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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

期待は裏切らなくちゃね。

作者: じまこ

 そこらかしこから煙がなだれ込んでくる大森林。ちょっと視線を上げれば見える、間違いなく味方じゃないドス黒い背中。

 まー、これぞ絶体絶命って訳だね!!

「勇者、ここは私に任せて貰えない?」

 一息ついた先で、私はひとつ提案した。

 するとなんとも、憔悴しきった勇者とパーティーメンバー達は、鳩が豆鉄砲を食らったレベルの驚いた顔で『NO』を繰り返す。

「えっちゃん⁉︎ ダメだよ!」

「スズメといい勝負の貴女が何をできるの?」

「死にに行くバカ、させると?」

「お荷物らしく〜、とかそんな事しないで」

「バカじゃん!」


 等々、仲間達からの熱いLOVE。ならばと私も『NO』を返させてもらう。

「はぁ。確かに私は勇者の仲間に加わってから一年間、なんにも! しなかったわ。これは紛れもない事実だし、私も認めている。四天王戦、魔王戦、竜王戦、海王戦、その他ボス戦全てちまちました物理的けんしんてきサポートしかしていないし、いてもいなくても大して変わらない結果よ」

 とりまジャブで、全員の心を代弁。

 うん、悲しいくらい全員ヘドバン並に頷いてる。

 ぶっちゃけ事実だからえっへん誇るようなもので無いんだけどね。

「じゃあなんで!」

 勇者は吠える。

 大切な愛犬が衰弱して見つかった時のような顔で。

「世界を救う死線を幾度となく潜り抜けた、なよなよして無駄にお人好しでお花畑な正義感を振り回す、可愛い勇者様。そんな君だから、私は無能でいた。んー、違うね——無能で入られた。でもさ、君が君の方法で倒せない敵が居て、私の大好きな緑が侵されようとしている。なら、いい加減動かなくちゃね」

「何言ってるの? だって、君はエルフの里で誰よりも弱くて、一人ぼっちで、泣いて居た女の子じゃないか!!」

 可愛いだけ、か弱くて守ってあげたい系のエルフ。君がどうしてこんな穀潰しを置いて置いたのかは知っているけど、裏切らせてもらうよ。

「君のやり方が私はキライ。真面目に敵の前に出るし、予防策も対策も持たないで挑むし、ボロッボロになってでも戦い続ける、そんな君が面白可笑しくて堪らない」

「貴女!!」

 戦士の彼女が、湯沸かしケルトになって張り手をしてきた。

 痛ったい。

 超痛い、この馬鹿力!

「でもさ、そんな君が君のままで居てほしかった」


「てな訳で……今からは、私の時間。絶対に! 覗かないでね!!」

 キャルるん!! って、いつも通り『みんなに見せる私の顔』で笑う私。

 ここから暫くは、この顔で居られないから強く見せておく。

 もう、寄り添いを失うのは嫌だから。



 さてと、ここいらで私の話をしよっか。

 私は人科エルフ族に属するウィールドエルフだ。

 主に森林の奥深くに住む、魔術に長けた種である。

 他にも、ハイランドエルフとダークエルフ、亜種でシーエルフ(セイレーン)がいる。

 ま、会ったことないし、絶滅が噂されてるから、どーせ希少民族化してるだろう。

 私ん所も同じだけどさ。

 魔法に長けてるとはいえ、狭い世界で生きてきたからか子数少ないのなんのって話。

 他の種も、長けてる事に天狗になりすぎて子数減らしたんじゃないのかな、どーでもいいけど。

 私はさ、魔法が全然使えない。

 才能、っていうよりも、エーテルの受け入れ量がすっごく小さくて、変な性質までくっついてる。

 ある意味未熟児って訳。

 だから、他の子が使える、火だ水だ風だ土だを全然御せない。

 操作系の魔法ってんだっけ? こういうの?

 ま、そんな感じの魔法はエーテルを結構バカスカ使うんさ。

 人科人族なら即座に廃人。

 使えて、人科の人族以外とのハーフで変異した個体か、その流れを組む先祖返りした個体、どのみち変異個体だよね〜〜。

 そんなすっごーい魔法をローランドエルフはほとんど全員使える。

 それも一日中発動してても枯れないレベルで。

 って、場所生まれで、魔法が使えないのは死を意味する。

 幸い、多少……一つだけ魔法を使えたからなんとか生きてこれた。

 悲しいかな、人族が使う魔法よりも原始的で、私のおりじなりてぃに溢れた物だから……攻撃性能支援性能なし!!

 もちろん、たった一つしか魔法を使えない私は六つで集落から八分にされたよ、当然だね!

 衣食住、全て自給自足。共用井戸とか使えないし、水の確保は本ッ当に辛かった。

 大体、獣と暮らす感じ。

 ほぼ自然に従って生きるから、私も獣って括りになるかな。

 水は鳥やら鹿やらイノシシに案内してもらうし、肉は案内してくれた子以外を狩って、狼とか熊とかと分け合った。

 おかげで狼とか熊には狩を手伝ってもらえるようになったし、案内の鹿とかイノシシは安全な木ノ実を教えてくれた。

 言葉は、六つまでに教わった事をベースに人族の街ってのに混ざって学んだ。

 それなりに楽しかったし、あの小さなセカイに縛られなかったのはとても幸せ。


 どんくらいこの生活を送ってたかわからないし、興味もない。

 ただ、この生活は勇者かれが現れてから変わったとだけ言っておく。

『街に勇者が現れた』って話が飛び込んできたのは春の暮れあたり。

 一、トントン拍子に、仲間を探してるって話になって、二、エルフが住まうファス大森林まで探しに行くって事になり、三、それがウィールドエルフたちに伝わり、四、私は彼らの品位を下げない為に呼び出され、五、監視された、六、ちゃんちゃん……お仕舞い。

 なんて流れで私は獣からエルフに堕とされたの。

 あーあ、いやーな話。

 これまでが、私が私でいた時代の事。


 勇者が大森林に来て、私を見つけるまでそう時間は掛からなかった。

 もう、来て一直線に私を見つけて、『この子はどうして独りなの? 可哀想』って言い出した。

 私としては、えーって感じだけど、彼からしたら『刈り入れの稲穂に輝く金髪に、森奥の泉を想う碧の瞳、剥きたて果実みたいな瑞々しい肌の美少女』が訳ありげに目を伏せて座り込んでたら、自分の正義を振りかざしたかもなるってもんよね。

 で、なんやかんや『わちゃわちゃ』しまして、私は晴れてローランドエルフの柵から解き放たれたのでした!! まる!


 私はさ、初めて人族に感謝したの。

 切っ掛けまでは私が仕立てたわ、でもそっから先はノープラン。

 そもそも、期待なんてして無かったのよ。

 ちょっとだけ何か変わるかも、なんて夢見る乙女になっちゃってさ。

 そしたらもう! 期待以上!!

  私の最も要らない鎖をさっぱり斬ってくれちゃった!

 それからの日々も日々で悩みも沢山あったわ。そう例えば、戦闘とかね。


 でも楽しかった!!! 幸せだった。


 夢を見せてくれて……ありがとう。





「それじゃあ、始めよっか」


 彼と仲間達から離れ、獲物てきと十分な距離を取れた事を確認し、唯一の魔法を発動する。

「くたばれ! クソッタレの神様!」

 編み込んで作った、愛弓を構築。

 今日の敵は硬そうだから、矢はとりわけ鋭く、固くしよう。

 森全体のエーテルを一粒一粒手繰ってく。

 私にできるのは、自分のエーテルを自然中のエーテルと接続する事だけ。

 厄介な事に、コレは横一直線、自然のエーテルで私のエーテルをサンドイッチにしか出来ない。

 何かを形とったり、ましてや板状になんて出来やしない、全く不便極まりないでしょ?


 ま、糸は糸で編んだり、巻きつけたり、縫いつけたり、束ねたり、折り重ねたり、吊るしたり出来るから、思考と使い方次第って事なんだよね。

 狩を生業にしてたから、コッチの方が使い勝手は良いよね! 持ち物は食い物だけで良いし。服とかほつれたり破けたら繕えるのとか凄いでしょ!

 そんな事はどーでも良くて、さて現状どーしましょっか。

「一つ、ぐるぐる編み編み縄を編みまして」

 大気中のエーテルを半分くらい接続完了。

「二つ、貴方を搦めとる蜘蛛の巣に気を付けて」

 触れても気が付けないほど細いエーテルの糸を大量に、同時にきっちりと編んだ糸を一本作る。

「三つ、決して、千切れない糸に気を付けて」

 きっちりと編んだ糸は吊り輪にし、木々に紛れ込ませる。細い糸は敵の全身に纏わり付くようにばら撒く。

「四つ、切り札の準備は万端に」

 大きな大きな、それこそ眼前のでっかいヤツを貫く位に太い杭を編みこむ。

「五つ、初めまして、さようなら」

 愛弓を引き絞り、矢を放った。


 ところでさ、エーテルは粒子同士がくっつく事で魔法を形作るんだけど、無理やり結合を離されると爆発するって法則があるの。

 私はさっき、細いエーテルの糸を、それこそヴェールの様にばら撒いたの。

 矢でその細い糸の結合を壊したら……


 バァン!!!!!!!

 放った矢は空中で弾け、森全体を震わせる爆音と変わった。



 のっそりと、音の鳴った方へ向く敵。

 一歩一歩と、音の中心地へ近付いていく。


 歩行速度、進行方向共に作戦通り。

 後、三十秒で目標は吊り輪に片足が入る。

 逃さぬように微調整…………


 掛かった!!!!



 思い切り吊り輪を引っ張り、敵さんは派手にすっ転ぶ。

 ここで、作っておいた杭を上に向け、倒れてくる敵の頭を貫く様にする。

 案の定気が付いて頭を動かすが……させないのが私のお仕事。

 細い糸をキュッと引き締め動きを制約していく。

 千切れたところで他の糸が絡まる、蜘蛛の糸。



「勇者、また遊ぼうね」


 倒れてくる敵を頭上に私は笑い掛ける。

 笑って死ねて、楽しい夢が見れて、幸せな一瞬が過ごせた。

 良い人生だった。











「なんてさせると思ってる?」


 真横で声がした。

 焦がれてた、君の声。



「勇者?」


 間違える筈も無い声。


「だいせーかい!」


 ひょいと私を抱えながら昔と変わらない無邪気な笑顔で答える。


 私は糸を一本私達へ巻きつけ、後ろの木へ引っ掛けて引っ張る。


「うわっ!!」


 跳ぼうとした方向から思い切り引っ張られた事で驚いた見たい。

 可愛い。



 ドォォォォォォン



 目の前すれすれを敵の頭皮が掠めてく。

 間一髪。

「生きてる?」


 ぼーぜんとしてる君に手を振って問いかける。



「生きてる……もーびっくり。いきなり身体が飛んでいくんだもん」

 非難の視線……笑ってるけど。

「ゴメンね、あれじゃ二人ぺしゃんこだったからさ〜〜」

 ゴメンネ! と手を合わせてウィンク。

 ちょっと顔を紅く染まる君。

 可愛い。


「ねぇ、あれ……」

 君は顔が紅いまま、ざんがいを指差す。ので私もつられて見ると……

「ピクピクしてるね、てか頭だけじゃ死なないっぽいね〜〜」

 面倒くさいなぁ、もう!!

 頭を刺した大きい杭をくそやろうの心臓真上で編みこむ。


「ちょっと伏せてて」

 ムギュっと君の頭を下げさせて、杭を落とす。


 予想通り、地響きと肉を刺す嫌な鈍い音が鳴って、断末魔が森全体を木霊した。


「あー、うっさい!!!!」


 ごちゃ混ぜになった地響き肉打ち断末魔に紛れ込ませて叫んでみた。

 スッキリ。


「へるぷみーー」

 真下で君がぷるぷるして地面に這いつくばってる。

 狼の子供がスネてる時みたいで可愛い!


「ほい」

 手を取って立ち上がらせてあげる。

「ありがとう」

 笑顔の君になる。

 そこで、さっきの笑顔を思い出して身体中が熱くなる。

「やりぃ!」

 仕返ししとばかりに笑う君が眩しい。

 勝てないなぁ……もう!

「カッコよかったよ」

 啄ばむ様に唇にキスをかましてやる。

 仕返し。


「いちゃついてやがるです」

「くたばれ」

「しんど」

「爆ぜちまえ」


 仲間達は、結構辛辣だった。

「酷くない!!」

 泣きべそ作ってみても、「あざとい」なんて言われて……私の大好きな日常がそこにあった。

 壊れる事なく、誰も悲しまずに、そこにあり続けたくれた。

 良かった、私は失わずに済んだみたいだ。

 ちゃんちゃん。












 後日談〜〜、魔法と敵の正体について。



「えっ? あれ、予言書的な敵だったの? てっきり魔王に惨敗した旧き敵だと思ってたんだけど……」

 諸王連合会議から 帰ってきた君は、私を呼び出して今回の中身についての話をしてくれた。

 曰く、魔王を倒した後に預言者のページが更新され、黒き魔が復活すると。

 曰く、それは旧き勇者と旧き魔王が手を組んで封印した無作為な厄災であると。

 曰く、それは光の矢でしか殺さぬと。

 曰く、光の矢は目に見えぬが常にそこにある光、だそうだ。理解不能。

 ちゃんちゃん。


「どうして殺せたんだろう? えっちゃんはあの敵の弱点が光の矢って知ってた?」

 首を傾げ、はてなを何個も頭に浮かべる君が可愛い。

「知るわけないじゃん。私森生まれ森育ち、そんな知識無いって」

 おどけてみるけど、後々考えてみた辻褄の合う推測位ならある。

「結局、そもそもえっちゃんは何であれを殺したの?」

「まほー、だね!!」

 私からしても半分くらいしか理解していないので魔法と断言できないのが面白い。

「? 使ってたの?」

 エーテルの矢は人族の目には映らない。そもそも私でさえ感覚的に使っている物だから、君から見ても私から見ても、仲間達から見ても敵が勝手に転んで、呻いて、死んだ様にしか見えない。

「まぁね」

 含ませぶりに笑う。

 女はミステリアスな方が良いのだ、隠す意味もないけどね。

 どのみちすぐにバラす予定だし。

「目に見えない光、ね」

 一番君が気になってる物、それについて私は分かった瞬間笑いそうになって大変だった。

 何せ、ね。



「思い当たる節はあるよ」

 ドヤっと笑って君と目を合わせる。

「な、何?」

 ドギマギしてる感じの君と、好奇心が隠せない君が混ざってこうグッと可愛い。

「高密度のエーテルの塊。それが光の矢の正体だと思うよ」

 エーテル、それは魔法学的には光を意味する。

 目に見えない、と光、この二つがキーワードなら確定的にエーテルを意味すると言っても過言じゃない。

「エーテル? って魔法を形作るアレ?」

「そう、アレ」


 情報の理解不能さに、思考を放棄したみたいだ。私も当事者でなければ理解を放棄してる。


「ま、そんなことどうでも良くて……」

 根掘り葉掘り聞かれるのが嫌で、他の説明に移ろうとしたら……

「ちゃんと説明して。えっちゃんの魔法と関係あるんでしょ!」

 この目には敵わない。敵を前にした時と同じ、諦めを全て捨てた強い目。

 あー! もう!!

「エーテルは魔法現象を現界に留める為の物質で、人族の身体に蓄えられてて、自然界にも多量に存在してる。これを高密度の膜として全ての魔法現象は現界に影響を与えることができる。ここまではオッケィ?」

 早口で、事前情報を叩き込む。

「オッケー……です」

 不安だけど、まあ理解できるさ。

「じゃあ光の矢と私の魔法について説明するわ。まず、私はエーテルの保有量が少ない。更に自分のエーテル同士が結合しないの、その代わり自然界のエーテルとは結合しやすいって変な体質なの。簡単に言えば、他の人のエーテルは磁石のS極とN極が交互に存在してるけど、私のはS極だけが存在してる感じ、自然界はN極のみね。私のS極だけだから自然界のN極と全て均等にくっつくの、でも他の人は、S極の部分にのみ自然界のN極がくっつくって訳」

 ポカンとしながらではあるが、理解の色が見えるので話を進める。

「私は魔法現象がエーテルを利用して現界に影響を与えるって性質を逆転して、エーテルそのものが現界に影響を与えるから魔法現象が現界に影響を与えると定義した。これによって、エーテルだけでも魔法として現界に影響を与える事に成功」

 恐る恐る君は口を開く。

「つまりさ、えっちゃんの魔法は現象とエーテルの優先順位を逆にして、エーテルそのものだけで現界に影響を与える事が出来るって事?」

 おお! さすが勇者!!! 理解が早い。

「Excellent!!」

 よしよししてあげる。あーもう可愛いなぁ。

「光の矢は、魔法現象を留めていないエーテルって意味になる?」

「Exactly!!」

 すごいすごい!! ここまで理解してくれるとは!! 先生教え甲斐があるよ!!

「あの敵は現界って基礎を形成するナニカが意思を持って動いているって私は予測する。仮称反エーテルって付けとこう。反エーテルこの世界の物質を構成している。エーテルは反エーテルと反発を起こして互いを打ち消し合う力がある。よって『エーテルが現界に影響を与える』とは世界を構成する反エーテルを打ち消し合う事ってなる訳」

 これは流石に理解し辛い、分かる。

 私も仮説として建てたから説明も思考も甘いしね。

 それでも懸命に理解してくれようとする君が好き。

「ま、あの敵は世界そのものの意思で、私は世界を壊せる力を使って倒した。この力は皆んなが常に見てる力だよって話さ」

 ざっくりふわっとの説明に変える。こういう真面目くさったのを振り回すのは趣味じゃない。


「なんか、すごいんだね!!」

「そう! なんかすごい感じって訳!!」


 こういう会話が、一番楽しい。

 フィーリングでふわっとさせる感じ、思考なんて放棄して、本質だけを伝えるのが一番好き。

 あははっ、楽しい!!


 ひたすら二人で笑いあった。

 この時ばかりは時間すら私達を優しく見守った。



 流石に、体力は邪魔してくる。

 笑い疲れて、深呼吸––した後に私は呟く。

「はーー、人族救っちゃったね〜〜」

「だね、実感ないや」

 まったりとした空気も悪くない。

 邪魔って感情すらも、ね。


「少し、疲れたね」

 君らしくない言葉。

「そうだねぇ、色々あったもんね」

 十五の君が世界を巡り、人族の尊厳をかけて各地の諍いを諌めて、百戦錬磨の大人達と渡り合った。

 確かに疲れるよね。

 感謝と、労いを込めて私はギュッと抱き締めた。

「お疲れ様」

 ほんの少し、胸元の熱が上がる。

「誰も見てないからさ、安心しなよ」

 糸を巡らし、気配を探って言う。

 空気は澄んで、水は清らか、土は気高く、木々は穏やか、生きるもの達の安らかな寝息、空は晴れ晴れと笑顔。

 君が曇らせなかった世界は、君を祝福している。


「世界に抱かれた少年よ、安らかなれ」


 無意識に出た言葉。

 君たちの代読役はきちんと果たしたよ。



 これにて!! ちゃんちゃんちゃん! お終い!


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