怠惰とアイドルと鼻血と
「全く笑い事じゃないですよ、リグレット様!私にとっては死活問題なんですから!」
「ゴメン、ゴメン。ムダ毛と生理……プクク……については分かったけど、排泄不要は?」
あ、そうか心の声だだ漏れなんだっけ。最初は戸惑ったけど、慣れると楽だわー。
「私は転移したら、しばらく森とかで引きこもっていたいんですよ。そうすると、ほら生きてれば、用を足すことになるじゃないですか」
ツリーハウスは作ってみたいけど、異世界スローライフ系の生活はちょっと荷が重い。
スキルで森に畑作って、スキルで木の実採集してジャムを作って、スキルで作った水車で麦を引き、これまたスキルで作ったイーストでふわふわのパン焼いてみました!
うん、凄く有意義な生活だし、できたら最高だと思うけどさ。
でも今はグータラしたいし、引きこもりたい。別に働くのが嫌いって訳ではない。地球では働いていたしね。
仕事を失って命を失って、すぐに働きたいかっていわれると、NOなんだ。
そのまま生きていたら、生活のためにすぐ仕事を見つけるだろう。けど、私が今後生活するのはエルガルドだ。
転移時にユニークスキルもらえるというなら、それを利用して少しくら楽してもいいんじゃないかと思ってしまうんだ。
頑張って生きてきた結果が、仕事クビで死亡だなんて、ちょっと悲しいしさ。
しばらくは何もしなくていいなら、何もしたくないんだよね。
炊事も洗濯も掃除も生きていくのに、必要な雑事も出来る限りしたくない。できればお風呂とかも省略できると嬉しい。
そうなると異世界ものによくある生活魔法的な、体を綺麗にする術があるか確認しないと……なければお風呂は何とか確保するけど。
とりあえず今一番欲しいのは、何かしなくても、一人で生きていけるスキルだ。
「うん、奏ちゃんの引きこもりたいって、思いは強く伝わってきたよ。あとゴメン、奏ちゃん。偶像はウンコしないから、用を足すのの何が問題なのか分からないや」
ウンコいいましたよ!この神様。
確かにアイドルが崇拝される人や物なら、神様なリグレット様はアイドルだけどさー。
「用を足すのはいいんですよ、そのあとの排泄物処理が問題なんです」
「そのままじゃダメなの?」
「ダメです!臭いし不衛生だし、疫病の原因になることもあります」
「そっかー、たまに下界で戦争でもないのに、病気で人が大量に死ぬのって、そういう理由なのか」
「全てがそうじゃないですが、理由の一つではあると思いますよ」
おぃ……仮にもリグレット様はエルガルド支店長でしょ?なんでそんな大量に人が死んでるのに暢気なんだよ!
寿命とか事故とか、おきても仕方のない系の死とか、『悲しいけど、これって戦争なのよね』的な人間側の都合でおこる死なら、神様として気にしなくてもいいと思うけどさ。
疫病は神様側が防ぐ手伝いしてあげてもいいでしょう!
例えば努力している薬師に、天啓とかいってこじつけて、新しいスキル授けてあげたりとか、方法は色々あるはずだし。
それが元でエルガルドの文明レベルが、あがる可能性だってあるんだから。
「奏ちゃん、ごめんね。俺、基本的に他異世界がらみの仕事が多いからさ。
世界運営のことはそんなに詳しくないんだよ。それはそうと、話ずれてるよー」
リグレット様にいわれるようになるとは……複雑な気分だ。
そういえばこんな時、ストッパーになってくれるはずの、さっきまで恥じらいまくってた、サーティス様はどうなってるんだ?
私はサーティス様の様子を確認する。
「ムダ毛……股間部……ムダ毛……股間部」
サーティス様は椅子に深く沈んでいる。体に力が入らないようで、椅子に掛けられたストッキングのように、手足をだらりとさせていた。
目は虚ろで鼻からは赤い小川が流れていて、それが白いスーツを赤く染め上げていた。
色々刺激されてるらしい。
あ……見ないであげよう。
それにしても免疫なさすぎだよ、サーティス様……もしや魔法使いなの?
もしそうなら神様だし、余裕で齢30才は越えてるだろうから、大賢者?
「話、ずれてるずれてる」
リグレット様、いい笑顔してるわー。楽しくて仕方ないって感じ。
はぁ、とりあえず話戻さなきゃ。
「すぐに思いつく排泄物の処理方法としては、下水道を整備して国や街単位で行ったり、農業に使う肥料にしたり、もっと原始的だと穴に埋めたり、川に流したりってのもあります。
ただ下水道整備はスケールが大きすぎるし、引きこもっていたいのに、街に行ったら引きこもれないから却下。
農業は本格的にやる気ないのに、臭い思いしてまで堆肥作りたくないから却下。
穴に埋めても大量になると臭いそうだし、川の水は飲料用に使いたいので、排泄物を川に流して水質汚染はできないので却下です。
そうなると残るのは、出さないようにするって、結論しかないじゃないですか!」
ムダ毛と生理のあとは排泄物の話か……
なんだろう……異世界転移って、もっとさっくりできると思ってたんだけどなぁ。
「奏ちゃんのいいたいことと、欲しい能力は分かったよ。結論からいうとそういう体で転移することは可能だよ」
「よしっ!」
私は思わず小さくガッツポーズをした。
「そうなると少し変わった転移方法になるんだけどいいかな?」
問題ありそうな提案な上、説明してくれるのが説明下手のリグレット様かぁ……
凄く面倒なことになりそうな予感。
「とりあえずどんな転移方法になるのか、具体的に教えてください」
「そうだよね、それが分からなきゃ返事のしようもないか。実物見せた方が早いから、ちょっと付いてきてくれる?」
「あ、はい……」
リグレット様はそういいながら、席を立ち部屋の出口に向かって歩き出す。そして私はそれに続いた。
サーティス様も段々残念になってきました。