第16話 亀退治
投稿が不定期ですが、引き続き頑張ります。
イース商会で、装備を整えた俺達は、千年亀の住処へと向かった。
千年亀は、俺達がシェルターフロッグを倒した沼地に生息しているらしい。名前の通り、千年以上生きた巨大な亀の魔物だという。
アーシェ姉妹が受けたクエストは、千年亀の魔魂石からコンバートドロップする【千年亀の甲羅】だ。
そのドロップ率は、なんと100%だ。報酬が金貨5枚と高額な為、倒すだけなら楽勝だと何人もの冒険者が報酬に飛びついて挑んだが、まだクリアされていない。
「物理攻撃無効で、魔法耐性99%って、倒せる未来が浮かばないな」
「ぶつりこーげきむこー?って何?」
「剣の攻撃が効かないってことですよ。」
「え、それは大変。まほーたいせーきゅうきゅうは?」
「魔法でも、殆どダメージを受けないってことよ」
「えぇ!すごいつよいね」
過去に討伐経験のあるイースさんのアドバイスは、魔法攻撃をガンガンやれば倒せるというアバウトなものだった。勿論、戦闘中の行動パターンや危険な技も教えてくれた。
「カメさん、沼の底に沈んでるみたい」
「浮上してくるまで、待つか仕掛けるか」
「昨日も、底に沈んでたから見つからなかったんだ!一日探しても、見つからないはずだ!」
「アーシャが、ちゃんと調べもせず、沼に行けば見つかるなんて言って一日棒に振ったんですよ」
千年亀は、沼の底で殆ど生活をしている。日に一度だけ、甲羅干しに陸に上がる。
冒険者は、沼の底まで、潜ることができない。故に、甲羅干しの時間までジッと待って、上がってきたところで戦闘に入るのが常套手段だ。
「うわー。シェルターフロッグいるじゃん。私、蛙嫌いなのよ」
「ボクは、カエル好きー お肉美味しいよ?」
「ふふ、ティトは、食べ物のことばかりですね。」
「アーシャと気が合うとは、思わなかった。俺も蛙嫌いなんだよ」
アーシャは、シェルターフロッグから後ずさって、俺の近くに寄ってきた。女の子らしい一面もあるらしい。
「甲羅干しまで、時間ありそうだし周辺の魔物を排除するか」
「カエル、にっくにく!カエルたおそー」
「えっ、私、蛙と戦いたくない!ロア、任せたわよ!」
「私も、ちょっと苦手なので、後方支援に回りますね」
姉妹は戦闘に参加したくないようだ。2人の戦い方を知って、本番に役立てたいところだが仕方ない。
「ティト、いつも通りに」
「了解!」
俺達に、まだ気付いていないシェルターフロッグに向けて、ティトが新調したナイフを投げる。
シュ ザクザクザクザク ザッザッザッ グシャッ
水属性魔法が付与されたナイフが、シェルターフロッグの頭に次々と刺さる。8本目のナイフが頭を跳ね飛ば絶命させた。
新調した腰のベルトに、ティトが手を触れるとシェルターフロッグに投げたナイフが、宙に浮かんで戻ってきた。
「えっ、どうなってるの?」
「新しい魔導具! いいでしょ?」
自動で手元まで戻ってきたナイフに、驚くアーシャと自慢げに魔導具を見せつけるティト。
新調した、ティトの魔導具は、今までの魔導具の強化版で、二属性まで魔法を付与することができる。俺は、あらかじめシェルターフロッグの弱点属性水と覚えたての闇属性魔法の引力を付与しておいた。
ベルトに触れることで、闇属性魔法が発動し、ナイフとベルトが引き合って戻ってくるという仕組みだ。
「よし、レベルアップして、シェルターフロッグも楽に倒せるみたいだ。亀が浮上してくる前に、サクサク倒そうか」
「了解! 戻ってくるの便利ー」
俺は、魔導具へ魔法の充填とティトが仕留め損ねた場合のフォローを行った。ティトのナイフ投げは、相変わらずの精度で、シェルターフロッグ狩りは順調に進んだ。
「ティトは、ナイフ投げの達人ですね。ロアは、積極的に戦わないんですか?」
「魔法剣士は、遠隔攻撃が、イマイチだからね。近接戦闘になったら、活躍するよ」
「そんなこと言って、蛙が怖いだけでしょ!」
「ロアは、カエル苦手ー 仕方ない」
シェルターフロッグを狩り終えると、俺達の戦いを見ていた2人からコメントを頂いた。
嫌いな蛙に触れず、ドカンと一撃で敵を倒せる魔法が使えれば良いが、俺の使える初級魔法では難しい。
「ロア、カメさんが上がってきてる」
「お、いよいよか」
「よっしゃ、ドカンとかましてやるわよ」
「回復やサポートは、任せてくださいね」
ティトが指差す沼の中央を見るとブクブクと気泡が上がってきている。千年亀と、いよいよ対面か。
「種:ランダム!」
「あら、種能力使うのね?」
「戦力になるかは運次第だけどね」
「はぁ?使えない能力ね!まあ、元からあんたに期待してないけど」
種能力発動すると、掌に3つの賽子が現れる。確認したいことがあるので、掌に握ったまま、千年亀の登場を待つ。
「ほら、アーシャも準備しなさい」
「はいはい、アーシェ姉さん、サポート任せたわよ」
「光の加護!」
アーシェさんの光魔法で、アーシャの身体が光で包まれる。魔力強化系の魔法かな?
「光の加護!」
続けて俺の身体も光で包まれる。どうやら、1度の詠唱で1人にしか掛けられないみたいだ。俺が終わるとティト、アーシェの順番で光に包まれた。光の加護が掛けられた自分の身体に触れるとステータス全体が向上しているのが分かった。
「光の鎧の上位魔法ですか?」
「はい、そんなところです。亀退治頑張りましょう」
「頭が出てきたよー」
ブクブクと水面に上がる気泡が途切れ、泥に塗れた亀の巨大な頭が顔を出す。頭だけで自動車1台くらいある。続いて、綺麗な六角形をした甲羅が現れ千年亀の全貌が明らかになる。
「でかっ!ジャンボジェットくらいあるじゃん」
「じゃんぼじぇと?」
「えっと、大きな乗り物って意味だよ。ティト」
「大きい方が、好都合よ。魔法の格好の的よ」
「俊敏に動けそうに無いですし、戦いやすそうですね」
俺達が、巨大な亀の感想を話していると、千年亀は、沼からゆっくりと陸へ上がり呑気に甲羅干しを始めた。
「それじゃあ、行くわよ」
アーシャは、千年亀に豪奢な宝玉が付いた杖を向ける。精神統一し杖先に魔力を集中すると赤いローブの裾がバタバタと音を立てながらはためていく。
被っていたフードもめくり上がり、アーシャの綺麗な長い髪が風でなびいている。
「火炎竜巻!」
千年亀に向けた、杖先から業火が吹き出し、グルグルと渦を巻きながら炎の竜巻が形成されていく。
竜巻は、近くの枯れ木や石ころを巻き上げながら大きくなっていく。周囲の温度もサウナのように熱くなる。
周囲の何よりも巨大化し熱風を放ちながら、蛇行しながら千年亀へ向かって飛んでいく。
呑気に甲羅干しをしている巨大亀は、熱風を受けても気に留めず身動き一つしない。
火炎竜巻が、千年亀を焼き尽くす。
「あんなノロマじゃ、楽勝ね!亀の丸焼きの出来上がりよ」
「アーシャ凄いね。いくらダメージカットがあっても、あの大魔法じゃ一溜まりもない」
亀がこんがり焼かれるのを見ながら、自信満々のアーシャを褒めてよいしょする。
「何か飛んでくる!」
「ラ、光の壁!」
呑気に亀の丸焼きを見つめていた俺達と違って、ティトが危険を察知し、アーシェは咄嗟に防御魔法を展開する。
スドドドドドドドドドドドドッ!
防御壁に、大砲のように放たれた大量の水が衝突する。攻撃の元を辿ると火炎竜巻に包まれた千年亀が大きな口から大量の水を吐き出していた。
イースさんから聞いていた千年亀の攻撃パターンその1、水砲だろう。千年亀は水砲を吐きながら、その場でグルグルと回転し始める。
炎と水が衝突し、ジュージューと水蒸気が上がっていく。あたり一面が白い靄で包まれる頃には、火炎竜巻は消え去っていた。
「一撃で倒せないなら、何度も撃つだけよ」
「オーケー!亀の丸焼き、次は、期待してる!ガンガン撃っちゃって」
「私ばっかりに、やらせないで、あんたも活躍しなさいよ!ほら、近接戦闘のチャンスよ」
「分かってるよ!ちゃんと詠唱時間を稼いでくる!」
全身から湯気を出しながら千年亀は、俺達に向かって、のそのそと歩いてくる。
「当たれよ!えいっ」
握りしめていた賽子を千年亀の頭に向けて投げつける。小さな投擲物に当たる瞬間、危険を察知したのか素早く頭を甲羅の中にしまい込む。賽子は甲羅に当たると跳ね返り地面に落ちた。
「何でも貫ける訳じゃないんだな」
全てを貫く素材で出来た賽子かもしれないと期待を込めていたが違ったようだ。独り言を吐き出しながら、種能力を確認する。よし、使おう。
「解析!」
種族:亀魔物
名前:千年亀
Lv:25
クラス:千年亀
ステータス
HP:900/1000
MP:900/1000
攻撃力:10
防御力:9999
素早さ:10
魔力:596
運:120
種:熟練度9 甲羅の加護
スキル:物理無効 魔法耐性 全属性99%
今日、一発目の種能力は、鑑定スキル強化版の解析だった。イースさんのアドバイス通り魔法をガンガン撃って攻略するには、千年亀のステータスを知ることは重要だ。
「火炎竜巻効いてるじゃん。俺も、少しは削ってみるか。雷纏剣!」
再び頭を出して、のそのそと近づいてくる千年亀に向かって駆け出す。新調したアイアンソードに紫電を纏って、無防備な頭に向かって振りぬく。俺の一振りが当たる直前に、またもやシュッと甲羅の中に頭を隠す。
「雷の球!」
空振りした剣を頭が隠れた甲羅の中に突き刺して、隙間に雷魔法を叩き込む。甲羅が紫電に包まれる。ビリビリと痺れている様子を確認し、ガチッと挟まった剣を思い切り引き抜く。
瞬間、隠れていた頭が剣と一緒に飛び出した。千年亀は、大きな口を開けて、勢いよく水砲を俺へ放つ。
俺は、突然の水砲を避ける事ができず、新調したアイアンアーマーに強烈な一撃が浴びせられる。腹に重く突き刺さる水砲を受けて、豪快に吹き飛ばされる。
俺の身体は、水砲の水圧で宙に浮く。くの字になって、どんどん千年亀と離れていく。身体を捻って水砲から逃れようとするが勢いが強すぎて抜け出す事ができない。
アーシャと別れた場所も通り過ぎ、すれ違い様に冷ややかな顔をされ声を掛けられる。
「あんた、何してんの??」
声からどんどん遠ざかる。水砲の射線上にある枯れ木を背中で、瓦割りのように何本もへし折っていく。
「うげ、痛っ、ぐっ」
一際大きな木に激突し、地に落ちて、ようやく脱する事ができた。
俺から外れた水砲は、大木の幹を抉りながら、真っ直ぐに奥へ奥へとレーザービームのように伸びて行った。
激痛を感じて、腹を覗き込むと新調したアイアンアーマーに大きな穴が空き、剥き出しになった皮膚は大きな青痣になっている。
回復魔法で傷を癒しながら、飛ばされた分だけ、急いで駆け戻る。水砲を吐ききった千年亀が次の挙動に移ろうとしている。解析で千年亀を確認すると、俺の電撃で与えたダメージは1らしい。よし、あと900回同じことをすれば倒せるな。
「百雷!」
俺が、元の場所へ辿り着く前に、アーシャの声が響く。杖の先が、眩しいくらいに黄色く光る。同時に、千年亀の頭上に雷雲が何層も集まりだす。灰色で埋め尽くされた空が、一瞬光る。轟音と共に激しい雷が巨大亀の上に次々と落ちる。
「アーシャ!とんでもない魔法だね」
「ふん、私にかかればこんなもんよ。で、あんたは、恥ずかしい格好で何しに来たの?」
「うーん、亀さんの残HP報告とかですかね?あと8回同じ事すれば倒せるぽいぞ」
「8回!あんた、バカじゃないの!?やれて、あと1回が限界よ」
「マジックポーションがぶ飲みで、どうにかならないかな?沢山あるんだけど」
「あれ、美味しくないから好きじゃない」
「ロア特製ポーションは、フルーツ味だから、大丈夫だ!」
先日、錬金術ギルドで、試作したフルーツ味ポーションをアーシャに押し付けて、千年亀の様子を伺う。
百の雷を受けても、ピンピンしているご様子だ。
「種:ランダム!」
アーシャだけに、負担を掛けるわけには行かない。二度目の種能力を発動する。
掌に現れた賽子を、タフな亀さんに投げつける。甲羅に当たって、地に転がり能力が決まる。
今日は、再投の出番はなさそうだ。
「ティト、俺の近くにおいで」
「はーい」
物理が効かないということで、待機させていたティトを近くに呼ぶ。
「連続魔法!炎の球!」
ボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッボッ!
種能力:連続魔法が発動し、火炎放射器のように!炎の球がいくつも放たれる。
襲い掛かる炎の球を気にしない様子で、近付いてくるが、微力ながらダメージは与えている。
炎の球が、連射される右手に火傷のような痛みを感じる。それでも、俺は御構い無しだ。左手にフルーツ味のマジックポーションを持ち、喉に流し込む。
「ティト、ベルトに魔力を込めたから、カメさんの頭が隠れる穴に投げナイフだ」
「了解!えぃ!」
ティトの掛け声と共に、炎属性を纏ったナイフが千年亀の甲羅の穴へ一直線に放たれる。
ザッザッザッザザッザザッザ
穴に張られた膜に、ナイフが刺さる。これも、ダメージを与えられている。ナイフが黒い光に包まれて、ティトの元へ戻ってくる。
突然、背後から冷気を感じて振り返ると、青い光を放つ杖を持ったアーシャの姿があった。
「氷針花!」
アーシャの声と共に、無数の氷針で作られた花が生まれる。花が散り、千年亀へ、一斉に氷針が突き刺さる。
俺達の炎魔法で熱を持ったままの千年亀を襲った氷針花は、蒸発することなく巨大亀を氷漬けにした。
「で、そのへなちょこ!炎の球で、少しは私を楽にさせてもらえるのかしら?」
「今のところ1回分くらいは、楽をさせてあげられそうだよ」
「へぇー、やるわね。でも、もっと頑張りなさいよ」
千年亀は、氷漬けになっても、のそのそと動き出す。ビキビキと音を立てて氷が割れていく。
「それにしても、タフね」
「アーシャの馬鹿みたいな魔法を三度も耐えるなんて、亀さん凄いですね」
「姉さん、馬鹿って、何よ!」
「ごめんごめん、素晴らしい魔法ね」
姉妹の話に耳を傾けていると、千年亀の口が大きく開くのが見えた。
「また、水砲が来るぞ」
「水鉄砲が、ピャーッてくるよ」
俺は、千年亀に、再び右手を構えて魔法を放つ。
「炎の球!」
連続魔法が切れる前に、火炎放射器をお見舞いしてやる。
千年亀の水砲と俺の炎砲の対決だ。
ジュージューと音を立てながら、水と炎が行ったり来たりする。
「風狼牙!」
俺が、陣取り合戦で遊んでいると、アーシャが4度目の大魔法を放った。
緑色の光で形作られた巨大な狼の頭が、千年亀に齧り付く。今まで、傷が付かなかった甲羅にヒビが入る。
アーシャへ振り返ると、膝をつきながらマジックポーションを飲んでいた。MPが回復しても、あれだけの魔法を連発すると身体が消耗するのだろう。
「あと半分か。アーシャなしでは、厳しいな」
「アーシャ大丈夫?」
「ティト大丈夫よ。で、半分ってことは、5回分一撃で、叩き込めばいいのかしら?」
「あぁ、できるなら」
「できるから言ってるのよ!姉さん、あとは任せたわ」
「アーシャ、了解!思いっきりぶちかまして!」
のそのそと千年亀が、近付いてくる。
「種:魔力暴走!」
アーシャが、種を発動すると真っ赤なオーラで包まれる。胸元の種紋が赤く光り輝いている。
「種:極大魔力!」
アーシェも続いて、種を発動すると真っ白なオーラで包まれる。胸元の種紋が
白く光り輝いている。
アーシェは、アーシャに近付いて両手に集中した白いオーラをアーシャの身体へ移していく。
白いオーラを受け取ったアーシャの身体は、白と赤で二重のオーラに包まれた。
「種:ランダム!」
俺も続いて最後の種能力を発動する。賽子を千年亀に投げつける。相変わらず甲羅に当たって、地に落ちて能力が決まる。
ザッザザッザザッザザッザ
ティトの投げたナイフが、千年亀のヒビの入った甲羅に刺さる。
甲羅のヒビが広がった千年亀は、その場でグルグルと回転し始める。攻撃パターンその2の始まりだ。
「光の壁!」
素早く察知したアーシェが、防御魔法を使う。のそのそ動いていたとは思えない速度でグルグルと回転し、千年亀が俺達へ飛んでくる。
俺は、前に出て、ジャンボジェット亀さんの衝撃を引き受ける。
「極限質量!」
俺の種能力が発動する。身体が鉛のように重くなり地面に足が少しづつ埋まっていく。
「光の盾!」
衝撃に備えて、光の盾を展開する。ジャンボジェット亀がグルグルと回転して突撃してくる。
ガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッ!
光の盾と千年亀の甲羅が衝突する。
極限質量で、千年亀並みに重さを増した俺は、ジャンボジェットに押し負けない。
加えて、アーシェの光の壁を背にしているから、吹き飛ばされることはない。
それでも、少しづつ後ろに押されていく。
読んでいただきありがとうございます。
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