第17話 パーティ
ようやく亀退治終了です。
千年亀の重さに、耐えながら後ろの仲間を守るが、そろそろ限界かもしれない。背にした、光の壁がビキビキと音を立ててひび割れているのを感じる。
「時間稼ぎ、上出来よ」
声の方向に振り替えると白と赤の二重のオーラを纏ったアーシャが、杖を構えている。杖先には、真っ黒な渦が発生し、グルグルと回転している。大きさは野球ボール位だが、凝縮された魔力を見ると鳥肌が立った。
「暗黒球!」
アーシャが、魔法名を唱えると、ゆっくりと千年亀に向かって暗黒球が飛んでいく。
「あんた、避けないと死ぬわよ!」
暗黒球の動きを見つめていた俺に、杖を構えて脂汗をかくアーシャが物騒なことを言う。避けろと言われても、千年亀の体当たりに耐えるのが精一杯で、暗黒球を素早く躱すことは難しい。
「全員、しゃがんでくれ!」
俺は、皆に声を掛けてから、体勢を低くして、千年亀を上方に受け流す。俺によって押さえつけられていた力が解放され、暗黒球と見事に激突する。
暗黒球と激突した千年亀の身体は、今迄、激しく回転していたのが嘘のように動きを止めて、ピタッと暗黒球にくっついて宙に浮いている。
「いっけぇぇぇぇぇ!!!!!」
アーシャが叫ぶと暗黒球が、大質量の千年亀を少しづつ押し戻す。浮上してきた沼の中心まで辿り着く。
「暗黒球!飲み込め!」
突如、暗黒球が爆発し辺り一面を真っ黒に染めて飲み込んでいく。俺は、ティト、アーシェ、アーシャに覆い被さり吸い込まれそうになるのを必死で耐える。
ズボ、ズボ、ズボ、ズボ!
「引力!」
極限質量で、重くなった両手両足を大地に突き刺し、引力を掛ける。
「ぎゅうぎゅう」
俺に挟まれたティトが声をだす。憎まれ口、代表のアーシャから文句を言われないのは意外だ。
パァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
巨大な風船がはじけ飛ぶような音が聞こえると、引っ張られる力が急に弱くなり、振り返ると、辺りの景色が一変していた。
「なっ、なんだこれ」
「おっきなあな」
視界には笑えない光景が広がっていた。さっきまで、あった沼地は、べっこりと凹んで、大きな穴が空いていた。
大穴を、その場から呆然と見つめていると、穴から虹色の光が飛んできて、俺のアイテム袋に吸い込まれた。
【千年亀の魔魂石】を入手した。
コンバートドロップ
1. 【千年亀の甲羅】1個
2.【種: 甲羅の加護 特殊系統】1粒
千年亀ごと飲み込まれたと思ったが、魔魂石は回収できたらしい。
「アーシェ、アーシャ!やったぞ!」
先程から、何もしゃべらない2人に声を掛けながら振り返る。返事はない。2人共、青白い顔をして、仰向けに倒れたままだ。
「アーシェ!大丈夫か」
「ま、まりょ」
姉アーシェに声を掛けると小さな声で何かを言った。アーシェの横に屈んで、上体を起こすと彼女のステータスが読み取れた。俺は、アイテム袋から、便を取り出し、口元に当てる。
少しだけ意識があるアーシェは、口から喉にかけて流れてくるマジックポーションをゴクっと小さな音を立てて、飲む込むことができた。俺は、ステータスの回復を確認し、ティトにもう1本のマジックポーションを手渡して、アーシェの事を任せる。
「アーシャ!!生きてるか!?おいっ!アーシャ!」
アーシャに近付いて、同じように声を掛けるが、返事がない。アーシャの身体に触れて、ゆっくりと上体を起こすとMPだけ失っていた姉と違って、妹アーシャはHPも一桁になっていた。
「うーん、これは医療行為です。仕方ないよな」
「いりょうこうい?」
隣で、アーシェにマジックポーションを飲ませているティトの質問には答えずに、俺はアイテム袋から特製ポーションを取り出して、自分の口へ含む。
続いて、恐る恐るアーシャの顔に自分の顔を近づける。よし、気を失ったままだ。意を決して、勢いよく口付けをする。
ガッ
勢いが良すぎて、歯と歯がぶつかってしまった。童貞のイージーミスだ。仕方ない。アーシャが起きていない事を確認し、もう一度ゆっくりと唇を重ねる。ゆっくりと少しづつ、ポーションを口の中に流し込む。
ゴクッと喉が、小さな音を立ててポーションを飲み込んでいく。俺は、美少女とのキスいや、医療行為を続けた。1本目を飲み干しても、まだ回復は不十分だった。2本目も続けて、口移しで飲み込ませると、ステータス上では安全圏に達したのが確認できた。
2本目は、歯をぶつけずに上手くできた。俺も、やればできるじゃないか。アーシャから顔を離して、顔色を見ると少し赤みが戻ってきていた。
「ん……」
「アーシャ、分かるか?」
「あ、ロア、私、倒れたのね?」
「あぁ、急に倒れていて、ビックリしたけど、回復してきたようで安心したよ」
「ね、姉さんは?」
「アーシェも一緒に倒れていたけど、大丈夫だ」
ティトの方へ振り替えると、軽く手を振るアーシェの姿があった。俺達は、その場で少し休んでから、リターンストーンでギルドへ戻った。
「あ、おかえりさない。ロアさん、ティトさん、アーシェさん、アーシャさん。みなさん、ご無事なようで安心しました」
「はい、何とか。無事に、甲羅もゲット出来ました!」
「では、お預かりしますね」
「はい、お願いします」
俺は、千年亀の魔魂石をカレンさんに預けて、皆を連れて酒場のテーブルへと席に着いた。
「いやあ、一時は、どうなるかと思ったけど。皆、無事でよかった」
「ふん、私が居たんだから、当たり前よ!」
「そうか?あの非常識な魔法で、危うく皆吸い込まれるとこだったぞ」
「ギュルルルルー パァーン!て凄かった」
「私も暗黒球をアーシャが使うとは思ってなかったです。皆、無事でよかったです」
「アーシェ姉さんまで、何よ!あの魔法が、あの時、一番良かったの!」
仲間を巻き込む程の大魔法を説明もなく使ったアーシャは、頑なに自分は悪くないと主張する。あのまま、吸い込まれていたら、どうなっていたことやら。何はともあれ、皆が無事だったし、目的も達成できた。これ以上、アーシャを責めるのは止めよう。
「そうだね、結果として、千年亀を倒せたし、お祝いをしようか!今日は、俺が御馳走するよ」
「まあ、当然よね」
「おにっく、にくにくっ!」
「ロア、ティト、クエストのお手伝いありがとうございます。ここは、私達が、御馳走するところかもしれないですが、お言葉に甘えて今晩は頂きますね」
予め頼んでいた、エールと果実酒が到着し、4人で乾杯をする。ティトが、次々と肉料理を注文し、アーシェは、サラダやフルーツの盛り合わせを注文する。アーシャは、果実酒を一瞬で空にして、直ぐにおかわりを注文する。
賑やかな夕食が始まった。手べ切れない位、料理がテーブルに並び、皆、笑顔で食卓を囲んでいる。
「あのさ、良かったら、明日から俺達とパーティを組まない?」
「え?」
俺から急に飛び出したパーティの誘いに、アーシャが言葉を失う。
「私は、良いと思います。ロアは、頼りがいがあるし、ティトも見た目によらず強いですから」
「ボクも、アーシェ達と冒険するー」
「うーん、まぁ、姉さんが、言うなら良いか」
「よっしゃ!明日から、よろしくね」
アーシェ、アーシャと握手を交わす。頼りになる神官と大火力の魔法使いがパーティに加わるのは、有難い。
「そういえば、2人が倒れたのは、種能力の使い過ぎが原因?」
「まぁ、そんなところね」
「正確に言うと、使ったから、ですかね?」
「倒れてびっくりしたよー」
2人の種能力は、MPを消費して爆発的な力を手に入れるものらしい。
アーシェは、他者の魔力を何倍にも引き上げる種能力で、時間経過と共に、MPが消費され、0になると効果も切れる。
アーシャは、能力発動後に使う最初の魔法に、全てのMPと極限までHPを消費して爆発的な一撃を放つことができる。
「じゃあ、2人共、種使ったら、問答無用でぶっ倒れるってことか」
「今日見て貰った通り、そうなるわね」
アーシャが唇に手を当てながら、俺に答える。
「そういえば、目覚めたら、口が切れてたんだけど、私、うつ伏せに倒れてたの?」
「えっ、あ、その唇の傷?」
「ロアとガチって、なってたー」
「ちょ、ティト!シー、それは、言ったらだめだよ」
「はぁ?え、どういうこと?」
「アーシャが、1人でポーションを飲めなかったから、手伝ってくれたんですよ」
「えっ?はぁぁぁぁぁあぁぁ!?」
ギルド内に、アーシャの声が響き渡る。食事中の冒険者達が、一斉に俺達のテーブルに振り向く。
アーシャは、ずっと立ち上がり、杖を俺に向けて、魔力を集中させる。赤いローブが、魔力ではためいて、フードもバタバタと音を立てている。
「パーティ解散ね!この変態!!」
「うわぁ、ここでは、やめろ!」
その後、アーシャの気が済むまで魔法を受け続けたのは、言うまでもない。
読んでいただきありがとうございます。パーティも4人に揃い、第1章も終盤にさしかかりました。
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