第14話 錬金術
すっかり間が空いてしまいましたが、今日から更新再開です。
「はぁー、よく寝た! 今日もモフモフだ」
「ロア、おはよー」
今朝もモフモフの侵入者が潜り込んでいた。起きたらティトが同じ布団の中にいるのにも慣れてきた。モフモフを楽しむのもいいもんだ。
今日は、錬金術ギルドへ行ってポーション作成を習いたいと思っている。イース商会で、各種ポーションを購入しているが、なかなか高価だ。特にマジックポーションは1本銀貨5枚と割高だ。
自作できるようになれば、経費節約にもなるし、販売すれば路銀も稼げる。彫金技術のように是非とも身につけたい。
「ティト、今日は錬金術ギルドにいくよ」
「れんきんじゅつたのしい?」
「楽しいと思うけど、お肉とかの食べ物はないよ」
「え、おにくないの?ざんねーん」
さっきまで、パタパタと振っていた尻尾が、ペタンと垂れ下がって、ティトはなんだか寂しそうな顔をしている。うーん、後で何か喜びそうな物を買ってあげよう。
「カレンさん、おはようございます」
「あ、ロアさん、おはようございます。今日は錬金術ギルドへお出掛けですか?」
「はい、ポーション作りを教われたらと思ってます」
「頑張ってきてくださいね!」
カレンさんに、朝の挨拶を済ませると、いつもの朝食を取って、俺達は錬金術ギルドへ向かった。
彫金ギルドより少し奥に位置した錬金術ギルドは、木造で作られた古めかしい建物だ。全体が緑色の蔦で覆われて、魔女の館やお化け屋敷を想起させる。
入口には、大きな木製の扉がある。手を掛けて入ろうとするが重くてなかなか開かない。ティトと2人で力を込めると、ようやくギギギィと嫌な音を立てながら開いて中に入ることができた。
「扉重すぎだろ」
「おもかったー」
「錬金術ギルドへようこそ」
扉に向かって、あまりの重さに文句を言っていると後ろから低い声が聞こえてきた。声の主に向けて振り返るとフードを目深に被った男の姿があった。
「こんにちは。えっと、ギルド長は、いらっしゃいますか?」
「ギルド長のウィードは、ワシじゃ。何の用かな?」
「はじめまして、ウィードさん。ロアと言います。先日、森蜂の蜜を納品した冒険者です。今日は、ポーションの作り方を学びたいと思って来たんですが・・・・・・」
「ボクは、ティトー!」
「おぉ、君がロアくんか!森蜂の蜜助かったよ。ポーションの作り方か。もちろん、いいとも。では、ギルドの案内から始めようかのう」
「お願いします!」
ギルド長のウィードさんは、フードで顔はよく見えないが俺より小柄で細身だ。言葉遣いからして高齢なのだろう。
「この壁側の棚に置いてあるのが、見た通り錬金術に使う素材じゃな。中央のテーブルに乗ってるのが錬金術で完成した商品じゃ」
部屋の壁に沿って4段の棚が置かれている。棚の上には、生物の骨や角や毛皮、植物の枝や花や種子、色々な形をしたガラス瓶などが並べられている。
中央のテーブルには、恐らくポーションだと思うが、赤、青、黄色などの液体が入ったガラス瓶が多く置かれている。他には、変わった形のした武器や防具、使い方のわからない道具のようなものが置いてある。
「見ただけだと、何が何だかわからないですね」
「へんなのばっかー」
「ははは、錬金術は、特殊じゃからな。その分、知れば知るほど病みつきになるわい。それじゃ、錬金場に行こうか」
ウィードさんに連れられて、ギシギシと音を立てながら二階への階段を上っていく。二階に到着すると入口と同じ木製の大扉があった。
「また、この扉か」
「錬金術は危険じゃからな。厳重に閉ざしているのよ」
「あー、そうなんですね」
錬金術を失敗すると素材特有の危険な成分が漏れ出したり、大爆発が起こることがあるらしい。入口の木製の大扉は、特殊な術式が施されており外部に被害が及ばないようになっているのだとか。
ウィードさんは、俺達が二人掛かりで開けた大扉を片手で軽々と開けて中へと入っていく。ウィードさんの怪力に驚きながらも俺達は置いていかれないように後へ続いた。
部屋の中は、薄暗く、蝋燭程度の灯りが点々としている。灯りに照らされて、ローブを着たギルド員の姿が見える。
「こっちじゃ、ちょいと暗いが直になれるじゃろう」「どうして、こんなに暗いんですか?」
「闇に紛れて行うのが錬金術じゃからな。かっかっか」
暗がりの中、足元に気を付けながら着いて行く。部屋の中央辺りでウィードさんが足を止めると、目の前には、小さなローブを身に付けたフードを目深に被ったギルド員が錬金術真っ最中だった。
蝋燭程度の灯りを放つ魔道具がテーブル中央に置かれ、テーブルには魔法陣のようなものが描かれたボロ切れが敷いてある。
ボロ切れの中央には、空の三角フラスコが置かれ、魔法陣の四隅に、それぞれ違った素材が置かれている。俺達の到着に気付いていないギルド員が、ボロ切れの上に両手をついて作業を進める。
両手が発光し、手が置かれている所から、魔法陣の線に沿って、青い光が回路のようにグルグルと巡って行く。全体を青い光が通過すると魔法陣の模様が、くっきりと浮かび上がった。
ギルド員は、魔法陣が浮かび上がると、ボロ切れから手を離し、右上に置かれた素材へ向ける。手から黒い霞が放たれて素材全体を包み込み、次の瞬間、霞と素材が消え去った。
時計回りに、四隅の素材へ順番に手を添えると、手品のように黒い霞と共に素材が消えていく。
3つ目が消えた辺りで、ふと中央の三角フラスコを見ると空っぽだった中身が黒い液体で半分以上が満たされていた。
最後の素材が、霞に包まれて消えると三角フラスコの中身がいっぱいになった。ギルド員は、三角フラスコに手を伸ばし、両手に持つ。再び両手から光が溢れ出し三角フラスコの中身が黒から見慣れマジックポーションの緑色に変わった。
「リズ、見事だ。腕を上げたか?」
「きゃっ!ウィード様!?」
「危なっ!」
「割れちゃう!」
ウィードさんに急に声を掛けられて、驚いたギルド員が出来立てのポーションから手を離してしまった。俺とティトのフォローで床すれすれでキャッチして事なきを得た。
「ウィード様、作業中に声を掛けないでください!」
「おぉ、悪い悪い。あまりに素晴らしい手際だったから、つい声を掛けてしまったわ」
「褒めていただくのは、嬉しいのですが、今度から終わってからにしてくださいね!」
「今度から気をつけるから、そんなに怒らんでくれ。して、リズよ。このロアくんに錬金術を教えてやってくれ」
2人のやりとりに、あっけにとられているとウィードさんから、さらっと紹介された。
「ロアと言います。リズさん、よろしくお願いします。」
「ボクは、ティト!」
「ロアさん、ティトさん、リズと申します。よろしくお願いします」
「それじゃ、リズ頼んだぞ。わしは失礼するよ」
ウィードさんが立ち去ると、リズさんから錬金術の基礎について教わった。彫金ギルド同様に、錬金術ギルドでも魔導具を使って錬金を行なっている。魔法陣が描かれたボロ切れと三角フラスコが魔導具らしい。
ボロ切れが、錬金術の発動を補助し、中央に置いた三角フラスコなどの容器へ錬金されたものが集まるのだという。
錬金術を使うと、彫金同様にHPやMPが消費される。俺のHPとMPは、今のレベルに対して異常に多いらしい。彫金ギルドで、こき使われたのは、それが原因だったみたいだ。
「では、ロアさん、ご所望のポーション作りからやってみましょうか。先日、丁度大量の森蜂の蜜が納品されましたので、沢山作れますよ!」
「はい、お願いします!」
俺が納品した森蜂の蜜だろうが、その事には突っ込まず錬金をスタートした。ティトは、今日も見学だが、手品のような錬金術に興味津々だ。
初めに、マジックポーションを作るために、先程と同じ素材と三角フラスコをボロ切れの上に並べていく。
四隅の右上にトレントの枯れ枝、右下に森蜂の蜜、左下に小さく加工した水の結晶、左上にローザの種子を置いた。
「ロアさん、それでは、私が言った通りに魔芒布に魔力を込めて下さい」
「はい。こんな感じですかね」
ボロ切れもとい、魔芒布に魔力を込めるとリズさんがやっていた時と同じように、青い光がグルグルと巡り魔法陣が浮かび上がった。
「ロアさん、初めてで、魔法陣が浮かび上がるまで、魔力循環出来るなんて才能ありますよ」
「あ、誰でも簡単に出来るんじゃないんですか」
「生産ギルドは、魔導具さえあれば、誰でも出来るなんて思われてますが技術が必要なんですよ。では、続けて素材に魔力を注いで下さい。包み込むようなイメージが大事です」
リズさんのアドバイスを頼りに、右上のトレントの枯れ枝へ魔力を注ぐ。闇属性の魔力で黒い霞をイメージし、枯れ枝を包み込む。
黒い霞が消えると同時に、枯れ枝の姿は無かった。よしっ、成功だ。空の三角フラスコの四分の一くらいまで黒い液体で満たされた。
続けて、同じように素材を黒い液体は変えていく。最後のローザの種子まで液体に変えると、三角フラスコ内は黒から赤に変わった液体で満たされていた。
「え、赤い、、、」
「ロアさん、魔力に属性付与されましたか?」
「えっと、黒い霞のイメージで闇属性を付与しましたが、不味かったですか?」
「うーん。不味くはないです。では、そのまま最後の仕上げで、先程と同じく闇属性を付与してください」
「はい。分かりました」
失敗ではないらしいので、赤い液体で満たされた三角フラスコを両手に持って、闇属性の魔力を注いでいく。赤い液体が魔力に触れて、赤黒くなっていく。
リズさんの時と同じように、緑色になるようイメージを膨らませるが、赤黒くなった後は、真っ黒の液体になってしまった。
真っ黒になった液体に、どれだけ魔力を注いでも、緑色には変わらなかった。
「えっと、すみません。失敗ですよね?」
「普通のマジックポーションとしては、失敗ね」
「あー、そうですよね。素材無駄にしてしまって、すみません」
「大丈夫ですよ。ブラックポーションの完成です」
「ブラックポーション??」
リズさんによると、ブラックポーションとは、瞬時にMPを回復させるマジックポーションと違い、一定時間少しづつMPを回復させるポーションらしい。
「ロアさんの職業が魔法剣士だとは思いませんでした。錬金術は、魔力に属性を付与すると素材が同じでも違うモノが出来てしまうんですよ」
「いえ、俺も黒い霞が闇属性だと思い込んでしまったのが原因です。すみません」
リズさんから、属性付与以外に気を付ける点を確認し、再挑戦すると今度は緑色のマジックポーションを作ることが出来た。
「ボクもやってみたーい」
「よし、ティトもやってごらん」
ティトもマジックポーション作りに挑戦した。結果は、大失敗だった。魔芒布の魔法陣が薄っすらと青く光った後に、ティトが倒れてしまった。
MPが少ないティトは、HPを媒介に錬金術を使った。青い光が魔法陣を一周した所で、HPが一桁になってしまった。
「ほら、言ったでしょ。子どもには、まだ早いです。技術が必要なんですよ。錬金術は」
「そうみたいですね。ははは」
リズさんの反対を押し切り、ティトに錬金術をやらせた事に、お怒りのようだ。やっぱりプロの意見は素直に聞くべきだった。
ティトが全快した後は、リズさんから任されたポーション作りに没頭した。ノルマ200本を作り終えた頃に、ウィードさんが現れた。
「ほぉ、やはり才能があるのう。もう作り終えたか」
「いえいえ、リズさんの教え方が上手かったからですよ。ウィードさん、魔芒布とフラスコを売って欲しいのですが」
「チャムのやつから、彫金魔導具をもらったらしいのう。ワシも負けてられんから、タダで一揃いやるわ」
「え、頂いて宜しいんですか?」
この街の生産ギルドは、彫金ギルドと錬金術ギルドの2つだけだ。その為、ライバル関係にあるらしい。
「あら、ウィード様、こちらにいらっしゃったんですか。ん、ロアさん!もう200本作り終えたんですか?」
「あ、はい。リズさんの教え方が上手かったので、ジャンジャン作れました」
「リズよ。ロアくんに、錬金魔導具一式をあげておくれ。チャムのやつが彫金魔導具一式渡したらしくてのう」
「は、はい。分かりました。ポーション200本作って頂いたので、差し上げても全く問題ありません」
錬金魔導具一式を渡す事に、リズさんも賛成なのは意外だった。帰り際に有り難く頂戴しよう。
「ウィードさん、リズさん、今日はありがとうございました。また、近い内に習いに来ますね」
「手伝いに来るの間違いじゃろう」
「お手伝いお待ちしてますね」
生産ギルドの人達は、俺をバイト代わりに見ているようだ。秘伝のレシピもあるみたいだから、こき使われる代わりに教えてもらおう。
二人に見送られながら、錬金術魔導具一式を貰って、錬金術ギルドを後にした。リズさんも重い扉を片手で開けていた。きっとコツがあるのかもしれない。
「ティト、錬金術は、どうだった?」
「れんきんじゅつは、きけん!」
「あ、倒れれば、そう思うよね。つまらなかったかな?」
「きけんだけど、キラキラ綺麗だった」
「そっか、少しでも楽しめたみたいで良かったよ」
暗い部屋に長くいたので、気付かなかったが、外はすっかり夕暮れ時だった。美味しいご飯を食べて明日からまた冒険だ。
読んで頂きありがとうございます。
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