51話・最高のプロポーズ、そして……?
ティアはふたりきりになると、フェリックスの手を引いて東屋のベンチへと誘導した。
「ねぇ。怒ってる?」
「妬いただけです。あなたが私以外の男性と二人きりで会っていたことに」
「陛下とは昔、付き合っていたわ。子供が出来て別れたたけど」
「子供? あなたには子供がいるのか?」
フェリックスは思いがけない話に驚愕した。ティアに子供がいただなんて初耳だった。
「一人いるわ。陛下との間に生まれた子が」
「子供がいたのに陛下はあなたと別れたというのか?」
フェリックスは陛下のことを尊敬していたが、ティアの言葉で卑怯なと非難したくなった。
「陛下には王妃さまがいたからそうせざる得なかったのよ。あの人をあまり責めないであげて」
ティアは仕方なかったのよ。陛下ばかりが悪いわけじゃないわと擁護する。それがフェリックスには痛々しく感じられた。
「だからわたし子供を産んで育てていかなくちゃと思って……」
「ティアっ」
がばりと抱きしめてきたフェリックスにティアは目を白黒させていたが、おずおずと抱きしめ返してきた。それを尚更深く抱きしめる。
「これからは私があなたを守ります。あなたの子供と共に一生をかけて」
「……?」
フェリックスの目蓋裏には、小さな子供の手を引いて途方に暮れた様子のティアが映った。その彼女を安心させる為にも一層深く、ティアを抱き込んだ。
その胸にティアは頬を擦り付けておねだりして来る。
「ねぇ、フェリックス。それをもっと他の言葉で言ってくれないかしら?」
フェリックスはティアの言葉で自分がプロポーズじみた言葉をティアにかけていたと気が付いた。
ティアとは恋人同士とはいえ、彼女のことはあまり良く知らない。ティアはあまり自分のことを話さないし、フェリックスもおしゃべりな方ではないので、ティアと性的欲求を満たすだけの関係が続いていた。
ティアは普段は白狐の姿をしているようだし、人間ではない。そのこともあってエベルー家の大恩ある義父や義妹に打ち明けられずにいた。
でも叶うことならティアのことをもっと良く知りたいし、陛下と別れてから子供を産んだという彼女の力になりたかった。
母子家庭だなんて、さぞ苦労をしたのではないかと思ったのだ。
こちらを見上げるティアの頬に月明かりが差して頬の辺りを浮き彫りにしていた。美しい人だと思う。
「月が……月が綺麗ですね。これからはこの月をあなたとふたりで一生、眺めていたいものです」
「嬉しいわ。フェリックス。わたしはこれからもずっとあなたの側にいるわ」
「ティア」
「フェリックス」
東屋のふたりの影が重なり合った。
そして数日後、フェリックスはエドバルド殿下に、殿下の婚約者である義妹のアリーズと共に招かれた昼餐の席で、ティアと引き合わされて大いに驚愕する事になった。
「子供ってエドバルト殿下? ティアは陛下の元ご側室さま?」
それだけでも驚いたと言うのに、ティアの正体を知って唖然とした。
「我が国の守り神のキュンティアさま?」
彼女の正体を知らなかったとはいえ、恋仲になってしまい将来を誓ってしまったのだ。恐れ多くもこの国の守り神と。
ダーリンと腕を絡めてくる彼女を横に、エドバルド王太子殿下の同情するような目と、無邪気に祝福してくれる義妹のアリーズを前にしてフェリックスは苦笑いするしかなかった。




