインで作成したキャラクターのまんま。


 次にレベル。

 普通はレベルが上がれば強くなれるやつ。

 今は転生したばかりだからレベル1だね。


「そしてソウルポイント」


 ソウルポイントは天魔オンラインにあったシステムだ。

 魂を吸収すると数値が溜まっていく。

 天魔オンラインと同じならソウルポイントを使用することでレベルが上がる筈。


 次はスキルの確認。

 ステータスは自分のステータスを確認することが出来るスキル。

 アイテムボックスは異世界転生ものの定番スキル。

 物を自由に出し入れ出来るスキルで、容量無制限で中に入れた物の時間停止機能付き。


「便利だねー。中身はスキルを確認してから見てみようか」


 人間擬態はもう分かっているから、その次のソウルポイント増幅炉。

 効果は、吸収した魂を燃やして100倍のソウルポイントを得るというもの。


「これって天魔オンラインのサービス終了記念キャンペーンであった獲得経験値100倍だよね」


 俺の種族が小悪魔(デビル)じゃなくて下級悪魔(レッサーデーモン)だし、経験値100倍もあってもおかしくないかー。

 これはラッキーかも。


「上手く使えば楽な生活も出来そう」


 最後は金色の魔眼。

 これは目で見た相手のステータスを確認出来るスキルっぽいんだけど、それだけじゃないっぽい。

 他にも能力がありそう。

 今はまだ分からない。


「こんなところかなー」


 じゃあアイテムボックスの中身でも確認しようかな。

 アイテムボックスを意識すると頭の中に現在アイテムボックスの中に入っている物のリストが浮かんでくる。


「えーっと……URスキルチケットと金貨1万枚かー」


 種族やスキルがあれだから予想はしていたけど、やっぱりサービス終了記念キャンペーンのアイテムが入っていたね。

 試しにURスキルチケットと金貨1枚を取り出そうとしてみる。


「おお、凄い」


 右手の先に黒い穴が広がって、そこに手を突っ込んでから引き出すと、手の中にはURスキルチケットと金貨が。


「便利だねー」


 見た目、URスキルチケットは虹色をしたチケットで、金貨はファンタジーによくある感じ。


「とりあえず持ってるだけじゃもったいないし、URスキルチケット使ってみようかな」


 アイテムボックスに金貨仕舞ってから握ったチケットの切り取り線通りに切る。

 すると、URスキルチケットが虹色に輝いて俺の身体の中に入った。


「これでスキルは手に入ったのかな?」


 ステータスからスキルを確認してみると【偉大なる悪魔の母グランドデーモンマザー】というスキルが追加されていた。


「【偉大なる悪魔の母グランドデーモンマザー】かぁ。効果はどんな感じだろ?」


 えっと……【偉大なる悪魔の母グランドデーモンマザー】は新たな悪魔を産み出すスキルらしい。


「へー。配下を増やせる感じかな?」


 悪魔を産み出すにはソウルポイントが必要で、自分よりも強い悪魔は産み出せない。

 俺の強さに応じて産み出せる悪魔の数が増える。

 現在は1体。


「なるほど。ソウルポイントで悪魔を産み出せるんだ。でも、今はソウルポイントが1しかないから無理だね」


 これはソウルポイントを手に入れた後のお楽しみかな。


 あとは産み出した悪魔の強さについて。

 ソウルポイントを多く使って悪魔を産み出せば、自分に近い強さの悪魔をいきなり産み出せる。

 ただし、あまり成長は期待出来ないっぽい。


 強くしたいなら、ソウルポイントを多く使って潜在能力を高くして初期種族の小悪魔(デビル)から育てるのが良いらしい。


「面倒かもだけど、面白そうだねー。配下が出来れば楽も出来そうだし、楽しみー」


 でも悪魔を産み出すにはソウルポイントが必要だし、ソウルポイントを得るには魂を吸収しなければいけないからまだ先かな。


「面白くなってきた。まぁまずはあそこに行こうか」


 道が伸びている先にある石の壁。

 俺の考えが当たっていれば、あれは街の外壁だと思う。


「情報を集めなくちゃいけないし、野宿なんて嫌だからねー」


 まずは街を目指そう。

 俺は石の壁目指して道を歩き出した。


♢♢♢


「おー。人が沢山」


 体感で30分くらい歩いていると石の壁がよく見えてきた。

 石の壁はやっぱり街の外壁だったようで、人が沢山並んでいる。


「これってやっぱり街に入る列だよね? 長いなぁ」


 まぁしょうがない。

 並ぼうか。


 列の最後尾に並ぶ。

 前は荷馬車だ。


「荷馬車なんてリアルで初めて見たよ」


 ここはやっぱり異世界だね。

 悪魔が居て、ステータスやスキルがあって中世の地球です。

 なんてことはないでしょ。


「このまま何も起きずに街に入れれば良いなー」


 俺が悪魔だとバレなければいいけど、どうかな?

 まぁバレたらバレたで、その時は全力で逃げよう。


 そうやって軽く適当に考えながら待っていると、列が少しずつ進み始める。

 これなら意外と早く俺の番が来るかも。


 あ、そうだ。

 こういうのって街に入るのにお金がかかるのが定番だよね。

 一応、金貨は持っているけど、使えるかな?

 とりあえず金貨を1枚だけアイテムボックスから出して持っておこう。


 ボケーっとしていたら、何時の間にか前の荷馬車の番になっていた。

 30分くらいかな?

 早かったね


「次!」


 あ、俺の番だ。

 俺はゆっくりと歩いて門番の前で止まる。

 門番は中年の兵士の男だ。


「よし! 次はおま……」


 門番は何故か俺の顔を見て口を開けて固まった。


「んー?」


 もしかして悪魔ってバレた?

 とりあえず声をかけてみよう。


「どうしたの、門番さん?」


「……え、あ、その……お嬢ちゃん?」


「うん?」


「お嬢ちゃん、いやお嬢さんは貴族さまでしょうか?」


 え?

 貴族?

 なんで?


「んー? 違うよ」


「そ、そうなのか」


「なんでそう思ったの?」


「いや、その……だな。お嬢ちゃんがあまりにも……その……綺麗だから」


「うん?」


 ……ああ。

 なるほど、そういうことね。


 このルシドナは俺が頑張って可愛く綺麗に作ったんだ。

 それも人とは思えないような美しさで。

 そんなルシドナの姿が今の俺なんだよ。

 そりゃ目を奪われてもしょうがないね。


 良かった。

 悪魔だってバレた訳じゃないんだ。


 でも、いくら可愛くて綺麗でも少女だし、この門番はロリコンかな?

 しかも、中身は男なのに。

 なんか可愛そう。

 まぁ自分のキャラクターが褒められるのは悪い気はしないし、とりあえずお礼を言っておこうか。


「ありがとう。それで街の中には入れるの?」


「あ、ああ。お嬢ちゃんは何か身分を証明する物は持っているかな?」


 身分証明書が必要なのかー。

 どうしよ、持ってないや。


「ないけど。持ってないと入れない?」


「い、いや。なくても入れるよ。ここで仮の身分証を発行するからね」


「そうなんだ。良かったー」


「ただ、1ヶ月以内にちゃんとした身分証を発行して仮の身分証をここか、他の詰所に返さないといけないよ」


「分かったよー」


「あと分かっていると思うけど、街に入るには税がかかるからね。銀貨2枚だよ」


 あー。

 やっぱりお金がかかっちゃうかー。

 とりあえず持っている金貨を渡してみよう。


「はいこれ」


「ああ……ってお嬢ちゃん!」


 何故か門番が慌てて金貨を受け取って隠す。

 なんだろう?


「これ金貨じゃないか。いくらこの街の治安が良いからって、こんなところで金貨を出しちゃダメだよ」


「あ、そうなんだ」


「あ、そうなんだって……やっぱりお嬢ちゃん貴族なんじゃ……」


 どうやら金貨は普通に使えるらしいね。

 しかも、結構価値が高いっぽい。

 まだ9,999枚もあるし、しばらくは働かないでぐうたらと過ごせるかな。


 門番は金貨を持って門にある多分詰所に入ってから、何かの入った布の袋を持って戻ってきた。


「お釣りの銀貨98枚だよ」


 銀貨100枚で金貨1枚の価値かー。

 袋を受け取る。

 結構ずっしりとしていた。


「これで手続きは終わり。街に入っていいよ」


「ありがとう。あ、聞きたいことがあるんだけど」


「少しなら大丈夫だよ」


「身分証はどこで発行すればいいの?」


「普通はどこかのギルドで登録すれば良いんだけど、お嬢ちゃんの場合、冒険者ギルドや商人ギルドは厳しそうだし、誰かに後見人になってもらうのが一番かな」


 おお。

 異世界ファンタジーの定番、冒険者ギルドがあるんだ。

 俺は普通の人よりは強いだろうし、冒険者になれそう。

 見た目が少女だけど。

 それがダメなら、アイテムボックスがあるから商人になれば良い。


「分かったー。あとこの街の名前を聞いて良い?」


「名前を知らないで街に入ろうとしたのかい?」


「いや、ちゃんと目指していた街に着いたのか確認」


 嘘だけど。


「それって最初に聞くことじゃないのかな」


「確かにー」


「はぁ……まぁいいけどね。ここは【シーナスカ】って街だよ」


「おお。目的地だよー」


 これも嘘だけどね。


「後ろが詰まってるから、そろそろいいかい?」


「あ、最後に1つだけ。今は何年の何月?」


「聖天暦9100年の2月だよ」


「ありがとう。じゃあねー」


 門番に手を振って街の中に足を踏み入れた。

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