第11話 嫌いなもの
作者の嫌いなものだったりします。
「【森蜂の蜜】を採ってこいか。それは、大仕事だね」
「フォレストワスプって、敵を仕留めるまで仲間を呼んで襲ってくるんですよね?」
俺達は、朝食を済ませイース商会に来ていた。錬金術ギルドからの依頼は、【森蜂の蜜】の納品だった。頼れる先輩イースさんに、凶暴なフォレストワスプ退治について相談している。ティトは、店内のアイテムを触って1人で遊んでいる。
「シルバースネークの時みたいにドカンと巣を爆発させるとか、良い方法ありませんか?」
「うーん、シェルターフロッグの【盾蛙の油】があればフォレストワスプを上手く相手にできるかもしれないね」
「シェルターフロッグですか?方法教えてください!」
イースさんによると、森の沼地に生息しているシェルターフロッグのコンバートドロップ【盾蛙の油】とイース商会謹製の魔導具を使えば上手く相手にできるということだ。ちなみに、魔導具の値段は金貨1枚だ。普通の冒険者は手を出さない金額だが、勿論俺は購入した。
「毎度ありがとうございます!ロア君は、本当に上客だよ。頑張ってね」
「いえいえ、イースさんの品揃えに助けられてます。あ、炎の結晶また仕入れたら連絡くださいね」
「了解!今後も贔屓に頼むね。」
「ひいきにたのむねー イースおじさん、またね」
炎の結晶は、色々と使えそうだから常時持っておきたい。イースさんに追加注文をして店を後にした。カレンさんにも相談しにギルドへ行こう。フォレストワスプとシェルターフロッグの納品クエストがあれば一石二鳥だしな。
「カレンさん、毎日お仕事ご苦労様です。いくつか聞きたいことがあるんですが……」
「ロアさん、ティトさん、今日も元気そうですね。はい、なんでしょうか?」
「うん、ボクも元気だよー カレンも元気?」
結果として、フォレストワスプとシェルターフロッグの納品クエストは、どちらも依頼があった。【森蜂の一針】【森蜂の翅】【森蜂の蜜】の3つがフォレストワスプで、【盾蛙の脚肉】【盾蛙の油】がシェルターフロッグのコンバートドロップだ。
「では、クエストの登録お願いします」
「はい、分かりました。それにしても、錬金術ギルドからもお声が掛かるなんてロアさんは、すっかり腕利き冒険者ですね。今日も頑張ってくださいね」
「ボクも頑張るよ!」
「はい! ティトさんも頑張ってくださいね」
俺達は、クエストの登録を済ませると街の南側にあるシェルターフロッグが生息する沼地へと向かった。今回の受注クエストは、酒場からの【森蜂の一針】【盾蛙の脚肉】、錬金術ギルドからの【森蜂の蜜】の3つだ。
「ティト、シェルターフロッグを探してね」
「ロア、了解。ボク、カエルすきー カエルのおにくおいしいー」
「え、そうなのか。蛙の脚は鶏肉みたいだときいたことはあるけど……」
沼地を目指して街を南下すると、今まで魔物狩りをしていた涼しげな森に囲まれた北側と違い沼地があるせいかジメジメとしている。足元の地面も徐々にぬかるんできてがブーツが泥で汚れてきた。1時間ほど歩くと沼地に到着した。
「あの青いのがカエル。どうする、ロア?」
「うぉ、でけぇ…… 気持ち悪いな。ティト、1人でやれるか?俺、実は蛙苦手なんだよ」
前世で苦手な生き物ランキング3位に入るのが蛙だ。小学校の生き物係だった俺が、オタマジャクシに餌をやろうと水槽を覗いた時に、共食いをしていたのを見て以来、蛙という存在自体が嫌いになってしまった。
その蛙が、気色の悪い青い色で象ぐらいの大きさで沼地に浸かっている。俺には、衝撃映像でしかない。できる事なら、相手にしたくない。
「ロアも苦手なものとかあるんだ?わかった、やってみる。ロアは、ここで見てて」
「う、うん。助かるよ。頑張って!」
ティトは、俺に首肯するとシェルターフロッグに向けて駆け出した。走りながら巨大な蛙に向けて紫電を纏ったナイフを8本投げつける。青蛙にザクザクッと刺さり8か所の傷が一瞬で付けられた。ビリビリと紫入りの光に包まれながら痺れているようだ。
痺れて動けないシェルターフロッグのが近くまで辿り着いたティトは、大きく飛び上がり、再び8本のナイフを投げる。ナイフの軌道は、蛙の頭に集中して向かっていく。
ザクザクッ ザクザクッ ザクザクッ ザクザクッ
8本のナイフが全てシェルターフロッグの頭に突き刺ささる。跳躍から、蛙の真上に着地しようとするティトが首筋目掛けてバゼラードを斬りつける。鋭い刃が蛙の頭を切断すると思われたが、バゼラードは蛙の表皮を滑っていく。そのまま沼に落ちていくティトの姿があった。
「うわ、マジかよ。ヌメヌメなのかあいつ」
感想を口に出している場合では無いが、嫌悪感はなかなか拭えない。俺は、ティトを救う為、シェルターフロッグに向けて駆け出した。沼の中で、灰色の泥だらけになったティトが抜け出そうとジタバタしている。
「風の球!」
ナイフが刺さった傷口から毒々しい青色の体液を流しているシェルターフロッグに向けて魔法を放つ。痺れから解放されて、近くのティトへ向けて長い舌を伸ばそうとしている。風の球が蛙の腹に当たり巨体の動きを少しばかり遅らせる。
俺は、ティトの近くまで辿り着き、泥だらけの腕を掴み沼から引き上げる。ティトは耳や尻尾が泥でベチャッとなり初対面の時よりも汚れてしまった。
「ティト、大丈夫か?下がって、陸地で戦おう」
「うん。あいつ、ヌルヌルして滑る。」
風の球で、崩した体勢を整えたシェルターフロッグが跳躍して陸地へ着地する。素早く舌を伸ばして攻撃をしてくる。ウッ、気持ち悪い。舌の軌道を読んで後ろに飛び退いて舌を躱す。
種族:蛙魔物
名前:シェルターフロッグ
Lv:18
クラス:盾蛙
種:???
スキル:???
シェルターフロッグは、Lv18らしい。ちなみに、シルバースネーク乱獲で俺はLv16、ティトはLv15になっている。この世界で、一対一で真っ当に戦って勝利できる魔物は自分と同じレベルか自分よりも低い相手だけだと教えられている。特殊な種能力や戦術があれば別として自分よりもレベルが高い敵には挑まないのが常識だ。
考え事をしながらも舌の攻撃は上手く躱せている。格上相手だが動きは、そうでもないみたいだ。ティトの結果を見ると体表のヌルヌル粘液が刃を通さない所以が、シェルターフロッグなのかもしれない。
「ロア、この剣にも魔法掛けて欲しい」
「了解。雷纏剣!」
ティトのバゼラードに紫電を纏わせる。続けて自分の剣にも魔法を掛けて、シェルターフロッグに向けて構える。素早く蛙の後ろに回ったティトを確認して、正面から伸びてくる舌に向けて斬りかかる。バチバチっと舌が焦げるように紫色に光るが、刃は蛙の舌を切断することなくヌルっと滑り落ちる。
後方からバゼラードを斬り付けたティトもバチバチッと紫電を放ったものの刃は蛙の体表には届かない。初めのナイフは刺さったのにどうゆうことだ。剣が滑り落ち体勢を崩しているところは、蛙の体当たりをもらう。象並みの質量と接触すると俺の体は大きく吹き飛んだ。
さっきまでの遅い動きと変わって、俺を吹き飛ばしたシェルターフロッグは、素早く振り返りティトに向かって舌を鞭のようにしならせて振り落とす。俺と同じくヌルっと滑って体勢を崩していたティトは長い舌の一撃をくらって地面に叩きつけられる。
「風の球!」
続けて振り下ろされようとする舌の鞭からティトを守るために俺は魔法を放った。風の球が当たり蛙の体を……
「なんで、吹き飛ばないんだ」
風の球がシェルターフロッグの体に触れると剣の刃同様にヌルっと滑り沼へと方向を変えて飛んで行った。ノーダメージの蛙は、ティトに向けて舌の鞭を数度繰り返す。泥に塗れていたティトの体が、赤黒く染まっていく。
「土の球!」
ティトの下へ駆け出しながら、蛙に効かなくなった雷、風属性以外の魔法を放つ。今日、覚えたての土属性魔法だ。予想通り、土の球は蛙に命中した。背中に強い衝撃を受けたシェルターフロッグは、ティトへの攻撃を止めて俺に向き直った。
「炎の球!」
続けて炎属性魔法をシェルターフロッグに向けて放つ。炎の球が当たると蛙の全身は、轟々と燃え上がった。燃え上がりながらも長い舌で俺を狙ってくるが
素早くティトの下へ辿り着き光魔法を使う。
「光の壁! 光の癒し!」
何度も伸びてくる舌の攻撃を光の壁で防いでいる間に、血を流しているティトに 光の癒しかけて傷を回復させる。
「ロアありがと」
「立てるか?」
傷が癒されたティトは、頷いて体を起こしバゼラードを構えた。俺も蛙に向き直り剣を構える。ビシッビシッと鞭のように何度もあびせられる舌を光の壁が防いでいる。あまり長くは持たなさそうだ少しづつ亀裂が入り始めている。
「種:ランダム!」
実体化した賽子を今日は地面に投げつける。1つ、2つ、3つと目が決まる。3つの賽子が赤く点滅し【発動】と【再投】の文字が浮かぶが、即座に【発動】を選ぶ。能力が発動して左手の種紋が赤く光り輝く。
炎の球でシェルターフロッグの全身は炎に包まれているがダメージは追っていないようだ。炎を気にもしていない。それどころか体を丸めてグルグルと回転して突撃してくる。
「ティト!避けるぞ」
「うん!」
真っ直ぐに飛んでくる巨大な火の玉を衝突ぎりぎりで、横っ飛びで躱すと沼の上をシェルターフロッグが転がっていく。火の玉に触れた沼の水分が蒸発してジュージューと音を立てる。沼を転がって渡り切ったシェルターフロッグは木に衝突して動きを止めた。ぶつかった木々が炎をあげて燃え出している。
「体の油が燃えてる?」
「そうみたいだね。火消しをしないと大変なことになりそうだ」
シェルターフロッグが再び回転して、俺達の方向へ飛んでくる。俺は剣を構えて賽子で決まった種能力を使い出す。全身の筋力にメキメキと力が集まるのを感じる。剣に魔法を纏わせて衝突の瞬間に備える。火の玉になったシェルターフロッグが、弾丸のように俺へ向けて飛んできて衝突する。
「種:極振り! 水纏剣!」
接触の瞬間、最速に引き上げられた水刃の一撃が火の玉を消し去る。纏っていた炎を失ったシェルターフロッグは刃に触れて真っ二つになる。両断された体を左右に飛び散らせてシェルターフロッグは虹色の光に包まれ魔魂石と姿を変えた。
【シェルターフロッグの魔魂石】を入手した。
コンバートドロップ
1.【盾蛙の脚肉】2個
2.【盾蛙の油】2枚
3.【シード:魔法体勢 魔力強化系統】2粒
無事に、目当ての物も手に入れられたようだ。シウバさんの極振りによる筋肉痛で全身を震えさせながらティトに手を振る。動きがカクカクして面白いのか腹を抑えて笑っている。
「ティト、そこは笑うとこじゃなくて、褒めるとこだろ」
「大きなカエルを倒して驚いた。でも、ロアが変な動きするから」
全身が筋肉痛で動けないがまだまだ素材が必要だ。回復して、嫌いな蛙退治を続けなければならない。
シェルターフロッグは、一度受けた魔法属性に耐性を持つ魔物で、ヌメヌメの粘液は【盾蛙の油】だったから轟々と燃えていたようだ。弱点が蛙とは思えない水属性だった。
魔物の特性が分かれば、レベルが上でも簡単なもので、その後の狩りはサクサクと上手く行った。シェルターフロッグの狩りを終えるとティトが【盾蛙の脚肉】を食べたいというの焚火をして焼いて食べてみてが、見た目はともかく味は鶏肉のように美味だった。
腹が膨れたら次の魔物目指して冒険再開だ!
次回は、蜂退治です!