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全裸とコンプレックスと融合と

 私はガバッと思いきりTシャツを脱ぎ捨てた。部屋にいたのでブラジャーは着けていない。


 そういえば死んでから、自分の身体を見るのは初めてだなぁ。

 若いからか死ぬ直前より、肌に張りがある気がするなぁ。あと透明感っていうのも増してるかも。


 どのくらい若返っているのか分からないが、お腹回りの贅肉がかなり落ちているから、多分外見的には10代半ばくらいかな。

 それでも下腹辺りに、プヨプヨした肉が付いてるのは哀しいな。


 胸は心なしか死ぬ直前より、乳首の位置が上がっている気がする。やっぱり年齢と共に、垂れていたんだなぁと実感。

 まあ、これだけ大きいと垂れるよなぁ。私の胸って一応Gカップだもの。

 身長が155センチくらいだから、余計胸だけ目立つんだよ。


 おおっと、このままの格好だと、6つ子が主役のギャグ漫画に出てくる、上半身裸で大きなパンツ履いている博士っぽいから、さっさと下も脱がないと。


 そして勢いよく、ハーフパンツと下着も脱ぐ。


 はぁ……異世界転移にたまにある初心者パック的な感じで、ムダ毛とか少なくなっているかなぁって、ちょっとだけ期待してたけど、そんな上手い話はないか。


 腰回り……締まったとはいえ、まだ太いなぁ。

 背が低くて胸は大きいから、腰がもう少し細ければ、昔の言葉だけど『トランジスタグラマー』っていうのが、当てはまるのかも知れないけど。

 うーんやっぱり、下腹と腰回りがぷにぷにだから、スタイル的には、いまいち残念な感じなんだよねぇ。


 若返って絞まりはしたけど、お尻も大きいよ……

 小振りでキュッと上がってるのが理想だけど、それには程遠いよ……


 まあ外見の調整は利くっていうから、外見的に気になるところは、後で調整かけよう。


 さて、いよいよだ。理想のボディを手に入れるための第一歩!

 私は目の前の赤い魔方陣に、ゆっくりと入って行った。


 身体全体が入った途端に、ふわりと浮遊感に襲われ、ゆっくりと私の足の裏が床から離れて行く。そして床から30センチ程離れたところで、浮上は止まった。


 異世界体験だよ!

 体のどこにも何も触れてないっていうのは、地球だとスカイダイビングや宇宙にでも行かないと体験できないもんなぁ……


 浮かんでいる自分の周囲を見回していると、魔方陣から濃い光の輪が足元から、上に向かって上がってくる。

 そして濃い光が私の足に触れた瞬間、それが私を走査しているのが分かった。


 なんていうのかな、熱くはないんだけど、光に感触がある感じなんだよね。

 薄い紙が肌に触れている感覚が一番近いかな。

 そんな光が足から徐々に上へと私を走査する。

 濃い光の輪が何回か私を上から下まで往復すると、私の身体はゆっくりと下降を始め、床に着地した。


 着地すると同時に、赤い魔方陣の光が止んだ。外見的特徴の取り込み作業は終わったみたいだが、憑魂人形に落とし込む作業は始まっていないようだ。

 まだ憑魂人形は木人形の外見のまま、魔方陣内を浮かんでいた。


 ああ、いつまでも裸でいるわけにもいかないな。私は床に脱ぎ捨ててあった服をそそくさと着る。


「サーティス様ー、終わりましたよー」


「分かりました……」


 私が呼びかけると、サーティス様はげっそりとした顔で、仕切りの中から姿を現した。

 あー、リグレット様の尻拭い的な仕事してたのかな……


「仕事そんなに大変だったんですか?」


「ええ、まぁ……それより、次の作業の段取り組んでしまいましょう」


 サーティス様は空間から作業机と椅子を取り出した。

 椅子は、よく漫画家が使っている感じの、いわゆる人間工学に基づいて作られた的な、上等なものだ。

 机はというと、シンプルだが、幅、奥行き共に余裕ある造りとなっている。


 更にサーティス様は、空間から追加で出したペンタブとマウスを机上に置いた。

 そして、二つの魔方陣の間にある石柱の上にあったタブレットを外す。


「奏さん、タブレットを見てください」


 サーティス様がタブレットを手に持ち、私に見えるように手をかざした。

 するとタブレットに画像編集ソフトのような画面が現れた。

 左右にツール、真ん中に白いキャンパスが表示されている。


 何か科学と魔法の融合って感じだ。これはこれでワクワクする。


「タブレット左上のこの四角をペンタブでクリックすると、憑魂人形に奏さんの外見的特徴が反映されます。その後の操作法はペンタブやマウスを握っていると自然に頭に浮かんできますので……」


 サーティス様が机にタブレットを置く。

 ほぅ、それでは早速……

 私は机上のペンタブを手に取り、タブレット左上の四角をクリックする……つもりだった。


「くれぐれも、くれぐれもクリックするのは、私がこの部屋を退出してからで……お願いしますね!」


 私がクリックする寸前で、血走った目をしたサーティス様が、私の手首を少し強い力で掴んだ。

 そしてクリックを阻止すると、静かながらも力強くそう呟く。


「は、はい……」


 その有無をいわさない静かな迫力に、そう返事するしかなかった。


「では、何かあればこれで連絡してください」


 机上に携帯にしか見えない連絡機材を置くと、私の返事を待たずに、サーティス様はヨロヨロと部屋を後にする。

 すごい迫力だなぁ……サーティス様。なんかすごく疲れていたけど、どんな仕事してたのかな。


 そんなことより、取りあえず、調整、調整。

 私はサーティス様が用意してくれた椅子に座る。

 おおー、さすが人間工学っぽい椅子だ!何気ない出っぱりに、こんな意味があるなんて……体へのフィット感がたまらないっす!


 私は椅子の座り心地をしばらく堪能すると、サーティス様が部屋からいなくなったのを確認し、ペンタブでタブレットの左上をクリックした。

全裸回、その1

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