第7話 報酬の有無
7話目投稿です。 16時更新から19時更新へ変更します。11/7 サブタイトル修正しました。 8話目は今夜19時更新予定です。
リターンストーンでギルドへ戻るとウード達の手続きをしているカレンさんと目が合った。ポイズンマッシュの魔魂石を掲げて見せると小さく拍手のしぐさをしてくれた。
「では、こちらが50個分の報酬です。お納めください」
「かぁぁ!イヤール金貨50枚だぜ!これで、この街ともおさらばできるな。今晩は宴だ」
「へい、ウードさん」
カレンさんから受け取った袋の中身を確認した泥棒髭ウードが目を輝かせて、取り巻きの小太りアグーとひょろ長ビリーに声を掛ける。2人は息の合った返事をして、ウードにごまをすっている。
「ん、なんだぁ、ティトもう帰ってきたのか?怪我まで治ってるじゃねえか」
「あ、こ、この人に・・・」
ティトの存在に気付いたウードが声を掛けてきた。ティトは脅えた表情で言葉が出てこないようだ。
「どうもはじめまして。ウードさん。ロアと言います。リターンストーンでギルドへ戻ろうとした所、彼が近くにいたので一緒に戻ってきたんです。魔力も残っていたので治療もさせてもらいました。不味かったですか?」
「ふん、そいつはありがとよ。だが頼んでもいねえのに余計な事しやがって。礼に銅貨は1枚も払わねえぞ!?」
「ええ、お礼は結構です。余計な事を、失礼しました」
ウードは、気に入らない様子で俺を一瞥すると酒場の注文カウンターへと向かった。
「ちぇ、ティト行くぞ。間に合った見てぇだから飯は食わせてやる。ありがたく思え」
「ウードさんの寛大なお心に感謝しろよ」
「は、はい。ありがとうございます」
金貨50枚を前に、ウードは上機嫌で、ティトは夕飯を食べさせてもらえるようだ。ティトは、俺へ小さくお辞儀をするとウード達を追いかけて行った。
「ロアさん、手続き進めて宜しいですか?」
「あ、すみません。お願いします。」
カレンさんにポイズンマッシュの魔魂石を渡し、手続きが終わるまでギルド内の様子を見る。陽気にテーブルで酒を酌み交わす者や暗い表情で夕食をとる者、多くの人がギルドに詰め掛けている。入口近くに目線をやると見覚えのある2人の少女がギルドへ入ってきた。赤と白のローブを着た2人組だ。
「あー!横取り君じゃん!へへーん、その様子だと諦めて先に帰ってきたのかしら?」
「アーシャ、失礼な事言ってはいけませんよ。私達だって、極大魔法を使ってやっと1個よ。」
「0個と1個は大違いよ!まあ、好い気味よ。さ、ちゃちゃっと手続きしましょ」
俺は、何も答えずに会釈をした。2人は隣のカウンターにポイズンマッシュの魔魂石を差し出し手続きを始めた。あの2人も無事にゲットしていたんだ。良かった。あんなに泥だらけになって成果0だったら目も当てられない。
「ロアさん、お待たせしました。こちらが報酬です。それと良かったです。間に合って。」
「カレンさん、ありがとうございます。苦労した甲斐がありました。ん、間に合っててなんですか?」
報酬を受け取りながら、カレンさんの言葉に疑問を投げかける。
「はぁあああああ!報酬を渡せないって、どうゆうことよ!聞いてないわよ!」
「アーシャ、ちょっと落ち着いて。ギルド員さんの話を聞きましょう」
何やら隣のギルドカウンターで姉妹が揉めている様だ。報酬が貰えないなんて、どうゆうことだろう?
「ロアさんから納品頂いた物が報酬をお渡しできる規定数の100個目だったんです。最後の1個に間に合って良かったです。」
「あぁ、先着100個って今朝言ってましたね。それでは、あの2人は・・・」
「えぇ、残念ですが、報酬はお渡しできないですね。」
カレンさんから理由を聞いて納得したが、泥だらけの2人が可哀想だ。銀髪に黄色い瞳の妹アーシャは納得いかないようでカウンターに張り付いて声を荒げている。俺は、2人に近付いて声を掛ける。
「あの、これでポイズンマッシュの毒袋を買わせてもらえませんか?」
「金貨1枚って、あんた何のつもり!」
「今日、何匹倒してもゲットできなかったので、どうしても欲しくてギルド員さんへ相談していた所だったんですよ。ギルドで引き取れないなら売ってもらえませんか?」
「ははーん、そんなにお願いするなら売ってあげるわ。ほら、よこしなさい。」
「はい、では、こちら頂きますね。ありがとうございます。」
「ふん、また何か困ったら相談しなさい!す、少しくらいなら聞いてあげるわよ!」
妹アーシャは、金貨を受け取ると目を輝かせて酒場の注文カウンターへ向かっていった。現金な奴だ。銀髪に青い瞳の姉アーシェは、俺の前に立ち止まってお辞儀をする。
「妹が、ごめんなさい。それとお気遣いありがとうございます。お優しいんですね。」
「え、いや。本当に欲しかっただけなので、こちらこそありがとうございます。」
「では、また。」
姉アーシェは、美しい笑みを浮かべると再びお辞儀をして妹の後を追った。2人共、美人だが俺は断然優しいお姉さん派だな。一人納得しているとカレンさんから声を掛けられた。
「良いんですか?金貨1枚貰えるクエストなんて、なかなかないですよ?」
「結果的に、今日一日赤字ですが、まあそんな日もあるってことで良いですよ」
「ロアさんは、優しいですね。その毒袋は、どうされるおつもりですか?もし用途がお決まりでなければ、特効毒消しポーションに加工してお返しも可能ですよ?」
「特効毒消しポーションですか?それは、どういう?」
ポイズンマッシュの毒袋は、錬金術で強力な毒消しを作ることができるらしい。現在、王都周辺で猛毒の牙を持つ魔物が大量発生し被害が甚大で負傷者や討伐に大量の毒消しが必要になったという。今回クエストの報酬が法外だったのは、この件が関係しているとカレンさんが教えてくれた。
集まったポイズンマッシュの毒袋は、すぐに錬金術ギルドで加工される。俺が買い取った毒袋も一緒に加工してもらえるというのでお願いした。ちなみに、シルバースネークの毒にも効く優れものらしい。
カレンさんにお礼を告げて、酒場のテーブルへ座り夕食を頼む。エールに、鳥の丸焼き、サラダ、マッシュポテトを1人で食べる。賑やかな食卓も良かったが、ヲタク趣味な俺にとって1人は落ち着く。
大声で騒いでいるテーブルを見ると泥棒髭のウード達だった。金貨50枚分も稼いで相変わらず上機嫌のようだ。汚れ1つ付いていない鎧を見るにティトが全て仕留めたのだろう。俺達の手柄だと大騒ぎしている姿を見ると少し腹が立つ。
「この金で明日、装備とアイテムを揃えて俺達は試練の塔へ行くぞぉ。Lv20のプリーストが居ればパーティに入れてやる!付いて来たい奴は、誰かいねぇかぁ?」
「ウードさんが居ればプリーストなんていらないと思いますよ」
ウードの大声に負けず、小太りアグーと、ひょろ長ビリーが声を揃えて持ち上げる。あいつら毎回、しゃべることも同じで息が合い過ぎだろ。双子か?ティトは、Lv10だから、連れて行かないのか。3人が豪勢な御馳走を食べているのに対して、ティトはふかし芋のようなものを食べている。あぁ、なんて扱いだ。一層腹が立ったが、奴隷の扱いにケチをつけることはできない。何とかしてあげたいな。
「ロアさん、ご一緒しても良いですか?」
「あ、はい。隣へどうぞ」
突然声を掛けてきた主は、ギルドの仕事を終えたカレンさんだった。ミリアさんに、俺の事を頼まれているからと食事をしながら色々な話を聞かせてくれた。
「Lv20になったら、試練の塔へ挑戦できるですか?」
「そう、Lv20の4人パーティでしか挑めないから、ロアさんには、まだ早いですね。早く、良い仲間を見つけてくださいね!」
「はい、頑張って良いパーティ作ります!ちなみに塔の攻略は、平均して何日くらいですか?」
「今迄の最速は1週間だけど、だいたい1か月くらいかしら?失敗して再挑戦するパーティもいますよ。」
試練の塔とは、Lv20の上限に達した4人パーティが、更なるLv上限解放の為に挑戦する塔のことだ。この世界のLv上限は神とレコーダーによって管理されている。ジャニューの街で試練の塔を攻略するとLv30まで上限が解放されるらしい。Lv31以上の力を求める場合には、ミリアさん達が今朝向かったフェブレーの街へ行く必要があるらしい。フェブレーの街とは丁度いい近い内にミリアさんに会えそうだ。
「Lv10からLv20までの平均的な成長期間は、どれくらいですか?」
「だいたい、半年くらいじゃないかしら?ロアさんは、シウバ達に扱かれてブロンズアントで急激にレベルアップしたみたいですが、普通は1つレベルを上げるのも大変ですよ」
「今が、Lv15だから、あと5つか。レベル上げの裏技みたいなのないですか?」
「ふふふ、皆さんに聞かれますが地道にコツコツやるのが一番ですよ。お金に余裕がある方は、中級冒険者さんを雇って強引なレベル上げをされる場合もあるみたいですが、他人の力で得たLvは技術や経験が伴いませんからね。あまりお勧めできませんね。」
なるほど。一応、パワーレベリングみたいな風習はあるみたいだ。カレンさんは、あまり良く思っていないようだからイースさんに後で聞いてみよう。レベル上げは、サクサク行きたいからね。
「そういえば、カレンさんはギルド員になる前は、職業なんだったんですか?」
「あぁ、ミリアから聞いてないですか?戦士ですよ。」
「戦士ですか!?スマートな体からは想像できませんね。今度お手合わせお願いします!なんて・・・」
「ふふ、私の種が変わっているから細腕でも、どうにかなったんですよ。手合わせですか、最近運動していないので相手になるかわかりませんが是非お願いします。」
冗談のつもりだったのに、カレンさんは乗り気だ。変わった種ってのが気になるが手合わせした時に教えてもらおう。
「さて、御馳走様。私、そろそろ帰りますね。ロアさん、明日も頑張ってくださいね!」
「はい、身になる話を沢山ありがとうございました。またご一緒してください!」
カレンさんは、果実酒で赤く染めた頬に手を当てながら、静かにギルドを出て行った。うーん、上品なカレンさんも捨てがたい。元戦士というのが、気になるが装備を揃える口実でデートに誘うのもありかもしれない。恋愛ゲームで培ったトークスキルで頑張ろう。
試練の塔への挑戦をしばらくの目標として明日から、頑張ろう!俺は、1人でエールを飲み干してギルドの宿へ向かった。
次回は、遂に仲間が増えます! 評価・感想頂けると嬉しいです。ブックマークも嬉しいです。毎日更新頑張ります。