スキルとシステムと記憶と
これが俗にいう説明回ってやつか!
リグレット様のあまりの見事な吹っ飛ばされっぷりに、あのハリセン、本当に神器ってやつなんじゃないの?と思っていると、サーティス様がコホンと軽く咳払いをした。
「何度もあのバ神が失礼なことをして、何とお詫びをすればよいか……」
「いえ、そこまで実害は受けていないので……」
パニクりはしたけど、不快感はなかった。性格には難有りだけど、腐っても美形ってことか……うん、納得。
「あのような事をされたのに、その程度で済ませて頂けるなんて、奏さんの心が広くて本当によかった」
サーティス様は、ほへっと気を抜いた様子で、目の前の湯呑みをすする。
「私も奏さんに失礼な発言をしてしまいましたし」
「あー、あれに関しては何か引っかかるなぁ……とは思っていたんですが、リグレット様に言われるまで、私も何で引っかかるか気付けなかった訳だし。
それにあんなこと言われる地球人は私だけでしょうから、あまり気にしないでください」
「本当にいい人だ。奏さん、ありがとう」
サーティス様もニッコリ、私もニッコリ。
お互いを繋ぐ空間がほのぼのとした雰囲気で満たされる。
とはいえ、そんな空気に浸ってもいられない。私の今後がかかってるのだ。
「どういたしまして。横道に逸れすぎちゃったので、そろそろ話進めましょうか?」
「そうですね。えーとどこまで話進みましたっけ?」
「えーと、エルガルドがどんな場所なのか、確認したところまでですね。そのあとは地球が試験場って話になってしまったんで……」
「はあ……あまり話進んでませんね。これじゃ私もリグレットのこといえないですね」
そんなに肩落とさなくても、今回も話進まなかった理由の半分くらいは、リグレット様にあると思うよ、サーティス様。
「エルガルドがどんな場所かっていうのは、大体理解できたと思います。
転生するにしろ転移するにしろ個人的には、戦争により人口の変動有りっていうのが気になるんですが、送られる場所については考慮頂けるんでしょうか?」
リグレット様が壁にめり込んでる今のうちに話を詰めてしまおう。サーティス様も余計なこと考えなくて済むし、一石二鳥だね。
サーティス様みたいに生真面目なタイプは放っておくと、なかなか気分が浮上しないからなぁ……
「ええ、もちろんその辺りは考慮します。
転生の場合は、こちらの未来予測を元にして、エルガルドでの奏さんの寿命まで、命の危険が及ばない生まれをいくつか候補として用意して、そこから選んでもらいます。
もし仮に未来予測が外れ、命の危険が迫った場合、奏さんを保護するよう取り計らいます」
おお!万が一の際の保障内容も充実してるじゃないか、悪くない悪くない。
「分かりました。転生する場合、私のスキルやステータスに優遇処置はありますか?」
「もちろん優遇処置はとらせて頂きます。ただ、さすがにエルガルド存続が危ぶまれる程の処置はとれません。そこのところはご理解頂けると……」
そりゃそうだ。私だってエルガルドを滅亡させる気はこれっぽっちも持っていない。
「それはもちろん理解しています。ただ優遇というのが、どの程度のものなのかが漠然としていて……」
スキルやステータス的には超優遇されていたとしても、自分の希望してる能力とは限らない。例えばの話、魔術師になりたいのに魔法適性0で、戦士の適性が世界最強クラスでも困る。
「そうですね……奏さんが転生を選べば、エルガルドの転生システムに則って転生するので、まずシステムを説明しますね。奏さんの希望を叶えられるかは説明が終わったあと、擦り合わせましょう」
サーティス様の説明するエルガルドの転生システムはこうだった。
エルガルド人死ぬ
↓
エルガルド支部人事課に集合
↓
生前のスキル、ステータスの研鑽、功績、功徳などを調査
↓
高い能力を持ってればエルガルド支部に就職可能。
↓
基準に達していなければ次転生時に使うスキル、ステータスポイントが割り当てられる。
↓
それを自分で割り振って、転生
エルガルド支部側の都合で生まれを指定する場合はあっても、基本的にはランダムだそうだ。あと生まれを指定したことは本人には伝えないらしい。
その話から考えると、転生先を選べるのは相当優遇されてるな。
でも生まれが完全ランダムっていうのは、ちょっとどうなんだろう……生まれを選べる私には関係ないけどさ。
人によっては魔法適性が高いステ振りしたのに、転生したら魔法適性がない種族だった、なんてオチありそうだよなぁ。
それってエルガルドを繁栄させるっていう観点から考えると、非効率的だと思うんだけど。
だってさ魔法適性が高いステ振りした人を魔法適性の高い種族に転生させた方が、総合的な能力値も高くなるし、エルガルドの発展に繋がる理論とか発見したりする可能性高くなると思うんだよなぁ。
あと魔法適性高いのに、武門の家なんかに転生させられた日には、能力が開花出来るか怪しいし。
まぁ武門の生まれで苦労しながら、魔法使いとして成功するってのも、ラノベのストーリー的には有りだから、それなりには需要はあるのか。
とりあえず自分でステータス割り振れるのはいいな。希望と適性が著しく解離するってこともなさそうだ。
「実際私が転生するとして、どれくらいステータス強化が出来て、スキルを取得できるものなんですか?」
「それについてはボード見てもらった方がよさそうですね」
サーティス様が何もない空間から、ボードとおぼしき物体を取り出し、私の前に差し出した。
……どうみてもタブレットです。
「これが奏さんのスキルボードです。スキル一覧の横の四角にチェック入れると、スキルが獲得できます」
見れば一番最初に総スキルポイント数1000とあり、少し下からスキルが必要取得ポイント数と共にズラリと並んでいる。
「えーと、どれどれ……」
「試しに操作してみてください。最後の決定ボタン押さなければ、何度でもやり直しできますから」
私は画面をスクロールしていく。
鑑定スキル 1レベル 10P
私は試しに異世界もののお約束スキル『鑑定スキル』を操作してみることにする。
チェック欄にチェックすると小さいウィンドウが現れた。『鑑定スキル 2レベル 20P』とある。
なるほど1レベルを取得すると次レベルの取得画面が出るのか。とりあえず鑑定スキルがどのくらいのスキルポイントでレベルアップできるのか知りたいな。
私は鑑定スキルのレベルをあげていった。
以降鑑定スキルの必要取得ポイントはこうだ。
3レベル 30P、4レベル 40P……と、それぞれのレベルに1レベル取得に必要なポイントを掛けたもので、完ストは10レベルだ。
必要取得ポイントは100Pで、完ストまでに必要なポイントは合計で550P。
1000Pしかない現状、鑑定スキル完ストはあまり現実的じゃないか。うーん、使えるスキルポイント増やしてもらうよう交渉した方がいいかな。
そんなことを思いながら、鑑定スキルをそのままにして、他にどんなスキルがあるか確認していく。
ん?
目についたのは『記憶引き継ぎ』というスキル、必要取得ポイントは200P。多分転生時に前世を覚えているってスキルだと思うけど、一応聞いておくか。
「この『記憶引き継ぎ』スキルってなんですか?」
「これは転生時に前世覚えているというスキルなんですが、取得に必要なポイントが高くて、皆さん取らないですね。奏さんはこのスキル取れないので、あまり関係ないですけど」
「取れないってどういう事ですか?」
「奏さんの場合、記憶がない状態で転生するしかないので……」
なんですと……じゃあ、異世界転生もののお約束、赤ちゃんの状態で魔法関連の修行とかできないじゃないか!
いや、希望は捨てるな……サーティス様は優遇してくれるっていったじゃないか。ここが交渉のしどころでしょ。
「記憶有りで転生ってできませんか?」
「うーん、エルガルド的にはあまり影響のない希望なので、叶えて差し上げたいのはやまやまなんですが、記憶を持ったまま転生した場合、受肉した段階で頭割れますし……」
「え?頭が割れる?」
「はい。比喩表現ではなく直接表現で頭が割れます」
「割れるよ、パカーンと!いやパンッて感じの破裂音のほうがいいかな」
めり込んだ壁から頭だけやっと脱出できたリグレット様が余計なことをいう。
おいおい、今それどころじゃないんだって!それに擬音の問題じゃないんだよ。
ズドン!
サーティス様は無言で席を立ったかと思うと、脱出したリグレットの頭目掛け、ハリセンをフルスイングする。
見事な一本足打法でリグレット様の頭をジャストミートだ。
鈍い音がしてリグレット様の頭は再び壁にめり込むこととなった。
あーせっかく脱出できそうだったのに、余計なことをいうから……
「では、もう少し詳しく説明を……」
サーティス様は『転生すると頭が割れる件』の詳細をこう説明してくれた。