救済と愛称と専用と
「痛っ!」
手を引っ込めたサーティス様が、タブレットに弾かれた痛みに思わず、手首を振りながら叫ぶ。
「大丈夫ですか?」
「手のほうは大丈夫です。でも、やっぱり私ではタブレットに触れなくなってますね。すみませんが、人形の調整画面を一度最小化してスキルとステータスの画面出してもらってもいいですか?」
「えーと、操作が分からないんですが……それにこのタブレットって、人形の調整のためのタブレットじゃないんですか?」
私が教えてもらっているのは人形の調整に関しての操作だ。スキルやステータスに関する操作方法は教わっていないはずだけどなぁ……
「それに関してはですね……」
サーティス様の分かりやすい解説によるとこういうことらしい。
まず、このタブレットはここにいる間、私に貸与されているそうだ。
これは私に特別措置をしているわけではなく、死んでここにきたエルガルド人は皆、タブレットを貸与される。
そのタブレットを使って、スキルやステータスにポイントを振り、振り終わったらタブレットを返却して、エルガルドへ転生していくそうだ。
私の場合は、憑魂人形を使ってエルガルドに降りるため、ステータスやスキルに加えて、人形の調整も同じタブレットで行っていたみたいだ。
ちなみにエルガルドではステータスやスキルのポイントを手動で割り振ることはできず、鍛練や修行をすることにより自動でポイントが割り振られるとのこと。
「一つのタブレットで一括管理してるのは分かったけど……」
まあ、サーティス様が触れば分かるといってるし、とりあえずタブレットに触ってみるか。
私がタブレットに触った瞬間、サーティス様のいっていたことを理解した。
うわっ! え? いきなりタブレットに謝られたよ……
えーと、もっと早くに自我持っていたら、みすみすリグレット様に人形弄らせなかったのにって……自我を持ったのが私たちがリグレット様を殴っている最中だったので、どうしようもなかったと。
いや、まぁ……悪いのは完全にリグレット様だから、そんなに気にしなくても大丈夫だからね!人形はまた調整することもできるからさ。
え? 初期化されたけど、完成データはストレージに残ってるから復元可能だって? 救世主だよ、タブレット!
本当に! うわー、この子も超優秀! 呼び捨てになんてできないわ!
タブレット御大や救世主とでもお呼びしますから!
ん? もっと親しみやすい呼び名がいいって? タブレットという呼称はリグレット様に似てるから、できれば違う名前で呼んでほしいと……
そうなると、愛称みたいな感じで『タブさん』とか『タブっち』とか『タブリン』とか……ごめん、私あまりネーミングセンスないんだよ。
え、『タブさん』でOK。
じゃあ、これから『タブさん』ね。
あ、早速なんだけど、人形の調整画面を一度最小化して、スキルとステータスの画面の出し方教えてくれる?
私はタブさんに教わり、スキルとステータスの画面を出し、サーティス様に見せた。
「ああ、やっぱり……」
サーティス様が眉間に軽くシワを寄せ、ため息をつく。
「何がやっぱり、なんですか?」
「奏さん、これを見てください」
サーティス様が、まず指差したのはステータス画面のアイテム欄だった。そこには……
ペンタブ師匠 川崎 奏専用ペンタブ
マウス先輩 川崎 奏専用マウス
タブさん 川崎 奏専用タブレット
と記載されていた。
「えー、師匠たち私専用になっちゃったんですか。じゃあエルガルドに転移する時も一緒ってことですか?」
「まあ、そういうことになりますね」
そっか師匠も先輩もタブさんも一緒かぁ。一人じゃないのは心強い。
それにしても専用って、オタク心くすぐる言葉だよねー。赤じゃなくても専用ってだけで、特別な感じするし。
「なに暢気なこといってるんですか?!
この世界のアイテムは程度の差こそあれ、神器と呼ばれるレベルのアイテムなんです、それを神でない者が専用装備にするなんて、普通あり得ないですから! 」
「へぇ、そうなんですか……まぁ専用になってしまったものは仕方ないですよ。ところでサーティス様の持っているハリセンも神器なんですね」
「あれは私専用の武器です、この世界でも最上位神格のアイテムの一つですね。
それはさておき、本当は仕方ないで済ませられる問題じゃないですが、まあ百歩譲って専用装備化は、まぁいいでしょう! でも、ここ、ここ見てください!」
サーティス様が今度、指差したのはスキル欄だった。
そこには
ユニークスキル:生命創造 [アイテム]
触ったアイテムに意思を宿らせることができる。
私はそんなスキルを、いつの間にか覚えていた。
なにこれ、説明あっさりしすぎてない?
もっと詳しい説明ないの?
先生教えて、プリーズ!