第9話 兎と蛇
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「ティト、次はシルバースネークを探索してくれるかい?」
「うん、分かった」
笑顔兎の肉でお腹いっぱいになった俺達は、次の獲物シルバースネークを探した。前回、全く歯が立たなかったシルバースネークをどう倒すか作戦は練ってある。前の俺とは違う所を大蛇達に見せてやる。といっても、俺を知ってるやつはいないか。
「山の近くに沢山いる。シルバースネークは強い。大丈夫?」
「沢山いるのか。ティト。1匹だけいる場所があれば、先に案内してくれる?」
「分かった。こっち」
フワフワの耳をピクピクさせながらティトは、方角を決めて廃鉱近くの山道に歩を進める。少しすると銀色の塊が蜷局を巻いているのが見えた。普段は、蜷局巻いて昼寝でもしてるのだろうか。
「種:ランダム!」
俺は、種を使用した。作戦通りなら種能力は不要だが念の為だ。やはり今回も賽子が手元に実体化した。熟練度2になったことで能力が変化したのだろうか。近くの切り株の上に、賽子を転がすと3つの目が決まった。
店で使った時と同じく赤く点滅している。俺の視界に、【発動】と【再投】の文字が浮かんでいる。【再投】を選択するように意思を込めると賽子が一度宙を舞い切り株の上を再び転がった。3つの目が決まると、賽子はその場から消えた。
俺の視界には、2回分の結果が現れた。結果の良さそうな方を選択すると種紋が赤く光り輝いた。種能力発動だ。どうやら熟練度の上昇により再投すると2回分の能力が選べるようになったみたいだ。これは、使えそうだ。
「ティト、予定通りに頼むね」
「了解」
俺は、ティトに声を掛けるとシルバースネークに向けて風の球を放つ。蜷局を巻いて昼寝中のシルバースネークに当たる。奴は、不意打ちを受けた方向に顔を向け大きく口を開き威嚇してくる。あの毒牙に気を付けなければ。
「えい!」
ティトが、シルバースネークに向かって赤い球を投げつける。飛んでくる赤い球に気付いたシルバースネークは、素早く首を振って球を避ける。
「失敗か」
作戦失敗を言葉に出した俺だったが、次の瞬間、目を見開いた。一度避けた球を大きな口で奴は飲み込んだ。
「ティト、こっちへこい」
「うん」
シルバースネークが赤い球を飲み込んだのを確認して、ティトを近くまで呼び寄せる。2人揃ったところで、素早く光魔法を使う。
「光の壁!」
パァーン!!!!
笑顔兎の肉を巻き付けた炎の結晶を飲み込んだシルバースネークが弾け飛んだ。爆風と共に銀の肉塊が飛んでくるが光の壁のおかげで無傷だ。
肉塊となったシルバースネークが虹色の光に包まれ魔魂石と変わりアイテム袋に吸い込まれる。
【シルバースネークの魔魂石】を入手した。
コンバートドロップ
1. 【大蛇の銀鱗】2枚
2.【銀蛇の肉】2個
3.【シード:毒牙 特殊系統】2粒
1匹で銀鱗2枚ゲット。これなら、かなり稼げそうだ。笑顔兎の肉と炎の結晶は、まだまだ在庫がある。この調子でシルバースネークをじゃんじゃん倒していこう。
「ロア、凄い!言った通りになった」
「ティトの腕とイースさんの知恵だよ。俺は、炎の結晶を大人買いしただけさ」
「様子を見ながら、一度に倒す数を増やしていこう。次から俺も攻撃に参加できるから」
「了解。次は、こっち」
ティトに案内してもらい次の獲物に辿り着いた。今度は、2匹が仲良く蜷局を巻いている。野球ゲームで鍛えた俺の腕前を見せるチャンスだ。
「風の球!」
先程と同じく2匹に風の球を当てて昼寝から起こす。起き上がったシルバースネーク達が、大口を開いて俺達を睨み付ける。後退りながら、風の球を2匹にもう一度放ち、右手に持っているシルバースネーク大好物の笑顔兎の肉巻き炎結晶を投げつける。少し遅れてティトも炎の結晶を投げつける。
飛んでくる大好物に大口を開き、左側のシルバースネークが体を伸ばしティトの投げた結晶を飲み込む。振り返って、俺の投げた結晶も飲み込もうとする。マジかよ、独り占めする気か。
2個目も続いて飲み込もうとすると俺の投げた結晶が軌道を変えて、狙い通りに右側のシルバースネークの口へ吸い込まれる。独り占めしようとしたシルバースネークの牙がカチッと空を切る。
「見たか、魔球ロアスペシャル!」
「え、え、ロア、今のどうやった?」
有り得ない軌道を描いた結晶を目にしたティトが驚き、俺の腕を掴んで目を輝かせて見つめてくる。ティトを抱き寄せながら俺は、光の壁を使って爆発に備える。
パパァーン!!!!
連続した破裂音がして、2匹の腹から爆発が起こり、引き裂かれた銀の肉塊が飛んでくる。遅れて2つの頭と千切れた胴体が地面に落下して地面が揺れる。暫くすると死骸が虹色の光に包まれ魔魂石となりアイテム袋に吸い込まれる。
【シルバースネークの魔魂石】を入手した。
コンバートドロップ
1. 【大蛇の銀鱗】2枚
2.【銀蛇の肉】2個
3.【シード:毒牙 特殊系統】2粒
【シルバースネークの魔魂石】を入手した。
コンバートドロップ
1. 【大蛇の銀鱗】1枚
2.【銀蛇の肉】1個
3.【シード:毒牙 特殊系統】1粒
順番にコンバートドロップが表示される。ん、数が違う。なんでだろう。まあ、確率変動なのかな。気にせず、じゃんじゃん狩りましょう。
「ロア、さっきのどうやった?」
ティトが尻尾をブンブン振って聞いてくる。興味津々のようだ。
「俺の魔球さ!」
「え、ティトもやりたい!教えて、教えて!」
「あー、種能力だから教えられないなあ……」
「ふー、それは残念」
ティトは、さっきまでピンと立っていて耳とブンブン振り回していた尻尾が垂れ下がりシュンとしている。うーん、教えられないものは仕方ないよな。まさか、ギリルさんの【一発必中】が使えるとは思わなかった。
「期待させちゃって、ごめんよ。今晩は肉にするから勘弁して」
「にっく!おにっく!うん、教えられないのは仕方ない。大丈夫!お肉楽しみ」
肉で機嫌を直してもらったところで狩りを再開だ。一発必中が使える間は、無双タイムだ。10匹でも20匹でも相手にしてやろう。
「風の球!」
「えい!」
パァーン!!!! パパァーン!!!! パパァーン!!!! パパァーン!!!!
今度は、10匹以上が昼寝中の場所までやってきた。俺達は作戦通り蛇を爆発させていく。仲間との連携って気持ちが良い。ティトが見つけて、俺が起こして、2人で結晶を投げつけて退避する。毒牙にかかることもなく、狩りは順調に進んだ。
何匹か倒して気付いたが、ティトの幸運一撃は攻撃が当たった魔物のコンバートドロップに影響するみたいだ。ドロップ率アップは、攻撃を与えなくても発動すると聞いていたが種能力だと相違があるのだろう。
気付いてからは、ティトの魔導ベルトに風属性を付与して寝坊助達を起こす担当を交代した。ティトが起こして、俺が一発必中で口の中にねじ込むという作戦だ。
「ティト、もうお昼寝シルバースネークはいない?」
「うん、沢山近くにいるけど、みんな動いてる。寝てないみたい」
「そうか、作戦を変えるか」
不意を突いて餌を投げれどうにかなるが、沢山に囲まれ無策では勝てそうにない。作戦を思い付いた俺は、森の開けた場所で笑顔兎の肉を焚火で焼いている。頭を使ったら腹も満たさないとね。ティトは、目を輝かせて肉を見つめている。丁度良く焼けた笑顔兎の肉をティトにも渡し2人で齧り付く。
「やっぱ、うまいな」
「おにっく、にっく、おいひぃ。幸せ」
笑顔兎の肉は、何度食べてもうまい。シルバースネークが飛びつくのも理解できる。丸呑みして味わえるのかは疑問が残るところではあるが。
バキバキバキ!
周囲から木々が薙ぎ倒される音が聞こえてくる。何かが近付いてきている。振り返ると数十匹のシルバースネークの大群に囲まれていた。
「ティト、作戦通りに」
「ひょうがい」
ティトに声を掛けると、口の中に残った笑顔兎の肉を租借しながら答えた。素早く魔導ベルトに手を掛けてナイフを投げる。紫電を纏った8本の光がシルバースネークに向かって放たれる。
キン! バチバチ! キン! バチバチ! キン! バチバチ! キン! バチバチ!
硬い鱗に当たってナイフが跳ね返る。ナイフを通じて電撃を受けたシルバースネーク達は、痺れている。刺さらずとも痺れるだけで充分だ。
口を開けて痺れているシルバースネークを狙って炎の結晶を投げつける。光の壁を使うことも忘れずに。
パァーン!!!! パパァーン!!!! ドーン! バキバキ!
痺れながらも間抜けに口を開けていたシルバースネークの何匹かが弾け飛ぶ。群れで俺達を取り囲んでいたのが仇となって、破裂した大蛇の破片が無傷のシルバースネーク達に当たり吹き飛んでいく。巨体が木々に当たり一瞬にして周囲の様子が一変した。
ティトは、爆発が収まったのを確認すると駆け出し新しいナイフを投擲する。一度目に使ったナイフをベルトの鞘に回収することも忘れていない。見事な手際だ。
痺れから解放されたシルバースネークに向けて、俺は炎の結晶を投げつける。ティトとの連携を繰り返していくうちに敵の数は減っていった。
「これで、ラスト!」
「らすとぉー」
2人で戦いの終わりを叫ぶ。パァーン!!!!最後の1匹が弾け飛んだ。
一時は50匹以上に囲まれていたが、無傷で戦いを終えることができた。イース商会で大人買いした500個の結晶も使い切った。クエスト納品に充分過ぎる量をゲットしたので、そろそろ帰るとしよう。俺は、リターンストーンに魔力を込めてギルドへ帰還した。
「ロアさん、おかえりなさい。今日は、どうでしたか?」
「バッチリです!」
「沢山倒した」
俺は、アイテム袋から大量の魔魂石を取り出してギルドカウンターに置いていく。50個程置いたところで驚いた表情のカレンさんから待ったがかかった。カウンターに置ききれない量だと伝えるとカレンさんは2種類の袋を俺に手渡し、別々に入れて欲しいと頼んできた。要望通りに、納品予定の数量を袋に入れてカレンさんに渡すとカウンター裏へ行って数量の確認作業を始めた。
「ティト、今晩は約束通り御馳走だ!」
「おにく、沢山食べて良い?」
「おう、好きなだけ食べていいぞ!」
2人で夕食の話をしているとカレンさんが報酬を入れた袋を持って戻ってきた。笑顔兎の肉を100個、大蛇の銀鱗を500個納品したので、銅貨200枚と銀貨2500枚が報酬だ。
そのまま受け取ると小銭王になってしまう。気の利くカレンさんは金貨、銀貨、銅貨を報酬分バランスよく入れて手渡してくれた。
報酬だけ見ると大儲けだが、炎の結晶が1個銀貨4枚もする。加えてリターンストーンやマジックポーションも使ったので、今日の稼ぎは銀貨500枚=100万円ぐらいだ。一気に少なく感じる。
とは言っても大金に違いない。今晩は、ティトと一緒に御馳走だ。カレンさんにお礼を告げて、ギルド内の酒場へ向かう。テーブルに着くと、注文を取りに来た女性に肉料理を盛大に持ってきて欲しいと頼んだ。
「おっにくにくにく!おにくー」
「ティト、ご機嫌だね。明日からも頼むよ」
「うん、ボク、ロアの為に頑張る。今日はホントにありがとう」
「こちらこそ、ティトのおかげで沢山稼げた。ありがとう」
向かい合ってお辞儀する姿は、少し恥ずかしかった。直ぐに注文したエールと果実酒、酒の肴が運ばれてきて、気恥ずかしさも乾杯と共に吹き飛んでいった。鳥、豚、牛、兎、猪のような沢山の肉料理が次々と運ばれてきて腹いっぱいに食べた。
味付けは、前の世界と比べると少し味気ない。それでも仲間と酌み交わす酒と食事は、とっても美味しかった。自宅で1人コンビニ飯を食っていた頃を思い出すと雲泥の差だ。ティトにコボルト族の話を聞いたり、これからの目標を語り合い大いに盛り上がった。
食事を終えるとギルドカウンターで部屋の鍵を受け取ってティトと向かう。今朝まで世話になっていた1人部屋では狭いので、クエスト報酬を受け取った際、2人部屋をカレンさんにお願いしていた。
「ティト、ここが今日の宿だ。1人部屋が良かったかい?」
「ううん、大丈夫、ロア、ありがとう」
「よし、体を拭いて着替えて寝ようか」
「うん」
ギルド内の宿には残念ながら風呂がない。風呂好きの俺には辛いが、この世界では水に濡らした布で体を拭く程度で済ますのが当たり前らしい。汗にまみれた装備を脱いで、体を拭いていく。
「ティト、これ使って」
「ロア、ありがと」
「えっ」
ティトに布を投げて、裸になった姿を見て衝撃の事実を知る。
「お、女だったのか!!!」
「やっぱり、気付いてなかった?」
ティトには、膨らみ始めた小さな胸があり、下半身には付いているはずのモノが無かった。俺は、顔を背けて体を拭いたがティトは気にしていない様子だ。面白がって近付いてくる。
「イースさんは気付いてたと思う」
「マジか、てか離れてくれ」
「ははは、ロア、女苦手なの?」
「あぁ、そうなんだ。だから隠すか離れてくれないか」
必死の説得に、ようやくティトは分かってくれたようで、元の場所に戻り体を拭き始めた。少年だと思っていたのに少女だったなんて、今後の付き合い方を考えなければ。体を拭き終えた俺達は、寝間着に着替えてそれぞれのベッドで眠りについた。トラブルもあったが、今日も平和に眠れそうだ。
次回は、生産ギルドでモノづくりです。
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