ふり出しと理不尽と胃液と
師匠!
私が師匠を床から拾っている間に、リグレット様がタブレットを手早く操作した。
すると心血注いで作った私の人形が……
顔は五割増しから今の私の顔へ……あれだけ苦労して作った眉は意思の強そうな太い眉に逆戻り。
身長も元の身長に縮み、スラッとしたスタイルがずんぐりとしたスタイルに退化する。
八頭身のシリアス漫画のキャラが、いきなり三頭身のギャグ漫画のキャラに変わった感じだ。
下腹部に適度な肉が甦り、デリケートゾーンのヘアスタイルはボサボサ、きっと腋も同じ状態になっているだろう。
形よく小振りだったお尻も、大きなそれに逆戻りだ。
胸だって適度な大きさでふわふわだったのに存在感を主張し、身長に対して不釣り合いな肉に戻っている。
そう、今までの調整全てが初期化してしまった。
あんなに時間かけたのに、あんなに師匠と先輩と私で苦労したのに。
元に戻るのは一瞬だ。
「奏ちゃん!俺がいない間に、なんでおっぱい無くそうとするの?こんな素晴らしいおっぱいは、異世界中探しても、存在しないんだよ!」
何いってるの?
「俺が気付くのが、もう少し遅かったらこのおっぱい、なくなっちゃってたんだからね、未然に防げてよかったー」
よかった? 初期化することが?
あの身体作るのに、何時間かかったと思ってるのさ!
「だって奏ちゃんのおっぱい守るには初期化するしかなかったしー」
「……ふ・ざ・け・る・な!!」
私はリグレット様を睨み付ける。
「身体作るのに、どれだけ苦労したと思ってるの!」
「そんなの知らないよ。また作るしかないよ。もちろん、おっぱいはそのまま!」
こいつ、悪いと思っていないのか?
サーティス様に試験場の件であんなこといっといて、本人はこれかよ!
私の怒りが頂点に達し、リグレット様を平手打ちしようと思った、その時だった。
ぐふっ!
なにかがリグレット様の腹部を打ち据えた。
リグレット様は、その衝撃で壁まで吹き飛ばされ、壁に背中を強打し、その場に崩れ落ちそうになる。
その時、私が手に持っていたペンタブ師匠が動き出し、私の手から離れ浮いた。
そしてリグレット様の首筋目掛け一直線に飛んでいった。そしてリグレット様が着ているYシャツの襟首を、師匠のペン先が壁に縫い付ける。
その間もリグレット様の腹に、なにかは体当たりを繰り返している。
体当たりされる度、多分胃液だろう透明な液体が、リグレット様の口から吐き出されていた。
よく見れば、そのなにかはマウス先輩だ。
怒っていたのは私だけではなかったのだ。
師匠と先輩も私と等しく怒っていたらしい。
でも自分じゃ自分の身体を動かせないっていってた気もするが……
疑問は残るが、今はそれどころじゃない!とりあえず一発叩かないと気がすまない。
私はリグレット様に近づいた。
するとリグレット様の腹部に打撃を加えていた、マウス先輩が一旦打撃を止め、私の肩にちょこんと乗る。
「奏ちゃーん、助けてー」
おう、リグレット様。胃液吐きまくりだった割りには、まだ余裕だなぁ。
「私たちの苦労を踏みにじった報いです。しばらく、そのままでいてください!」
私は右手で、リグレット様の右頬を思い切り平手打ちした。
すかさずマウス先輩が肩から離れると、リグレット様の左頬に体当たりする。
「人の努力を踏みにじってはいけませんって、教わりませんでしたか?」
ちょうどいい角度でリグレット様の右頬が私の前に差し出される。
私、平手打ち。
「悪いことしたら、謝りなさいって教わりませんでしたか?それを悪びれもせず、いけしゃあしゃあと!私はあなたを許しませんからね!」
リグレット様の左頬が、マウス先輩に前に提供される。
マウス先輩、体当たり。
「そんなにおっぱい好きなら、自分で生やせばいいでしょう!」
私の前にリグレット様の左頬。そりゃもう平手打ち。
だってクリスマスが誕生日の神様だって、右の頬を叩かれたら、左の頬を差し出しなさいっていってるし!
「それに大きな胸なんて肩凝るし、目立つし、ワンピースなんて胸のサイズだけ合わなくて、ほとんど着れないんだ!」
こうなるとエンドレスだった。
いとも簡単に出来た、平手打ちと体当たりとリグレット様のトライアングルは、努力を踏みにじった者に訪れた、報いという名の永久機関。
「返せ、私たちが作った、努力の結晶返せよ!」
私とマウス先輩のコンビネーションは、どんどん洗練されていき、高速餅つきのようになっていく。
「『奏ちゃんのおっぱいは俺が守るだぁ?』私の胸守る前に、自分のとこの世界守れよ!疫病で大量に人が死んでんのを、なんとかしろ!」
スピードが最高潮に達したその時、サーティス様の登場により、唐突に高速餅つきは終わりを告げる。
「奏さん、お待たせして申し訳ありま……」
部屋のドアを開けたサーティス様は最後まで言葉をいうことができなかった。
サーティス様は、私の裸をコピーした人形をバッチリ見てしまったため、鼻血を噴射しながら、そのまま後ろに倒れてしまったのだ。
サーティス様はこの部屋から出たあと、白いスーツに着替えたらしい。しかし、もうサーティス様のスーツの半分くらいは赤く染められている。
あ、ヤバい。憑魂人形に布掛けてなかった。
私はリグレットを平手打ちする手を止め、急いでサーティス様を介抱しにいった。




