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白雪姫と試行錯誤と理想と

 一旦ペンタブ師匠とお別れして、これからしばらくはマウス先輩と一緒の作業だ。


 まずタブレット内の人形の全体像を映し出した。ゆっくりと一回転させ、全身を観察する。

 やっぱり背中から腰にかけて、産毛が多いかあ……

 そうなのだ、私は色が白い。なので黒い産毛が目立つ。

 特に背中は顕著だ、脇に至っては考えたくない。


 童話白雪姫で『黒い髪と白い肌』という一節があるけど、幼少期の感想は『腕毛目立つよなぁ』だった。


 全て消しゴムツールで消せるから、心配するなって?

 マウス先輩……そうだね、産毛ムダ毛は背中だけじゃないから、頑張るよ。

 はあ、長丁場な作業になりそうだ。


 私は気合いを入れると、ひたすら消しムツールを使い、マウス先輩の操作を始める。

 腕、背中や太腿、ふくらはぎは面積も広く、そこまで難しくない。


 問題は腋とデリケートゾーンだ。

 腋は一度拡大し、マウス先輩で大まかに処理するのだが、窪みがあるので取り残しが出て来てしまう。今度はそれをペンタブ師匠で細かく処理するのだ。


 これが結構、目と肩にくる。

 死ぬと疲れないってどこかで聞いたけど、あれ嘘だ。目と肩に深刻なダメージきてる。

 ここに目薬と湿布がないことに対して、呪詛を撒き散らしたいくらい、目と肩が痛い。


 でも、これをやらないと理想のボディが手に入らない。ペンタブ師匠もマウス先輩も励ましてくれるから、私は頑張れる!

 一人じゃないって素晴らしい。


 なんとか腋の処理が終わり、私はホッと一息だ。少し休みたい気もするが、ここで休むと疲れがドッと出ること請け合いだ。

 なので、休憩なしにデリケートゾーンに突入することにした。


 しかし、ここで私は真剣に悩むことになる。


 デリケートゾーンの表面の毛って、どこまで残しとくもの?


 腋は問答無用で処理すればよかったけど、デリケートゾーンは違う。ある程度の毛は残しておくものだ。

 もちろんツルペタにも、需要はあるだろうけど、私自身がするのはちょっと遠慮したい。


 デリケートゾーンのヘアカタログなんて、仮にあったとしても見たことないし。

 あー、こんなことならスーパー銭湯行った時、色々な人の観察しとくんだった!


 とりあえず黒い部分の面積を削って、密度を少なくして……私に微かに残るスーパー銭湯の記憶を手繰り寄せて、理想のデリケートゾーンカットを模索する。


 ああ、減らしすぎ!元に戻さなきゃ……

 ああ、今度はなんか形が歪!元に戻さなきゃ……

 数十回にも及ぶトライアンドエラーの末、なんとかデリケートゾーンの表面は完成させた。


 あとは、アソコ周りの処理か……

 ヘアスタイル考えなくていいから、それは楽だけど、楽なんだが……

 問題は人形のポージングだよ、M字開脚させるしかないのかなぁ。自分の姿のM字開脚見るのって、相当精神的なダメージなんだけど。


 え、局部以外にモザイクかけること可能なの?

 じゃあ、そうするよ。ストレスは極力ないほうがいいもの。

 助言、ありがとうね。


 師匠と先輩の尽力もあって、ほとんどM字開脚させた自分の姿をみることもなく、ささっと局部の処理は終わった。


 残るは私の最大のコンプレックス、スタイルと胸だ。

 ここからは私、師匠、先輩の三人での作業になる。


 まずスタイルに関して、身長が低いのを伸ばす。10センチ足して、165センチに。


 次に下腹に付いた肉を取って、腹筋をうっすら付けて、さらに腰骨から、下腹部に縦に伸びるラインも付けて……と。

 そうそう背中から腰にかけて、はみ出した肉も取り、ウエストに括れを作った。


 あ、あとお尻も小さくして、ヒップアップする。内股のぜい肉を落として、ふくらはぎも整えて……胴体部を少し短くし、脚を長くする。


 この間、何回師匠と先輩を持ち替えたことだろう。二人とも休む暇もなかっただろうし、大変だったよなぁ。


 気にしないで!大丈夫って、二人とも優しいなぁ……


 全体的なバランスを見て……よし!

 胸以外は大丈夫!


 あとは胸だけだ。


 とにかく大きいなぁ……

 動きづらいし垂れるしで、あまりいい思い出はない。

 やっぱり両手にすっぽりと収まるくらいの、ふわふわなのがいいよね。

 両手に余った上、手が肉に沈みこむのは私的にはアウトだ。


 自己主張が弱すぎず強すぎずで……私はマウス先輩を使ってサイズを小さくしていく。

 理想はB~Cカップだ。

 このサイズだと下着も種類豊富で安い。大きくなればなるほど、種類も少なくなるし値段も高いんだよ。

 このサイズにどれだけ憧れたか……


 形はツンと上向いていて、腋に肉が流れていない感じで……よし、こんな感じだ。

 あとは二つの飾りの色と大きさだよね。

 やっぱり鉄板の薄いピンクにして、大きさも気持ち小さめに……


 最後に肌の透明感とツヤ、もう一度体全体のバランスをチェックして、シミや古傷、関節の黒ずみがあれば消していく。


 あー、やっと完成だ。

 身長165センチ、私の五割増しの美貌、引き締まった腹筋と腰のライン、小振りな美乳と美尻を持つ体。スレンダーというに相応しい、そのスタイル。

 これが私の身体になるなんて……幸せ過ぎる。

 まだ髪と瞳の色が決まってないけど、今は師匠と先輩と私の三人で、この身体の完成を喜ぼう。


 私たちは成し遂げた!

 右手に師匠、左手に先輩を持ち、私は三人でひとしきり喜んだ。今までの苦労が走馬灯のように甦る。

 そして名残惜しいが二人を机上に置き、サーティス様に電話する。


「サーティス様、終わりましたー。ところでエルガルドでは特定の髪と瞳の色が迫害の対象になったりしますか?」


『お疲れさまです、奏さん。特定の髪や瞳の色が迫害されるってことはないですね、自由に選んで大丈夫ですよ。

 あ、今から行きますので、調整を保存して、人形に布かけておいてくださいね』


「ありがとうございます、分かりました」


 そんな会話のあと、私は感慨深く人形を見る。髪と瞳の色は少し暗めの赤にしよう。白い肌に映えるだろうしね。


 私は師匠で髪と瞳の色を調整し、サーティス様にいわれた通り、タブレットの左上にある保存ボタンを押す……はずだった。


「奏ちゃんの!おっぱいは!俺が守る!」


 どこから湧いて出た、残念神!

 私が保存ボタンを押す寸前、リグレット様が机上にあったタブレットを掠め取ると、師匠を持つ手が弾かれ、師匠が床に転がった。




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