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「待ってうそでしょ知らなかったの?」
「お、おう。」
「はー、よく僕についてきたね。魔法使いだって知らなかったんでしょ。すごいよ、素性の分からない相手をよくここ前で信用できるの。とんでもないバカか、最強のメンタルの持ち主。」
「うるせーよ、素性を明かさなかったのはお前だろ。」
「あ、僕のスペックを君に見せてなかったっけ。」
「あぁ。」
サクラは大きくため息をつき、指を動かした。あの時使った魔法だ。湯気がもくもくと現れ画面のようなものが出てくる。
そこには、サクラが魔法使いであることと所持金、名前が書かれていた。
名前…、そこには確かに名前が書かれていた。サクラとは別の名前。
「西川メグミ…。」
「…。」
「お前…、西川メグミっていうのか。サクラとかけ離れてんじゃねぇか。」
「…。」
俺の声に何一つ反応せず、サクラはずっと下を向いている。指を画面のほうへ向け、何かをぼそりとつぶやいた。画面は湯気をまとい、そのまま消えていった。
「お、おい。」
「ねぇ。」
耳をつんざくような大きな声で叫んだ。裏返り、かすれた声は焦りを隠しきれていない。
「君さ、サクラって呼んでね。」
「え、でも」
「サクラって呼べよ。」
低く響く声でサクラは言った。
「あぁ。」
サクラの迫力に圧倒されてしまう。後ずさりをする俺をサクラはまだ追い詰める。
「いいね。」
「わかったって。」
「ならよし。だけどね、ほかの人に私の名前を言ったら殺すから。君が一番苦しむやり方で殺してやるから。」
「わかったわかったから。それ以上凄むなって。」
それを聞き、彼女は視線を俺から外し空を仰いだ。
混乱していて気が付かなかったが、雨が降りそうだな。