無駄と魔物と芸人と
「そんなこといわないでよ~、奏ちゃん!」
「情けない声出したって、私の憤りは治まりませんから、リグレット様!なんで私がこれを着る必要があるんですか?」
今までのリグレット様の中で、いちにを争うほどの意味不明発言だ。
「これ、こんなでもマジックアイテムでねー、着ると下界に行けるように、なるんだよー」
リグレット様は着ぐるみ、もといマジックアイテムを指し示した。
うん、説明が簡単過ぎる……
サーティス様の説明に慣れた身体には物足らないなぁ。
なんていうか、リグレット様の説明はワクワクしないんだよね。
それに比べてサーティス様の説明は、なんか知的好奇心を擽るというか……分かりやすくて、もっと知りたい、ここはどうなのよ?って思わせてくれるんだよ。うん、そう!聞いていると、異世界と関わっているって、実感するってヤツだ。
リグレット様と話す場合、こちらからアプローチしないと、異世界っぽさが出ない。
テーマパークのキャストなら、リグレット様は大根もいいところだよ。
「はぁ、着ると下界に行けるようになるっていうのは分かりましたが、なんでこの体じゃ降りられないんですか?」
「だって今の奏ちゃん、魂だもん!」
「それは分かってます!そもそも魂の状態で降りられないんですか?」
「降りられるけど、そういうの関知できるスキル持ってる人か、死期の近い人にしか見えないし、下界の物体に触れないよ?」
「じゃあ神様の力で、私に転移用の身体作れたりしないんですか?」
「できるよ、できるけど、そうすると生理もあるし、ムダ毛も生えるし、ウンコもするけど?」
「それは、いやですね」
即答、絶対イヤだ。
「でしょ?だから、この着ぐるみなんだよ。これは魂が着る着ぐるみで、これを着ると周りからも認識されるし、物体にも触れるようになるんだよ」
理屈は分かったけど、もう少しデザイン何とかならなかったのかな……
「あとね、これ以外と丈夫なんだよ。ほらこれで下界に降りると、小さなお友達が寄ってくるからね。あの子たちは結構ムチャしてくるからさぁ……」
「これは小さなお友達寄ってこないタイプの着ぐるみです、多分」
まぁ小さいお友達にもマイノリティはいると思うので、そこに刺さればいいですね。
「え?そうなの?俺、あいつに騙されたの?これ小さなお友達の啓蒙活動?にいいっていわれたから、作る許可と予算出したんだけど……」
部下の人も騙したわけではないと思うよ。そもそも神様は嘘つけないって、リグレット様いっていたし!
多分、部下の人は本気で思っていたんだと思うよ。逆にそっちの方がビックリだけど。
あと、リグレット様……啓蒙活動の後の『?』が地味にジワジワきます。まさか意味知らないってことはないですよね?
っつーか、ここの予算の概念も結構謎だよ。働くつもりないから、あえて聞こうとは思わないけどさ。
「ソンナコトハナイヨー、まあ作っちゃったものはしょうがないし。奏ちゃんが役に立ててくれそうだから、結果オーライだね」
「着る前提で話を進めないでくださいよ!」
あー、これ『啓蒙活動』の意味知らない可能性高いよ。
「えー、下界に降りるのに、防御力高い方がいいでしょ?これ防御力高い上に、物理攻撃、魔法攻撃、状態異常が全て無効なんだよ!試しに俺が攻撃しても傷ひとつ付かなかったし」
無駄に高性能だ。これで厨二心を擽るデザインだったら、伝説の防具っていわれてもおかしくないな。
っていうか、リグレット様ダメでしょ!
支店長でも傷付けられない装備品作らせちゃ!
それに小さなお友達がいくら容赦ないからって、そこまでの防御力は必要ないから!もしそんな性能の着ぐるみをズタボロにできる小さなお友達がいたら、ここにスカウトするべきですから!
「デザイン、なんとかなりませんか?そんなに防御力要らないんで」
「うーん、ちょっと難しいかな。魂のまま下界に降りられる装備って、今までなかったから、作れるのが休暇中の部下しかいないんだよ……」
『この上司ありにして、この部下あり』の見本だね。
能力が尖りすぎているよ、いろいろと残念だけど超優秀だ。
「だから、奏ちゃんの望むかたちで、下界降りるには実際これ着るしかないと思うよ」
それが本当に困るんだよね。
うーん、少し考えを変えてみようかな。
仮に仮にだ、これを着て下界に降りたとする。この際、もうデザインには目を瞑ろう。
その状態でエルガルド人に見つかったらと、想像してみよう。
多分エルガルド人の目には、生物と写るだろう。しかも初めて見る得体の知れない生物だ。
そうだよ、忘れてたけど、地球でもそれぞれのキャラが登場した時って、結構衝撃的だったもんなぁ……
エンターテイメントに耐性のある地球人にすら衝撃があったんだから、文明が地球の中世レベルなエルガルドでは、それどころの比じゃないはずだ。
初めて見たエルガルド人は逃げるぞ、それ以外想像できないわ。逃げられるだけなら、まだいい。
冒険者がいて魔法もある世界だ、確認してないけど魔物も高確率で存在するだろう。
魔物と認識されて攻撃される可能性もある。
引きこもってれば問題なさそうだけど、最初はいいとしても、将来的には引きこもってばかりもいられないからなぁ……あ、ちょっと確認。
「ちなみに休暇ってどれくらいの日数ですか?」
「地球人の時間感覚だと、50年くらいかなぁ」
数ヶ月単位ならとりあえずこれ着て、下界降りて、引きこもってればいいかなと思ったけど、さすがに50年は無理だ。
あ……でもガワの姿かたちが、認識されなければいいのか。
認識阻害魔法、なければユニークスキルでカバーして、周りには普通の人って認識されるようにすれば……
イケる!
もし仮に魔法やスキルが効かない人がいても、大多数の人間に効いていれば、効いてない人が異端扱いされるだけだ。
もし、それでその人が迫害されるようなら、ここに頼めば最低限なんとかしてくれるだろう。
残りの問題は私のメンタルだけだ。
果たしてアレのどれかが、自分の姿だって事実を受け入れられるようになれるか否かだ。
逆にいえば、それが解決すれば、オールオッケーだ!
……
…………
結論。生理なし、排泄不要、ムダ毛なしの身体なら、ナリがあれでも大丈夫!
そのうち慣れる!
「奏ちゃん……本当に生理あって、排泄が必要で、ムダ毛が生える身体イヤなんだね……」
イヤだよ、特に生理のある身体はさ。子ども産みたいなら、別だろうけど。
この年まで結婚考えられる人とも出会わなかったし、どうしてもこの人の子ども欲しいって思える男性もいなかったしね。
だってさ結婚して子どもができて、はい終わり!じゃないんだよ。
育てて巣立ちさせて、老いてゆくまでがワンセットな訳だ。
その間の拘束時間はウン十年になる。
それで幸せっていう人もいるし、否定もしない。
でもさ、やりたいことをするのに制限掛かって、自由になる時間も激減するんだよ?
それで子どもが良い子に育って、旦那さんも感謝してくれるなんて保証はどこにもないんだよ。努力しても報われないって、どんなマゾゲーだ!
それに私はそんな努力できる自信ないしさ。
結婚して子育てしてる人ってだけで、尊敬に値するよ。
ゲームなら嫌になったら投げ出せばいいけど、現実でそれやったら最悪、犯罪者だ。
リスクがデカ過ぎる。
なのに生理は毎月あるんだよね、辛くて不快なのにさ。
あーもう死んでるから、『あった』になるか。
「奏ちゃん。分かった、分かったから……」
なぜかリグレット様が辛そうだ、なんか儚い感じっていうの?
あー、リグレット様は神様なのに、女性との結婚夢見てる人なのかなぁ……
うーん、悪いことをしたかも。
……まぁ、そのうち忘れてくれるだろう、リグレット様だし。
そんなことより私が希望する身体で転移するのに問題なさそうだから、とりあえずどのガワ選ぶか考えよう。
うーん、瓦のゆるキャラは、腕なくて不便そうだから候補外かな。
「あ、リグレット、奏さん。さっきはお騒がせしてすみませんでした、なんか急に倒れたみたいで」
私の思考がガワの選定に移っていると、サーティス様の声が背後から聞こえた。
あ、なんとか回復できたっぽいなぁ。
「そんな、気にしないでください。それより身体、大丈夫ですか?」
私は振り返り、そう声をかける。
そこに存在したのは、どこぞのお笑い芸人のように、真っ赤なスーツを着たサーティス様だった。
ヤバい……今はこれしかいえないや。
あ、金髪も被ってるね!
一部直しました。自分で書いた設定一部忘れてました。