第12話 蜂の嫌いなもの
養蜂家を目指したこともありましたが、今は小説家を目指しています。
「ロア、カエルおいしかったー?」
「うん、見た目はともかくとして味は、まいうーだった」
「まいうー?カエルまいうー!まいうー!」
ティトは、「まいうー」発言が気に入ったようで連呼している。蛙肉の感想を話しながら、フォレストワスプを探して沼地を離れる。
「あの、おっきな木に巣がある」
「遠くに見える巨木かい?」
ティトが指差した先を見つめると木々が生い茂る森の中に、一際大きく太く幹を伸ばした巨木が目に入ってきた。大木に巣を作ると聞いていたが予想以上の大きさの巨木に巣を作るようだ。
沼地から北上して近くまで来てみると、想像以上に大きさな木だった。一本の巨木の周りを1匹のフォレストワスプがグルグルと周って警戒しているように見える。あれに見つかると1000匹の蜂達が次々に巣穴から出てくるという。
俺は、イースさんから購入した魔導具に【盾蛙の油】を入れて炎魔法で火を付ける。擦ると煙と一緒に精霊が出てきそうなランプの形をしている。いくら擦っても願いを叶えてくれるランプの精は出てこない。代わりにランプの先からモクモクと白い煙が出てくる。
「これを巣の中に投げる?」
「あはは 良い案かもしれない。巣の中に投げ込まなくても持ってるだけで良いみたい」
イースさんから貰ったアドバイスは、シェルターフロッグを天敵としているフォレストワスプは【盾蛙の油】が燃える臭いや煙を嫌がるらしい。前世で養蜂家が燻煙器で蜂を大人しくさせるのと似たようなもんだろうか。
少しづつランプ型の魔導具から出ていた煙は、あっという間に俺達を包むように広がっていった。煙は拡散せずに使用者の周りをオーラのように人型に包み込んで形を維持している。
ティトの射程距離までフォレストワスプに近寄ったところで足を止める。万が一、仲間を呼んで来たらリターンストーンで即帰宅だ。準備にも余念がない。
シュッ
ティトのナイフがフォレストワスプに向かって飛んでいく。いつも通り紫電を纏った8本だ。忙しなく動き回る毒蜂にナイフを全弾命中させた。しかしながら、残念なことに不意打ちのナイフでは瞬殺できなかった。フォレストワスプは素早く攻撃の方向を察知して、傷口から緑色の液体を吹き出しながら俺達に向かって飛んでくる。痺れてはいないようだ。こいつも耐性持ちか?
「炎の球!」
仲間を呼ぶことなく俺達へ飛んでくるフォレストワスプに炎の球を放つ。雷が効かなくても炎は効くだろう。飛んできた炎の球を素早く躱して急接近してくる。
「マジか」
「まじみたい。まじってなに?」
フォレストワスプの俊敏な身のこなしに驚きの声を上げる。ティトから間の抜けた返事がきた。これは、とりあえずあれだな。
「困ったときの光の壁!」
フォレストワスプの突進を受ける前に、光の壁で防御壁を展開する。毒蜂は壁に激突する前に方向転換し俺達の後方に回りこんできた。何か今までの魔物と違って賢いかもしれない。
背後を取られて、攻撃をされる前にティトがナイフを投げつける。フォレストワスプは飛んできたナイフをグルグルと素早く横回転して弾き飛ばした。1匹でもかなり強くないか?
「風の球! 種:ランダム!」
毒針でチクッと刺されてあの世行きなんてのはゴメンだ。とにかく、距離を取ろうと風の球を放って、頼みの綱の賽子タイムだ。ついでに、投げつけてやろう。
実体化した3つの賽子をフォレストワスプに向けて投げつける。
ドスッ ドスッ ドスッ
種族:蜂魔物
名前:フォレストワスプ
Lv:20
クラス:働蜂兵
種:???
スキル:??? 雷属性耐性 飛行
投げつけた賽子は、跳ね返って目が決まるだろうという予想に反してフォレストワスプの体に四角い3つの穴を作り地面へと転がった。
まさか、賽子は武器にして使うのが正解だったパターンですか。おバカな想像が頭を巡りながらも賽子の結果から種能力を理解する。これは、振り直しだな。再投を選択する。
てか、働き蜂でLv20かよ。それを1000匹倒すとか鬼畜ゲーにも程があるな。そもそも、魔導具の煙で蜂弱体化するんじゃなかったのか?
仲間を呼べなくするだけですか?イースさん!
地面に転がった賽子が消えて、手元に固い感触を得た。遠いとワープしてくるとか最高かよ。体に穴を開けながらも近付いてくるフォレストワスプに今度は頭を狙って投げつける。
ドスッ ドスッ ドスッ
見事に頭部分に3つの穴をあけて賽子が地面に転がる。頭に穴を開けられたフォレストワスプは、さっきまでの勢いが無くなりゆっくりと近づいてくる。ダメージは甚大なようだ。
「えい!」
ティトが背後からバゼラードで毒蜂の翅を斬り付けるとフォレストワスプは飛行能力を失いジージーと音を立て地面に転がった。
「炎纏剣!」
俺は、地に伏したフォレストワスプを燃やすように炎纏剣で突き刺す。炎に燃え炭化した毒蜂は、ようやく動きを止めた。魔魂石へ姿を変えてアイテム袋に吸い込まれる。
【フォレストワスプの魔魂石】を入手した。
コンバートドロップ
1. 【森蜂の一針】2個
2.【森蜂の翅】2枚
3.【種:飛行 特殊系統】2粒
【森蜂の蜜】はドロップしなかった。また危ない橋を渡りながら毒蜂の相手をするのか。今回は謎に賽子で倒す展開になってしまった。
新しい戦い方のヒントにはなったが、フォレストワスプを効率良く狩ることはできそうにない。
「ロアの石礫すごい!」
「あぁ、石礫じゃないけど、なんかすごかったね。ははは」
ティトが変な勘違いをしているが放っておこう。木の上から勢いよく次のフォレストワスプが根本まで降りてくるのが見える。
警備用の働き蜂がいなくなったことは察知したみたいだ。しばらく様子を覗ってみたが1匹以上補充はされない。
再投によって決まった2つの種能力から使えそうなものを選んで発動する。
攻撃を受けても大丈夫そうな能力だ。ティトに、最初と同じように攻撃を仕掛けるように指示をだす。
炎を纏ったナイフが2匹目のフォレストワスプに向かって飛んでいく。流石、ティトが投げたナイフは全弾命中した。体についた炎を消すようにグルグルと回転しながら接近してくる。
ティトに少し下がらせて、俺はフォレストワスプの前に出る。俺との距離がグッと縮まり、間合いに入ったフォレストワスプへ剣を振り下ろす。1度目の攻撃は素早く身を躱される。続けて何度も剣を振り下ろすが空を切る。
いくら振っても当たらない。奴は俺が疲れ果てるのを待っているかのように攻撃を躱すだけで反撃はしてこない。もう疲れた。お前の番だ、どっからでもかかってこい。何故なら今の俺に、お前の攻撃は効かないはずだ!種能力を発動し身構える。
ブーン ブーン ジー ジー
いくら待っても俺の周りを飛び回るだけで、攻撃してこない。はて、どうゆうことだ。しかし、触ろうとすると身を躱す。攻撃が当たらない奴と攻撃してこない奴じゃ勝負にならん。俺は、ティトを近くに呼んで様子を見る。やはり攻撃してこない。
「ティト、終わらせてくれ!」
「うん、わかった」
空振り三振王の俺が当たらなくても、ティトなら攻撃をしてこない敵を仕留める事は容易いだろう。魔導具の煙のおかげで、フォレストワスプは攻撃ができないようだ。
しかし、女王蜂からの命令も無視できず俺達の周りをぐるぐると回って監視している。無抵抗で可哀想だが倒させてもらおう。
「えい!えい!えい!」
「マジか。ティトさん、遊んでます?」
「マジ!当たらない。ははは」
攻撃をしてこない敵を相手に俺達の攻撃は当たらなかった。これは作戦を変更するしかない。
ティトにランプ型の魔導具を手渡しイース商会で魔導具とセットで購入した魔法粉を自分に振り掛ける。煙の効果を解除するためのアイテムだ。あっと今に俺の体を包んでいた煙が霧散した。
今まで攻撃ができなかったフォレストワスプは、俺に向き直り青い眼を赤に変えて、針を飛ばしながら突進してきた。
おぉ、魔導具様々じゃないか。眼の色を変えていきなり攻撃してきた。針も1発じゃなくて連射できるのね。
「よっし、バッチこい!」
飛んでくる無数の針を避けずに仁王立ちをする。俺の予想通りの展開ならば、お前はもう死んでいる。前世の人気キャラの決め台詞を一人呟く。
自信たっぷりに一人で首を縦に振って頷く。ティトはランプ片手に心配そうな目で見つめている。
キンキンキンキンキンキンキンッ!
俺の体に毒針が当たるとガラスにぶつかり弾かれるような音が響き渡る。
ドッドッドッドッドッドッドッドッ!
持ち主に毒針が全て返されてフォレストワスプは自分の毒針で穴だらけになり地に落ちた。ジージーと少し動いていたが、直ぐに動きを止めて魔魂石と姿を変えた。
【森蜂の蜜】は、今回もドロップしなかった。まだまだ素晴しっこい蜂を相手にしないといけないみたいだ。
「ロア、全部跳ね返した。今の何?」
「反射らしいよ」
俺に駆け寄ってくるティトに種能力を説明する。今回の種は反射だ。余裕綽々に攻撃して来いと構えていたのは、このためだ。まさか、反射した攻撃が相手に当たるとまでは思っていなかったが嬉しい誤算だ。
「ロ、ロア、やばいかも」
「ん、どうした?てぃとぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ブーン ブーン ブーン ブーン ブーン ブーン ブーン ブーン ブーン ブーン
真っ青な顔したティトが指さす方向を見ると赤い眼をした蜂の大群に囲まれていた。その数、1000匹!だって、一面黄色いお花畑ならぬ蜂畑なんだから。ティトの腕を掴み力の限り俺の方に引き寄せる。
「種:反射!」
毒蜂達の攻撃が繰り出される前に、種能力を発動した。反射できる限界が、どの程度か分からないが経験上行けるはずだ。
キンキンキンキンキンキンキンッ!キンキンキンキンキンキンキンッ!キンキンキンキンキンキンキンッ!キンキンキンキンキンキンキンッ!キンキンキンキンキンキンキンッ!キンキンキンキンキンキンキンッ!キンキンキンキンキンキンキンッ!キンキンキンキンキンキンキンッ!キンキンキンキンキンキンキンッ!キンキンキンキンキンキンキンッ!キンキンキンキンキンキンキンッ!キンキンキンキンキンキンキンッ!
終わりのないガラスの音が鳴り響く。少し耳障りだが命を救ってくれているのだ我慢しよう。ティトは、俺の周りをグルグルと走り回って、時には独楽のように回転もして反射を楽しんでいる。
「キンキン良い音― 楽しい」
「楽しいなら良かったけど、あまり離れすぎるなよ」
ドッドッドッドッドッドッドッドッ!ドッドッドッドッドッドッドッドッ!
ドッドッドッドッドッドッドッドッ!ドッドッドッドッドッドッドッドッ!ドッドッドッドッドッドッドッドッ!ドッドッドッドッドッドッドッドッ!ドッドッドッドッドッドッドッドッ!ドッドッドッドッドッドッドッドッ!ドッドッドッドッドッ!ドッドッドッドッドッドッドッドッ!ドッドッドッドッドッドッドッドッ!
持ち主に針を返却した数だ鈍い音が聞こえてくる。俺達を囲んでいたフォレストワスプの大群は少しづつ数を減らしていった。
「ティト、兎肉と蛙肉、どっちたべる?」
「両方!」
「了解。暇だから、おやつを食べよう」
「賛成!」
焚火をしながら俺達は肉を焼いて小休止している。相変わらず、ガラスの音と毒蜂達が倒れる音が交互に聞こえてくる。30分程、棒立ちしていたが1000匹の大群はスムーズに減ってくれない。ようやく半数位まで減ったが、まだ全滅まで時間がかかりそうだ。
知らない冒険者が見たら、シュールな絵になっていると思うが、俺達は気にせず肉を頬張った。腹が満たされた所で俺達を囲んでいた最後の1匹が地に落ちた。
「終わったな。巣を回収して帰るか」
「おわったおわったー」
俺達は、巨木の根本まで移動して巣を探す。巨木を見上げると大きな楕円形の黒い塊が枝に吊り下がっている。あれ、切り落とすのも大変そうだ。どうしたもんか。てか、女王蜂は、いつの間にかに倒したのだろう。
そんなことを考えていると、空から巣が降ってきて一発で悩みと疑問を解決した。どうにか巣との衝突を避けるとグシャッと巨大な巣が地面にぶつかり砕け散った。黄色いドロッとした液体が体に付くと甘い香りがした。興味本位で舐めてみると甘い。【森蜂の蜜】のようだ。
砕け散った巣を見つめていると、2m程の大きな影が現れた。姿は巨大な蜂だが2足歩行をしている人型だ。これが女王蜂だろう。
「種:ランダム!」
反射の効果時間が切れたのを確認し種を使う。女王蜂を倒せる能力であって欲しい。どうなることやら。ティトは、強敵に震えながらも投げナイフを構えている。
掌に現れた賽子を振る前に、女王蜂が動き出す。俺が剣を構えるよりも早く女王蜂の右腕が俺の腹に刺さる。頭上高く飛ばされる。これはリターンストーンの出番かもしれない。かなりの強敵だ。
種族:蜂魔物
名前:ワスプクイーン
Lv:25
クラス:女王蜂
種:???
スキル:???
俺が空の一人旅をしている間に、ティトはナイフを投げて女王蜂に攻撃するが反射されたフォレストワスプ達のようにナイフを弾き返された。我が子が受けた恩を返すよう小さな体へ8本のナイフが突き刺された。ティトは防具を真っ赤な血で染め、その場に倒れこんだ。
「このやろう!」
ワスプクイーンに怒号を発して、届くはずもないのに握っていた賽子を投げつけた。ドスッドスッドスッと聞こえるはずのない衝撃音がした。
ティトの近くに立っていたワスプクイーンは、一瞬で距離を詰めて俺の前に移動していた。結果として、賽子は女王蜂の体に穴を開けて貫通し地面に転がる。
予想だにしていない一撃をくらって、ひるんだワスプクイーンを見ながら何とか空からの着地をこなす。
賽子の結果を確認するが、【幸運一撃】では倒せない。再投を選択する。掌に固い感触を得て、腕を振り上げるが危険を感じて魔法を使う。
「光の壁!」
ワスプクイーンが尾をしならせて毒針を飛ばしてきたのが視界に入った。
パリンッ! ドスッ!
一撃目の毒針で、今まで破壊されたのを見たことが無かった光の壁が砕け散った。格上の攻撃は防げないってことですか。
防御壁を破ったのを確認すると、毒針を連射してくる。当然避けることもできず体に無数の穴をを開けられてドクドクと血を流す。やべえ、これ死亡フラグじゃね。
ザッザッザッ
敗北を確信した俺の前に、勝利を確信したワスプクイーンが、ゆっくりと近付いてくる。俺は、最後の力を振り絞って掌から賽子を零れ落とす。コロコロと転がり能力が決まる。いや、これじゃあ勝てないっての。でも、もう再投はできない。
俺は、種能力を発動するとワスプクイーンの体に赤い点が見える。能力によるものだろうが逆転の一撃が思い浮かばない。ワスプクイーンは、傍らに落ちていた俺のブロンズソードを片手に持ち首筋へ振り下ろす。万事休す。
キンキンッ!
ワスプクイーンが振り下ろす瞬間に、後方から銀色の何かが飛んできた。金属の衝突音がしてブロンズソードがワスプクイーンの腕から弾かれ宙を舞う。俺の視界には、血だらけのティトが投擲を終えて再び倒れる姿が映った。
役目を終えたナイフと一緒に煙を吐き始めたランプ型の魔導具も落ちてきた。辺りが煙まみれになり俺を包み込み。ワスプクイーンは煙を感じて後ずさる。
「女王蜂にも効くってんなら、当ててやるよ! うっ、ぐぁ」
俺は、刺さっていた毒針を体から引き抜いてヨロヨロと立ち上がる。毒が回り始めてフラフラする。
アイテム袋から特効毒消しポーションを取り出して飲み干して解毒する。並行して光魔法で傷も回復する。
ワスプクイーンは煙に馴れ始めたのか、少しづつ近寄ってきている。女王蜂には煙は長く効かないようだ。
毒が抜けてきた足腰に力を入れて、ワスプクイーンとの距離を一気に詰める。握っている武器を構えて女王蜂の体に浮かぶ赤い一点目掛けて攻撃を放つ!
「当たれ! 幸運一撃!」
ドスッ!
握っていた鋭い針がワスプクイーンの腹に突き刺さる。腹から緑色の液体を吹き出して、俺に寄り掛かるように力を失っていく。
グリグリと毒針を押し込んで貫通させるとワスプクイーンは、口から緑色の液体を吐き出し地に伏した。ビクビクと痙攣しているが、直に死ぬだろう。
俺は、血まみれのティトに駆け寄り光魔法で治療をする。傷は塞がっていくが血の気が返ってこない。とっておきのポーションを口に含み、ティトの唇から喉へ流し込む。ゆっくりと飲み込んだのを確認して声を掛ける。
「ティト!ティト!」
「ろ、あ?だ、い、じょうぶ……?」
人の心配をして意識を失ったティトだったがステータス上は問題なさそうだ。これなら、一安心だ。
俺は女王蜂の魔魂石がアイテム袋に収まるのを確認するとリターンストーンを使いギルドへと戻った。
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