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青空の下に堂々とそびえ立つ指折山はこの小さな町のシンボルだと、サクラは言った。海に隣接するこの山は、今日の天気もあってか神秘的なものに感じる。
「指折山って…。なかなか怖い名前だな。」
俺は荒くなった息ををどうにかして整えようとした。それにしても、ハードな道のりだった。山道は階段になっており、一見整備されているように見える。だが、所々欠けていたりもろかったりするので一歩一歩が油断ならない。
「指折山の由来はね、とある旅人がこの階段が一体何段あるのか指を折りながら数えて登ったところからきているんだ。それも大分前だから、この階段も結構古いね。」
そう言うとサクラは数段前の階段をそこらへんに落ちている棒でつついた。すると階段はボロボロと音を立て欠け落ちた。
「うっわ!やめろって…。」
肩をはねさせ驚く俺を尻目にサクラはスタスタと歩いて行った。
「え、お前…。」
よく見るとサクラは歩いてなどいなかった。浮いているのである。ブラウスの裾をふよふよとなびかせ、涼しげな顔で階段を見つめていた。
「ずっる…。」
「今なんか言った?」
「ぅわっ、やべ。」
サクラは俺のことを今まで見たことのない顔で凄んだ。俺の髪をぐっと掴んで顔を近づける。痛い。
「今なんて言った?」
痛い痛い、髪が抜ける。毛根が悲鳴を上げている!!このままじゃ俺、将来カッパハゲになっちまう!!!
「あのねぇ。魔法のことをずるだなんだっていうのは、やめときな。この世界では魔法がプライドに関わってくるんだ。君の世界でいうと、勉強とか顔とか運動神経とか、人から評価されるものの一つなんだ魔法って。気を付けて、これに人生をかけている人もいる。」
「人生を…?」
「学者やモデル、プロのスポーツ選手は人生をかけて一つのものを磨くでしょう。僕ら魔法使いは魔法に全てをかけている。だから、バカにしたらそれ相応の見返りを覚悟しておいて欲しいもんだね。」
…改めて見るとサクラは可愛いかった。真っ白ですべすべの肌にはニキビの一つもなかったし、ぱっちりとした赤い目は奥の奥まで澄んでいた。華奢な体にはふんわりとしたブラウスとがっしりとした膝丈の短パンが良く似合っている。俺の毛根を死滅させかけたといってもサクラの手は細くて折れそうだった。
「ねぇ、きいてんの?」
「お、おう。」
それにしても、こいつ…。
「お前、魔法使いだったの?!」