スタンダードと将来的展望と脱衣と
母なる月の血と最終守護者って……
明らかに厨二臭がする。
「すみません、サーティス様。私にとっては生理とムダ毛というより、母なる月の血と最終守護者という方が恥ずかしいです」
「何故です!?生……や、ムダ……より余程いい表現ではないですか!」
「えーとですね、地球にも同じような表現を尊ぶ人たちはいますよ。ただ尊び過ぎると、病として認識されますね。
それに地球では、そういう言葉をそういう表現はしませんので」
「こんな美しい表現を尊ぶ人たちが、病と思われているなんて……地球は哀しみに満ちている!
地球人の大半がリグレットと、同じ感覚の持ち主だなんて……」
えぇ!まずあの表現を美しいと、いいきるサーティス様にびっくりだよ。
サーティス様なんて、厨二なのにさ!
それに生理とムダ毛だけで、さらりとリグレット様と同じ属性にされるなんて心外だ。
あーでも、リグレット様って直接的ないい回し好きそうだもんなぁ……
神なのにウンコいってたし。
っていうか、この議論は続けても堂々巡りのような気がする。多分、外国人がラーメン啜るのに耐えられないっていうのと、似た感覚なのかも知れない。
こういうことって、お互いの文化を尊重することで、解決策を見出だすのが一般的なんだが……
よし!ここは棚上げだ。
日本人の必殺技、有耶無耶だ!
今の私は憑魂人形を使って、エルガルドに転移するためにここにいる。
それ以外のことは些末な問題だ。
転移してしまえば、どうということはない!
「とりあえず、あの表現がここでのスタンダードだということは認識しました。ところで話は戻しますが、生まれたままの姿になるって、どういう理由で?」
あからさまな言葉がダメなサーティス様に、私は出来うる限りの婉曲表現を使って尋ねた。
それでもこの程度だけどね。
さすがに、舞い降りた天使は勘弁して欲しい。
「色々と気になる言葉はありますが、まあいいでしょう。実はこの魔方陣は、奏さんの肉体的特徴を憑魂人形に、落とし込むための魔方陣なんです」
サーティス様による、分かりやすい説明はこうだった。
あの魔方陣は赤魔方陣に入れたものを、青魔方陣にコピーするものらしい。
なので、青魔方陣に憑魂人形を入れ、赤魔方陣に私が入れば、私の身体的特徴が憑魂人形にコピーされる。
ただ赤魔方陣に入ったものを、そのままコピーするので服を着たまま魔方陣に入ると、服ごと憑魂人形にコピーされることになる。
つまりエルガルドにおいて、私の裸は服を着た状態ということになるのだ。
確かにそれはまずい。ナニかの事情で、人前で服を脱ぐ可能性もある。
ほらお金持ちと交友を深めて、食事会に参加する際に服の手持ちがなく、その家で服を借りてメイドに着替えるのを手伝ってもらう的なヤツですよ!
それに異世界転移の醍醐味である、冒険者生活にも興味はあるし、もし冒険者するなら、装備品を付け替えられないのは辛いしね。
将来的にパーティを組んで冒険する可能性がなくはないし、宿屋で同じ部屋に泊まることもあるかも知れない。そんな時、服を着っぱなしは、胡散臭い目で見られても文句はいえないだろう。
うん、サーティス様のいうとおり生まれたままの姿になろう。
生まれたままの姿……あれ?
「今まで意識していなかったんですが、私って服脱げるんですか?」
ゴメン、サーティス様……婉曲表現使う余裕なかったよ。
私は今死んで魂だけの状態だ。だからこそ憑魂人形を使うのだが、そもそも魂に着衣という概念はあるのだろうか。
ちなみに今の私の格好は、死ぬ直前に着ていたTシャツにハーフパンツ。
色気も何もないが、部屋着に楽さ以外に何か求める要素があるのだろうか。もこもこのパーカーにショートパンツな部屋着は、若い女性が着るからかわいいのだ。38才に許される部屋着ではない。
それにそんな部屋着着ている女性はいわゆる陽キャだ。偏見かも知れないが、私はそう思っている。
間違っても元38才無職で元オタク、引きこもり志望が着る服ではないのだ。
「……大丈夫ですよ。魂の外見というのは、その魂の認識によるものなんです。生前の奏さんが、服も身体の一部だと思ってなければ、生まれたままの姿になれますよ。」
あ、サーティス様、私が婉曲表現しなかったからか、ちょっと顔がくもった。でも舞い降りた天使っていってないから、一応私に配慮してくれているみたいだ。
「分かりました。じゃあ……」
でも、ここって更衣室ないよなぁ……私が部屋をキョロキョロ見回す。
その様子を見てサーティス様は、空間から事務机と仕切りを取り出し、部屋の端で事務机の周りを仕切りで囲う。
「私はここで仕事をしながら待機しています。生まれたままの姿になったら、赤い魔方陣に入ってください。
そうしたら後は魔方陣がやってくれますから。終わったら呼んでください」
おおー、サーティス様。厨二だけど気遣いできるし、実務面では超優秀だ。
厨二だけどさ。
サーティス様が仕切りの奥に行ったのを見て、私はシャツの裾に手を掛けた。