55話・白パンと白狐
コンクール当日。
王都の広場前にコンクールに参加する数件のパン屋が集っていた。皆、指定されたテーブルの上にそれぞれ店の看板と作品を並べていく。
皆コンクールに出すくらいだから力作ばかりだ。パンで可愛らしいウサギや猫の形をした物や、草花の形をしたパン。ハート型のパンや、七色に染まった丸いパンなどが並んでいた。ちなみに大店のペラリーノでは、マクシムの作ったパンの城が置かれていた。
精巧な作りで、今年もマクシムの勝ちだろうと皆が認めていた。その中で今年初めて応募するアデマールの作品は一番最後に置かれていた。そこには白くて丸いふんわりとしたパンが置かれていた。
アデマールがハーラル達の店で倒れ、介抱された時に食べさせてもらった思い出の塩バターのパンだ。それを尻尾のように形作った。
「作品名はホワイトテールだよ」
「可愛いわね」
パンの白生地をこねていたら、過去に妹のアリーズが白狐のコンを可愛がっていたのを思い出した。その狐の尻尾が柔らかそうで一度触れさせてもらえないかと思ったことがある。でも、コンには嫌われているのか近づいただけで威嚇され、可愛くないと思ったこともある。
でもあの尻尾は雲のようにふんわりしているように感じられた。コンを抱くアリーズはいつも笑顔だった。皆を笑顔にするパンを作りたい。そう思ったら見かけはふっくらしていて、中はもちもちのふんわりパンが出来ていた。ルルに味見をしてもらったら、ほっぺが落ちるほど美味しいと褒めてくれた。
ルルに喜んでもらえたことが大きかった。
コンクールが開催されて、審査員達が各お店のパンを審査して回る。皆、どれも力作で甲乙つけがたいと称されたが、最後まで残ったのは皆の予想通りマクシムの作ったパンで作った城と、意外にもアデマールの作った白い尻尾型をしたパンだった。
アデマールはこれで落ちても悔いはなかった。初めて出品したのに最後の審査まで残った。それで満足だった。それなのに意外にも審査員の票は割れた。
精巧な作り物で勝負したマクシムか、味で勝負にきたアデマールのどちらかを選ぶかで揉めに揉めた。
そこにひょっこり現れたものがいた。
「きゅううん」
どこかで聞いたような鳴き声と共に、白いものが視界を掠める。白い狐が現れたのだ。
「狐だ。狐」
「白い狐なんて珍しい」
「キュンティアさまのお遣いかしら?」
この国では白狐神キュンティアさまが守護神となっている為、国民達も白狐には敬意を払う。妹のアリーズもこんな感じの白狐を可愛がっていたなと見つめると、白狐と目が合った気がした。
その白狐がアデマールの作品であるパンを加えて走り出した。
「あ。おい」
その白狐の後を追うと、会場を抜けて広場の外れまで来た。一台の馬車が止まっていた。
「もう。どこに言っていたの? いきなり飛び出すから驚いたわ」
その中から出て来たのは亜麻色の髪に苺色の瞳をした美しい貴婦人で、腕には赤子を抱いていた。この国の誰もが知る女性だった。
「アリーズ」
彼女の名を呼べば、こちらを見た瞳が驚愕に見開いた後に泣き笑いの顔をしていた。




