表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『コミカライズ作品』婚約破棄令嬢の華麗にリベンジしてみたい!  作者: 朝比奈 呈
ミツバチとキリギリス
54/57

54話・ライバルご来店

  そんなある日。お店に一人の若者がやってきた。ルルとは知り合いのようで「やあ」と、声をかけていた。



「美味そうだなぁ。どれもこれも目移りしたくなる」

「うちの一番の人気はこのジャムパンよ。中のジャムは糖度が高いイチゴを使用しているの」

「へぇ。考えたもんだな」

「いらっしゃいませ。こちらのレモンクリームパンは今、焼き上がったばかりです。こちらも如何ですか?」



 ルルが若者と仲良く話しているのが面白くなく思われて、焼き上がったばかりのパンをトレイに乗せて二人の前に出ればその若者が反応した。



「きみが噂の期待の新人君か」

「あなたは?」

「これは失礼。僕はマクシム。ペリカーノの職人さ」



  ペリカーノと言えばこの辺で大店のパン屋で誰もが一度は耳にする名前だ。そこの職人が何をしに? と、思えばマクシムが笑いながら言った。


「アベーリャさんのパンが美味しいって評判になっているからね。敵状視察に来たのさ」


 アベーリャとはこの店の名前だ。大手のパン屋の職人が様子を見に来るぐらいこの店は注目されるようになっていたようだ。



「なあ、きみは今度の菓子パンコンクールに参加するのか?」

「菓子パンコンクール?」



  聞いたこともない言葉に、コンクールって何の話だ? と、ルルを窺うとパンの祭典だと教えられた。



「王都一のパン職人を競うコンクールなの。四年に一度開催されているのよ。いつもマクシムさんが表彰されているわ」

「そうか。凄いな」

「きみもなかなかのものじゃないか。この店のパンがすぐに売り切れてしまうのは腕の良い職人が誕生したからだってもっぱらの評判だよ」

「いや、そんなことはないよ。僕はただ、親父さんに教わって作っているだけだし、それを売っているのはルルだから二人のおかげだよ」

「きみは腰が低いんだね。ぜひ、きみには参加してもらいたいな。僕の良いライバルになりそうだ」

「買いかぶりすぎだよ」



 そう言いつつもアデマールは褒められて悪い気はしなかった。






  数日後。親父さんとも相談してコンクールに参加する事を決めた。アデマールとしては自分がどこまで通用するか確かめてみたい気持ちがあった。幸い、ルルや親父さんも応援してくれることになり、すぐにコンクールに応募する作品用のパンを考え始めた。何を作ろうかと思った時にふと頭に浮かんだのは妹のアリーズの事だった。アリーズは社交界で薔薇の花の妖精と謳われていた。


  もう二度と会うことは叶わなくなってしまった妹。勘当されて縁は切れてしまったけれど、王太子妃となった実妹の幸せを遠くから願っている。その気持ちをパンに込めたくなった。

  そして自分を家族として受け入れてくれたハーラル父子の為にも何かお礼がしたかった。贈るとしたら薔薇の花だろうか。


 パンで薔薇の花を作る。これがなかなか難しかった。パン生地を練って薔薇の花を作っても、火を入れると生地がふっくらして伸びてしまい、思うような形の花にならなかった。バナナの房が付いているようにしか見えない。

  ああでもない、こうでもないと試行錯誤してどうにか作品が出来上がったのはコンクールの二日前だった。



「アデマール。素敵。それは薔薇の形ね?」

「ルル。食べてみて」

「良いの?」

「ああ」



 ルルは掌のサイズの薔薇パンを手に取って囓り驚きの声を上げた。


「これって生地はパンと言うよりドーナッツよね?」


 コンクールに出すパンの生地は特定されてはいない。コンクールの題名からして菓子パンコンクールなので、お菓子パンになれば問題ないのだ。

 しかし、ルルの表情は浮かなかった。その原因にもしやと思う。



「もしかして似た物がすでに出回っていた?」

「ええ。四年前に表彰されたペリカーノがね」

「そっか。これは駄目か……」



  力作だと思ったのになと、こぼしたアデマールにルルが慰めるように言ってきた。



「これはこれで美味しいわ。形を変えたら?」

「う~ん。駄目だよ。真似したと思われるだけだろうな。もう一度、やり直してみる」

「ご免ね。アデマール」

「なぜ謝るの? 知らずに出していたら恥をかくのはこっちだったから教えてもらって助かったよ」

「それなら良いけど……」



  項垂れるルルの肩をポンポンと叩く。自分のことのように考えてくれるルルの気持ちが嬉しかった。それだけでまだ頑張れる気がした。



「まだ時間はある」



 アデマールはパン生地と向き合った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ