密談と要望と恥じらいと
今回は生理についての話題があるので人を選ぶと思います。
苦手な人はごめんなさい。
でもどうしても書きたかったんです……
「まあまあ、サーティス。奏ちゃんが困ってるじゃないか!」
普通なら助け船な言葉。そう、それを言ったのがリグレット様でさえなければ……
リグレット様はいつの間にか壁から抜け出し、サーティス様の席の後ろに立っていた。
「ちょっと黙っててください、リグレット!今は私の今後の瀬戸際なんですよ。邪魔するなら今度はハリセンで他異世界まで叩きとばしますよ!」
サーティス様は立ち上がり、ハリセンを構え臨戦態勢だ。
軽く目が血走ってる。
ああ、あれってサーティス様たちの間でもハリセンって言葉で認識されてるんだ。
「チッチッチッ!青いな、サーティス」
そういうとリグレット様はサーティス様の肩を抱き、私から背を向けた。
うーん、口で舌打ちをいうのはいただけないと思いますが……リグレット様。
「それで……」
「なるほど」
「だからねぇ……」
「!」
私には部分部分しか二人の声が聞こえず、何を話しているのか、さっぱり分からない。
「……分かりました!」
そんなサーティス様の声と共に、二人は私の方に向き直り、私の向かいに改めて座る。
一体何を話してたんだ、この二人。
警戒することに越したことはない。
とはいえ私の心の声はだだ漏れなので、あまり意味はなさそうだけどね……まぁ私の気分的な問題かな。
「先ほどは取り乱してすみませんでした。奏さん」
おぃ……打って変わっての見事なまでの笑顔だな、サーティス様。
甘く爽やかなその笑顔は、さながら2.5次元の役者といった風情だ。さっきのリグレット様との怪しい内緒話を見ていなかったら、さすが美形神と思っていたよ。
けど悲しいかな、今はその笑顔に対して、こんな感情しか抱けない。
「サーティス様、笑顔胡散臭い」
「胡散臭い……これでも笑顔には自信があったのに」
サーティス様は呟きながら、必死に自分の顔を両手でペタペタと触っている。
大丈夫大丈夫!大抵の人間はサーティス様の笑顔で堕ちるから、安心して。
「心の声だだもれって分かったら、自重がなくなったね、奏ちゃん!」
「うるさいです。残念神様」
この二人、絶対何か企んでやがる。
私の勘がそう告げていた。でも、この勘ってあまり役に立たないんだよ。
無能上司に嵌められた時も、勘が働いたけど、それを何にも活かせなかったし。
勘が働くのと、それを上手く利用するのって別能力なんだよね。
転移するときに勘を上手く活用できる能力をもらってもいいかも。
「奏ちゃん、そんなに警戒しなくても大丈夫だから。俺たちとしても無理矢理働かせるのは本意じゃないし、こっちはお詫びする側だからさ。今話していたのは、ちゃんと転移してもらおうって話だったんだから」
うーん、本当かな……思わずジト目で見てしまう。
「奏さん、私たちは嘘をつけないんですよ」
「俺ら、神だからさ!」
確かに神様は嘘をつけないって、どこかで聞いたことがあるから、あながち間違ってはいないと思うけど……うーん、何か引っかかるんだよねー
でも、このままだと何にも進まないしなぁ……話だけでも聞いてみるか。
「とりあえず話して頂けますか?」
「じゃあ、話、すっすめるよー!」
リグレット様が片手の拳を振り上げる。
「ちょっと黙ってましょうね、リグレット」
絶対、さっきよりリグレット様への対応が優しくなってる、サーティス様。
うわっ……リグレット様がサーティス様に何をいったのか、メチャクチャ気になるんですが。
「では、転移についてですが……スキルの習得方法や優遇処置の適用範囲は基本的に転生と一緒です。違いは奏さんの持ちポイントが一万Pなことと、こんなスキル欲しいっていってくれれば、固有スキルを作ることもできるってことですね」
サーティス様の説明は抜群の安定感だわ。
「持ちポイント10倍なんて随分増やしていただけたんですね!」
「これに関しても若干説明しますね。エルガルドではスキル取得のため同じ訓練をしても、若ければ若いほど、獲得出来る熟練度が多いんですよ。なので奏さんの場合、大人の状態で転移するので、優遇処置の一環でスキルポイントを増やしたという訳です」
確かに地球でも小さい子の方が、何でも飲み込みが早いもんなぁ、納得。
「習得方法と優遇処置は了解です。質問なんですけど、転移の場合って肉体は若返って転移するんですよね?」
「特に問題がなければそうなりますね。奏さんが地球での生を終えた年齢で転移してもいいんですけど、あちらの人間の寿命は50年くらいなので、残り10年ちょっとしか生きられないのは、些かどうかと……」
寿命が戦国時代設定かぁ……確かにファンタジー世界のヒューマン種の寿命ってそれくらいだもんなぁ。
「若返っての転移で問題ないです。若返って転移するなら、スキルに分類されるかよく分からないものもあるんですが、欲しい能力がいくつかあります」
「とりあえずいってみてください。出来るだけ希望に添えるよう努力します」
「それじゃ遠慮なくいいます……とりあえず身体的特性から。まず排泄しなくても大丈夫な能力、それに生理にならない能力、あとムダ毛が生えてこない能力は絶対に欲しいです。できれば、いくら食べても太らない能力と、何日絶食し続けても死なない能力ももらえると凄く嬉しいですね。その他のスキルで欲しいものもありますが、一旦ここまでで……」
若返るならこの能力はどうしても欲しいんだ!これに関しては自重はしない!
「せせせせせ、生理……ムムムムム、ムダ毛……奏さん!女性がそんな言葉恥じらいもなく、いってはいけません!」
「38才の女に少女の恥じらい求められても困るから!」
サーティス様は手の甲を口に当て、頬を赤らめながら、挙動不審なくらいどもっている。
恥ずかしそうにするイケメンは、若い女性には多分ご馳走なんだろうなぁ。この年になるとキュンとくるっていうより、微笑ましいって気持ちの方が強いけど。
でも生理とムダ毛で、私のいいたいことが伝わってよかったー。
もしエルガルドに生理やムダ毛の概念がなかったりしたら、一から説明する必要があったからなぁ。
必要なこととはいえムダ毛はともかく、生理を分かりやすく説明する自信なかったし。
だってさ38才で、やっと生理がある生活に終わりが見えてきたと思ったら、若返ってゴールが遠退くってどんな苦行よ!
お腹とか腰痛くなるし、股間部は不快だし。生理前は機嫌悪くなることもあるし。
ムダ毛処理だって、エルガルドに脱毛テープとか脱毛ワックスとか脱毛クリームとか、安全カミソリがあるとは思えないし。まぁ、毛抜きくらいなら存在しているかも知れないけど。
「プクククク……ダメ、おもしろすぎ……奏ちゃん……」
リグレット様は斜め下に俯きながら、肩を震わせ必死に笑いをこらえていた。
生理がゲシュタルト崩壊しました