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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕は異世界で白銀の天使と旅をする

作者: 春野コウ

「ここは……」

目が醒めると、僕はアンティークなベンチで横たわっていた。なんともファンタジー過ぎる空間に一瞬驚くも、一度深呼吸をする。脳が落ち着いた後、僕はある事に気付いた。


自分の名前が思いだない事に。覚えているのは自分が日本人だと言う事と高校生ということだけ。僕はまた混乱し、深呼吸を繰り返した。


僕が今座ってるベンチの後ろには、屋根付きの休憩所見たいな所があった。左を向くと、結婚式に使われそうな協会ある。でもその建物は腐敗が進んでおり、植物のツルで生い茂っていた。そしてその協会の上の方を見ると、腐敗が進んでいる建物とは裏腹に、とても綺麗な黄金に輝いた鐘が取り付けられていた。そして右を向くと、先に続く獣道が。


いや、獣道にしてはやけに綺麗な道だけど、…でも行くしかないと思い、その道を歩き出した。




虫たちの歌声を聴きながら、その道を抜けるとそこには異形の世界が広がって居た。

「なんだ…これ…?」


空は強い緑を帯びたエメラルド色で、数メートル先にはぷかぷか浮かんでいる島がいくつもあった。ある島は水が幻想的に流れる島だったり、ある島は緑一色のジャングルだったり、ある島は大雪に見舞われていたり、ある島はマグマが吹き出していたりもした。春夏秋冬がめちゃくちゃだなあと心のそこから思った。それで僕がいる島は、カラフルな白鳥達が僕の目の前に通ったり、つぶらな瞳をした可愛らしいきのこ達が、ぴょんぴょんと跳ねながら数メートル先で群れをなしていた。おそらく此処は…自然が溢れる変な動物がいる島、だと思う。きのこに限ってはもはや植物だが。


これは一体なんなんだろうか。夢?

でも現実だと思うと、ちょっとそわそわする。僕はゲームをちょいちょいやるのでこういうファンタジーっぽい所は好きだ。でも好きと言ってもずっと此処に居座り続けるわけにもいかないのでなんとかしよう!と思い、あたりを見渡している、その時だった。

上から鳥が羽ばたく音が聞こえたのだ。その音はやけに大きく、僕は違和感を覚えた。

どんどん近づいて来て、その鳥はやがて僕の目の前で止まる。


…いや、鳥じゃない。その生物は

「起きたんだね!良かった」

背中に大きい白銀の羽を生やした、僕と同い年くらいの女の子だった。

いや、同い年なのか?と疑問に思ったのが本音だ。何故なら、彼女の髪は美しい白銀色で、瞳の色は透き通るブルーだったからだ。それで少し大人っぽく見えてしまい、同い年なのか?と疑問に思ってしまった。


バサっバサっと羽を大きく広げゆっくりと着地する…彼女。僕はその美しい光景に見とれてしまう。 彼女は…天使なのか?僕は、地面に着地しニコニコしていている彼女に問いかけた。

「えーっと、君は?」

「私はこの世界の天使です!」

えっへん!とアニメキャラ見たく可愛く言った。白銀の髪の毛がさらっと揺れる。

「ああ やっぱりそうなんだ」

と僕があっさりと状況を飲み込んでしまったので、彼女が目を丸くする。


「信じちゃうんだ」

「うん。僕そう言うの信じる人だから。それより、君が天使って事は…此処は天国って事なの?

「うーん ちょっと違うかなあ 此処は現実世界と天国の間にある異世界だよ。ざっくり言うと現世の境界だね。」

「僕はどうして此処に?」

「それは今現実世界での君の肉体が、昏睡状態なっているからだよ」


僕は不思議な顔をする。彼女は話を続けた。


「君はね、ちょっとした病気ににかかって、かれこれ一週間くらい病室で寝ているの。それで、私が君を現実世界に戻す為に、つまり昏睡状態を治す為に、私は天国から君の元にやって来た。」


「なるほど…でも天使って言うのは、死んだ人を天国に迎え入れる妖精みたいな存在なんじゃないの?」

「おっ いい質問だねえ」

彼女はコホンっと咳払いする。

「天使って言うのは二種類いるの。 死んだ人を天国まで運ぶ天国で生まれた”純粋天使”。もう1つは昏睡状態の人を現実世界に返してあげる、”元々は人間だった”天使。後者が私。」


元々は人間だった?…真逆、


「後者の天使はね、現実世界で役目を終えてしまった人がやる仕事なんだよ。」

「つまり君は、」

「その通り、私はもう死んでいる人です。」


のちに聞くと天国に行く人は全員髪の毛が白銀になり、目の色もブルーになるのだそう。そして彼女は僕と同じ日本人だと言うことがわかった。


「まだ、若いのに…。」

「そんな悲しい顔しないでよー 別にいいんだ。この場所と天国はすっごい楽しいから。」

「この前、なんかの名言で「天国はすごく良いところらしい、だって死んだ人は二度と帰ってこないのだから」って言う名言見たの思い出したよ」

「あー!それ知ってる!すごいよねその名言 見事に当たってるもん。」


ニコッと笑うその笑顔はとても美しかった。青色の瞳が宝石のように輝く。その笑顔を見て元気な子だなと印象をもった。そこで僕は、自分の記憶について彼女に問いただして見た。

「その、僕の、記憶がないみたいなんだ。君何か知ってる?」

「あーーそれは仕方ないよ。この世界では年齢と生まれた場所しか思い出せないようになってるみたいだからさ。でも安心して、私が出す条件をクリアしたら現実世界に戻れるし、ちゃんと記憶も戻るから」

ああそうなんだ、とほっとすると、

「条件って、僕は何をすればいいの?」

彼女は丸い笑みを浮かべる。

「それは、この世界で私と探検しながらお話する事です!」


それを聞いて思った事は、「そんだけでいいの?」だった。


「でも、探検って、どうやって行くの?此処はいくつも島が浮いてて探検しようにも出来ないじゃないか」

「それならご安心を!ちょっと背中貸して」

彼女が僕の背中を触った。念を込めてるように見える。

「ちょっとゾワっとするけど、我慢してね」

彼女の手のひらが光に包まれ、そして、バサっっっっっと、彼女と同じ羽が僕の背中に生えて来た。生えて来る時、遊園地にあるフリーフォールを乗ってる感覚が背中にあった。羽が生えてきた時、僕は心底驚いた。ていうかあまりのすごさに引いてしまった。


「な、…何でもありなんだね」

「すごいでしょー さあ行こう!」

「え?ちょちょまって飛び方は?」

「男らしくどん!と、飛び降りて!後は私について来るように設定してあるから大丈夫!」

ハイテクだな。


バンジージャンプをするかのように僕は浮いて居た島から飛び降りた。すると羽が自動で上下に動き、僕をそばに飛ばしてくれた。僕はその高揚感に浸っていると彼女がいきなり僕に問いかけて来た。


「ねえ 君、本当に何も思い出せないの?」

「うん。君がさっき言ってくれた事以外は!」

「そっかー やっぱそう言うもんなんだね」

「この仕事は初めてなんだ?」

「うん!私、死んだの一週間前だからさー 」

一週間前って、結構最近じゃないか。死んだのが一週間前なのに、どうしてそんなに笑顔で居られるんだろう。僕ならショックで、話す気にもなれない。まあ人それぞれだろう。僕はある事を彼女に聞いた。

「ねえ 天使さん!君名前なんて言うの?」

彼女が翼を羽ばたかせながら、僕の方には向いて微笑む。


「杉崎 花だよ! よろしく!」

とても、可愛らしい名前だなと思った。

そこで話をやめ、僕は彼女が言った事を脳内でまとめた。


・此処は、現実世界で昏睡状態の者だけが入れる異世界。


・かのじょはその人達を昏睡状態から目覚めさせる役目を持つ天使。


・元は人間。そして現実世界で役目を終えた人。


・現実世界で目覚めれば、記憶はちゃんと元に戻る。


「それで、これからどこに行く予定なの?」

「城の楽園だよ!」

「【城の楽園】?」

「そう!君も気づいてるともうけどさ、ここって島ごとによって特徴があるの。雪の楽園とか、マグマの楽園とか、ちなみにさっきいた所は自然の楽園!」


成る程、こそこら中に浮いてるのは、島ではなく楽園なのか。それでその楽園にはそれぞれの特徴がある、と。


「城の楽園はね、世界中の城がいっぱいあるの。あと神様が作ったちょーーーー大きい城とかあってもーーーーちょーーーーすっごいんだよ。」

「ゲームで出て来るお城をイメージすればいいの?」

「そうだね。でもゲームよりもっとリアルだから!びっくりしすぎないでね!」



城の楽園に、たどり着いた。

その楽園のイメージは、なんだろう。アルプス山脈を感じさせる。目的の城に辿り着き、僕達は門の前に着地する。

「す、すごいな……」

大きな門の先には巨大な噴水があった。しかも25メートルプールよりもでかい。地面は人工芝でできて居てすごい歩きやすかった。彼女が豪快に門をこじ開け、僕らは中に進んでいく。


城の中は思ったよりひんやりして居た。すこしホコリの匂いがする事に気付き、あイメージ通りだなとますます胸を高鳴らせる。螺旋状の階段。ステンドグラスでできた窓、大きな絵画、ツボ、たかそうな壁。すべてのものがとても印象的で、外国に来ている感覚になれた。


赤い絨毯がふかふかで、踏むのがもったいなかく感じた。

ある部屋にはトランポリンかと思うほどの柔らかいベッド。

ある部屋にはすぐに寝れそうなほどの柔らかいソファー。

紅茶が合いそうな高いであろう陶器。かっこいい刀とピストル、そして鎧。


次の部屋を探している時、僕はあるドアを見つけた。

「ねえ 此処だけドアが妙にでかいんだけど」

「ほんとだ、入ってみよう」

その部屋はどうやら協会のような所だった。此処に住んでる人はいつも此処で祈っていたのだろうか。協会の窓から差し込む光がとても綺麗だった。

最奥には、神に願うようなポーズをする銅像が壁に埋め込まれて居た。周りには、天然パーマの天使の白象もある。僕はその光景に見とれていると、

「気に入った?」

「うん。本当にすごいよ」

彼女は僕の言葉を聞くと、うれしそうに笑った。

1時間弱その協会を眺め僕らはその光景を堪能する。



「じゃあ城の楽園はこれでお終いね、次は破滅の楽園に行こうか」

「破滅って…え?一応聞くけど、どういう所なの?」

「世界の終わる所が見れる所だよ 廃墟とかがちょっと味があって見応えたっぷりなの」

「なんか気になってきた。」



破滅の楽園にたどり着いた。


その世界は灰色一色だった。建物には植物が絡みついていて、かなり腐敗が進んでいるように見える。空にはコウモリ、カラス、トンビ。地割れだらけの道路にはゴミ袋、痩せた猫、首輪がついたゴールデンレトリーバーなどがそこに居た。


言い忘れていたが、どうやら楽園によって空の色が変わるのだそう。

その楽園の雰囲気を最大限引き出す色に。城の楽園ファンタジー感を出すために群青色の空に。

そして此処は、世界の終わり感を出すためにどこまでもオレンジ色の夕空に。

割れた窓ガラス。点滅する電球。その電球に集まるコバエ達。何処か香る腐乱臭。

荒れたコンビニの中にヤギがいたのは流石に驚いた。彼女がコンビニに置いてあるコピー用紙を取り出し、やぎに食べさせてあげている。体に悪くないのだろうか。

外を出て、また空を見た。夕日と灰色の構想ビルのコントラストがとても綺麗だった。

此処で映画とか取ればいい雰囲気になるだろうな。と、特に映画好きでもないのに思ったりもした。


世界の終わりの楽園だと言うのに、すごいワクワクしする。ちょっと不謹慎だろうか。

でも、きっと味わえない事だと思うから悔いが残らぬように精一杯、この世界を自分の目に焼き付ける。城の楽園とは違うゆったりとした感覚で見る事ができて楽しかった。

すると空から、白銀の羽を生やした彼女が

「おーーーい そろそろ別の楽園にいくよーーー!!」

「今いくよ!」


他にも色々な楽園に行った。


美術の楽園では、世界中の絵画や、骨董品を特大サイズで見る事が出来て、わーー!!ってなった。多分初めて絵を見て興奮した気がする。


宝石の楽園では、特にお金に変えれるわけでもなかったので、綺麗な宝石をベタベタ触り、ただ眺めた。


恐竜の楽園では、あまりの迫力に腰が抜けた。優しい性格の恐竜に乗ったりして楽しかった。


時代の楽園では、様々な時代に飛んで、遠くから歴史上人物を眺めた。一番ショックだったのは

聖徳大使が実は架空の人物だった事。


小説の中に飛び込める楽園では、魔法物の作品に入り、気がすむまで魔法を使った。彼女が中二病っぽく魔法を使う姿がとても面白かった。


食虫植物の楽園は食べる姿が怖すぎてギャグ漫画っぽくすぐに退散した。


海の楽園ではカラフルな魚たちと一緒に泳いだ。海底遺跡の中に入った。沈没船を見た。

お宝はみあたらなかった。亀に乗れば竜宮城に乗れるんじゃないかって思った。まあ行けるわけもなく。



そして時計の楽園に移動しようと天使の羽で空を飛んでいた時、彼女が「あ!」と声をあげた

「ねえ上見てごらん!すごいよ!」

「え…?えええええええええええ!?」

本当に驚いた。何故なら空に巨大すぎるクジラがフヨフヨと泳いでいたからだ。

そのクジラの背中には大きな木が生えていた。

その背中の木はまさに世界樹と言うにふさわしい程の巨大な木だった。

「す、すごいね…」

「でしょ!」

「もう一生分のゲームをやった気がするよ」

「ふふ。あ、見えてきた! あれが時計の楽園だよ」


時計の楽園にたどり着いた。 この楽園は鉄の匂いがした。あたりを見渡すと様々な形をした時計が置いてあった。ふりこ時計。砂時計。紙がパタッとなる昔ながらの時計。緩やかに円を’描いていくシンプルな時計。他にも様々な種類の時計があり、その全ての時計がそれぞれの音を立てながら、時を刻んでいく。


中でも一番驚いたのが、最奥にある黄金で作られた超巨大砂時計だった。中の砂も、黄金を細かくきざんだものらしく上の溜まり場から、ザザザザと金が流れ落ちてくる。そして全ての金が下の溜まり場に落ちた時、自動でひっくりがえるようになっていて、また新たな時を刻み始める。僕達はずっとその様を見ていた。


「時ってさ、いつまで進みつづけるんだろうね」

彼女がふと囁いた。

「さあね でもこう言うのを見てると人生は一度っきりしかないんだなあ、寂しいなあって思うよ。」

「ちょっとロマンチックなこと事いうねえ」

「馬鹿にしてる?」

「さあ?どうかなあ」

その顔はいたずらをする子供の様に見えた。


「じゃそろそろ自然の楽園に帰ろうか!君に見せたいものがあるんだ」

「見せたいもの?」



自然の楽園に帰ったきた。2人で歩いていると虫たちが鳴き声で合奏を奏でているのが聞こえてくる。

「ねえ どこまで行くの?さっきの所通り過ぎちゃったけど」

「いいからいいから! 」

手招きをする彼女。僕は彼女を一生懸命追いかける。

森を出るとそこには湖が広がっていた。右の方には大きな滝があってマイナスイオンを感じる。

その湖の水はどこまでも透き通っていて、目の疲れが取れそうな程綺麗な水だった。

そんなことを考えていると、彼女が服のポケットからとある迷彩柄の腕時計を取り出す。

「それは?」

「時計の楽園に置いてあった時計。この時計のネジを回すと一体どうなると思う?」

「…どうなるの?」

彼女はニコッと笑い、時計のネジを回した。

するとエメラルド色だった空が一気に紺色に変わった。

「……夜になった!」

彼女の持っている時計は、この楽園だけに発動する時計らしい。ネジを回すと、時が進む摩訶不思議な時計だ。使い終わった後はちゃんと元の時間に戻さないといけないのだそう。

彼女が耳をすますポーズをしている。すると何か築いたのか

「来る! ねえ!空見てて!空!」

「え?」


その時、大きな風が吹いて来た。

そしてとある光った物体が宙に舞い、美しい夜空をホタルのように照らし出す。ゆらゆらと、不規則に揺れるまばゆい光。あれは一体…


「あれは、花達の花粉なんだ」

「花粉…?花粉がひかるの?」

「そう。ここの花の花粉は、この異世界独特の【空気】の成分が合わさって、夜になると自らまばゆい光を発するようになるんだって。」

すごかった。本当に。小さい頃見たプラネタリウムよりもずっとわくわくした。

「すごいよ。本当 見れてよかった」

そのとき、視線を感じた。

振り向くと、彼女がずっと僕の事を見つめていた。

目があっても、彼女は全く視線をそらそうとはしない。ただただ意味深な、切なそうな顔で、ただ僕を見つめている。

「どうしたの?」

「ううん、なんでもない」

彼女は笑みを作り、夜空に視線を戻す。

数秒その神秘的な空を見つめてから、彼女は突然とある話を始めた

「私ね、生きていた頃、彼氏がいたの。」

「彼氏?」

「そう。中学の入学式の日に一目惚れしちゃってさ、もうびっくりしちゃったよ。 胸の鼓動が収まらなくて。」

「青春だね」

「でしょ」

「その彼氏はどんな人なの?」

「うーん中学上がりたての頃は、 髪の毛がサラサラで、目が人形みたいに丸くて女の子みたいな顔してたなあ。あとは、他のうるさい男子達とは違ってゆったりとしてて気さくな人だった。それでね中二に進級した日にのその彼氏に体育館裏に呼び出されて、こう言われたの


「初めてあった時から好きでした、付き合ってください」って。


それ言われた時、もーーーーーー自分でも笑っちゃう程泣いちゃって。」

「それで付き合う事になったんだ」

「うん。すごい嬉しかった。それで一緒の高校に入学して一年が経って、一緒に帰ってる時交差点で2トントラックが私たちの方には突っ込んできたの。私とっさに彼を庇った。そしたらそのまま」

「君は……死んで、そのまま天使になった。」


彼女はコクンと頷いた。

「彼氏は無事なの?」

「…分かんない。でもきっと無事なはずだよ。もし死んでたら私と同じで天使になってたはずだし!」

「確かに。」

1つ聞いていい?と僕は彼女に問いかけた。


「君は、彼氏を助けて後悔はしてない?」

「うん!」


即答だった。そして笑顔だった。本当に彼氏の事が好きなんだなと思うと、口元には笑みがほころんでしまった。

「でもうすこしだけ一緒に居たかったなあ」

本音だろう。顔が本当に寂しそうだった。そこで話が終わり花粉達が光る姿をまた見つめていた。なにも喋らず、ずっと、ずっと。


「そろそろいいかな」

彼女は時計の楽園から持ってきた時計のネジを戻す。エメラルド色の空に戻り、眩い光が消えた。

そして彼女はその時計の時間を確認する、それを見た瞬間彼女の顔から笑顔が消えた。

「どうしたの?」

「そろそろお別れの時間みたい。」

「…え?」

目が合う。


「ねえ、今から話すことをよく聞いて」

彼女は僕に近寄り、両頬を抑え、顔をちかづけ、しっかりと目をあわせ、僕に言った。


「最初に目を覚ました時目の前に、植物のツルだらけの協会があったの、わかる?

上の方に黄金の鐘がある、あの協会。あの協会の中にはいれば、貴方は現実世界に戻る事が出来る。それで最後に、貴方が未来に進む上で2つ約束して欲しいことがあるの。」

「…何?」

「1つは、素敵な女性と巡り合って、愛し合って、子供を作り、いいお父さんになる事。」


一泊置いて、彼女は続ける。


「そしてもう1つは、生きれなかった私の分まで精一杯生きること。未来にどんなに辛いことが

あったとしても前を向いて。前だけを向いて歩きつづけて。」

透き通った青色の瞳。その美しい瞳に僕はいつも見とれてしまう。


「約束してくれる?」

「うん。約束する。」


ありがとう。と彼女は笑った。

「さあ行って。 輝かしい未来が君を待ってるよ」

そう言うと彼女は僕の胸を押し、僕を突き放した。別れを惜しみながらも、

そのまま彼女に背を向け、僕は協会に向け、歩き出す。


でも僕はまだ、彼女に聞きたい事があった。だからもう一度彼女の方に振り向く。彼女と目が合う。多分もう、その綺麗な髪と瞳はもう見る事ができないだろうと心の中でわかっていた。

それでも僕は、彼女に問いかけた。


「また、会える…かな?」


その言葉を聞いた瞬間、彼女はうつむいた。長い白銀の髪が邪魔して素顔を見る事が出来ない。

鼻をすする音が聞こえた。彼女は下にうつむいたまま涙を拭う素ぶりを見せ、顔を上げた。

その顔はどこまでもまっすぐな笑顔だった。

「うん…。また会えるよ。」

声が震えている。目の周りが赤くなっている。それでも彼女は僕に笑顔を見せ続けてくれた。

そして彼女は、最後の言葉として、僕に伝えてくれた。


「貴方なら、大丈夫。」


風が吹き、彼女の白銀の髪がゆらゆらとなびく。



「さよなら。」

僕は最後に彼女に笑みを見せてから、背を向け、古びた協会の中に入った。その瞬間、視界が真っ白になり、そこで意識が途切れた。






現実世界。


目を覚ますと、僕は白いベットの上にいた。天井には淡い電気。薬品の嫌な匂い。彼女が言っていた通り、僕は病院で眠っていた。なんとか起き上がりあたりを見渡そうとした時、足とあばらに激痛が走った。そしてふと僕の足を見た瞬間、僕は驚いた。


僕の胸と足に包帯が巻かれていたからだ。

なんで…?僕は病気で昏睡状態になったんじゃなのか…?

違和感を覚える。

包帯で巻かれた足をじっと見た瞬間、記憶が蘇った。

そして、

その記憶が脳内で処理された瞬間、僕は戦慄した。


───君はちょっとした病気で病院のベッドで寝ているの。


いや違う。僕は、僕は、【いきなり突っ込んで来た2トントラック】に轢かれたんだ。

それも【一週間前】に。

一緒にいた【一目惚れをした彼女】と一緒に。


花と名乗った天使の言葉を思い出す。


────うん!死んでまだ【一週間】しか経ってないからさー

────【いきなり2トントラック】が来てさ、私が”彼”をとっさに庇った。そしたら


僕にも彼女がいた。大切な彼女が。”中学の時に”一目惚れをした彼女が。

その彼女の名は、


───ねえ、天使さん、君名前はなんて言うの?

───杉崎 花だよ。


───【中二】に進級した時、体育館に呼び出されてさ、


【中学二年生】の時に告白して、付き合った、ぼくの、彼女の、名は、








杉崎 花。


───昏睡状態の人を現実世界に返してあげる、元々は人間だった天使。

───つまり、君は

───そう、”現実世界で役目を終えてしまった人”だよ。



……花は…死んだのか?僕を庇って?

じゃあ花は、昏睡状態になった僕を助ける為に天使になった…?

いや、いや、そんなはずはない。だって。だって。あれは夢だ。そうだ。そうに違いない。

混乱していると、白毛のおじさんが僕の病室に入って来た。白衣を着ているからおそらく医者だろう。


「良かった!目を覚ましたんだね。 ちょっと待って今から診察を」

「花は…?」

「え?」

「花は!?花はどうなったんですか!?」


医者は目を丸くし、口をつぐんだまま何も答えない。時がそのまま10秒たつ。

空間に沈黙が続く。


「何で、黙ってるんですか……。答えて下さいよ!!!!」

医者がやっと口を開いた。

「彼女は……轢かれた時には…もう…。」


それを聞いた時、頭の中が真っ白になった。


───”彼氏”を助けて後悔はしてないの?

───うん!


あれは、僕の事だったのか。

なんで……なんで教えてくれなかったんだ?

教えてはいけないルールでもあったのか?


いや、それ以前に僕の記憶が消えていたんだ。教えても何もならなかった。

でも、何で病気で昏睡状態なんて嘘をついたんだ?僕を辛くさせない為…?


───また会える、かな?

───また会えるよ。


あの時、うつむいて泣いて居たのは……そう言う事だったのか。



絶望感に胸をつぶされながら、視線を窓に向けると、白い大きな鳥が気持ちよさそうに飛んでいるのが見えた。



それから半年の月日が経った。

骨折も治り、高校にも復活した。勉強は病院でやっていたので留年は免れた。学校では皆が心配してくれた。僕を恨む人も居た。人に恨まれる事が、こんなに苦しい事なんて思いもしなかった。


花の葬式は、病院で眠っていた為行く事が叶わなかった。だから今日は花の家に行く事にした。ベージュ色の普通の一軒家。インターホンを押したらなんて言われるだろう。怖かった。でも謝らなきゃいけない。



なんとかインターホンを押し、2人の人間が出てきた。やせ細った、花そっくりな母親。黒縁メガネをかけた父親が。何時間か話し合い、僕は地に頭をつけて謝った。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。と。何度も何度も。


花の両親は泣きそうになりながらも、顔を上げてくださいと言った。そう言われると余計上げにくかった。でもなんとか顔をあげた。すると2人は僕に


花は、最後の日を楽しく過ごしてたかな?と聞いてきた。僕らは自信を持って「はい」と言えた。

僕らにとっては、あの異世界での出来事が最後だったからだ。花は笑ってた。ずっとずっと。どの楽園にいても、笑顔が絶えることはなかった。

だから何度も、何度も何度も2人に「はい」と答えた。


2人は笑って、涙を流しながら「よかった」と答えた。そして「貴方が無事で本当によかった」とも言ってくれた。僕は罪悪感に押しつぶされそうだった。


両親と別れ、僕は外に出た。そして花屋に寄ってから、花の墓場に行った。墓場にいくのは初めてだった。いくつもの花があり、墓はとても綺麗に清掃されていた。


僕は墓に花を置いて、じゃがみこみ両手を合わせた。


ごめんな。助けてあげられなくて。


3分が経ち、目を開けた。景色は変わっていない。

僕は立ち上がり、花の母親から受け取った紙袋を取り出した。あの事故の日、花のスクールバックの中に入っていた物らしい。なんだろう。僕はおそるおそる中身を見た。


紙袋の中身は、僕が大好きなスマホゲームで登場するキャラクターのラバーストラップだった。

そのキャラクターは、【白銀の天使】と呼ばれ、あまり人気がない。攻撃力低いし、レア度は5つ中4だし。


でも僕は何故か、このキャラクターが好きでいつも使っていた。花にもこのキャラクターが好きなんだ。と言っていた為、買ってくれたのだろう。


嬉しかった。大事にしようと思った。ずっと持っていようと思った。そして、紙袋からもう1つ何か入ってることに気づき、その中身を取り出した。


それは手紙だった。花から僕あてに当てた、最後の手紙。ぼくはその中身の内容をおそるおそる見た。


よしきへ。

お誕生日おめでとー!!!!!!!!!

このストラップ見た時、これよしきにあげよう!と一目惚れしてしまい買いました!ちょっと安いけど我慢してね【テヘペロみたいな顔文字】今度頑張って高いの買うからさ!


これからもよろしくね!お誕生日おめでとう! 花より。


僕の誕生日は、僕達が事故にあった日だ。

花らしい、短めな、子供っぽい文章。

これからもよろしくと言う文章を見て、悲しい感情が込み上げてきた。そこで、僕はまたあの言葉を思い出した。


───また会える、かな?

───また会えるよ。


あの時、花が泣いたのは

もう二度と会えないってわかっていたから。

悲しい感情が込み上げ、瞳に涙が溜まっていく。


でも、でも、何とか堪えた。花が最後に言ったあの言葉があったからだ。


───どんなに辛いことがあっても前だけを向いて。


深呼吸をする。空を見上げ、なんとか笑みを作った。

君と交わした2つの約束。


───素敵な女性見つけて、素敵なお父さんになる事。

───生きれなかった私の分まで精一杯生きる事。


生きてやる。 生きれなかった花の分まで、生きて生きて生きまくってやる。心に誓った。十分な程に。墓のほうに視線をやる。

「じゃあ 花。 また来るから。」

そして、



そして僕は、




───貴方なら、大丈夫。



君がくれた未来へ、歩き出した。

読み終わったら是非こちらもお願いします

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「君が世界から消えたとしても」

青春ストーリーです。

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