1.プロローグ
「ん゛ん゛ん゛ん゛!!!!!!?」
夜空で星々が光り輝いている、そんな夜の帳が完全に落ちきった森の中を東雲柊は今、絶賛運ばれていた。
...運ばれていた、と聞いて一瞬何を言っているのか理解できなかった人もいるだろうが文字通り何者かに担がれ、運ばれている最中なのだ。しかもご丁寧に口はガムテープでぐるぐる巻きにふさがれ、手は後ろ手に、足は足首のところで縛り固定されている。
―そう、彼は今、何者(?)かによって誘拐されている真っ只中だった。
時は少しだけさかのぼる。
柊は小さい頃から密かに続けている天体観測をしに、近くの山のふもとまで来ていた。
密かに、と言っても夜遅く頻繁に家を抜け出していることに家族が気づかないわけはなく、だからと言ってとても楽しそうに天体観測へ行く息子を止められるわけもなく。小さい頃は彼が抜け出すたびに両親が隠れながらあとをつけ、それこそ"密かに"見守り続けていたことを彼は知らない。
(今日は雲一つ無い綺麗な空だから、期待できそうだ。)
内心で小さくガッツポーズをしつつ、彼は夜の山を登っていくのだった。
「......す、すごい...こんな夜空、今まで見たことがないくらいだ...。」
無事山頂付近にある展望台へとたどり着いた柊は、儚く、しかし燦々と光り輝く星々の煌きにただただ圧倒されていた。
「と、とりあえずどうしようかな。持ってきた望遠鏡で観察するのもいいけど、どうにかしてこの夜空を写真に収めることはできないかな...。持ってきているこんな旧式のデジカメじゃ星の撮影なんてできっこないし...うぅ......あ、そうだ、望遠鏡を使って写真をとれば...」
誰に言うでもなくそうつぶやいた柊は、慣れた手つきで望遠鏡を設置し、デジカメ越しに覗き口を覗いた。
「んー、それでも光の弱い星は写ってくれないなぁ...まぁ仕方ないか。とりあえず今は写る星を片っ端から撮っていこう。」
無言で撮り続けること30分。あらかたの星を撮り終えたのか、今度はデジカメ越しではなく直接覗き口を除き始める。
そこにあったのは先ほど感動し、圧倒された星々なんか比べられないほどに力強く、美しく、言葉通り命を燃やして光を放つ色鮮やかな星々が煌いていた。
本日2度目の圧倒的な感動に打ち震えながら、夜の山の中で1人黙々と眺め続ける。
やっぱり星はいい。人間関係のようなドロドロとした関係は星々の間に存在することはなく、頑張った分だけ、命を燃やした分だけそれに応じた輝きを放つことができる...。
死んだら星になる、という人もいるが、もし本当にこの夜空に光り輝く星に生まれ変われるのであれば死ぬ瞬間、それはとても幸せに生涯を終えられるだろうなぁ...とすら思える。
「...と、あまりに綺麗すぎて時間を忘れていた。楽しい時間はあっという間に過ぎちゃうなぁ...さすがにもう帰らないと。」
そう言って覗き口を覗いていた顔を上げたその時だった。
一際大きく輝く星が夜空を駆けていくではないか。
「なんだ!?なんだあの大きな流れ星!!!あんなの見たことない!!すげぇ!!!!」
大興奮である。帰ることなんてもう頭の片隅にも残ってはいない。
「カメラカメラ!これを撮らなきゃ一生後悔する!!」
早打ちガンマンもびっくりな速さでカメラを構え、ひたすらシャッターを切り続ける。...もしもこの姿を ―興奮しながら夜空にカメラを構え、ものすごい速さで前後左右に頭をブンブン振っている、この人間とは思えない姿を― 見ている人がいたのならあまりの異常さに、失神して倒れてしまうに違いない。
しかし、柊は興奮しすぎて気づかない。いや、気づけない。
自分がとてつもなく気持ちの悪いことをしているということはともかく、普通流れ星は一瞬で消えてしまうはずなのにこの流れ星は全く消えることがなく、しかもこちらのほうへと進路を変え向かってきているということに。
それからすぐ、流れ星と思われる物体は柊の立っている展望台の頭上へと移動し、その場にとどまった。さすがの異常者(柊)もこの状況はおかしいと思い、その場から逃げだそうとし始めるが、さすがに手遅れであり、柊はその物体から放たれた謎の光に包まれ意識を失ったのだった。
そして現在、意識をとり戻した柊は全身拘束された状態で絶賛誘拐されている最中なのである。
なお、気を失う直前に見ていた流れ星(?)の姿はどこにもなく、ただただ森の中をものすごい速さで駆け抜けている何者かに担がれている状況となっていた。
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛(どうしてこんなことに)!?」
当然答えてくれる人はどこにもおらず、というかそもそもまともに話すこともできず、体の自由も聞かないため柊はもう半ば諦めかけていた。
(俺、もう死ぬのかな......死んだら父さん母さん、愛結ねえ、冬華は悲しむのかな...)
なんてことを考えたり、
(......死んだら星になれるって本当なのかなぁ......あれ、死ぬのって俺からしたら別に悪いことじゃないんじゃないか?..................いやいやいやいや、さすがに星になりたいって言っても、まだしたいことやりたいことだってたくさんあるし、そもそも絶対なれるって確証があるわけじゃないんだから嫌に決まってる。............嫌...だよな...?)
と、錯乱し始めたりしながら、とりあえず誘拐犯が目的地に着くまでの時間をつぶしていたのだった。
森を駆け抜けてだいぶ経った頃、やっと誘拐犯は足を止めた。
(ん、着いたのか...?にしては割と明るい...というかまぶしいところについたな。てっきり廃屋とかに連れていかれるものだとばっかり...)
「ん゛ん゛(痛っ)!!」
考えていたら突https://abema.tv/然地面に投げられた。顔が下向きになっており、未だ光源の正体がつかめない。
「;p@kでぃ^skhf@w;sjd???」
「kgschghpsl:ssqd。」
なにやら誰かと会話しているらしい。...しっかし、なに言ってるのかさっぱりわかんない。何語だこれ。...まさかの宇宙人なんて説はないよな...?いや、さすがにありえんな。宇宙人が人を攫うとか聞いたことないし、そもそも攫うにしても謎の光でぴかーん!って感じで吸い込まれるのが普通...あれ、俺さっき光に包まれなかったっけ...。でもさっきのは流れ星だったし、それに仮にあれが宇宙人の乗る船か何かだったとしても今のこの状況とは関係ないし、あとこんな古典的な誘拐の仕方なんてするわけがない。
......うん、どうせ聞いたことのない海外の言葉なだけで、マフィアかなにかなんだ...。俺ここで殺されるんだぁ...。
しかし、光に包まれたその直後に気を失ってしまった彼は知らないのである。
光に包まれたそのあとに流れ星と思われる空飛ぶ何かに吸い込まれたことを。
そして既に誘拐され、今いるこの場所は彼の知る世界とは違う世界であることを。
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛...」
そんなことを一切知らない俺は、結局マフィアのような人たちに殺されてしまうと結論付けたのだが、その瞬間死ぬのが本気で怖くなり涙が止まらなくなってしまう。
「tくぉkssdxsmjwど!?!??!?」
「khgfぢあおxmfk!!!!」
「hsかいjxjhふぉwxfdq::@p!!!」
すると何者かが背後から近寄ってきて少しずつ体の拘束を外してくれている。
...あれ、なんで、どういうこと...?
想像していなかった行動をされ、驚き、涙は止まったのだが結果軽いパニックに陥ってしまう。
しかし何者かの手は止まることなく、ほどなくして全身の拘束具はすべて外されるのだった。
「あでょkhげpdlぱplふぉjr@;:”%%&’)pfbd?」
「”%#pblf:。」
拘束していたものをすべて外されたにもかかわらず俺はいまだに動けないままでいた。
そんな俺の手をつかみ、立ち上がらせてくれる。
俺は目の前の光景を見て絶句した。
立ち上がらせてくれたのがとてもきれいな女性だったから、というわけでも、奥にもう一人いる女性もすごくきれいだったから、というわけでもない。
さらにその奥、光源と思われるそれを、世界で語り継がれているあのまんまの見た目をしたUFOがそこにあったからだった。
初めましての方は初めまして。
和部しうと申します。
二作品目となります。(と言っても一作目を書き始めたばかりですが...。)
こっちの作品はあまり邪道をいかずに
読んでいて爽快な気分になれるような作品に仕上げていく予定ですので、
前作を読んでいて少し重いな...って思ったときに読んでいただけると幸いです。
定期的にあげられるのは2月か3月頃になってしまうと思いますが、不定期でも少しずつあげていくのでどうかよろしくお願いします。
誤字脱字等報告ありがとうございます。
コメント、評価等お待ちしております。