第10話 彫金ギルドと初めての彫金
更新時間遅れてしまいました。手探りでやっていますが、時間でアクセス数も変わるものですね。
窓から朝日が差し込み、瞼に熱を感じる。うーん、よく寝たな。今日も一日頑張りますか。伸びをしようと布団から腕を伸ばす。モフモフだ。こんな素材の掛け布団だったか?
ハッとして、布団をめくると小さい身体を丸めたティトの姿があった。まだ、スヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。
小学生の頃、飼っていたミヤを思い出す。名前は猫っぽいがミケは秋田犬だ。
ミリアさんと違って、モフモフで幼いティトなら不思議とドキドキしない。思わず頭を撫でると耳をピクピクさせた。
「あ、ロア、おはよぉ」
「ティト、おはよう。いつの間に布団に入ったの?」
「夜寒くて、ロアの中に入った」
「そっか、全然気付かなかった、次からは入る前に教えてね」
「う、うん。分かった」
ティトも起きたところで、準備をしてギルドへ向かった。ギルドカウンターでは、今日もカレンさんがテキパキと仕事をしている。
「おはよう。カレンさん」
「あ、おはようございます。ロアさん、彫金ギルドから手紙が届いています」
「ギルドから手紙ですか?何の用ですかね?」
「昨日の銀鱗が気に入ったから納品した冒険者に渡して欲しいと手渡されたので内容までは分からないですね」
カレンさんから受け取った手紙を開封すると、差出人は彫金ギルド長からで、大蛇の銀鱗について話があるのでギルドへ来て欲しいという内容だった。生産ギルドに興味もあるし、今日は彫金ギルドへ行ってみるか。
「カレンさん、手紙ありがとうございました。とりあえず、ギルドに来て欲しいという内容でした」
「彫金ギルド長のチャムさんが、手紙を書いてまで来て欲しいなんて珍しいですね」
「そうなんですか?ギルド長はチャムさんというんですね。では、彫金ギルドの場所教えてもらえますか?」
「はい、もちろんです」
彫金ギルドは、イース商会の近くにあるらしく、冒険者ギルドから歩いて数分で着くみたいだ。そのまま、情報収集で立ち話をしているとティトのお腹がグゥーグゥー鳴った。朝食を待たせては悪いので、話を切り上げ酒場のテーブルに着いた。
俺は、茹でたジャガイモ、スクランブルエッグ、兎の干し肉、サラダ、リンゴジュース、少し飽きてきたいつもの朝食セットを食べながら彫金ギルドについて考える。ティトは、満面の笑みでガツガツと口の中にかっこんでいる。
弟子入りしてオリジナルアクセサリーとか作ってみたい。彫金となると才能などの要素もありそうだが、手先の器用さには自信がある。前世では、プラモやフィギュアをカラーリングして受賞したこともある。
「ごちそうさま」
「ティト、残さず食べて偉いね。足りなければ、俺の分も食べるか?」
「え、ロア調子悪いの?食べれないならボク食べるけど」
「安心して、調子悪いわけじゃないよ。もうお腹がいっぱいだから、食べてくれると助かる」
「わかった、もらうー」
笑顔で俺の皿を受け取って、ガツガツとかっこんで、あっという間に皿がキレイになった。ティトは食べ終わるとお腹をポンポンと叩いて満足そうに笑みを浮かべた。
「よーし、お腹もいっぱいになったし彫金ギルドに行こうか」
「彫金ギルドいこー」
2人で彫金ギルドへ足を運ぶ。入口前には、繊細な彫刻が施されたキラキラと輝く女神像が左右に立ち並んでいる。これだけの技術があるとなれば、色々と期待できそうだ。
ギルド内に入ってみると入口手前側には棚に飾られた様々なアクセサリーとカウンターがあり、奥は工房となっているのか作業台で何やら作っている職人の姿が見えた。
「いらっしゃいませ。初めての方ですか?」
「えっと、ギルド長のチャムさんから手紙を頂いて伺いました。ロアです」
「ボクは、ロアのパーティー、ティト!」
カウンターに立っていた桃色の髪をボーイッシュに切り揃えた小柄な女性が俺達に気付き声を掛けてきた。俺が用件を説明し名前を名乗るとティトも続いて挨拶をした。出会った頃と比べて、随分と明るくなったもんだ。
「へぇー、君がロア君か!一日で500個もシルバースネークの鱗持ってくるんだから、もっと厳ついの想像してたよ。あはははは。私がチャムだ。よろしくな」
「あ、あなたがチャムさんでしたか、えっと用件はなんでしょう?」
「立ち話も何だから奥へ付いて来な」
ギルド長のチャムさんに奥へ連れられて工房の空いている席に案内された。彼女は、ティトと同じくらいの身長だが職人の鍛え上げられた筋肉と立派な双丘を胸に持つ女性だ。口元の八重歯がチャーミーだ。
「実は、貴族様の気まぐれで銀鱗が100個追加で必要になったんだ。また採ってきてもらえないだろうか?」
「そうゆう事でしたか。分かりました。」
「オーケー!シルバースネーク今直ぐ倒しに行く!」
貴族に振り回される職人とか、よく見かける構図だ。貴族との付き合い方は要注意だな。早速、狩りに出かけようと入口に駆け出そうとするティトの襟首を掴み静止させる。
「では、これを使ってください。彫金技術を学ぼうと素材を残しておいたんです」
「うわ、これは助かる。そうかそうか、彫金学びたいなら是非教えてやろう。付いて来な」
チャムさんの後を追っていくと説明もなく作業台の前に座らされた。作業台には、左右に1個づつ青い結晶が埋め込まれ回路のような線が中央に向かって刻まれている。線を追って中央部分を見ると台座のようなモノが置いてある。
「よーし、まずは銀鱗をシルバーインゴットに加工だ。魔導具の青い部分に手を置け」
「こうですか?」
左右の青い結晶に手を置くと作業台に刻まれた線が青く光り輝いた。青い線は、中央の台座に向かってどんどん伸びていく。しばらくすると台座全体が青から赤に色を変え、チャムさんが銀鱗を台座の上に置いた。
左右の手から力が吸い取られるような酷い脱力感と共に、銀鱗がドロドロに溶けて形を変える。
「よしよし、長方形のインゴットをイメージして手に力を込めろ」
「インゴットのイメージですね」
「いんごっと、いんごっとー、いんごっとてなに?」
1人よくわかっていない子どもがいるが、気にせずシルバーインゴットをイメージすると先程よりも強い力でHPを吸い取られる。HPの減少に反比例するようにドロドロだった銀鱗は、みるみるとシルバーインゴットへと形を変えた。
「おぉ、ロア君は、筋が良いな。どんどんやろうか、ほれほれ」
「え、まだやるんですか?HP無くなって倒れますよ」
「ん、注ぐのはMPでも良いんだぞ。ほれほれ頑張れ」
「ロア、インゴット作った!凄い!ほれほれがんばれー」
MPを使うというアドバイスと外野の応援で、続けてインゴットを作成していく。1個当たりHPが500近く吸い取られたので焦ったが、MPだと10程度で済んだ。HPやMPを動力とする彫金魔導具らしい。
「種:ランダム!」
謎に、渡した100個を全て俺が加工することになった。種を使って、ステータスを底上げし、光魔法でHP回復、マジックポーションでMP回復を併用しながらやり切った。チャムさん、どうなってんだ。
「よし!次は、インゴットを加工だ!こっちへ来い!」
「え、まだやらせるつもりですか」
「がんばれーがんばれー」
ギルドに来る前までは、彫金やってやるぜと思っていたが、一度に100個もインゴット作りをやらされ、そのまま作業続行になるとは思ってもいなかった。なかなかの肉体労働だ。
インゴット加工用の魔導具から離れると、職人達が両手にグローブをしてテーブルに座り何やら作業をしている場所へ案内された。職人達は、テーブル中央に置いたインゴットへ両手をハンドパワーのように構える。グローブが緑色の光に包まれ、少しすると内側から緑色の光がインゴットに向けて放たれる。光を受けたインゴットは、宙に浮かびグルグルと回転する。緑色の光がインゴットを削っていき、アクセサリーに変わっていく。
「今度は、あれだ。イメージが大事だ。これと同じ物を作れ」
「イメージで、これと同じものですか」
「いめーじ、いめーじ!」
手渡されたのは、銀のチョーカーで貴族たちの間で流行っているらしい。意外にもシンプルな作りで、これなら作れるそうだ。
職人達と同じグローブを両手にはめて魔力を込める。グローブ全体が緑色の光に包まれ、インゴットに向けて光を放つイメージをすると職人達と同じように加工することができた。これは、魔法を使う要領と同じみたいだ。
「おぉぉー、ホントに初めてなのか?ロア君、才能あるよ。うちで働かないか?」
「いや、そんなことないですよ。うーん、冒険に飽きたら考えます。ははは」
「ダメだよ。ロアは、ボクと冒険するんだ」
「そうかい、それじゃあ今日だけ借りるとしよう。残りも全部やってくれ」
「え、なんでそうなるんですか!?」
チャムさんの力押しで残りのインゴットも銀のチョーカーに加工させられた。
「種:ランダム!」
予期せぬ過重労働に、再度種能力を使うが、当然MP不足に陥ったのでマジックポーションを栄養ドリンクのように飲みながら戦った。
「チャムさん!終わりましたよ!」
「流石、天才!早いね!上手い!安あがり!素晴らしい!」
「ロアは、天才―、天才!」
誉め言葉ではないものも混ざっていた気がするが放っておこう。気にしたら負けだ。終わったら自由にして良いと言われたので、その後は手持ちの銀鱗を加工して、幾つかアクセサリーを作って過ごした。
「ロア君、やっぱり天才だな!これとか、ギルドの商品として並べても良いか?」
「あ、置いてもらえるなら良いですよ。自分の作った物が売れたら楽しそうですし」
前世のシルバーアクセサリーをイメージして作った幾つかを置いていくことにした。売れたらちゃんと売上を冒険者ギルド付けで貰えるらしい。チャムさんは俺をギルドに引き込みたいのか手伝ったお礼にインゴット加工用の魔導具と彫金グローブをタダでくれた。これで、どこでも彫金ができる。嬉しい誤算だ。
「いやあ、ロア君、今日は助かったよ。私の仕事が無くなった。あっはっはっは」
「え、自分の仕事押し付けたんですか?彫金の勉強だとか言って」
「まぁ、魔導具もあげたんだから、そんなに怒るなよ。あれ金貨数十枚はするんだぞ。時に、ロア君は錬金術ギルドにも興味があるって?」
「え、金貨数十枚の物貰って良かったんですか?ポーションを自作したいと思ってまして、錬金術ギルドに興味があるんです」
俺がどれくらいの働きをしたか分からないが金貨数十枚の魔導具をくれるなんて太っ腹だ。錬金術ギルドに興味があると言うとチャムさんは、枯れ木のマークが封蝋された手紙を渡してきた。
「これは?誰からの手紙でしょう?」
「ロア君が、せっせと銀のチョーカー作ってる間に、錬金術ギルド長のウィードに、腕の良い冒険者のおかげで仕事が楽出来たって自慢してきたらさ。あんたに仕事頼みたいって渡されたのさ。勿論、断っても大丈夫だよ。あたしは、渡すだけだって言ったからさ」
「わざわざありがとうございます。中身確認して受けるか決めますね。錬金術ギルドかぁ」
手紙を読むと魔物の素材集めの依頼だった。骨の折れそうな魔物の名前が記されていた。
「ティト!今日はもう帰るぞ、待たせたね」
「はーい。ボク、お腹減った。早く帰ろう」
チャムさんにお礼を告げて、俺達は冒険者ギルドへと戻った。
「ティト、これプレゼントだ。貰ってくれ」
「わぁ、綺麗!ロアのもある?お揃いだと嬉しい」
「あぁ、お揃いだ。パーティーメンバーだからな」
「おっそろい、おっそろいー、嬉しい!」
賽子のチャームを付けた銀のチョーカーをティトに付けてやると喜んでくれた。銀のチョーカーのままでは、面白くないと思って考えた。結果思い付いたのが、この世界で世話になっている賽子だった。
冒険者として賽子のエンブレムを掲げて、有名になりたいという思いもこもっている。明日は、錬金術ギルド依頼の素材集めを頑張ろう!
次回は、バトル展開です。評価・感想・ブックマーク頂けると嬉しいです。毎日更新頑張ります。